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空前の軽自動車ブームが映す日本経済の変貌 ステータスから実用性へ、普通車の必要性低下
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150127-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 1月27日(火)6時0分配信
日本自動車販売協会連合会の発表によると、2014年の国内新車販売台数は556万2887台(前年比3.5%増)、うち軽自動車は227万2789台(前年比7.6%増)となった。全体に占める軽自動車の割合は40.9%と初めて4割を突破した。メーカー別のシェアではスズキが31.2%と首位、僅差の2位は31.1%のダイハツとなった。
日本で高まる軽自動車人気。その裏にある5つの理由について、マーケティングの視点から説明したい。この5つの理由を見れば、なぜ空前の軽自動車ブームが起きているかがわかるだけでなく、軽自動車市場が15年の日本経済・自動車業界を映す鏡であることが理解できる。
●理由1:高まる消費者の節約志向
最も大きな理由は、人々の節約志向が強まっていることだ。14年4月の消費税8%への増税、そして17年に計画されている消費税10%への増税により、消費者には「今節約をしなければならない」「将来に備えて節約しておこう」という心理が働いている。それに加え、なかなか増えない給料、各種税金の増加傾向などが加わり、節約志向は強いものとなっている。最近でこそ物価下落傾向にあるものの、一時的に燃料費が大幅に高騰した。これにより、ガソリンよりも安い燃料である軽油が望まれるようになっただけでなく、自動車を所有すること自体が節約に反していると感じる消費者が増えた。
●理由2:自動車にステータスではなく実用性を求めるようになった若者
かつては新車と中古車には大きな差があったが、2つの理由から新車も中古車も関係ない時代になった。
1つ目の理由は、若者が車にステータスを求めなくなったことだ。デートで使う車はレンタカーで十分であり、もし購入するなら仲間がたくさん乗れるワゴンタイプのような実用性の高い自動車が望まれる傾向が強くなってきた。イメージとしても中古車に悪いイメージはない。中古車ではなくユーズドカーと呼ばれるようにもなったが、リユースやユーズドジーンズなどに代表されるように「古いものを活用する」ことに若者はかっこよさすら感じるようになったのだ。つまり、長く自動車業界やマーケッターが抱いていた「自動車に対するかっこよさ」の概念は変わりつつあるのだ。
もう1つの理由は、良質な中古車が増えたことだ。「古かろう、悪かろう」ではない。状態も、走行距離も、燃費も良質な中古車が増えた。またガリバーのように全国的に展開する中古車チェーンが増えたことで、中古車市場全体の質が向上した。大規模に事業展開するチェーン店にとっては、ブランドイメージがとても重要だ。1台1台の自動車、一つひとつの対応がきちんとしていなければ、すぐにインターネット上で叩かれてしまい、大きな問題へと発展する時代だ。大手中古車チェーンが増えたことは、中古車ディーラー全体の意識を向上させることにもつながっているのだ。
このような背景があって、消費者は「ステータスとしての自動車」ではなく「実用品としての自動車」を選ぶようになったきた。
●理由3:ますます進む日本の高齢化
高齢化や核家族化が進んだことで、セダンやワゴン車など普通乗用車に乗る必要性が減ってきた。この結果、買い替え時に、より手軽な軽自動車を選択する高齢者層が増えてきた。地方では軽自動車に乗る高齢者が多い。地方で生まれ育った若者が成人すると、都市部に出てくる。地方と違い都市部に出てくれば、自動車を使う必然性は低い。高齢化だけでなく、若者の都市部への流出が進めば進むほど、自動車販売市場における軽自動車の割合は高くなっていく構造にあるのだ。
●理由4:進むデザイン面での改善
軽自動車のデザインが良くなったことも大きい。16年には日産自動車が軽自動車の自社生産に乗り出すことがすでに発表されており、従来のスズキ、ダイハツの2強に加えて、ホンダとともに市場を活性化させる役割を担うことになった。14年の人気は「2015年次 RJC カー オブ ザ イヤー」も受賞したスズキの「ハスラー」。それを追いかけるように、14年11月に発売されたダイハツの「ウェイク」の人気も上昇しているようだ。
また今年の年始から東京・青山にあるホンダ本社(1F)ショールームでメイン展示されているのが「N」だ。かつて軽自動車といえば、パッと見た目で「軽」とわかるものが多かった。軽自動車と普通車ではデザイン面でも中を覗いた時の広さという面でも、一目瞭然の違いがあったのだ。しかし、最近の軽自動車はかなり変わった。デザインは大きく改善され、カラーバリエーションも豊富になった。ナンバープレート(軽自動車は黄色)を見なければ、軽自動車であることがわからないくらい、デザイン性は普通自動車と変わらないくらい良くなった。
またハスラーやウェイクがCMで訴求しているように、室内も格段に広く使えるようになった。普通自動車との差異であったデザイン面と内装面において軽自動車は大きな改善を見せたのだ。これによって、今まで自動車購入の選択肢として軽自動車が入っていなかった消費者の選択肢にも入るようになってきたのだ。
●理由5:新興国市場の成長
軽自動車のリーディングカンパニーであるスズキは、世界がアジアに注目するはるか前、1982年からインド市場に進出した。30年以上前から地元に密着した活動が実を結び、インド市場におけるスズキはインド自動車市場トップである。
そもそもアジア諸国における日本車のイメージはよく、人気も高い。日本では売れなくなった中古車でも、アジア諸国に輸出され、十分に活躍している。先ほど挙げたガリバーをはじめ、アジア諸国へ進出する中古車自動車チェーンも増加している。アジア諸国の経済は加速度的に上昇しているが、まだまだ日本には及ばない。したがって日本と同じような普通自動車を販売するだけではうまくいかない。一方で、近い将来、日本市場よりも大きな市場になることは確実である。スズキの例にあるように、進出した地域で地域に即した展開を行うことは、事業拡大の大きなメリットとなる。その意味で、今の現地ニーズに即した自動車を展開することは有効だ。
一般的には、日本車のほうが中国、韓国、インド車より性能が良いといわれるが、日本基準を押し付けてはうまくいかない可能性も高い。電機メーカーをはじめ、品質では世界一といわれながら、日本企業が世界市場を制せなかった理由の1つはそこにある。日本の自動車メーカーは他業界の過ちを繰り返さないために、現地ニーズに合った自動車を開発・製造・販売することを考えるようになっている。日本の自動車メーカーが軽自動車開発に力を入れ始めた理由の1つも、ここにある。
●総括
14年に軽自動車ブームが高まったが、その流れが今年いきなり大きく変わることはない。むしろ日本市場だけを考えれば、軽自動車のマーケットシェアは、ますます高まっていくことだろう。もしかしたら10年後には、日本では軽自動車が中心となる一方、アジアでは普通自動車が中心になる時代もあるかもしれない。15年の軽自動車市場は、自動車業界のみならず日本経済を映す鏡のようなものであり、すべての業界の人々が注目するに値する市場なのだ。
(文=新井庸志/株式会社ホワイトナイト代表、マーケティングコンサルタント)
新井庸志/株式会社ホワイトナイト代表、マーケティングコンサルタント
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