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スイスフランの急騰を受けて、ユーロへ両替するために列に並ぶスイスの人々 (写真:AP/アフロ)
フラン急騰パニック、市場不安で日銀に試練 スイス国立銀行のユーロ買い中止の意味は?
http://toyokeizai.net/articles/-/58824
2015年01月26日 上野 剛志:ニッセイ基礎研究所 シニアエコノミスト 東洋経済
スイス国立銀行(SNB)の突然の変心が金融市場を大混乱に陥れた。
1月15日にSNBは、スイスフラン(以下フラン)高の進行を防ぐために3年超続けていた、「フラン売り・ユーロ買い」の無制限介入を突如中止。1ユーロ=1.2フランに設定していた上限を撤廃した。
この発表を受けて、フラン買い・ユーロ売りの注文が殺到。フランは一時1ユーロ=0.86フランまで4割急騰した。
この4割の変動とは、日本円と米ドルの関係に当てはめてみると、1ドル=115円だった為替レートが一気に82円になるほどのすさまじさだ。取引量で米ドル、ユーロ、円、ポンド、豪ドルに次ぐ地位を占めているフランが急変動したことは、事態の大きさを物語っている。
■ユーロ安を止めきれず
今回のSNBの政策変更はほぼ誰もが予想していなかった。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は「(事前に)私に連絡がなかったのは驚きだ」とSNBを批判する。
だがSNBは、フラン高圧力の高まりに最近苦慮してきた。スイスの名目GDP(国内総生産)に占める輸出の割合は72%と、日本の16%を大きく上回る(2013年、サービス輸出を含む)。その輸出のうちユーロ圏向けは非常に多く(商品輸出では5割)、フラン高ユーロ安のマイナス影響は大きい。
しかし、デフレ対策として欧州中央銀行(ECB)は、14年6月にマイナス金利を導入。世界的にも原油価格が急落するなどリスク回避ムードの中、双子(経常収支、財政収支)の黒字を抱えたスイス通貨は安全資産として認識され、需要が高まっていた。
そのため、SNBはそれまでの無制限介入に加えて、14年12月にマイナス金利の導入を決定したが、大した効果を得られなかったのである。
1月22日開催のECB理事会で、ECBが量的金融緩和に踏み切ることは、ほぼ確実視されていた。ECBが一段と緩和姿勢を強めれば、さらにユーロ安圧力が高まる。そのためSNBはこれ以上ユーロを買い支えることを断念したと考えられる。
実際にSNBはこれまでのユーロ買い介入により、すでにバランスシートに膨大な外貨準備を抱えている。14年12月時点で5000億フラン(約67兆円)を突破(金などを含む広義ベース)。ユーロはそのうちの4割以上を占めているとみられる。もし設定上限を守るためにユーロを買い続け、最終的にユーロ安を止めきれなくなれば、将来の損失拡大リスクが一層高まる。
■過度な金融緩和でバブルの懸念
介入に要する資金は通貨の発行によって賄うため、SNBの直近のマネタリーベースは、名目GDPの約6割に達する(次ページ参照)。この水準は、異次元緩和を進めている日本銀行の56%を上回り、先進国で最大規模だ。大量のマネー供給はバブル発生の温床となり、住宅価格の過熱感が強まっている。SNBとしては、今回の政策変更は苦渋の決断であったといえよう。
ただ、大規模な為替介入を始めたからには、いかにソフトランディングさせるか、いわゆる出口戦略が重要だ。今回は意図していた出口への道が絶たれたことで、市場との事前対話もなく突如終了、大混乱を招いた点で、明らかな失敗だった。
SNBに対して、オメガなどスイス製の腕時計などを販売する世界最大手のスウォッチグループのニック・ハイエク最高経営責任者は、「輸出産業、観光業、最終的には国全体を襲う津波だ」と怒りの声明を発表。また、海外のFX(外国為替証拠金取引)業者のいくつかが資金繰りに行き詰まって、破綻した。
SNBの無制限介入と日銀の異次元緩和では、購入資産が異なるため同列に論じることはできないが、大規模な量的金融緩和を実施している点では共通している。そして、日銀のマネタリーベースのGDP比はまもなく、SNBを抜き去ることになる。
■日銀の出口戦略に不安
日銀は「出口戦略を語るのは時期尚早」とのスタンスを取る。だが、ハードランディングに終わったSNBの失敗は、金融政策を変更することの難しさを突き付けた。
順調な米国経済は世界景気の支えとなっている。しかし、15年半ばとも予想されている米国の利上げが開始されれば、経常赤字国の通貨急落につながる可能性がある。
さらに世界経済の減速を背景とした原油などの資源価格の下落も、財政収入の多くを資源売却に頼るロシアなどの新興国にダメージを与える。こうした不安定な要素が潜在する中、日銀は難しい舵取りを迫られそうだ。
(「週刊東洋経済」2015年1月31日号<26日発売>「核心リポート01」を転載)
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