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台湾新幹線は危機的状況にある(写真:Bloomberg / ゲッティー)
日本輸出の台湾新幹線、「破綻」は必然だった 誕生と同時に動き出した"時限爆弾"
http://toyokeizai.net/articles/-/58750
2015年01月24日 野嶋 剛:ジャーナリスト 東洋経済
台湾に行って新幹線に乗るたびに、感心してきた。スケジュールは遅れない、車内もきれいにされている、お客さんも多い。日本の新幹線技術が台湾に定着したことをつくづく実感するのである。車内において携帯電話で堂々と話す人がいる以外は、日本の新幹線とまったく同じ風景だ。
また携帯電話については、これはマナーの善し悪しではなく、それを許容する文化の有無に尽きる。日本のように話すことが厳密によくないと認識される国は、アジアではむしろ少数派であるので、気にしても仕方がない。
■台湾の交通環境を一変させたが……
この日本初の新幹線輸出の「成功例」と喧伝されている台湾新幹線が、いま経営危機に瀕しており、3月にも経営破綻し、政府による接収が不可避ではないかと言われている。乗客でいっぱいになった台湾新幹線の座席に腰を沈めても、この新幹線が破綻寸前であるという事態がどうしても素直に飲み込めない。いったい、何が台湾新幹線をダメにしたのだろうか。
台湾新幹線の運営会社は「台湾高鉄」という名称で、2007年に運行が始まった。システムは欧州、車両と技術は日本という変則の方法での輸出だった。最初は欧州のみの落札だったが、土壇場で日本が李登輝総統とのパイプを使って政治力でひっくり返したとされている。
首都台北と南部の主要都市・高雄との345キロメートルを1時間半で結び、従来4時間かかった移動を大幅に短縮した。台湾の交通環境、ライフスタイルは台湾新幹線の登場の前後で一変した、と言ってもいい。
順調であるかのように見える台湾新幹線だが、財務の悪化はかねて公知の事実だった。日常的には稼いでいるが、借金の返済に追いつかないのだ。
累積赤字は470億台湾ドル(1台湾ドル=3.75円)に達する。約400億台湾ドル分の優先株のうち、一部の株主が配当金の支払いと株の買い戻しを求めて提訴しており、3月にも判決が出る。高鉄には手元の資金が18億台湾ドルしかないため、判決で払い戻しが確定すれば、破産するしかない。
さらに1月7日、国民党の立法委員たちが同党の議員総会で18人の全員一致で、台湾の交通部と台湾高鉄が提出した財務改善計画を否決した。これで破綻の可能性は一段と高まった。
財務改善計画を推し進めた葉匡時交通部長(大臣)は責任を取って辞任。3月に迫った「期限」に対し、打つ手はなくなったとも見られている。「商売はうまくいっている。正月の切符は売り切れている。その高鉄がなぜ破産をしなきゃいけないのか。破産が高鉄の唯一の運命なのか」――。台湾で最も影響力のある経済誌の一つ「天下雑誌」は記事のなかでこう問いかけた。それは私を含め、多くの人が感じる疑問だろう。
■「高望み」すぎた利用者予測
その答えを知るためには、台湾新幹線の誕生と同時に、その体内に仕掛けられた「時限爆弾」とも呼べる「負の遺産」について理解しないといけない。台湾新幹線は民間が建設と運営を担い、35年後という異例の短期間のうちに資産を当局に移管するBOT方式で整備された。
つまり、短期間で大きな利益を上げられるという皮算用のもとに想定された償還期間なのである。借りた資金も市中レートよりもはるかに高く設定されていた。すべてが楽観論にもとづいて考えられていたのである。
具体的に言えば、台湾新幹線の発足時、6%の経済成長を台湾が続け、30万人の利用客が毎日乗ってくれるという前提ではじき出した利用者予測が響いた。今の利用者は1日平均13万人で、年々伸びてはいるが、想定の半分にも達していない。
東海道新幹線の東京〜新大阪間でも利用客は1日平均約40万人であるから、この30万人という数字がいかに「高望み」だったかは分かる。台北〜高雄の距離は東京〜名古屋とほぼ同じ。経済規模などの実感からすれば、新大阪〜博多の約17万人あたりが目標としてはギリギリの線であったような気がする。
台湾新幹線が構想された1990年代は、台湾にとって経済成長が最後の輝きを見せた時代であり、楽観論に支配されたのも理解できないではない。だが、甘く見積もった成長予測をはじき出すコンサルタントの口八丁に乗せられ、テーマパークを作って泣かされた日本の地方自治体と似たような構造である。
先にも述べたが、台湾新幹線の運営が悪いかといえばそうではない。利息や税金を払う前の営業利益率は56%で、これは日本の新幹線や香港、シンガポールの地下鉄よりも高い数字だ。ところが、ここから利息や税金、償却費などを引くと、利益率はとたんにマイナスに落ち込む構造なのである。
加えて、切符代も安すぎる。台北から高雄までは約1600台湾ドルで、日本円にすれば6000円ほど。しかも早期購入のときの割引率が大きい。台湾と日本の物価差(だいたい半分ぐらい)を加味しても、もっと高くていいはずだ。だが、利用者の不満や減少を恐れ、最初に設定した「特別価格」の色彩のあった格安料金を上げられないでいる。
■輸出の音頭を取ったJR東海にも影響?
いずれにせよ、台湾新幹線は運行上の問題を抱えていたというよりも、財務構造そのものに無理があったと言わざるを得ず、これは台湾新幹線が誕生した日からいずれ向き合わなければならない問題だったのである。
台湾新幹線は日本にとって初めての海外への新幹線輸出プロジェクトであり、音頭を取ったJR東海にとっても海外展開の中で必ず紹介される成功例となっている。今回の台湾新幹線の経営破綻騒動は日本の輸出と関係するものではないが、むろんいいイメージを与えるものでもない。
台湾ではいま、本当に台湾新幹線を破綻させ、政府移管にしていいのか、最終的な調整が行われている。馬英九政権がいかなる解決策を見いだせるのかが問われているが、昨年11月の統一地方選での大敗を喫した馬政権には、解決にかける意欲がそれほど感じられない。タイムリミットの3月までに妥協案が生まれるのか、破綻に突き進むのか、これから目が離せない。
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