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ディズニーランド、「夢の国」に「現実」取り入れ“安売り”開始か ブランド低下の懸念も
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150122-00010006-bjournal-ent
Business Journal 1月22日(木)6時1分配信
●新イベントは「アナ雪」
映画興行収入250億円を達成し、『千と千尋の神隠し』(01年)、『タイタニック』(1997年)に次ぐ日本歴代3位となり、「2014年ヒット商品ベスト30」(「日経トレンディ」<日経BP社>発表)でも1位に輝いた『アナと雪の女王』。そんなアナ雪ブームを受けてか、東京ディズニーランドでは1月13日から3月20日にかけ、スペシャルイベントとして「アナとエルサのフローズンファンタジー」が開催されている。
イベントでは、世界観を前面に打ち出したアトラクションが展開されている。シンデレラ城へのプロジェクションマッピング、パレードでのエルサ、アナ、オラフの登場、園内の装飾と、空前のヒットとなったアナ雪を前面に押し出すのは、エンターテインメントの運営元(オリエンタルランド)としては当然のことだ。それだけの集客が見込めることの証しであり、集客が増えれば園内が盛り上がり、次回作への大きなブリッジにもなるからだ。
しかし、今回のオリエンタルランドの仕掛け方には違和感を感じる。それは、今までのディズニーイベントとは決定的に異なる一面を入れたことに起因する。具体的には、松たか子をはじめとするアナ雪の声優陣、歌手を呼んだことだ。
●ディズニーランドの最大の価値
そもそも、ディズニーランドのコンセプトは「夢の国」だ。どんな人も一歩足を踏み入れたら、現実社会のことは忘れてしまう。周りの人がまったく気にならず100%自分自身も夢の国の住人になれるというのが、ディズニーランドの醍醐味なのだ。それゆえ、前回と同じアトラクションしかなくても、9割以上の人がリピーターとして再来場しているのだ。この9割以上のリピート率というのは驚異的な数字だ。それを支えているのは特定のアトラクションではなく、「夢の国」という世界観なのだ。
●オリエンタルランドも脅威に感じ始めたUSJの躍進ぶり
赤字だったユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)。ハロウィン仮装、バックドロップなど数々の仕掛けによって、ここ数年でUSJ人気は大いに高まった。そして14年7月の「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」(以下、ハリポタ)の完成によって、人気は不動のものとなった。ハリポタエリアの完成度は素晴らしく、そのアトラクションの完成度の高さも日本一ではないかと筆者は感じている。関西エリアからの集客に成功しただけでなく、日本全国、そしてアジア圏からの集客にまで成功しているのだ。そして15年には、人気アニメ『進撃の巨人』を取り入れたアトラクションの展開を予定している。USJの注目度は、ますます高まるばかりだ。
関西圏だけをターゲットにしていたUSJが、商圏や顧客ターゲットをどんどん広げて人気を高める中、オリエンタルランドも少なからず意識せざるを得ない状況になったのだろう。もちろんディズニーランドの入園者数は高い水準をキープしている。ただ、これまで圧倒的なナンバーワンの存在だったからこそ、将来に向けて一抹の不安を感じ、またUSJから学ぶべきものは学ぼうという意識がオリエンタルランドに働いてもおかしくはない。
●ディズニーランドとUSJの決定的な違い
ディズニーランドのコンセプト「夢の国」に対して、USJのコンセプトは「世界最高をお届けしたい」だ。「世界最高」という中でさまざまなコンテンツの充実を図ることができるUSJに対して、ディズニーランドはディズニーという一コンテンツで充実を図らなければならない。ただ、この非現実的な世界が徹底されているからこそ、ディズニーランドは唯一無二のテーマパークであったのだ。そこではミッキーも、ミニーも、アリエルも、架空のものではない。来場者と同じ世界のものなのだ。来場者は心底「夢の国」にいることを楽しめる。それがディズニーランドなのだ。
ところが「アナとエルサのフローズンファンタジー」イベント初日に、アナ雪の日本語吹き替え版の声優である神田沙也加さん、松たか子さん、ピエール瀧さん、そして歌手のMay J.さんがパレードに登場した。「声優や歌手が登場したことで、来場者も喜ぶではないか」「大したことではないのではないか」という声が聞こえてきそうだが、これはディズニーランドらしからぬやり方なのだ。なぜならディズニーランドは「夢の国」であって、現実とはできるだけ距離を置いたほうがよいからだ。だからこそ、映画版に出演した人々とディズニーランドは距離を置くべきだったのだ。マーケティング的にみれば、話題になるからという理由でディズニーの世界を安易に安売りしてはいけないのだ。
●ブランドを安売りして失敗した「なだ万」
業界は変わるが、ブランド拡張の失敗例を挙げよう。14年、老舗料亭「なだ万」がアサヒビールに買収された。なだ万といえば日本有数の料亭だったが、バブル崩壊後に料亭の業績が悪化した。それをカバーするために「なだ万茶寮」というリーズナブルな和食店を展開したり、百貨店の食品街に「なだ万厨房」という店を展開し弁当販売を行うようになった。
ところが、これらの展開が失敗だった。なだ万の料理が手軽に食べられるということで、料亭とは縁のなかった人が茶寮や厨房に走った。売り上げ自体は上がるのだが、なだ万自体のブランド力は低くなってしまった。なぜなら茶寮や厨房を選ぶ人が料亭に行くことはない。その一方、今まで料亭に行っていた顧客からすれば茶寮や厨房を展開されるということは、これまで愛用していた料亭のブランドを低下させられることになる。しかも筆者の感覚では、料亭と茶寮、厨房では味がまったく違う。つまり、なだ万というブランドを磨り減らして使いながら、茶寮や厨房を展開してきたのだ。最終的には経営に行き詰まり、アサヒビールに買収されてしまった。
●総括
もちろん、ディズニーランドの魅力は「夢の世界」というコンセプトだけではない。キャストと呼ばれるスタッフのホスピタリティも大きな魅力だ。その意味では、アミューズメントパークとしてのディズニーランドの王座はまったく揺るぎないものだろう。ただ、今回の「アナ雪」のように「夢の世界」に「現実」を入れるプロモーションは、できればやるべきではない。このようなプロモーションを続ければ、徐々にブランド価値の重要な部分が毀損してしまう。そして結果的に客離れが起きるのだ。
不況下においても、世界観を守りつつ、業績を向上させ続けてきたディズニーランド。その世界観づくりは、世界のディズニーランドの中でもトップクラスだろう。適切なマーケティング戦略を遂行してきた彼らならば、今回のようなことは今後やらないとは思うのだが、注目してみていきたい。
新井庸志/株式会社ホワイトナイト代表、マーケティングコンサルタント
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