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宿輪ゼミLIVE 経済・金融の「どうして」を博士がとことん解説
【第3回】 2015年1月21日 宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト]
インフレで経済は本当によくなるのでしょうか?
マクロ経済における目標は「経済成長(景気)」と「物価」の2つ。経済成長はGDP(国内総生産:Gross Domestic Product)、そして物価はCPI(消費者物価指数:Consumer Price Index)の伸び率でみます。
実は、成熟しつつある先進国のマクロ経済運営(政策)には、“知っている人は知っている共通の目標”があります。それは、経済成長は3%、物価は2%というものです。荒っぽく言うと、経済成長とは企業においては売上、個人ではお給料に近いものとも考えられます。つまり、3%から2%を引くと粗々1%の実質利益になると考えられます。実際、この物価上昇率2%という数字は、日本の物価上昇率の目標にもなっています。
経済の目標は
経済成長と物価をセットで考えるべき
経済の目標を考えるときは、経済成長と物価をセットで考えることに意味があり、物価だけだと意味をなさないのです。物価だけが上がっても、庶民の生活は苦しくなるし、嬉しいはずがありません。この点、2012年12月からアベノミクスが始まって2年ほど経ちますが、インフレ目標の目的は、庶民のためではないことにだんだん気がつき始めているのではないでしょうか。そこに後ろめたさがあるのか、安倍政権は企業に対し「給料を上げよ」と盛んに言っているのはある意味わりやすいともいえます。
インフレーション(インフレ:Inflation)とデフレーション(デフレ:Deflation)という言葉があります。インフレは物価上昇が継続する状態、デフレは物価下落が継続する状態です。景気が良くなれば、モノに対する需要が高まり、物価が上がっていきます。これは正常なプロセスであり、世で言う「良いインフレ」です。一方、景気が良くならずに、物価だけが上がっていくことを「悪いインフレ」と呼びます。
以前の日本では、景気悪化と物価上昇が同時に起こるという「スタグフレーション(Stagflation)」の状態もあり、それは外部からの石油ショックの時に発生しました。
デフレ脱却の掛け声に
惑わされていないか?
安倍政権はよく「デフレ脱却」という言葉をつかいます。この言葉は、本来の経済学的な意味では、デフレからの脱却=物価下落を止めることです。しかし、本来の役割分担でいうと、物価安定は中央銀行たる日本銀行の役割で、経済成長は政府の役割です。もちろん、日本銀行の行う金融政策も金利を下げることによって景気を刺激しますが、そもそもその効き目は強くはありません。
人の体でいうと「物価は血圧」と考えられています。運動したら血の巡りが良くなり血圧は上がるでしょう。しかし、今の日本経済の状態は身体を動かさないで(寝たきりのような状態で)、大量の輸血で血圧をあげようとしているように思えて仕方がありません。輸血をすると一時的に元気になりますが、本当に悪い患部は治さないので、放っておくからさらに悪化します。
最近では、ゼロ金利を超えて、量的金融緩和まで行っています。国の経済状況を検討する時、国の経済規模であるGDPと比較しますが、資金供給量が米国はGDPの“2割”までになっていますが、日本はすでになんとGDPの“7割”にも達しています。
「量的金融緩和」の
本当の目的を考えてみると…?
金融緩和とは、中央銀行(日本銀行)が資金(自国通貨)を供給することですが、それは、国債の買い入れの対価という形で行われます。つまり、資金の供給の“裏側”が、国債の買い入れなのです。しかも、インフレという形で庶民に負担を与える可能性のある資金の供給が本当の目的でないとも考えられ、そうなると国債の買い入れの方が目的なのかもしれません。国の借金は一般的には、企業における社債のように国債の発行でおこないます。国債を買い入れるということは国の借金を引き受ける(お金を貸す)ということです。量的金融緩和の目的は、これなのではないでしょうか。
(筆者はいつも説明をする時になるべく覚えやすいように概数を使いますが)この10年間の財政を粗々でみると、歳出・歳入が95兆円ぐらいで、税金が50兆円ぐらいで、国債(借金)が毎年40兆円ぐらい発行されていました。この40兆円が国の借金なのです。つまり現在の累積財政赤字は1000兆円ぐらいですが、その4割はこの10年で増加したものです。
しかし、個人のレベルで考えてみると、月給50万円のある人が毎月95万を使って、その穴40万を毎月借金で埋めている状態、それも随分長いこと行っている状態、これは仕方なかったとはいえ、あまり奨められたものではない。もし自分であったら怖い。この例えの資金繰りの“月”を“年”に、“万”を“兆”に変換すると日本国の財政になります。
しかも、安倍政権は「株価」の上昇を重視する傾向があります。確かに株価は景気の半年前の先行指標ともいわれています。企業の経営においては、ROE8%以上を推奨してますし、GPIF(金積立金管理運用独立行政法人:Government Pension Investment Fund)も国債から株式に重点を移しています。
そのような状況下でも、国債は約40兆円発行され続けています。量的金融緩和で日銀は国債を大量に買い始めましたが、昨年10月にさらに金融緩和を拡大して、年間で(長期)国債を最高で80兆円購入することになりました。国(政府)の発行した国債等を中央銀行が直接引き受けることを、財政ファイナンスといいます。これは財政法第5条で禁止されていますが、日銀の行動は財政ファイナンスには当たらないのでしょうか。
GPIFもそうですが、マネタリーベース(日銀当座預金残高と通貨量)を倍増させる政策もあり、銀行も国債を売っています。日本銀行以外に国債を積極的に買い進んでいる主体がほとんどないのです。GPIFや銀行が売っている国債の分も日銀は買っているのです。
国債は財務省が発行するだけではなく、他の主体も売りに回っています。その分も含めての約80兆円ではないでしょうか。日銀による国債の買い入れは、そもそもマネタリーベースの穴を埋め、かつ金利の上昇を抑える役割も果たしています
日本の財政というか、国債は日銀がほぼ唯一の大口の買い手なので、その買い入れをやめる=出口戦略を丁寧にやらないと、金利が危機的に上昇するリスクも否定できません。米国は昨年10月に日本より先に量的金融緩和をやめました。今後、金利引き上げに向かっていくことになりますが、この過程を米国の中央銀行FRB(Federal Reserve Board)は「正常化」といっています。
インフレは
政府にとって都合がいい
インフレになると良いこともあります。経済が弱いと、資金を大量に供給しても使わないため、資産市場に流れこみ、株式や国債や土地などの値段を上げる資産インフレ、いわゆる金融相場になります。通常の金融市場では株価と国債価格は相反する動きとなります。しかし、量的金融緩和等による金融相場の時には、株価も国債価格も“同時に”上がります。
一方、今後も無理に量的金融緩和を行ってインフレにすることは、政府にとって都合のいいこともあります。物価が上昇すると借金が目減りするのです。昔、米の値段は今とは比べものにならないくらい安かった。それは物価全体が上がった(インフレになった)からです。モノの価値が上がって相対的にお金の価値が下がったということになります。
現在、日本の累積財政赤字はGDP対比約240%ですが、過去の財政を世界的に分析すると、第2次世界大戦後の英仏も累積財政赤字はGDPの200%を超えていました。その後、1940年代、50年代のインフレ(物価上昇)で半減することになりました。
実際、年5%のインフレがあった場合、累積財政赤字は10年で6割、2%でも10年で8割に削減される。これはインフレを目指す理由の一つとなるかもしれません。
よく国債は、国内で9割以上保有されているから大丈夫、という議論を聞きます。確かに、欧米の国債は約半分を海外投資家が保有しており、動きが早いと言われます。しかし、要は国内外の話ではなくて、買い手・売り手(需要と供給)の話なので、ほぼ唯一の日本銀行が買わなくなった時には、国債は下落することになるでしょう。
さらには、最初に説明しましたが、国債を買ってその分、通貨(円)を発行しています。したがって、日本円と日本国債は裏表ということもできるでしょう。つまり、国債が下落するときには日本円も同時に価値を下げることになるのです。
よく、国債は下落、暴落しないから、暴落させないからこのままで大丈夫という方もいます。でも、間違いなく言えるのは、日銀はこれだけ大量の国債の購入を“いつまでも”続けることはできないということで、維持可能性(sustainability)の面で問題があります。
国債の暴落は金利の上昇から始まり、その後、国が国債の利息や元本を払えなくなってきます。たとえば1%金利があがると1000兆円の借金がありますので、年10兆円のコスト増になります。当然、国債の格付けは下がり、投資適格から外れる可能性もあります。それはアルゼンチンやロシアの様に国の破綻につながります。企業の再建と同じことが行われ、強制的に急激な増税や年金・医療費カットに加え、行政サービスの著しい削減等が行われます。
身体に悪いところがあっても、「俺は大丈夫だ」などと言って、生活習慣を変えようとしない人もいますが、そういう人は尊敬できません。財政赤字の問題も暴落しないからいいではなくて、「生き方」の問題だと思います。いまの財政状況は、小さい子どもにはなかなか説明し難いのではないでしょうか。
※本連載は宿輪ゼミや大学講義、そして自身の研究に基づく個人的なものであり、所属する組織とは全く関係はありません。
しゅくわ・じゅんいち
経済学博士・エコノミスト。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年に富士銀行に入行。国際資金為替部、海外勤務などを経て、98年に三和銀行企画部に移籍。合併でUFJ銀行、UFJホールディングス経営企画部等に勤務。兼務で、東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)、慶應義塾大学経済学部等で非常勤講師として教鞭。財務省・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会に参加。2006年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、開催数は170回を、会員は7000人を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書に『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか』(共著、東洋経済新報社)、『通貨経済学入門』『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞社)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』(東洋経済新報社)がある。
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ロイター1月企業調査:春闘賃上げ率、6割が昨年並みに届かず
2015年 01月 21日 07:11 JST
[東京 21日 ロイター] - 1月ロイター企業調査によると、今年の春闘での賃上げ率について昨年並みの2%に届かないと予想する企業が6割を占めた。望ましい為替水準は1ドル100円台が5割超となり、現在の相場では円安に伴うコストが負担となっている企業の方が多い。
原油安の恩恵が行きわたるまでは、円安コストが重荷となっているとみられる。
一方で、製品・サービス価格の値上げを予定している企業は全体の3割と、昨年1月調査時の4割(増税転嫁分を除く値上げ)を下回り、コスト転嫁の環境が厳しいことをうかがわせた。ただ、政府の要請を背景に、下請け企業の求める値上げに協力姿勢を示す企業は8割を占めた。
この調査はロイター短観と同時に同じ対象企業(資本金10億円以上の企業)に実施。調査期間は1月5日─15日。回答社数は400社ベースで260社程度。
<賃上げ率、6割が2%下回る見通し、1%未満も17%>
アベノミクス成功のカギを握る今年の春闘に関し、昨年との比較を聞いたところ、中堅・大手企業を中心とした回答企業のうち、「昨年並みないしそれ以上の引き上げが可能」との回答は、全体の42%にのぼった。「昨年を下回る」、あるいは「引き上げは全くできない」は合わせて14%と、相対的に少なかった。
ただ、「わからない」は44%を占め、業績の行方や全体の賃上げ状況を見極めようとの姿勢が目立つ。
連合の調べによると、昨年の春闘の実績は、ベアと定期昇給を合わせて2%を超えた。この点に関連し、今年の賃上げ見通しを聞いたところ、2%を下回る見通しが6割となった。
影響力の大きい輸送用機器では、2%を超えるとの予想と、それ以下の予想が半々となった。
2%超の予想を示した企業は全体の11%。「経営側も時代が変わっていると認識し、貯めた利益の社員への分配率を増加させる方法で考えざるを得ない状況」(電機)といった声も上がっている。
2%程度との回答は29%で、企業からは「政府が要請しているため」(化学)「昨年より下げる訳にはいかない」(卸売)など、政府の強い要請を意識した回答もある。
2%に届かないとの回答企業からは「景気回復に実感がない。円安等の変動の大きい要因による業績上振れは昇給ではなく、賞与に反映」(金属製品)「業績には賞与で報いる」(卸売)といった方針を掲げる企業が目立つ。
「原材料高等で業績の先行きに不透明さがあり、賃上げは容易ではない」(その他製造)などとして、1%に満たないと回答した企業も17%あった。
<100━110円「望ましい」が最多、コスト増でも値上げ予定は減少>
企業にとって望ましい為替水準を聞いたところ、1ドル100━110円との回答が54%を占め、最も多かった。100円より円高との回答と合わせると、全体ので63%が110円より円高を望んでいる。
現状の為替水準では輸入原材料などのコスト高が重くのしかかってきている状況があるもようだが、値上げはそう簡単ではなさそうだ。
今年、値上げを予定している企業は32%、昨年1月時点の調査では、増税転嫁分を除いた値上げを予定している企業が40%だったが、それより減少した。
値上げの理由として、原材料コストの上昇が最も多く、人件費やその他コスト上昇などが続く。値上げ幅は5%以下が62%と過半数を占めた。
値上げを予定していない企業は68%となった。昨年は増税に伴いそれまでのコスト増を製品・サービス価格に転嫁しやすい環境にあったが、今年は原油価格が下落傾向にある上、景気回復の勢いも弱く、それも難しい環境にあるとみられる。
昨年12月の政労使会議で、安倍首相が企業に対し、コスト高に苦しむ下請け企業からの値上げ要請に協力するよう求めたが、「協力する」との姿勢を示した企業は79%を占めた。「下請けとの共存共栄が必要不可欠」(機械)といった前向きの声がある。資材や人手不足の深刻な建設関連では「現状は下請けとなる専門工事業者が主導権を握っている状況」といった声もある。
協力できないと回答した企業からは「グローバルでの価格競争は激化しており、下請け先のコストアップ吸収は困難」(機械)などの声があがっている。
<事業環境は横ばいを予想、設備投資や国内需要次第>
今年の事業環境について「横ばい」との見通しが66%と過半数を占めた。その理由として「欧州、日本、アジア、中国での停滞ないし下降を、北米の伸長で相殺している状況」(輸送用機器)といった世界需要の二極化や、「個人消費は富裕層以外はあまり強くない」(小売り)といった国内需要の二極化もある。その結果「物量が増加していない」(運輸)といった声が出ている。
上向きは21%を占め、「円安効果が徐々に表面化、海外競合会社に勝てる状況になりつつある」(精密)「国内外主要顧客の設備投資計画が具体化しつつある」(機械)などの動きがうかがえる。
下向きは13%となった。「急激な原油安と円安深刻で4月以降しばらく悪化の見通し」(石油)「値上げの影響で節約志向は継続。消費マインド改善は見込めない」(小売)などの声があがっている。
設備投資が回復傾向を強めるかどうかを占う上で、投資計画において最重視する点を聞いたところ、「国内需要動向」が最も多く、非製造業では73%、製造業でも47%を占めた。「いずれにしても需要が先決」(化学)「将来の生産量に確約がほしい」(非鉄金属)など、投資判断は需要動向で決まるとの回答が多い。
製造業では次いで「グローバルな生産体制」を挙げた企業が3割と多かった。「すでに海外での量産体制を敷いており、国内投資は海外との兼ね合いになる」(電機)「世界での需要を踏まえたうえでどの地域に設備投資を行うか検討」(輸送用機器)といった方針は世界各地に生産体制を広げている企業にとっては当然の方針となっている。
他方で、円相場や法人税、投資税制、実質金利の低下はほとんど重要視されていない。中には為替相場について「原料費に与えるインパクトが大きい」(食品)として重視する企業もある。
(中川泉 編集:田巻一彦)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0KT2I820150120.
山崎元のマルチスコープ 住宅は「賃貸よりも購入がいい」のか?
【第363回】 2015年1月21日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
住宅は賃貸か、購入か「75%が購入派」をどう見る?
住宅は、賃貸で住むのがいいのか、購入するのがいいのか?
雑誌などで繰り返し取り上げられる、いわば「永遠のテーマ」の1つだ。先日、『日本経済新聞』(1月19日朝刊)に全国の20代〜60代の男女1000人を対象としたインターネットのアンケート結果(楽天リサーチが実施)が載った。
「家は買うか借りるかどちらがよい?」という質問に対する答えは、回答者のほぼ4分の3の74.7%が「買う方がよい」で、「借りる方がよい」という人は25.3%だった。数的には「購入派」が圧倒的に優勢だ。
筆者は、このテーマに関して、以下の原則で判断する「中立派」のつもりなのだが、世間には「購入派」が多いので、雑誌の記事などでは相対的に「賃貸派」に分類されることが多い。
当「ダイヤモンド・オンライン」の読者は、経済的・金融的なリテラシーの高い読者が多いので説明は不要かもしれないが、購入か賃貸かの判断は、投資として考えた場合に、住宅価格が十分安ければ買うのがいいし、逆に高い場合は賃貸で住む方がいいというのが基本原則だ。
二、三補足すると、まず自宅として住むか否かは、税金の違いや自分のことの方が、他人のことよりも将来の見通しが利きやすいかもしれないといった違いはあっても、原則を左右するものではない。自宅の購入は、「自分が店子の不動産物件への投資」に他ならない。
自分の場合であっても、ビジネスパーソンなら転勤もあれば、転職の可能性もあるし、子どもの学校など家族の事情で転居したくなる場合があり得る。普通は自分で住むからといって、「空室リスク、ゼロ」ではない。
また、住宅ローンを使っての住宅購入の損得は、「現金での購入の損得+ローンの損得」(借入金利と市中金利の差から生じる)として考えるべきであり、基本的に金融機関の儲けの分だけ住宅購入者の損になる。
もう1つ、今度は購入派寄りの補足だが、わが国の場合、不動産を通じた相続は、現金などの金融資産による相続よりも、相続税の上で有利になることが多い。不動産には、いわば「相続の通貨」と言える側面がある。こうした要素を、原則の損得計算の中にいれなければならないケースもある。
「家賃がもったいない」
購入派の「理由」に心配あり
さて、基本的な判断方法は上記の通りであるとしても、人には好みや価値観があるし、誤解する場合もある。住宅の「購入」を良しと考える人々の「理由」を見てみよう。
断然のトップに来たのは、「家賃がもったいない」だった。「買う方がよい」と答えた人の60%近くが、この理由を答えている(注:複数回答あり)。この理解はいささか心配だ。
不動産の価格が適価である場合、ある時期の家賃の支払いの経済価値と、その期間に不動産に資金を固定してかつその物件のリスクを負うことの価値は、ちょうど見合っているはずであって、「賃貸はお金が出て行くばかりだから損なのだ」という理解は不適切だ。
しかし不動産業者には、この点を正確に理解していない客が相当数来るので、彼らが購入に向けて顧客の背中を押す場合、たとえば「賃貸で住むと、いくら家賃を払っても家は自分のものになりません。購入すると、ローンが終われば(この物件は)あなたのものになります。自分のものにならないものへの支払いと、自分のものになるものへの支払いと、あなたはどちらが好きですか……?」といった言辞を弄する。
そもそも、家の適正価格の計算ができないまま、「買えたら買った方が得なのだ」と信じて、自分に買えるか、買えないかだけで不動産購入の可否を考える人がいるとすると、高値で買ってしまいそうで心配だ(不動産業者から見ると、こういう客こそが「狙い目」なのだが)。
特に現在の低金利下で、かつ変動金利で住宅ローンを利用して、「なんとか買える」ということを判断根拠に不動産を買うのだとすると、何とも危ない。
購入派の2番目、3番目の理由には、うなずける点とそうでない点がある。2番目に多かった理由は「老後の安心のため」、3番目の方は「家は資産になるから」だ。
肯定的な面から述べると、長年住宅ローンを返済する人には、仮にそれが損な条件で買った住宅であるとしても、結果的に強制的な貯蓄を長期間実行する強みがある。仮に、購入した不動産の価格下落によって、結果的に利回りがマイナスの貯蓄になるとしても、同時期にローン返済額相当の金額を貯蓄をせずにすっかり使ってしまった「キリギリス的人生」の人に較べると、不動産が資産として残る分、老後はより安心だ。
一方、これから人口が減って空き家が増えることなどを考えると、老後に住む場所がないといったことは、あまり考える必要がなさそうだし、所有する「資産」は不動産でなくともいい。
やはり、不動産の購入価格が適価(以下)になるのか否かが重要だ。
付け加えると、4番目の理由である(購入する方が)「賃貸よりもいい家に住めるから」というのは、お金をかけるとその通りの場合が多いし、自分の所有する不動産だとより自由に使える面が確かにある。家族向けの良い賃貸物件の供給が少ないことは、日本の不動産市場の欠点だ。
最後に、5番目に挙がっている「家を買ってこそ1人前だと思うから」という理由は、無理をして家を買う判断の歪みをもたらしそうで、あまり感心できない。
「得」であることは間違いないが……
低金利の住宅ローンをどう考えるか?
住宅ローン金利は、最低水準を更新中だ。日銀が国債市場を「制圧」していることに原油価格下落などの物価抑制要因も加わって、長期金利(10年国債の流通利回り)が史上最低水準を更新しており、住宅ローン金利はさらに下落する公算が大きい。
目下の超低金利で住宅ローンを借りて不動産を購入することについて、どう考えたらいいだろうか。
将来の家賃が一定で、かつ投資家が不動産に要求するリスクプレミアム(不動産のリスクに見合う収益率の上乗せ分)が一定だとするなら、住宅ローン金利の低下は、これを利用する住宅購入者にとって「得」であることは間違いない。
価格比較サイトで現在の住宅ローン金利を見ると、変動金利なら年率0.5〜0.7%くらい、長期固定(最長35年)なら年率1.5%〜2.0%くらいの金利を提示している金融機関が多い。随分下がったものだ。
現在の利率で資金を借りられるなら、冒頭で述べた採算計算上、「住宅ローンの利用に伴う損」がかなり圧縮できている、と考えることには一理ある。日銀による長期ゾーンも含めた低金利政策が、住宅購入へのインセンティブとして働いていることは間違いない。
他方、日銀による超低金利政策の不動産価格に対する効果の評価は、いささか微妙だ。
株式の場合と同様に、将来のキャッシュフロー(不動産の場合家賃収入)を現在価値評価する際の割引率と、キャッシュフローの成長率とは、名目成長率が上昇すると金利が上昇する関係を通じたある種のバランスがあるはずだが、金利が人為的に抑えられると、このバランスが変化する。この場合、不動産の理論価格を高騰させる効果があるはずだ。では、不動産を素直に買うのがいいのかというと、高騰した理論価格を丸ごと信じるわけには行かない。
人為的低金利による不動産価格の高騰が現在存在するのだとするなら、金融政策が平時に戻った段階では、先のバランスが回復する効果があるので、成長率の上昇よりも長短の金利上昇幅の方が大きくなって、不動産の理論価格は大きく下落する可能性があることになる。
すなわち、数年後に不動産の理論価格が下落する公算が大きい。たとえば、政府の長期経済見通しのような展開になると、不動産価格が将来下落してもおかしくない。先のアンケートでも、住宅ローン金利に関しては、将来「固定も変動も上昇」するだろうとの見通しを持っている人が52.8%存在する。
人為的な超短金利の形成が
不動産の適正価格をわかりにくくする
不動産にあっても、株式と同様に、将来いつどのような形で長短の金利が上昇するか、しないか、ということに対する見通しが必要であり、人為的な長短金利の形成が、資産の適正価格をわかりにくくしている。
数年をタイムスパンとして考えた場合、株価も不動産価格も、現時点の価格がすでに高過ぎるのかどうかは微妙だが、デフレ脱却への手段としても資産価格が使われていることを考えると、そろそろ「高値づかみが怖い」という意識を持ち始めるのが頃合いだろう。
先の日本経済新聞のアンケートで、「日本の住宅で改善すべき問題は?」という問いに対して1番多いのが、「購入価格が高すぎる」、2番目に「空き家が増え続けている」という回答が寄せられていることが、なかなか不気味である。
http://diamond.jp/articles/-/65422
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