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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第109回 供給制約とは何なのか?
http://wjn.jp/article/detail/3985508/
週刊実話 2015年1月29日 特大号
第三次安倍晋三政権が発足し、予想通り、財政については「緊縮路線」を進み始めている。
本稿執筆時点で、我が国の長期金利は、ついに0.3%を割り込んでしまっている。もちろん、0.2%台の長期金利(新規発行10年物国債金利)など、日本史上空前の“低さ”になる。
日本において、前代未聞の「カネ余り」「借り入れ不足」、あるいは「国債不足」が進行していることがわかる。
長期金利の「超低迷」とは、政府の支出(消費、投資)不足であり、同時に民間の資金需要不足でもあるわけだ。
それにもかかわらず、政府は今年度の国債発行を36〜37兆円に「抑制」し、公共事業は前年度よりわずか「100億円超」増額、総額を6兆円以下に抑える方針を固めたとの報道が流れている。
長期金利が0.3%を下回るほどに「国内の投資」が求められている国の政府が、相も変わらず「支出抑制」という緊縮路線を継続しているわけだ。
特に、現在の日本において公共事業、公共投資を抑制しようとしていることは問題だ。
何しろ、直近の我が国の需要不足(需給ギャップのマイナス)は、少なくとも14兆円を超えている。デフレ脱却を謳う以上、安倍政権は追加的に年14兆円規模の補正予算を組まなければならない局面なのだ(そんな状況だが、補正予算は3.5兆円だった)。
また、現在の日本には「東北の復興」「国民の安全保障を強化する、耐震化、防災・減災」「老朽化したインフラのメンテナンス」「将来のインフレギャップを見据えた生産性の向上」と、やらなければならない公共投資の需要が溢れかえっている。
現在の需要を埋めるために、政府が長期的計画に基づいて公共投資を拡大すれば、若い世代が業界で働き始め、技術継承の問題をクリアできる。つまりは、日本の発展途上国化を避けられる。
だが、政府は公共事業を抑制しようとしており、さらに問題なのは、抑制理由として経済財政諮問会議などが「供給制約」という、意味不明な用語を使っている点だ。
供給制約とは、何なのか?
経済財政諮問会議の議事録等を読む限り、供給制約とは「公共事業を増やし過ぎた結果、人手不足となり、公共事業を遂行できないか、もしくは民間の建設事業が進まない問題」を意味しているようだ。とはいえ、現実の日本では、そもそも「人手不足で公共事業が進まない」という話自体が“嘘”である。
財務省がまとめた'14年度上半期の公共事業実施率は、'13年度補正予算分が1.7兆円の予算額に対して88%。'14年度予算分が、9.2兆円の予算額に対して62%。'14年度上半期は、'13年度と比べて公共事業実施率が10ポイント以上も高くなっているのだ。
実施率が上がっている理由として、予算の成立時期が早かったことに加え、国交省が'12年4月と'13年2月の2度にわたり、公共工事設計労務単価を引き上げたことがある。給与水準を引き上げれば、普通に労働者が雇用され、人手不足は解消するのだ。
無論、上半期終了時点における'14年度の公共事業執行率について、「まだまだ公共事業の執行率は低い」と、数字で論ずるならば、まだしも理解できる。それを供給制約といった単なる用語を持ち出し、「だから公共事業はできない」と結論付けるのは、極めて問題がある態度だ。
そもそも、執行率が何%になれば「供給制約がない」で、執行率が何%を切れば「供給制約がある」という話になるのだろうか。
数字で定義づけしてくれない限り、公共事業を否定するために「供給制約」という用語を持ち出す人は、「通貨の信認を下げるので、金融緩和はダメ」「日本は輸出依存国だ」「国債の信認が低下するから、消費税増税」などと、印象操作に努めていた連中と、同じ穴の狢であると断ぜざるをえない。
ちなみに、ほとんどの日本国民が理解していないだろうが、公共事業と民間の建設事業は“分野”が異なる。
公共事業を増やしたため、民間の建設需要を満たせないということは、少なくとも全体の需給バランスを崩すほどにはあり得ないのだ。
公共事業の87%は「土木」なのである。逆に、民間建設事業の84%は「建築」だ。そして、公共事業の元請の8割は土木、もしくは建築を「専業」としているのだ。
下請にしても、ゼネコンとの協力関係から元請の棲み分けが及んでいるのが実態である。
技能労働者にしても、「土木専門」と「建築専門」で棲み分けが厳然と存在している。
つまりは、公共事業と民間建設事業で働く労働者は、“別の人”なのだ。
公共事業を受注している企業や技能労働者の多くが「土木専門」であり、そもそも民間建設事業の中心である「建設分野」は専門ではない。
そのため、土木中心の公共事業の需要が増えた結果、民間の建設事業が実施できなくなるなどということは、まず起きえない。
国土交通省は、上記のデータから、「公共事業に人手が取られ、民間工事の進捗が遅れるといった事態は考えにくい」と、結論づけている。
もちろん、公共事業に人手が取られ、民間建設事業が進まないという事例が“ゼロ”というわけではないが、その種の極論を持ち出し、
「民間の建設事業が人手不足になるという供給制約があるため、公共事業は削減するべきだ」
という論法は、暴論というべきである。
この種の“暴論”を排すことができない限り、我が国のデフレ脱却は困難であるとしか言いようがない。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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