08. 2015年1月22日 06:57:00
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節税20年の計 【第2回】 2015年1月22日 北山雅一 [キャピタル・アセット・プランニング代表取締役社長] 日本の相続税はやっぱり高い! 働き盛り世代の余裕資金を作る法 政府や財務省は、日本の相続税は諸外国と比べて決して高くないと言っています。専門家の間でも、日本の相続税や贈与税の低さが格差助長につながっているという指摘があります。果たして、本当なのでしょうか。いえいえ、日本の相続税は、他の主要国と比較して高い水準にあります。国の言うことを鵜呑みにして何の手も打たなければ、相続税はとられ放題、親・子・孫と3代で引き継ぐ財産など残らないということにもなりかねません。払うべき税金は適切に納めた上で、残すもの、引き継ぐものはしっかり守る。そのためには、相続税の真実を知っておく必要があります。世界の流れに逆行する日本の相続増税 そもそも世界には、相続税がない国も少なくないのをご存知ですか。いわゆるタックスヘイブンの国の話ではありません。 キャピタル・アセット・プランニング 代表取締役社長 北山雅一 われわれ日本人にとって身近なところでも、中国、香港、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、インドネシア、タイ、マレーシア、スウェーデンなどには、相続税も贈与税もありません。このうち、香港、シンガポール、オーストラリア、スウェーデンはいずれも、この10年の間に相続税が廃止された国です。
背景には、相続税を軽くして富裕層の国外移転を防いだり、よその国からの移転を促したりといった狙いがあります。相続税だけでなく所得税などの税率も下げて、富裕層や高所得者層を自国に呼び込むための競争を繰り広げているのが、現在の世界のトレンドと言ってよいでしょう。 そんな流れに逆行しているのが日本です。ご存知のようにこの1月から、基礎控除の引き下げと税率の見直しにより、相続税は増税されました。改正後の最高税率55%は、主要国の中では群を抜いた高さです。 例えばアメリカの遺産税の最高税率は40%ですが、500万ドル(約6億円)という高額の基礎控除が設けられているため、亡くなった人のうち相続税の対象となる課税割合は0.2%(2010年)。これは日本の20分の1以下の水準です。しかも富裕層のほとんどは、信託制度を活用することで実質的な負担をゼロにしています。 さらに日本では、もともと多くはなかった基礎控除額も、今回の改正でさらに引き下げられました。額だけを見るとフランスやイギリスも低いように思えますが、どちらも配偶者は免税であることを考慮すると、日本の[3000万円+相続人1人につき600万円]という基礎控除額の低さは際立ちます。 拡大画像表示 政府や財務省が何と言おうと、日本の相続税は十分に高い。まずはこの点をしっかりと認識してください。
隠れ増税が進行中 あまり注目されていませんが、実はもう一つの増税がひそかに進行中です。土地と未上場株式の相続税評価額を決める基準が、それぞれ上昇しているのです。 中でも多くの人に関係するのが、主に都市部の土地の評価に用いられる路線価の上昇でしょう。路線価は大都市圏を中心に上昇しています。 都道府県庁所在都市の平成26年分の路線価は、東京、横浜、さいたま、名古屋、大阪、京都、神戸、福岡、仙台、札幌などの大都市でこぞって上昇しました。 上昇率トップはリニア新幹線の開業に向けて再開発が進むJR名古屋駅前で、1年間で10%のアップとなっています。2020年のオリンピックに向けて地価上昇が予想されている東京でも、しばらくは路線価の上昇が見込まれます。 一方、中小企業経営者やその親族にとって深刻な影響を及ぼすのが、自社株の評価額の上昇です。市場に上場していない取引相場のない株式の評価方式は、次の3つが原則です。 類似業種比準価額方式 純資産価額方式 1と2の併用方式 一般的には、1の類似業種比準価額方式の方が2の純資産価額方式よりも株式の評価額が低くなるとされていますが、この類似業種比準価額がここにきて大幅に上昇しているのです。 類似業種比準価額とは業種の似た上場会社の平均株価のことで、平成25の平均株価は全業種平均で前年に比べて37%も上昇しています。自社の業績が上がったわけではないのに、大企業の株価が上がったために相続税評価額がアップしてしまう。腑に落ちないかもしれませんが、これが決まりです。 財産評価が上がって、税率も上がって、基礎控除は下がる。相続大増税のトリプルパンチにいまわれわれは直面しているのです。 この難局を乗り切るには、具体的に何をすればいいのか。その答えは、課税価格3億円を境に全く違ったものになります。 3億円以下なら 生前贈与だけでほぼ解決 平成24年の相続税の課税対象は4.2%、被相続人数にすると約5万2000人ですが、そのうち86%以上は課税価格3億円以下のものです。つまり、3億円の壁を越えたのは、亡くなった方のうちわずか0.6%以下ということ。 3億円以下の場合は、ごく簡単な方法で、相続税額を大幅に軽減することが可能です。これに対して3億円超の場合は、より長期的かつ大胆な対策を講じる必要がありますが、これについては別の回で詳しく説明したいと思います。 課税価格3億円以下の相続対策で必要なのは、毎年100万円以上のある程度まとまった額を子どもや孫に贈与すること。これだけで、相続税額を圧縮し、納税資金も準備することができます。 実は、相続増税の一方で、贈与税については今年から一部軽減されています。新設された特例により、60歳以上の直系尊属(祖父母や父母など)から20歳以上の子や孫へ、基礎控除後の課税価格で300万円から3000万円まで贈与する場合、従前よりも低い税率が適用されるようになりました。 生前贈与の効果を、簡単なケースで説明してみましょう。
推定課税価格3億円の方が、子と孫の計5人に15年間にわたって毎年200万円ずつ贈与した場合、相続税と贈与税の合計は約1340万円となり、対策前よりも1200万円圧縮することができます。 また、推定相続税課税価格2億円の方が同様の贈与を行った場合、相続税と贈与税の合計は約400万円となり、対策前よりも約817万円圧縮することができます。 このケースではどちらも相続税額はゼロにはなりませんが、相続人は贈与によって手元資金が増えるので、いざ相続が発生しても納税に困ることはありません。 連年贈与の落とし穴 ただし、こうした定期的な贈与には、いくつか注意しなければならない点があります。毎年同じ額の贈与を繰り返すと、一度にその合計額を贈与したものとみなされて課税されてしまう可能性がゼロではないからです。これを連年贈与と呼びます。 例えば、先の3億円のケースの場合、200万円の15年分である3000万円を一度に贈与したとみなされれば、約1035万円もの贈与税が課されてしまうことになります。 税務署に連年贈与と認定されないためには、贈与契約書を毎年作成すること、受贈者が贈与の事実を認識していること、受贈者が贈与された財産(預金通帳や印鑑など)を管理して自由に使えるようになっていることが必須です。 そしてもう一つ大切なのが、贈与税の申告を毎年することです。そのためには、基礎控除額を超える贈与をして、納税しておくことです。実は上の2億円のケースでは、毎年の贈与額を110万円にした方がトータルの節税効果は高くなるのですが、贈与税を納めるためにあえて120万円ずつの贈与としてあります。 財産シートで資産と見えざる負債を 「見える化」する ごく簡単な方法で相続税の心配から解放されることがわかっていただけたと思いますが、短期間でできるものではありません。そもそも、遺産総額がいくらになるかわからなければ、贈与するにも手のつけようがありません。課税価格はともかく、まずは現状の資産の内訳とおおまかな額を把握することから始めてください。 資産分析 記入シート 金融商品、生命保険、不動産、自社株などの、いま保有している資産を棚卸しして、その全容を「見える化」するのです。私の会社ではそのために財産シートを用意して、初めてのお客さまに書いてもらっています。
棚卸しするほどの資産などないと言っていた方がいざ書き込んでみると、買ったまま放っておいた投資型商品の存在を思い出したり、持ち株が値上がりしていたり、親から相続した不動産があったりで、意外に資産総額が膨らんでいることが少なくありません。 思い出せない資産や、夫婦で別々に管理している預貯金などもあって、漏れなく書き入れるのは難しいかもしれませんが、それでいいのです。財産シートの作成を一つのきっかけとして、夫婦や家族で普段はなかなかできないお金の話をする時間をもつことに大きな意味があると思います。 資産を「見える化」すれば、見えざる負債である未来の相続税が洗い出され、その結果、問題解決のための知恵を導き出すことができます。 問題先送りは自分と家族を将来苦しめるだけです。2015年を相続対策元年にしてみませんか。 http://diamond.jp/articles/-/65221 |