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事故を起こしたバスを調べる長野県警の捜査員ら (c)朝日新聞社
繰り返されるバス事故 元運転手がギリギリの現場語る〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160128-00000000-sasahi-soci
週刊朝日 2016年2月5日号より抜粋
「今回の事故については、今の日本が抱える偏った労働力の不足や過度の利益追求、安全の軽視など、社会問題によって生じたひずみによって発生したように思えてなりません」
長野県軽井沢町でスキーツアーの大型バスが道路から転落し、大学生ら15人のいのちを奪った大惨事。亡くなった早稲田大学4年の阿部真理絵さん(22)の父親は通夜を終え、こうコメントした。父親が嘆きとともに絞り出した言葉は、安全が担保されない社会への告発のようだ。
なぜこのような大事故が起きたのか。これまでの報道によると、事故を起こしたバスはギアがニュートラルの状態だった。ブレーキが利かず、時速約80キロ前後で転落した可能性が指摘されている。事故当時ハンドルを握っていた運転手(65)は、大型バスに「不慣れ」だったという証言もある。
国土交通省は実態を調べるために、貸し切りバス事業者のうち、過去に問題のあった会社など約100社を調べる方針だという。
しかし、首都圏の大手バスグループ会社でバスの運転手をしていたA氏(40)は、表情が硬い。
「一部を調べても意味がありません。大手、中小、どのバス会社の運転手もギリギリのところで生きているんですから」
A氏がバス運転手をしていた3年ほど前、基本給は16万円。そんな薄給ではとても家族を養えない。残業を惜しまず、月額35万円を稼いでいた。
「案外、良い給料じゃないか」。そんな声が聞こえてきそうだが、この金額を得るために肉体を酷使する勤務をしなければならない。
当時の勤務シフトを見ると、1週間のうち、残業を含めて16時間の勤務が3日、12時間が2日、8時間が2日といったサイクルだ。16時間勤務を3日連続というのもざら。公休をとれたのは12日目だ。
道路運送法などでは、バス運転手は退勤から出勤までに8時間は休息をとらなければならないとしている。仮に通勤で往復2時間、食事や風呂などで1時間とすれば、睡眠時間は5時間しかとれない。これでも法律上は問題なく運転することができる。
「バス会社はどこも人手不足ですから、1人で1.5人分は働いてもらわないといけない。給料を安く抑えているのは運転手の労働意欲を高めるためです。私も何度、太ももをつねりながら運転したことか……」
また、こんなこともあったという。
「運行管理者から『人が足りないので、きつめのシフトをお願いします』と言われたんです。『いいですよ。協力します』と返事してシフトを見たら、休息時間が2時間足りなかった。『体力的には大丈夫ですけど、法律的にはアウトっすよね?』って指摘しましたよ」
そのときの運行管理者の言葉をA氏は忘れない。
「うちは今、人が足りない。きっちり法律を守ってやっていたら回るものも回らないんだよ。他の運転手も黙ってその辺は協力しているんだから、黙ってあなたも仕事してくれませんか」
バス運転手の待遇が悪化した背景に、2000年の規制緩和がある。かつて2336社(1999年度)だった貸し切りバス会社は、2倍近い4512社(13年度)にまで膨れ上がった。
規制緩和以降、黒字路線をめがけて新規バス会社が参入。赤字路線の採算を黒字路線の収益で賄っていたバス会社は、経営が困難になってきた。既存のバス会社は、赤字路線だけを集めて子会社を設立。その子会社の赤字を黒字にするために、人件費を削り、安全にかかるコストを減らす。そして、新規参入業者に追随して運賃も下げる──。今回の事故では国のバスツアー運賃下限額約27万円に対し、バス会社は19万円で請け負っていた。
運転手の6人に1人が60歳以上と高齢化も進む。運賃の値下げ競争に歯止めをかけて運転手の労働環境を改善しない限り、また同じことを繰り返すだけだ。
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