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ラスベガスで毎年開かれる世界最大の家電展示会「CES」〔photo〕gettyimages
「ガラパゴス化」こそ、日本の家電復活のカギ! 国ごとの売れ筋はこんなにも違う
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47499
2016年01月24日(日) 経済の死角 西田宗千佳 現代ビジネス
文/西田宗千佳(ジャーナリスト)
米・ラスベガスの年初は、世界最大の家電展示会「CES(Consumer Electronics Show)」で始まる。今年も「CES 2016」が開かれ、17万人以上の業界関係者を集める盛況ぶりだった。これは昨年とほぼ同じ水準で、2010年以降右肩上がりである。
「なるほど、家電業界は景気が戻ってきたのだろう……」と思う方もいそうだ。だが、実際には逆である。我々がふつうに考える「家電」ビジネスは、今年のCESでは苦戦していた。「次の世代を担う家電」がどれなのか、フォーカスが絞れないイベントになっていたのだ。
■IoTに期待するも、ニーズと合致せず!?
過去10年のCESで主軸となっていたのは、テレビビジネスだった。
それは、テレビにとって2000年代前半からの10年間が、「デジタル化」と「フラットパネル化」の二大テーマが同時進行する、大きな変化の時期と重なっていたことに起因している。製品としての機能が大幅に変化したうえに品質もどんどん上がり、一方では価格が下がっていったために、需要も旺盛だった。
テレビは単価の高い家電であるだけでなく、周辺ビジネスの広がりが大きな製品でもある。解像度がHDになれば、それに対応したBlu-ray Discプレイヤーが必要になるし、映像ソフトの売り上げも伸びる。ビデオカメラの解像度が向上することで、コンテンツ制作システムの入れ替え需要も発生する。
そして、言うまでもなく、テレビは一家に一台、ほぼ必須の家電製品である。そのビジネス規模はきわめて大きく、家電業界にとどまらないさまざまな企業が、製品・技術開発を進めるのも当然だ。
だが、いまの家電市場では、テレビはそこまで大きなトレンドをつくれていない。
誤解してほしくないのだが、テレビメーカーが現在、開発している技術に意味がないわけではまったくない。
4Kテレビの画質はおどろくほど美しく、さらに今年から導入が本格化する「HDR」技術を使えば、色と光の濃淡をより写実的に再現できるようになる。そして、4Kコンテンツも2016年から本格的に供給されるようになり、それを楽しむのは掛け値なしにすばらしい体験である。
4K+HDR対応で高画質のテレビには、「UHD Premium」のロゴが。映画などでも4K+HDRの高画質コンテンツの開発が進んでいる。
だが、現状で4K+HDRが目指しているのは、「画質にお金をかけてもいい人」に向けて“プレミアムな体験”を提供する、というものだ。画質(デジタル化)とデザイン(フラットパネル化)という、2つの強烈な変化が同時に起きた時代とは違う。すべての家庭に浸透するには、かなりの時間が必要だ。
テレビが難しいのであれば、次なる対象はスマートフォン……と言いたいところだが、スマートフォンは通信系のイベントで新技術が発表されると相場が決まっているから、CESという場はなかなか使えない。
そこで、「家電のインターネット端末化」という側面から、いわゆる「IoT」(インターネット・オブ・シングス。モノのインターネット化)が注目されていた。特に、韓国系メーカーはそうした側面に熱心だった。
たとえばサムスンは、テレビに大型のタッチパネル付き液晶ディスプレイを取りつけた冷蔵庫を出展、自社ブースでも広い面積を割いて、アピールに余念がなかった。
サムスンが開発し、アメリカ市場で販売を予定している新型冷蔵庫。大型液晶を搭載し、「IoT」的な機能を備え、キッチンのコントロールセンターを標榜している。
このディスプレイには、中に入れた食材の賞味期限を確認する機能や、家族との伝言を共有する機能が備わっており、テレビを見ることもできる。家庭の中心にある機器のディスプレイとして活用しよう、という発想だ。
だが、この新製品に対する会場の反応は鈍かった。サムスンのブースはCESにおいて人気が高く、つねに人だかりが絶えない印象が強いのだが、件(くだん)の冷蔵庫の前で足を止めてじっくり説明に聞き入る人の姿は、筆者が見るかぎり、きわめてまばらだった。
■真にグローバル化した家電はごく少数
それも当然だと思う。アメリカ人が冷蔵庫に求めるニーズはシンプルで、「大量の食材を入れておいて、確実に冷える」ことに集約できる。他に必要なのは、飲み物のための製氷機能くらいだろう。
アメリカの家電量販店で売れ筋の冷蔵庫を見ても、日本の製品に比べて「デカい」「でもシンプル」であることが目につく。数多くの機能がついて複雑になることを求める人の割合がぐっと少ないことが見て取れる。
これに限らず、他国の量販店に並ぶ家電は、日本のものとは大きく異なっている。
冷蔵庫のサイズがアメリカと日本とでまったく違うのは当然のこととして、たとえば掃除機は、日本であれば長いホースに本体がくっついた「キャニスター型」がほとんどだが、欧米では本体が一体になったスティック型が多い。
洗濯機は、日本でおなじみの縦型・洗濯槽式はまず見かけることがなく、洗濯・乾燥が一体化した全自動のドラム式が主流だ。しかも、サイズがかなり大きい。
そもそも、日本では「洗濯物には天日干し」が求められるものの、欧米ではそのニーズはかなり少ない。それどころか、一部地域(たとえばサンフランシスコ市内など)では、天日干しが禁止されているほどだ。
日常的に、当たり前に接している家電だが、実は、そのスタイルは国によって大きく異なる。日本と韓国でも異なるし、日本とアメリカでも、アメリカとヨーロッパでも異なる。生活に密着した機器であるだけに、「どんなものが受け入れられるか」の基準が異なるのだ。
家電の話題について回る言葉に「ガラパゴス化」がある。そのニュアンスはつねに否定的で、その対立概念としての「グローバル化」が持ち上げられるのが常だ。曰く、「日本の家電はガラパゴスだ」「全世界で同じものをつくって売らないといけない」。
しかし、家電においてグローバル化が意味をもつのは、スマートフォンやAV家電に限られる。それらの機器は、家電全体としては珍しく、「世界的に似たようなニーズに基づいて開発されている機器」ということもできる。それでも、たとえばテレビであれば各国それぞれに放送規格が異なることに対応しているなど、実際の中身は少しずつ違う。
サイズにしてもそうだ。アメリカでは、もはや55型が「普及サイズ」であり、60型以上の製品がどんどん売れていく。日本でも大型化は進んでいるが、普及サイズは40〜50型にとどまっている。60型を越えると「特大」の印象が強く、やはり特別なサイズという位置づけだ。
そもそも、アメリカでは55型・60型クラスの製品ですら、配送ではなく、家電量販店から箱詰めのまま車に乗せて消費者自ら持ち帰るのが基本だ。60型のテレビを「抱えた」ままレジ前に並び、清算する姿をよく見かける。だから、テレビを梱包する箱も、アメリカと日本とでは大きく異なっているのだ。
家電とは、我々の生活に密着した道具である。国によって文化や生活スタイルが異なるのは当たり前で、それに合わせた商品企画が行われるのが理想的な製品なのだ。
特に、さまざまな家電の普及が進んだ先進国では、特徴のない製品だと値段くらいしか差別化点が存在しない。「これはどんな人に向けた家電なのか」をきちんとアピールできなければ、市場で支持を得ることは不可能だ。
アメリカ人は比較的ヘビーデューティで効率が良いものを求める傾向が強く、省エネなどにはさほど興味がない。わかりやすく、長く使えて、シンプルな製品への需要が高いのだ。
ヨーロッパの場合には、「その製品が生活をどう良くしてくれるのか」をわかりやすく示してくれるものを好む。たとえば調理家電なら、「どんなおいしい料理ができるか」を明確に指し示す必要がある。
そのため、アメリカのショーではなかなか見ない光景として、ヨーロッパではブースをキッチンに見立てて「その家電を使ってつくった料理を実際にふるまう」パターンが多い。そうでないと、魅力が伝わらないのだ。加えて、デザインに対する要求が強いのも、アメリカとは異なる特徴だ。
2015年9月にドイツで開かれた家電展示会「IFA 2015」のパナソニックブース。調理家電を「キッチンスタジアム」化した実演で製品の機能をアピール。ヨーロッパではこのスタイルが多い。
日本の場合にももちろん、国内市場に合わせた事情がある。きちんと付加価値を作り込めば、高い製品でも売れるのがこの国の特徴だ。
その最たる例が炊飯器。「故障するまで買い換えない」ものが多い家電の中では例外的に、実に4台に3台が、寿命が来る前に買い換えられている。しかも、近年では低価格機種の売り上げが落ち、高級機種に人気が集中している。それだけ、「毎日美味しいご飯を食べたい」という欲求が強く、そこに価値を見出す消費者が多く存在するからだ。
今後、IoT機器が普及していくプロセスにおいても、白物家電と同じように「その市場でのニーズに合わせた価値の追求」が重要になるだろう。アメリカのショーであるCESでは、監視カメラ機能をもつIoT機器が多く展示されていた。ホームセキュリティに対する、アメリカ市場の強いニーズを反映したものだ。
これからの家電製品は、「単一機種で世界を征す」のがますます難しくなっていくに違いない。各国のニーズを正確にくみ取り、コストと市場価値が見合うかたちで「各マーケットに合致した製品」を提示していくことが重要だ。そのために創意工夫を凝らしていくことこそ、家電メーカーの知恵と技術の見せどころである。
これぞローカルフィット! 要求水準の高い日本市場で生まれた「すごい技術」と「すごい発想」が満載
西田 宗千佳(にしだ むねちか)
1971年福井県生まれ。ネットワーク、IT、先端技術分野を中心に活躍するフリージャーナリスト。著書に『漂流するソニーのDNA』、『ネットフリックスの時代』、『暗号が通貨(カネ)になる「ビットコイン」のからくり 』、『スマートテレビ』、『iPad VS. キンドル』、『クラウド・コンピューティング』などがある。小寺信良氏 との共同発刊メルマガ「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を毎週金曜日に発行中。
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