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スキーバス転落事故はどうすれば防げたのか?〜「小泉時代の規制緩和が原因」説を検証する
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47417
2016年01月18日(月) 高橋 洋一「ニュースの深層」 現代ビジネス
■規制緩和後、事故が増えた?
先週15日、長野県軽井沢町でスキーバス転落事故が起きた。乗客乗員41名のうち14名死亡、27名重軽傷という痛ましい事故だ。
特に、死亡したのは若い大学生ばかりで、本当にやりきれない。亡くなった方のご冥福を祈るとともに、けがをされた方の一日も早い回復を祈りたい。
事故原因はこれから究明されるだろうが、バス運行会社には多くの法令違反があったようだ。
マスコミの中には規制緩和の弊害を指摘する声もある。たとえば、17日に放送されたテレビ朝日の『サンデースクランブル』である。小泉構造改革による規制緩和のせいだと断定するように、小泉首相(当時)の映像を映したあと、「規制緩和によって新規参入者が増えたせいで、バス会社の利益が出なくなった。(だから、いろんなところで無理をする業者が増えた)」としていた。
本当に規制緩和の弊害だろうか。まず、そのときの規制緩和がどのようなものだったのか、振り返っておこう。
バス事業には、「乗合バス」と「貸切バス」がある。今回事故を起こしたのは、後者の貸し切りバスだ。交通分野での規制緩和は先進国に多くの例があるが、日本での取り組みは遅れていた。1996年末の段階で当時の運輸省がようやく発表し、1998年度からの3ヵ年計画である第2次規制緩和推進計画に盛り込まれた。
貸切バスは先行して2000年2月に、乗合バスについては2002年2月に、需給調整規制の廃止等を内容とする改正道路運送法等が施行された。これらにより、事業の参入については、需給調整規制を前提とした「免許制」から、輸送の安全等に関する資格要件をチェックする「認可制」へ移行し、運賃制度についても、事業者の創意工夫により多様な運賃を設定することが可能となった。
免許制と認可制は行政実務としてはあまり大差ない。認可制から「登録制」になると、行政裁量がなくなり参入業者は飛躍的に増えるが、安全面についての行政のチェックの厳しさが変わることはない。この意味で、この規制緩和は経済規制緩和であって、それほどドラスチックなものではなかった。
貸切バスの規制緩和では新規参入がやや促進したが、乗合バスではもともと採算が悪かったので、あまり新規参入はなかった。その結果、貸切バスでは料金値下げが起こったが、乗合バスでは一部に競争促進の事例があるものの、全体としてみれば価格の低下などにはあまり起こらなかった。
先行して規制緩和した貸切バスや、それが遅れた乗合バスのいずれでも、懸念されるのが事故率の変化である。認可制であるので、法律上の建前としては安全基準に問題がある業者は、事前チェックによって排除される。
ところが、実際にそうなっているかどうか。それがポイントであり、もし安全基準をないがしろにする業者が、規制緩和によって参入してきたとすれば問題である。では、その点についてみてみよう。
■行政の処分は適切だったのか
国交省の統計でチェックしてみても、規制緩和によって事故率が大きく増えたとはいえないことが分かる。新規参入が多かった貸切バスについて、規制緩和の前後で有意な変化は見られない(新規参入の変わりがなかった乗合バスで変化があるように見えるが、規制緩和のタイミングではなく、別の要因だろう)。このデータから見て、「規制緩和によって事故が増加している」とはいえない。
新規参入が増えたことによって、事実上行政のチェックが甘くなることも考えられたが、今回の件では、それもなかった。というのは、バス運行会社である株式会社イーエスピーは、事故2日前の13日に行政処分をうけていたのだ。つまり、行政チェックはある程度働いていた、ということだ。
このことは、関東運輸局のサイトに掲載されている(下図、https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/page3/kasikiri/date/27/2801/kashikiri280113.pdf)。
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もっとも、この処分が適当であったかどうかは、今後精査すべきだ。今回の事故を起こした運転手は、大型バスの運転経験がほとんどないとも報じられている。それが事実ならば、株式会社イーエスピーの責任は重大である。事前に営業停止していても不思議でなかった。
■責任はやはり旅行会社に有り
いずれにしても、こうした事実から、今回の事件の別の本質も見えてくる。もし、その行政処分を乗客たちが知っていたらどうなるか。取りやめる人もいたかもしれない。
こうしたブラックな情報は、国交省のサイト「国土交通省ネガティブ情報等検索サイト」(http://www.mlit.go.jp/nega-inf/index.html)から知ることができる。
「当ホームページでは、一層の利用者利便を確保するとともに、事業の健全な発達及び輸送の安全確保を図るため、バス、タクシー、トラックを利用する際の事業者選択の参考情報として、過去3年間の自動車運送事業者に対する行政処分状況を公表しています。」
とうたっており、ある程度の情報を確認することができる。ただし、直近のものは検索できない。昨日現在で、平成27年11月分までのデータを検索可能とされている。
もっとも、バス運行会社のブラック情報はネットで検索することができるが、旅行者としては、ツアーを企画した旅行会社に申し込むので、その旅行会社がどこのバス運行会社と契約しているのかは事前になかなかわからない。実際にバスに乗り込むときにはわかるが、そのときには、悪徳バス会社とわかっても、もう手遅れだ。
となると、旅行会社の責任が重大になってくる。旅行会社は、旅行業法に基づいた登録が必要であり、旅行業法による規制を受けるからだ。今回の旅行会社は、株式会社キースツアーである。
旅行業法第第十二条の十では、「旅行業者は、企画旅行を実施する場合においては、旅行者に対する運送等サービスの確実な提供・・・その他の当該企画旅行の円滑な実施を確保するため国土交通省令で定める措置を講じなければならない。」とされている。
それを受けた旅行業法施行規則第三十二条第一号において、「旅行に関する計画に定めるサービスの旅行者への確実な提供を確保するために旅行の開始前に必要な予約その他の措置」と定められている。
旅行会社として株式会社キースツアーが、バス運行会社が適切な会社であることを確認しておくのは常識以前の話だ。株式会社キースツアーが、株式会社イーエスピーに対する行政処分を知っていたのかどうかは、大きなポイントである。
■二度と同じ事故を起こさないために
株式会社イーエスピーに対する行政処分は、輸送施設の使用停止20日であって、営業停止ではない。このため、今回のバスツアーが直ちに中止される訳ではないが、結果として行政処分対象会社のバスを使って、事故を起こしたのであるから、旅行業者としての責任は免れない。
株式会社イーエスピーのほかの旅行会社にも、旅行業法に基づく立ち入り検査(検査を行うのは東京都)が入るので、旅行業法上の問題も徹底的に洗うべきだ。
規制緩和は、参入障壁などの経済規制であって、安全規制は規制緩和すべきでないという当たりまえのことを確認した上で、今回の事故を教訓にすれば、次のようになる。
第一に、バス運行会社が法令違反を犯した場合、営業停止のような処分も必要である。国交省で公表している行政処分は大半が文書警告にとどまっている。4000以上の事業者数に対して、許可取り消し処分は年に1件あるかどうかである。
かつて筆者が旧大蔵省時代に、投資顧問業者の登録制を担当していたが、数百の業者数に対して、登録取り消しは年間で10件近くやったこともある。悪徳業者の排除を行政は躊躇してはいけない。
第二に、旅行会社に対して、どこのバス運行会社を使うのか旅行者に対して開示する義務を負わせるべきだ。こうしたことは、ネットの時代であれば簡単に行えるのだから。
安全のための対策、規制は、安全の価格を旅行者に正々堂々と示すためにも必要である。安全はただではない、ということを改めて肝に銘じたい。
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