大幅安の株式市場、混乱は短期で収束か 中国、中東、原油安…年初から想定外の大幅安 2016年1月16日 和島英樹 [ラジオNIKKEI東証記者クラブ・キャップ] 東京株式市場が年初から想定外ともいえる大幅安を記録した。今年は年初から6日続落で、これは日経平均株価が算出されるようになった1950年9月以来初めてのこと。 従来の記録は1995年の大発会から4連敗だった。15年末の日経平均は1万9033円だったが、14日には一時1万6944円と8日で2089円(11%)も下げた格好だ。欧米中など主要国の株価も軒並み安でのスタートとなった。
この背景としては、昨年末から住宅などの米国経済指標がさえなかったところに、年初から中国株式の急落、サウジアラビアの外交断絶による中東での緊張の高まり、諸条件による円高の進行に、下げ止まらない原油価格など、悪材料が折り重なったことが要因。 円高は日本企業の業績先行き不安にもつながっている。米国では今年に入ってISM製造業景況指数や自動車販売の鈍化なども明らかになった。 中国では株式にサーキットブレーカー(SB、乱高下時の売買一時停止)制度を1月4日に導入したが、2度目のSB発動で現物株取引が終日停止になることで、売りそびれるリスクを警戒した投資家の投げ売りが下げを加速した面もある。本来は売買の一時停止で「投資家の頭を冷やす」ことが目的の制度が、不備により、売りを急がせる格好になった。当局はSB制度を8日からに中断した。 また、一連の混乱の底流には、昨年12月に米国が利上げを行ったことで、新興国からの資金流出傾向もリスク要因として捉えられている。 原油価格安は日本にとっては、化学製品などについて原料価格安としてメリットが大きいが、産油国の財政悪化、ハイイールド債(リスクは高いが利回りの高い債券)の価格下落などで、金融面からの不安要因となっている。 今後のメーンシナリオは 「混乱は短期で収束」 今後の相場見通しだが、目先での市場関係者たちが語るメーンシナリオは、混乱が短期間で収束し、17年3月期のファンダメンタルズによって判断される展開になること。日経平均株価が徐々に値を戻し、昨年6月の高値2万952円を窺うという見方が強い。これには為替市場の落ち着きが重要なポイントになる。 少し長期で見ると、年内の株式市場は主要先進国の中央銀行の対応が最大のポイントになってくる。米国はFRB(米連邦制度理事会)が昨年、利上げに舵を切った。今年も2〜4回の利上げが見込まれているが、そのピッチや幅に関心が高まっている。 欧州ではECB(欧州中央銀行)が一段の金融緩和に向かうとの観測が根強く、日本も日本銀行が年内に追加緩和を行うとの見方が多い。各国・地域の景況感が改善するのか、また、為替の値動きも注目される。昨年のFOMC(米公開市場委員会)での利上げにもかかわらず、ドル円は材料出尽くしとして、むしろ円高に進んだ経緯がある。 また、米国では大統領選挙があるほか、日本でも参議院選挙がある。米国の政策がどのような方向に向かうのか、日本も経済最優先の政策の継続となるか、投資家の関心は高い。日本では経済よりも憲法改正が焦点になった場合、外国人投資家の投資行動に変化が出る可能性がある。 なお需給面では、15年は外国人投資家が約2500億円の売り越しとなっている。売り越しは08年以来7年ぶり。15年の株式市場は上昇したが、外国人投資家が売り越す中での上昇は1989年以来26年ぶりだった。15年の買い手は事業法人(自社株買いと推計)や年金と見られる信託銀行だった。売買の6割程度を占める外国人投資家の動向を注視したい。 一方、企業サイドは現預金を積み上げており、仮に株価下落が継続した場合、自社株買いを実施する企業が増えそうだ。 企業業績次第では 日経平均2万1000円台まで上昇も 全体の株価の先行きを占う上での最大の注目ポイントは企業業績となる。 日経平均の現状の1株利益は1218円。11月前後までは1260円程度あった。日経平均などで、一般的に株価が割安といわれるのはPER14倍。16倍に接近したり、それを超えると割高と見るケースが多い。 2015年9月高値は1株利益1260円では16.6倍、1218円では17.2倍となる。1万7000円では同様に13.5倍、14.0倍だ。17年3月期に仮に10%増益なら1株利益は1340円にまで上昇する。2万952円なら15.6倍であり、年内の、この高値の突破が視野に入る。2万1000円台でも不自然ではない。 現状、大手の輸出産業の為替前提レートは対ドルで120円程度であり、時価前後での推移なら、企業業績には下方圧力がかかる計算だ。米国をはじめとした日本が企業交易対象になっている国の経済状況、為替動向がポイントとなる。円高進行などで、期待収益率が低下すれば、おのずと株価の上値は重くなるだろう。以上から、日経平均の大まかな値動きは1万6000円〜2万1000円と想定する。 下値は1万6000円を割り込むと 1万5000円まで下がる可能性 一方、数字の意味するところでは、下値では昨年9月29日の安値1万6901円(取引時間ベース)を割り込まないことが重要となる。 既にのりしろが少なくなっているが、これを割らずに反転すれば、株価分析のテクニカル上の解釈はボックス圏での株価推移となる。これを維持できるかどうかは、下値メドを探る上で、極めて重要だ。 仮にこれを割り込むと、下降トレンド入りが確認されることになり、次のテクニカル分析での節目は1万6000円まで見当たらない。このケースでは、株式市場が、17年3月期が減益になることを読み込んでいることも意味する。PERの割安感が効かない状態となるためだ。出来高の滞留などからは、1万5000円程度までの下げもあり得る。 逆に上値では2万2666円が大きな転換点だ。この価格を付けたのは1996年6月25日で、この日は当時の橋本首相が消費税率の3%から5%への引き上げを閣議決定した日。翌年の97年4月に実際に引き上げられ、日本経済はデフレに陥ることになった。企業の売り上げが減り、賃金が下落し、日本の財政も悪化するという悪循環はこの時が起点なのだ。金融機関が相次いで倒れたのは97年〜98年にかけてのことだ。 2万2666円を突破できれば、株価面からの「デフレ脱却宣言」となる極めて重要なターニングポイントなのである。クリアできれば、賃金や企業業績などかなり明るい展開になっていることが想定される。 個別銘柄は 時価総額の大きい企業に注目 個別銘柄の物色動向としては時価総額が大きくて流動性の高い銘柄群の値動き。外国人投資家やGPIF(年金)などの大口投資家はTOPIXベンチマーク(投資基準)が多く、時価総額上位30(コア30)やラージ70(次位の70銘柄)の値動きに注目が集まる。 特に時価総額首位のトヨタ自動車は世界でビジネス展開しているだけに、株価の動向は全般を反映するものになる可能性がある。 年初から大荒れの株式市場にあって、フィンテック(金融とITの融合)関連や、バイオ、自動運転、ロボット関連の一角などが人気化している。年初の活況はその年のテーマを示唆することも多く、注目しておきたい。 フィンテックではブロックチェーンといわれる。ブロックチェーンとは暗号技術と、ネットワーク上で対等な関係にある端末間を相互に直接接続してデータを送受信する通信方式(P2P)を組み合わせたもの。応用すると、データの改ざんをほぼ不可能にしたデータベースができる。ビットコインに代表される仮想通貨の信頼性、決済機能を支える基盤技術である。 さくらインターネットやインフォテリアなどが先駆し、やや過熱感も台頭しているが大手のソフト企業にまで裾野が広がるかがポイントか。関連して、IoT(モノのインターネット)、ロボットなど生活の向上に役立つ技術を手がけている企業にも関心が集まると思われる。 バイオでは小野薬品工業の抗がん剤「オプジーボ」を筆頭に日本が開発の主体となっている薬剤に注目が集まっている。オプジーボは人間の免疫に働きかけてがんを攻撃するという新しいアプローチで、効き目に優れ副作用が少ないとして利用者が急増している。株価は昨年末にかけて2万2400円という史上最高値をつけている。 日本では有望な新薬について早期に実用化を目指す「先駆け審査制度」が15年に導入された。米国でも同様のFDA(米食品医薬品局)がブレークスルーセラピー(画期的新薬指定)を設けており、「オプジーボ」はこの指定を受けている。 先駆け審査制度に指定されているのは塩野義薬(4507)のインフルエンザが1日で治る特効薬、日本新薬(4516)の筋ジストロフィー薬、アステラス薬(4503)の急性骨髄性白血病治療薬など、ブレークスルーセラピーでは第一三共(4568)、エーザイ(4523)の抗がん剤などが指定されている。再生医療関連にも認可されるものが出始めている。創薬ベンチャーについてもチェックしておきたい。 また、外部環境に左右されにくい、内需関連銘柄にも注目が集まる可能性がある。特に2020年の東京五輪、2027年開業予定のリニア新幹線に向けたインフラの整備や補修などに関心が高まる可能性がある。主力は大手ゼネコンだが、周辺企業にもビジネスチャンスは大きい。 リニアでは大成建設(1801)、錢高組(1811)がJV(ジョイントベンチャー)で受注。トンネル工事の大豊建(1822)、熊谷組(1861)などにも今後チャンスがあると見られる。国土交通省は15年12月に老朽化した新幹線のインフラ改修などを求める決定を行った。東北新幹線、上越新幹線、山陽新幹線で、運行の安全のために、橋梁やトンネルなどでの補修を促している。 http://diamond.jp/articles/-/84706.
世界経済を混乱に陥れる中国経済の闇!中国株は底打ちするか、日本への影響は!? 緊急予測2016年 シリーズ第1回[全3回] 2016年1月16日 闇株新聞編集部 混迷極める波乱の経済。震源の中国経済は底打ちするか、アメリカ経済と大統領選の行方、参院選までの日本株はどうなるか!? 「闇株新聞プレミアム」が2016年を大胆予測する全3回の緊急特集。今回は第1回、中国経済&中国株は底打ちするのか?そして日本への影響について、鋭く切り込みます! あまりにも稚拙な中国の為替・株式市場対策 サーキットブレイカー制度は4営業日で撤回 いまどき中国経済が本当に7%近い成長を続けていると信じる人はいないはずですが、そうは言っても一党独裁の中国共産党が強引にでも取り繕うだろうと考えられていました。ところが中国政府の対策を見ていると、どうもそうではないようです。言うなれば「見ていられないほど稚拙な対応」で市場の混乱をさらに増幅しています。 例えば1月7日早朝、中国人民銀行は人民元の基準値を1ドル=6.5646人民元に設定しました。中国人民銀行は人民元の基準値を昨年8月10〜13日に1ドル=6.1162元から6.4010元まで「急激に」引き下げて上海株式の急落を招いたのですが、今度は昨年12月初めの1ドル=6.4元前後から「連日ゆるやかに」引き下げたのです。 「急激」だと弊害が大きかったため「ゆるやか」に引き下げているようですが、どちらにしても「人民元は毎日確実に目減りする」と宣言しているようなものです。当然、為替市場では人民元売り・外貨買いが際限なく出ることになります。これでは海外からの投資など増えようはずもありません。 ご丁寧に中国人民銀行は昨年「人民元の基準値は前日午後遅くの市場取引(基準値の上下2%以内)を参考に決める」としたため、市場では常に先行して人民元売りが出ることになり下落が止まらなくなりました。いかにも稚拙な為替対策です。 人民元の下落は中国からの資金流出を意味し、上海株式も大きく下落しました。奇しくも本年1月4日から株価指数が7%下落すると取引が打ち切られる「サーキットブレーカー制度」が導入されていましたが、4営業日で2度も発動される事態に早くも撤回が決まりました。 だいたい7%下落すると取引が打ち切られるなら、相場環境が悪いときは誰もが「我先に」持株を売却しようとするため、ますます株価下落を加速させることになることがわからなかったのでしょうか。いかにも稚拙な株価対策です。 8604億ドルの外貨準備はどこへ消えた!? 外貨流入が続かないと拡大できない中国経済 そして1月7日の夕刻、予定より大幅に遅れて昨年12月末時点の中国外貨準備高が発表されました。数字は昨年11月末比で1079億ドル減の3兆3304億ドルと、単月では過去最大の減少となり、この1年間でも5126億ドルもの減少となっていました。発表が遅れたはずです。 ところがIMFの推計では2015年の中国経常収支は3478億ドルの黒字で、外貨は中国人民銀行が一元的に買い入れることになっているため、2015年1年間では差引き8604億ドルもの外貨準備が消えてしまったことになります。 中国は外貨準備の通貨別内訳を発表していませんが、全てがドルということはなく3割程度がユーロなど多通貨のはずで、2015年はドルがすべての通貨に対して値上がりしていたためドル建てに換算すると中国の外貨準備は2000億ドルほど目減りしたはずです。 それでも2015年には6500億ドルほどの外貨が消えていることになり、その内訳は外国人の投資引揚げ(減っていますが実際はまだ投資超過のはずです)、中国政府による公式の対外投資、為替管理を潜り抜けた中国人による不正な海外送金でしかなく、圧倒的に最後の不正送金が大きいはずです。 中国経済は貿易黒字と外国からの投資で流入する外貨を中国人民銀行が一元的に買い入れて中国国内の信用創造の準備資産としている実質的には「ドル本位制経済」です。つまりどういう形でも外貨(主にドル)が流入し続けなければ(外貨準備が増加していなければ)経済は拡大できず、外貨準備を増加させるためには人民元が外貨に対して上昇を続けていなければなりません。 人民元が1ドル=6.04元で上昇を止めたのが2014年1月、外貨準備が3兆9932億ドルのピークをつけたのが2014年6月、外貨準備の減少が加速したのが人民元を急落させた2015年8月から、そして中国経済の減速が大きな問題となったのもその頃からと、きっちり符号しています。 確かに人民元安で中国の貿易黒字は増大していますが、これは中国経済の低迷と原油価格の低迷で輸入が前年比で20%も減少しているからで、人民元安の効果ではありません。はっきり言っておきましょう。人民元安は中国経済に壊滅的な弊害をもたらすはずです。そして、現在の中国政府はまさにその人民元安を強行しています。 中国経済の抱える闇の根っこは政治体制にある 日本は政府も企業も「脱中国」を急げ! 繰り返しですが中国経済は外貨が流入していなければ拡大しない構造になっています。ここ2年間(とくにここ半年)は外貨が逆に流出しており、昨年12月から本年初めにかけて人民元をさらに下落させているため、ますます外貨流出が加速していることになります。その大半が国内資金の不正な対外流出であると考えます。 つまり中国経済は少なくとも人民元を下落させているここ半年間はマイナス成長の可能性があります。中国の抱える経済の闇は、経済構造の問題というよりもむしろ稚拙すぎる経済政策の問題、ひいては共産党一党独裁体制が招いている政治問題に他なりません。 そして、この政治体制が劇的に変化しない限り、中国経済の闇が明けることはありません。本来的には景気は季節のように循環するもので、相場格言に「夜明け前がいちばん暗い」というように最悪の状況を耐え抜けばいずれは改善に向かいます。しかし、こと中国経済の闇は耐えていれば何とかなるものではありません。 すでに企業の中には「脱中国」を図り、拠点を周辺国に移したり国内に回帰しているところもありますが、耐えていればなんとかなると思っているのか何ら手を打たずにいたり、逆に中国依存を高めてしまっているところも少なからずあります。投資家としてはそのような企業は将来深刻な事態に陥ることをはっきり認識しておくべきでしょう。 それでは中国の経済規模は本当はどれくらいなのか、また中国の外貨準備に隠れているはずの巨額含み損はいかほどなのか、中国のバランスシートから見る中国経済の「本当の姿」はどういったものなのか、そして何よりも共産党独裁体制の中国が仮に経済危機に陥ってしまった場合、資本主義ルールに従った対応を取ることができるのか……etc. 中国の国家体制と経済の巨大な闇についての話は、来週から「闇株新聞プレミアム」で引き続き徹底的に掘り下げてまいります。本連載「週刊 闇株新聞」がお伝えできるのは、深くて大きな闇の“ほんの入り口”までに過ぎません。 http://diamond.jp/articles/-/84731
経済環境が厳しい2016年、経営者がこれだけは守るべきこと 世界経済は転換点を越えた 小宮一慶の週末経営塾 【第30回】 2016年1月16日 小宮一慶
2016年がスタートしました。今年もよろしくお願いします。今月は2016年の経済環境見通しと、経営戦略の立て方をテーマに、2回にわたってお話します。
小宮一慶 小宮コンサルタンツ代表 まず、2015年を振り返ると、2015年の経済状況は、消費は弱かったものの株価は上昇するなど、ある程度安定していたと言えるでしょう。実体経済自体はそれほど良くはありませんでしたが、それでも低位安定と言えたかもしれません。2016年の今年は良くなることを願いたいところですが、しかし現実には厳しい1年になりそうです。その最大の理由は世界経済が大きな転換点を迎えたところにあります。
ひとつは、米国の利上げにより世界の主要中央銀行による量的緩和の傾向が変わってしまったことです。量的緩和により、景気や株価が支えされていましたが、米国だけが比較的経済が堅調なために量的緩和に終止符を打ち、昨年暮れに金利を上げ始めました。12月16日に米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が政策金利の引き上げを決めたことで3極同時の量的緩和が終わったのです。 それにより、経済の状況が不安定な新興国からはすでに資金の引き上げが始まっていますし、円に対しては別ですが、他の通貨に対してはドル高が進んでいます。 もう一つの大きな転換点は、中国経済の減速が鮮明になったことです。21世紀の世界経済を大きく引っ張ってきたのは、10%成長を続けた中国でしたが、その減速がはっきりしたのです。20世紀なら中国の減速はそれほど大きなインパクトはなかったかもしれませんが、現在世界全体で75兆ドル程度のGDPの中、約10兆ドルを中国は稼いでいますから、その減速のインパクトは、日本はじめ周辺国、さらには資源国に影響を及ぼしています。 そして、2016年早々、株価が大きく下がりしました。原因は中国経済の減速が止まらず、景気に敏感に反応する中国製造業購買担当者景気指数(PMI)が景況改善と悪化の分かれ目となる50を下回ったことにありました。それに関連して、上海株が大きく下げ、市場安定化のために導入した「サーキットブレーカー」が逆に市場を混乱させ、その制度を停止せざるをえなくなりました。 また、中東ではサウジアラビアとイランの対立が年明け早々に激化、今も収まる気配が見えません。原油価格も、中国経済の減速や米国産シェールオイル、産油国の結束力の低下などがあって低迷しており、このことも不安を増長しています。それにプラスして、欧州ではテロや難民問題が、ギリシャ問題をようやく乗り切った病み上がりの経済の足を引っ張っています。 世界経済は、大きな転換点を迎えているとともに、大きな難問を抱えているのです。日本経済ももちろんその影響を大きく受けます。 日本がこの難局を乗り切るためには、効果的な経済対策を打ち続ける必要があるのですが、やれることと言えば、日銀が量的緩和第3弾を実施して株価が一時的に少し上がる程度でしょう。 そして、2016年は政治の年です。まず5月26日・27日に三重県で伊勢志摩サミットが開催され、その余勢をかって7月には参議院選挙が行われます。衆参同時選挙がある可能性も高いでしょう。年前半から夏にかけては、政権は2大政治イベントにかかり切りになります。その後は、2017年4月に行われる予定の消費増税が議論となるでしょうが、経済対策に力を入れる余裕はありません。 「爆買い」「オリンピック」だけで景気はよくならない 中国の爆買いや4年後に控えた東京オリンピックの需要が景気を支えると考える人もいるようですが、そう楽観できるものではないと私は思っています。 まず爆買いがいつまで続くのか。中国人が大挙来日して日本製品を爆買いしていますが、その大きな原因は円安により中国国内との内外価格差が、ものによっては2倍程度もあったためです。中国で販売されている日本製品が半値で仕入れられるのだから、爆買いが起こるのも当たり前です。大量に買って転売すれば、かなり儲かります。 しかし今後は、元はドルに対しても円に対しても高い確率で安くなります。その元安の度合いがどれくらいになるかにかかっていますが、元安が進めば爆買いはおさまっていくと考えられます。 また、オリンピックへの過度の期待も禁物です。私は東京オリンピック開催に反対ではありません。むしろ、大賛成です。ただ経済的には大きな期待をしていません。総額1兆円程度の五輪予算を使っても東京の一部の景気が良くなるだけ、全国の景気を押し上げるまでにはいたらないと考えています。 確かに1964年の東京オリンピックでは景気浮揚効果がありましたが、当時のGDPは30兆円規模。今に比べ、17分の1程度の経済規模で、新幹線、首都高速や東名高速などの高速道路網を充実させたのですから、経済効果は大きかったのです。今はGDPは500兆円規模です。毎年5兆円程度の公共事業を行っても景気刺激効果が現状の程度ですから、気分的には盛り上がりますが、オリンピックの経済効果にはそれほど期待しないほうがいいと考えます。 もう少しマクロ的に考えても経済の状況は楽観視できません。 日本で経済が最も長期間にわたって成長した時期は意外かもしれませんが、2002年から2007年の5年間です。この期間はアメリカで住宅バブルが発生し、欧州が通貨統合をして欧州経済が実力以上に伸び、その恩恵を受けた中国が10%成長を続けていました。そしてその中国の恩恵を受けて日本も5年間、経済が伸び続けたわけです。 今はアメリカの景気はそこそこ良いもののGDPの7割を占める個人消費の伸びが住宅バブル当時の7%から3%程度まで落ち込んでいます。欧州は青息吐息の状態、そして中国の減速、といった状況です。2002年から2007年にかけての日本を取り囲む経済環境と全く違うことは明らかです。 さらに2017年4月には消費税が引き上げられる予定です。8%に引き上げられた2014年4月以降の消費の冷え込みで経験しているように、消費税を上げれば、17年4月以降も高い確率で経済は減速します。 今年は昨年よりも大変な年になる可能性が高いと思います。 年後半は消費増税前の駆け込み需要があるでしょうが、その後に消費税引き上げが待っています。このような時期は企業経営者はキャッシュポジションを増やし(=手元流動性を高め)ておくことをおすすめします。何があるか分からないからです。いざというときに役に立つのは、自分でコントロールできる資金だけです。 そして「お客さま第一」を徹底し、正しい考え方をもって、これまで以上に徹底を強化し、厳しい環境に備える「方向づけ」を行うべきです。「方向づけ」とは、「何をやるか、やめるか」です。 経営戦略を立てる際のポイントとは? 「方向づけ」とは、具体的には経営戦略を立てることですが、それには、 (1)「ビジョンや理念」をベースにする (2)「外部環境」を分析する (3)「内部環境」を分析する という3つの要素が必要です。 つまり経営戦略はビジョン、理念をベースとし、世の中やライバルの動き(外部環境)を分析し、自社のヒト・モノ・カネという経営資源がライバル企業に比べてどれだけの優位性を備えているのか(内部環境)を考慮して決めるのです。ピーター・ドラッカーは(1)企業(事業)の「目的」を明確にし、(2)「市場」と(3)「自社の強み」を分析せよと言っています。私の考えと基本的には同じです。ドラッカーは戦略立案にはまず「目的(存在意義)」からだと言っています。 それと関連してとても大切なことは、経営者がぶれないことです。その志や考え方をビジョンや理念に落とし込み、社内で徹底し、ビジョンや理念に基づいて戦略を立てよ、というわけです。 「お客さまを第一に考える」と言いつつ、利益を最優先にしがちな経営者もいます。目的と目標を取り違えたり混同しているのです。そうなるとお客さまも離れてしまうし、従業員も自社を嘘つきな会社と認識するようになります。昨年は東芝をはじめ、目立つ不祥事が多かった年ですが、それらの会社では、経営者はじめ、目的と目標を取り違え、ビジョンや理念がお題目となっていたのでしょう。 次回は経営や経営戦略について詳しくお話したいと考えています。 http://diamond.jp/articles/-/84705
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