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原油安は何を招くのか?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160107-00010003-wedge-bus_all
Wedge 1月7日(木)12時11分配信
2015年も原油価格は低迷を続けた。WTIの原油価格は2014年6月20日の107.26ドルから68.3%安となる33.98ドルを15年12月18日に記録した。これはリーマン・ショック後の09年2月12日につけた過去10年の最安値と同じ価格だ(過去15年の終値ベースの最安値は03年4月29日の25.24ドル、過去20年の終値ベースの最安値は98年12月10日の10.72ドル)。
ここまで原油安が進んだ背景には、様々な要因がある。北米でのシェールオイル生産ブーム【供給増】、OPECによる減産の見送り【供給増】、イランの経済制裁解除によるイラン産原油の市場への供給【供給増】、原油需要の減少、ドル高、といったことが主な要因だ。中でも特にサウジアラビアを中心としたOPECの姿勢が大きく影響している。これまでOPECは、原油価格が下落する過程では減産をすることで供給を減らし、需給バランスを変えることで原油価格を引き上げる動きをしてきた。ところが、今回の原油価格下落局面では、OPECは減産を見送り続けてきた。その狙いは、原油生産シェアの維持回復だ。
■止まらない過剰供給
サウジアラビアをはじめとするOPEC諸国は、これまで世界の原油生産量に対し高いシェアを維持してきたが、北米のシェールオイル等の開発により、シェアが低下し始めた。シェア回復のために価格競争にもちこんだというわけだ。もともと中東諸国での原油生産は、地表に近い位置から原始的な方法でも産出できる油田も多いため、生産コストが安い。対する北米のシェールオイルはコストが高い。原油価格が高くなったことで北米のシェールオイル開発が採算に合うようになり、シェールオイル開発ブームが起きたのだ。OPECにしてみれば、本来自分たちの利益になるはずの原油価格上昇が、高コストのシェールオイル開発を可能にし、結果として自分たちのシェアを落とすことになってしまったのだ。
そこで、供給過剰状態にあるにも関わらず、OPECは減産をせずに供給過剰状態を継続して原油価格を下落させ、北米のシェール事業が採算割れをするようにした。IMFのレポートによると、中東の陸地での原油生産コストは平均で1バレル当り29ドルが採算ライン。対して、北米のシェールオイルの採算ラインは62ドル、カナダのオイルサンドは74ドルだ。原油価格が1バレル100ドルであれば十分に採算に合う北米のシェール事業も、原油価格が50ドルまで下落してしまえば採算割れをする事業者も出てくるはず、というわけだ。結果として採算割れをした事業者たちが廃業すれば自分たちOPECのシェアが高まる。
【出所:IMF】
Seven Questions About The Recent Oil Price Slump
December 22, 2014
ところが、北米のシェールオイル事業者たちも下落した原油価格に合わせてコスト削減の努力をしてきた。更に、原油生産事業は初期コストが極めて大きく、ランニングコストはそれに比べて非常に小さく、全体としての採算ラインが62ドルという構造だ。つまり、北米のシェールオイル事業者としては、ランニングコストだけで考えれば50ドル以下の原油価格であっても、操業コストを賄うことは可能であるため生産を続ける。するとOPECはさらに原油価格を下げようと減産を見送り……という消耗戦になる。結果としては、他の要因も合わさり原油価格は34ドルになった。
こうした原油安は何を招くのか。端的に言えば原油を売る国と原油を買う国で対照的なことが起こる。ここではもう少し分けて考えてみたい。
まずは日本。原油消費量が多くそのほとんどを輸入に頼る日本では、原油価格の下落はインフレ率を抑える効果があり、原材料費を抑えて企業業績にプラスになり、家計のエネルギー関連出費を抑えることで消費にプラスになると考えられる。まさに日本は原油を買う国の代表例だ。
欧州は、域内に原油のとれる国もあるため、一括りにするべきではないかもしれないが、全体としては日本と同様に原油消費量が多く、原油輸入依存度が高いため、欧州全体で見れば日本と同様の効果があると言えるだろう。
シェールオイルブームの中心地の米国は、日本や欧州とは少し事情が異なる。シェールオイル事業者にとって原油価格下落はもちろんマイナスだ。また、米国にはシェールオイル事業者だけではなく、従来型のエネルギー企業も多くあり、そうした企業にとってもマイナスだ。これらの企業の株価は2015年に大きく値を下げた。また、日本でもブームとなったMLP*やエネルギー関連企業が多いハイイールド債の価格も大幅に下落している。
*マスター・リミテッド・パートナーシップ、株式投資と同じようなエクイティ投資の性格を持つ金融商品。原油や天然ガスの貯蔵施設やパイプラインなどの事業を展開する企業が発行するものが多い。
一方で、世界最大の自動車社会の米国での原油価格の下落は、家計の消費に大きなプラスとなる。原油価格の下落によって米国内のガソリン価格は牛乳以下になった。もちろん、ガソリンだけでなく他のエネルギー関連の出費も抑える効果がある。エネルギーセクターにはマイナスであっても、巨大な消費市場に大きなプラスとなるため米国全体で見ればプラスとなるだろう。ちなみに鉱業が米国のGDP全体に占める割合は2.6%、雇用全体に占める割合は0.6%だ。
対照的なのは産油国で、原油価格の下落はもちろんマイナスとなる。ただし、前述のように原油生産の採算ラインは低いので、掘っても赤字、というわけではない。利益が今までよりも減る、というだけのことだ。よく「原油価格の下落でサウジアラビアがついに赤字に転落」という話が出て誤解を招いているが、これは原油生産自体が赤字になっているわけではなく、政府の財政収支が赤字に転落したということだ。また、サウジアラビアの財政収支が赤字に転落しないために必要な原油価格が何ドルかという話も出るが、これもその価格を原油価格が割り込むとサウジアラビア政府の財政収支が赤字に転落するというだけの話で、危機的な問題ではない。日本をはじめとする多くの先進国で大幅な財政赤字状態がずっと続いているのに比べれば随分マシだ。
あくまでも、サウジアラビア政府が贅沢にお金を使っている巨大な財政支出を、原油を売って得る利益で賄うために必要な原油価格がいくら、という話に過ぎない。贅沢な財政支出を減らすことも可能だし、赤字国債を発行することも可能だし、税金をとることだってできる。そもそもサウジアラビアをはじめ、カタールやクウェートなどの中東産油国では所得税や消費税が徴収されていない。それでもこれまでは財政赤字ではなかったのだ。もちろん、財政収支の悪化は良いことではなく、サウジアラビアなどの産油国が潤沢な資金を使ってこれまで行ってきた世界中の様々な資産への投資が引き揚げられたりする、というような影響は出るだろう。
■世界全体で考えるとどうか
一方、ベネズエラやアフリカ中部などの新興産油国にとってはインパクトが大きい。これらの新興産油国はサウジアラビアなどと比べて原油の生産コストが高く、既に今の原油価格で採算割れとなってしまっている国も出てきている。
他方で、アジアの原油輸入国など原油を消費する新興国では、先進国のような原油価格下落によるプラス効果が期待できる。これらの新興国ではガソリンなどに対する政府の補助金があるような国も多く、そうした国では補助金負担の減少で政府財政が良くなる効果もある。
では世界全体で考えるとどうかと言えば、全体としてはやはりプラスだろう。IMFなどのレポートでも世界経済全体としては原油価格の下落はプラス、としているものが多い。世界経済全体として起こることとしては、原油生産国から原油消費国への富の移転と、前者に比べて消費性向の高い後者への富の移転により、全体消費が増えることで波及的にプラス効果が出ると考えられる。
以上は主に国単位での話となるが、例えば原油生産収入を資金源としている組織にマイナスのインパクトを与えたり、あるいは中東で高まる宗教・宗派間の対立に影響を与えることも付記しておく。
原油価格の下落が招くものは、一言で括るのが非常に難しい。長文となってしまったことをご容赦願いたい。
ジョン太郎 (現役金融マン)
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