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中国、日本経済の要・東南アジアへ急激に「侵食」…政府の戦略欠如で甚大な国益毀損
http://biz-journal.jp/2016/01/post_13153.html
2016.01.05 文=井上久男/ジャーナリスト Business Journal
12月28日に開催された日韓外相会談において、両国は「慰安婦問題」を決着させることで合意した。日本の主要メディアはそれを大きく取り上げているが、日本の「真の国益」を考えると、「慰安婦問題」よりもっと深刻な課題がある。それは、親日的な国々が多い東南アジアが中国の「侵食」を受けている点だ。象徴的な出来事は、インドネシアの高速鉄道の受注競争で有利と見られていた日本が、最後はあっけなく中国に敗れたことだ。
タイの高速鉄道整備計画でも中国が攻めてきている。中国内の昆明からバンコクまで一気につながる路線を、中国が受注する計画だ。さらに鉄道の軌道も、中国の方式を採用する見込みで、国境で車両を替えなくても一気に中国からタイ国内に車両が入り込むことが可能になる。これだと、兵士や武器を容易にタイ国内へ移動させることが可能になる。中国は安全保障の観点から、インフラ開発の支援を強化している。
タイは親日国の代表的な存在だが、インラック政権が倒れて軍事政権樹立後、急速に中国に接近している。日本は、バンコクとタイ北部のチェンマイを結ぶ路線を受注する計画だが、この路線はLCC(格安航空)との競合があるうえ、チェンマイから先は行き止まりだ。戦略的にあまり重要な路線とはいえない。
さらに中国はバンコクを経由してマレー半島を通過し、マラッカ海峡に通じる高速鉄道の路線も計画している。その際にマレーシアの存在がカギとなる。かつてマレーシアはマハティール首相時代、「ルックイースト」という外交政策の名の下、日本との友好関係を重要視していた。ところが、今のナジブ首相は非常に中国と近い。「第二のイメルダ夫人(フィリピンのマルコス元大統領の妻)」とも呼ばれ、政治に口出しするナジブ首相の妻に中国は接近することで、政権に食い込んだといわれる。マレーシアの地元新聞1面でも、ナジブ首相夫妻と李克強首相夫妻が仲良く写った写真が大きく掲載されている。
■エネルギー確保に懸念も
中国はマレーシア国債を大量に購入し、マラッカ港の開発に日本円で1000億円近く投じる計画。さらにマレーシア国内に中国企業がマグロの加工場をつくるが、マレーシアが保持するマグロの漁獲枠を中国に譲ったともいわれている。日本は中近東から原油を運んでくる際に、マレー半島とスマトラ島に挟まれたマラッカ海峡を通過する。エネルギー確保のための要衝でもある。そこに中国の影響力が強まることが何を意味するかは、いわずもがなだ。
中国はこのマラッカ海峡を通過せずとも、インド洋や中近東、アフリカに出られる戦略も着々と構築している。友好国のミャンマー内に中国は軍港建設を進めているほか、ミャンマーの天然ガスの油田と中国内を直接つなげるパイプラインも敷設した。民主化を進めるミャンマーは一時に比べて中国と距離を置き始めたものの、今でも国境付近では人民元が流通するほど中国とは経済関係が強い。
日本もインラック政権時代、バンコク西部からミャンマーに通じる道路の開発を支援し、終着点のミャンマーのダウェー港の開発にも力を入れる考えを表明した。このルートは、マラッカ海峡を通過せずに短時間でインド洋に出られるルートだ。ダウェーは映画『戦場にかける橋』の舞台となった地域に近い、戦略上の要衝でもある。ダウェー港は深海港であり、重化学工業の輸出入拠点としては適している。ヤンゴン周辺の他の港は河川港が多く、浚渫(しゅんせつ)が必要なうえ、大型船の入港にも制限がある。
タイとインドはFTA(自由貿易協定)を締結しており、貿易促進のためにも開発が必要なルートであるため、タイ主導で開発が始まり、それを日本が支援する構図だった。しかし、このルートの開発にも最近、中国の影がちらつくようになっている。
■戦略面の失敗
東南アジアの経済圏は、日本経済に大きな影響を与える。日本経済にとっては「金城湯池」だ。誤解を恐れずにいえば、かつての「満州」にも匹敵する、日本が多くの権益的ものを有する地域でもある。日本企業の投資も多く、欧米企業に比べても日本企業がさまざまな製品で高いシェアを持つ。
日本企業で最高額の純利益を稼ぐトヨタ自動車の国別利益では、アメリカ経済が回復する数年前まではタイが1位だった。タイのトヨタの工場は国内工場よりも生産性が高く、中近東や豪州など世界の輸出拠点となっている。いすず自動車【編注:「ず」の正式表記は踊り字】もタイ事業が最大の収益源だ。日産自動車や三菱自動車も同様に東南アジア事業を強化している。こうした動きに合わせて、鉄鋼や人材派遣などの関連ビジネスも東南アジアビジネスを強化してきている。
そうした地域における高速鉄道などのインフラ開発で、日本は中国に比べて劣勢になっているのである。その理由は、日本政府が中国に戦略で負けているからである。
まず、中国は「コンセッション方式」という手法で相手国に迫っている点が見逃せない。要は人材も派遣して一体開発、一体運営するという手法だ。これは周辺開発も含めて中国が資金を提供し、現地企業と合弁を組む。鉄道車両の工場も現地に建設する。インフラ完成後の運営も中国主導で行う。投資に対して政府保証も求めない。これだと、相手国の政府の財政負担が少ないうえ、現地に付加価値が残りやすい。もちろん中国の負担は大きくなるが、中国は安全保障政策の一環として東南アジアのインフラ開発に乗り出しているので、採算は度外視でもいい。
これに対して日本はまだ「円借款」が中心だ。借款なので、いくら長期間低利の好条件で貸しても、相手国にしてみれば「借金」であることに変わりなく、いずれ返さないといけないものだ。新興国にしてみれば、恩義をそれほど感じておらず、「金持ちの国からちょっと借用」といった気分だろう。中国との競合に勝つためには、日本も「コンセッション方式」を海外でも採り入れる必要があるのではないか。
■政治面での問題点
次に政治や外交のリーダーシップの欠如だ。安倍政権は2015年5月、中国が設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対抗するため、アジア開発銀行などと協力して今後5年間でアジアへのインフラ投資を3割増強して1100億ドル投資することを表明、口では威勢はいいが、戦略が伴っていないように見える。
東南アジア向けのインフラ輸出・開発の現状は、政府系金融機関の国際協力銀行(JBIC)や国際協力機構(JICA)に現地調査や下交渉などを丸投げしている面がある。それでもJBICやJICAの能力が高ければいいが、その実情は厳しい。
「特にJBICは現地の筋の悪いブローカーを使って金だけむしり取られ、ガセネタをつかまされた挙げ句、中国の出方を見誤ることが多い。現地大使館もJBICに紹介されたブローカーにころりと騙されている。インドネシアの高速鉄道の受注競争で日本が中国に負けたのも、インドネシア政府に食い込んで中国の出方をしっかり読んでいなかったため、条件面において最終段階で逆転された」(大手商社関係者)
さらに、JRなど民間企業を巻き込んだ対応も重要になるが、鉄道など輸送関連は国土交通省、原子力発電などエネルギー関連は経済産業省といった具合に監督官庁が違っている点も、インフラ輸出・開発で日本が戦略的に一枚岩になれない遠因がある。
極めつきは、日本はこうして能力が低い政府の外郭団体に対応を丸投げしたり、省庁の縦割りの弊害が出ていたりするのに対して、中国はトップセールスで迫っている点だ。これではかなわない。本当に日本政府が東南アジアなどでのインフラ輸出・開発戦略を重要視するならば、専属の担当大臣を置いてもいいほどだ。
そして中国に負けたことが明らかになると、政府高官は「遺憾である」で済ませ、多くの国民は「中国は日本の技術を使って高速鉄道を開発したくせにずるい」とか「二度と中国に協力するな」といった感情論で騒ぎ始める。もともと中国は知的財産の対応で日本とは価値観や法律が違う国であり、中国が日本の技術を活用して日本のライバル化していくのは見えていたことではないか。それを今さら問題だと叫んでも、負け犬の遠吠えにすぎない。
筆者は、中国との無用な摩擦は避けて互恵関係を構築すべきだと考えるが、現実を見ると、中国は東南アジアに対して安全保障の観点から関係強化を求めている。東南アジアは日本経済の生命線の一つである以上、日本はこれに対抗せざるを得ないとも考える。また、当然ながら相手国は日本と中国を天秤にかけて条件の良いほうをとる。相手国の本音を探り出し、落としどころを探る努力も不可欠だ。
ただその際には、「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という冷静な分析に基づく戦略的な対応が重要になる。感情論で嫌中話をしてもなんの解決策にもならないし、まず首相クラスの政治のトップリーダーが頻繁に相手国の指導者と会い、「真の友人」となり、信頼関係と友好関係を構築しない限り、日本に勝ち目はない。
(文=井上久男/ジャーナリスト)
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