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なぜかマグロを乱獲する巻き網業者に甘い内容になっている水産庁の漁獲規制
クロマグロが食べられない? 乱獲する大型巻き網漁船を水産庁が野放しにする理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151230-00058886-playboyz-soci
週プレNEWS 12月30日(水)6時0分配信
2015年1月から、太平洋クロマグロの漁獲に上限を設ける規制がスタートしている。
未成魚(0歳〜2歳程度)の漁獲量を02〜04年の年平均から半減させるという内容で、漁獲枠の7割に達すると水産庁から『注意報』が、9割5分を超過すると『操業自粛要請』が発令され、漁の継続ができなくなる。
だが、国際漁業資源に詳しい学習院大学教授の阪口功氏はこう話す。
「水産庁の規制は巻き網業者にゆるく、零細事業者が多い沿岸漁業者に過度に厳しい内容になっている」
規制により、沿岸漁業者が苦しんでいる現状は前編記事(「マグロ漁師が操業自粛で死活問題…」)でリポートしたが、“巻き網業者にゆるい規制”とは一体、どういうわけだろう。
クロマグロの一大漁場のひとつである長崎県沖は、水産庁による規制では漁獲枠1269tが課せられている九州西部ブロックに属するが、「今年1月からの漁獲量は159t(10月末日時点)と、漁獲枠に対して10分の1程度に落ち込んでいる」(阪口氏)のが現状だ。
長崎沖で操業する引き縄漁師がこう嘆く。
「今年は盛漁期だというのにマグロが1ヵ月間に1,2匹しか釣れない月もありました。規制に関係なく対馬、壱岐エリアの沿岸漁業の不漁は深刻な状況です」
なぜだろう。
「九州西部は0歳魚と1歳魚が集まる漁場ですが、ここ数年は曳(ひ)き縄を主体とする沿岸漁業は漁自体が成り立たないほどクロマグロの加入量が激減しています」――その最大の原因は「巻き網漁船による乱獲にある」と前出・阪口氏は指摘する。
「まず、巻き網漁は1隻で1日何十tものクロマグロの漁獲量があり、一本釣りや曳き縄とはケタが違います。そして日本の巻き網漁船がターゲットにするのは、長崎県沖に漁場が集中する未成魚(0歳〜2歳程度)と、夏に日本海へ産卵に来るマグロ(産卵魚)です。
長崎県沖は幼魚がとどまる“太平洋マグロの保育園”であり、日本海や南西諸島で生まれたヨコワのうち、かなりの割合が長崎沖までやってきてそこで滞留して育ちます。国内の巻き網漁船はそこを狙ってクロマグロの幼魚を大量漁獲。生き残った群れは3歳になると日本海に遡上(そじょう)して産卵します。この産卵魚群を同じ巻き網船が集中的に漁獲し、境港(鳥取県)に水揚げします。
日本のクロマグロは幼魚と産卵魚群が巻き網漁船に一網打尽にされているということ。畜養向けの曳き縄の漁獲も無視できないが、資源への影響では日本の巻き網漁船が突出している。太平洋マグロが枯渇している最大の原因と言えます」
そのため、国内では巻き網漁船への抗議運動が過熱している。
今年6月には対馬沿岸で曳き縄漁業などの零細漁船100隻ほどが終結し、巻き網漁船の入港を実力で阻止した。さらに、対馬、壱岐の沿岸漁業者は自主的に産卵期のクロマグロの禁漁を宣言。産卵魚群の巻き網操業の規制を水産庁に訴え続けている。
だが、対馬の曳き縄漁師がこう打ち明ける。
「今年も巻き網漁船はクロマグロの幼魚を狙って長崎沖で大暴れし、夏には日本海の産卵場で待ち伏せて産卵直前のクロマグロを大量に漁獲しました。マグロは海面付近で産卵しますが、近ごろの高性能ソナーは“産卵魚群が海面に上がってくるタイミング”まで探知できるので、もう一網打尽なのです」
漁獲されたクロマグロの幼魚や産卵魚は格安マグロとなって流通する。
「『黒いダイヤ』といわれるクロマグロ(親魚)はキロ1万円以上するのはザラですが、巻き網で漁獲された幼魚や産卵魚は身質が悪く、キロ千円程度で、安いものはキロ数百円で取引きされ、安価な刺身商材としてスーパーの売り場に並ぶか、回転寿司のレーン上を回ることになります」
国産マグロの低価格化を後押ししている巻き網漁船による乱獲。では今年1月から始まっている漁獲規制はどうなっているのか? 幼魚の漁獲枠は巻き網漁船の上限が2千tだが、「この漁獲規制では不十分」と阪口氏は指摘する。
「その数字は巻き網の漁獲量が多かった02年〜04年を基準としているため、近年比では漁獲量を増やすことが許容される非常に緩い規制になっています。各方面から『乱獲』と指摘されていた直近3年(2012年〜14年)での巻き網の平均漁獲量を見ても、年2千t以下ですから上限設定が甘いといわざるをえません」
また、先述した『沿岸漁業(曳き縄、一本釣りなど)』に対する規制はブロック単位で漁獲枠が定められ、上限を超えればそこに所属する漁業者は操業を止めなければならない。隣接するブロックに漁獲枠の空きがあったとしても、漁獲枠のプールは認められていない。
「これが『巻き網』の場合、エリアごとに漁獲枠が設けられているわけではなく、全国区で『2千tトンまで』という規制になっている。漁獲枠のプールが認められない沿岸と比べてゆるい規制になっています」(阪口氏)
クロマグロの枯渇の原因が巻き網による乱獲にあるのなら、巻き網漁業に対する規制を厳しくするべきなのでは?
水産庁の担当者はこう話す。
「巻き網の漁獲が資源枯渇の原因という一部のご指摘もありますが、その因果関係には科学的根拠がありません。こちらとしては、ISC(北太平洋まぐろ類国際科学委員会)の研究者の分析に基づき、資源の減少はむしろ環境要因(海水温の上昇など)のほうが大きいと考えております」
あくまでマグロの資源枯渇は“巻き網のせいではない”と主張する水産庁。だが、阪口氏はこう反論する。
「巻き網が資源悪化の要因を作っているのは誰の目にも明らかなこと。しかし水産庁がそれを認めず、規制を緩くしているのは、巻き網業界が政治力を持っているためです。沿岸部で曳き縄や一本釣りを行なう人たちは家族経営が多く、ほとんどが零細漁業者。
一方、マグロの漁獲規模が大きい巻き網船の多くは、ニッスイやマルハニチロなど大手水産会社の子会社が操業しています。また、巻き網の関連団体の役職には水産庁の元官僚が就いているケースが多い。言ってしまえば、巻き網業界が水産庁の天下り先になっているのが実情です」
このまま巻き網漁船によるマグロの乱獲が止まらなければ、来年に開催されるワシントン条約の締約国会議で太平洋クロマグロが国際取引を禁じる付属書Tに格上げされ、海外からの輸入が禁止される恐れがある。
“クロマグロが食べられなくなる日”がすぐそこまで迫っているのかもしれない。
(取材・文/週プレNEWS編集部)
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