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米国の石油掘削リグ。2016年の原油価格はどうなるのか?(資料写真)
2016年の原油価格を大胆予測してみる 金融危機発生で1バレル10ドルの世界に突入、サウジではクーデター?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45626
2015.12.28 藤 和彦 JBpress
2015年1月に1バレル48ドル台でスタートしたWTI原油先物価格は、3月に同43ドル台に下落した後、6月には同61ドル台に上昇した。しかし、供給過剰感が市場関係者の間に広く浸透したため、再び下落に転じる。その後、同50ドル前後で一進一退を繰り返したが、12月のOPEC総会が近づくにつれ同40ドル台に下落し、総会後は同30ドル台半ばで推移している。
■米国が原油輸出解禁に踏み切った背景
12月18日、米国政府が石油危機以来40年ぶりに原油輸出の解禁を決定した。このことも世界の原油市場の供給過剰ぶりを象徴する出来事だった。
米国は第1次石油危機直後の1975年以来、原油輸出を原則禁止してきた。オバマ大統領はこれまで「温暖化対策に逆行する」として、共和党が推進する輸出解禁には反対する姿勢を示していた。だが、オバマ政権が求める風力・太陽光発電への税制優遇継続に共和党が理解を示したことから、輸出解禁の容認に転じた。
石油業界にとって念願だった輸出解禁により、米エネルギー調査会社IHSは「2030年までに原油生産は日量120万バレル増加する」と試算している。すぐに輸出が広がるとの見方は少ないが(1月第1週に60万バレルの米国産原油が欧州へ輸出されることが決まった)、米国内の原油の供給過剰状態を世界市場に転嫁させる今回の措置で「世界の原油価格はさらに下がるのでは」との観測が広がり、年末までにリーマン・ショック後の最安値(1バレル32.4ドル)を更新する可能性も指摘されている(12月21日の北海ブレント原油価格は約11年ぶりの安値を更新した)。
WTI価格は同35ドルの水準だが、硫黄分が高い中東産価格は既に同20ドル台で取引されており、世界の原油生産の3分の1以上が採算の採れない価格となっている(12月15日付ブルームバーグ)。第4四半期の米国の石油・ガス会社の破綻件数は9件となり、四半期ベースとしてはグレートリセッション(1930年代の大恐慌)以来の高水準に達しており、2016年にはさらに増加する可能性がある(12月25日付ブルームバーグ)。
■2016年の原油価格のトレンドは?
原油価格は今後どんなトレンドをたどるのだろうか。「ガソリン需要増などで原油価格は来年回復する」との見方が一部であるものの、供給過剰で総崩れ状態にある原油相場の「底入れ」の条件がいまだ見えないというのが大方の予想であろう。
「原油価格についてわかっているのはただ1つ、大半の予想は外れる」(12月16日付ロイター)という耳の痛い指摘があるが、年末に当たり、そのリスクを覚悟の上で来年の原油価格の推移を大胆に予測してみたい。
(1)3月まで〜イランの増産開始などで1バレル20ドル台
12月15日、国際原子力機関(IEA)は「12年間にわたるイランの核兵器開発疑惑の解明作業を終了する」旨の決議を採択し、イランの経済制裁解除はいよいよ確実なものになった。すでに12月4日のOPEC総会で生産枠に関する規制が有名無実化しているため、イランは2016年前半から原油増産を開始する。
イランが生産量を日量50万バレル引き上げるためには6カ月以上かかると言われている。だが、中国政府が国内のガソリン価格を低めに設定する措置を廃止したことで中国の原油需要が低迷。世界の原油市場はますます供給過剰となり、原油価格は1バレル20ドル台に下落する。
インドネシアのOPEC代表が「原油価格が同30ドルに下落すれば、OPECは緊急総会を開くべき」との認識を示したように、緊急事態に陥ったOPECで臨時総会の開催の是非を巡り激しい議論がたたかわされる。しかし意見がまとまらず開催は見送られ、原油価格は低迷したままで推移する。
(2)6月まで〜ジャンク債バブル崩壊で1バレル10ドル割れ
原油価格が同20ドル台に下落したまま低位で推移しているため、米シェール企業へ融資を継続していた金融機関は3月のFRBの利上げを受けて、4月以降、与信枠を大幅に縮小する。その結果、既に生産を停止し「ゾンビ企業」と化していたシェール企業の大量破綻が発生する。
これにより、シェール企業が大量に発行しているジャンク債市場は大打撃を受ける。
シェール企業をはじめエネルギー関連企業の発行が多いとされるジャンク債市場は、2015年12月時点で1.6兆ドルの規模に拡大し(三菱東京UFJ銀行)、保有者に占める上場投資信託(ETF)の比率が2割を超えている。ETFは、逃げ足の速い「ファストマネー」と呼ばれるように警戒すべき事象が発生すれば資金を一斉に引き上げる。ジャンク債市場はETFの資金引き上げで崩壊し、世界の金融市場も大混乱に陥る。
世界の金融市場が不調をきたせば投資家は流動性の確保に走る。そのため、経済が急減速中の中国からもホットマネーが大量に引き上げられ、未曾有の金融危機が発生する。
金融要因により値決めされる傾向が高い原油価格は、「第2のリーマン・ショック」の発生により1998年以来の1バレル10ドル以下にまで下落する。
シェール企業の大量破綻によって米国での原油生産は縮小する。しかし原油の生産コストが同10ドル以下であるサウジアラビアやロシアは収入確保のために増産を続ける。同時に金融危機の発生により世界の原油需要が低迷するため、世界の原油市場の供給過剰状態は改善しない。
次期事務局長も選定できず混迷を深めるOPECは、6月の総会で解散宣言する事態に追い込まれる。
(3)9月〜サウジアラビアのクーデター発生で1バレル80ドルへ高騰
1バレル10ドル以下の原油価格が続き、産油国は軒並み苦境に陥る。中でももっとも大きな打撃を受けるのはサウジアラビアである。
2015年3月以降、サウジはイエメンへの軍事介入を続けており、軍事費はかさむばかりである。そのため国内の「バラマキ」ができず、若年層を中心に不満が爆発する。
2015年12月時点で、シリアで過激派組織「イスラム国(IS)」に加わるサウジアラビア人は2500人以上いる。その予備軍の数は中東地域で最大である。ISのサウジ支部はこれまで国内のシーア派を最大の標的にしてきたが、王政打倒を掲げるようになり、石油関連施設に対するテロを開始する。
外貨準備の払底を防ぐためにサウジアラビア政府は通貨リヤルのドルペッグ制を放棄するが、資金の大量流出を招くという逆の結果を招き、国内経済はますます疲弊する。
サウジアラビアでは2015年1月にサルマン新体制となったが、新体制の下でムハンマド副皇太子(国防大臣、30歳)への軍事・経済面での権限集中が進んでいる。国家の窮乏とサウジ王家の行く末に危機感をもつズデイリ系以外の王族たちは、ムハンマド国防大臣の専横を打倒するため、前アブドラ国王の息子であり国家警護隊(隊員は約10万人で同国国防軍の規模に匹敵)の長であるムトイブ氏を擁してクーデターを決行する。
王族内では「虎の子」である原油関連施設には攻撃を加えないとのコンセンサスがあるが、王族内の分裂が内戦へと発展するため、市場関係者は未曾有の地政学的リスクの上昇と判断。その結果、原油価格は1バレル80ドル以上に急騰する。
(4)12月〜シェールオイルの大増産で再び1バレル40ドル台に下落
米国では経営破綻したシェール企業の油・ガス田権益を二束三文で買収していたエクソン・モービルやシェブロンなどの大手石油会社が、原油価格の急上昇によりシェールオイルの増産を急ピッチで進める。このため世界の原油価格は徐々に下落し始め、1バレル40ドル台に向かうことになる。
しかしアジア諸国は輸送上の理由からシェールオイル調達が困難なため、輸入する原油価格には大幅なプレミアムが付与されたままである。
■原油は戦略物資から市況商品、金融商品へ、そして戦略物資?
以上が大胆予測のあらましだ。筆者が原油価格の乱高下を想定しているのは、原油を巡るパラダイムが大きく変化しつつあると感じているからである。
1973年の石油危機で、原油は第2次大戦中と同様「戦略物資」(戦争の遂行に不可欠な工業用原料)と扱われるようになった。だが、その後の1980年代後半の逆オイルショックで、市場で容易に調達できる「市況商品」として認識されるようになった。
21世紀に入り2004年以降は高値ラッシュとなったが、「ピークオイル論(世界の原油生産は近くピークを迎える)」に代表されるように原油は「希少性の高い」市況商品となった。
しかし原油価格の高騰によりこれまで生産が不可能とされていたシェール層での原油生産が可能となったため、世界の原油の可採埋蔵量がローマクラブが「成長の限界」を発表した頃(1972年)の2兆バレルから7.7兆バレルと約4倍に急拡大した(2011年のIEA報告)。
このため原油に対する希少性は薄れ、世界の原油市場がリーマン・ショック後の金融緩和マネーの受け皿となったこともあって、原油は「金融商品」の要素を強めた。
このように原油に関するパラダイム転換は頻繁に起きている。そのため、古いパラダイムに精通している専門家ほど間違いを犯しやすい傾向にある。
現在進行中の原油市場では「供給過剰による原油価格の無限下落」が新たなコンセンサスになりつつある。だが、はたしてそうだろうか。
臨界状態に達すると振り子が大きく反転するように、原油市場で今後「相転移」(水が一瞬にして氷になるような劇的な変化)が起きる可能性はないだろうか。筆者が危惧するのは原油が再び「戦略物資」に先祖返りしてしまうことである。
■日本に必要な最悪シナリオの想定
日本にとっては、原油価格の振れ幅の大きさよりも、サウジアラビアをはじめとする中東産油国の政情不安リスクのほうが大きなインパクトを与えることは論をまたない。
戦後の日本経済の繁栄を支えてきた中東産原油へのアクセスに万が一支障が生ずれば、アベノミスクによる経済再生は水泡に帰してしまうおそれがある。
1973年の石油危機をうまく乗り切ったロイヤル・ダッチ・シェル社の成功の秘訣に、将来の不確実性が高まる中で複数のシナリオを立ててこれに対する対策を用意しておく「シナリオプランニング」という手法がある。
以上で筆者が提示した原油価格の推移予測は複数のシナリオの中で最悪の部類に属するだろう。日本では組織の原理を優先するあまり、最悪のシナリオを語らない傾向が強い。しかし、最悪のシナリオを想定することで国家は危機を回避することができる。
戦前の日本はサウジアラビアから原油開発への参加を打診されたことがあったが、「シーレーンの安全を確保できない」と海軍が難色を示したため断念した経緯がある。
米国が「世界の警察官」の役割を放棄し、原油を巡るパラダイムが再び大転換の兆しを見せる今こそ、中東産原油への依存というエネルギー分野での「戦後レジーム」からの脱却を図るべきではないだろうか。
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