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通勤客向けの座れる列車が鉄道各社に広がりつつある(写真は小田急特急)
鉄道各社が「座れる通勤電車」を走らせるワケ 毎日が快適度アップ!沿線人口増で増収狙う
http://toyokeizai.net/articles/-/97987
2015年12月24日 土屋 武之 :鉄道ジャーナリスト 東洋経済
大都市圏で朝夕ラッシュ時に通勤する方々にとっての悲願は「毎日、座って通いたい」ということだろう。吊り手にすらつかまれず、電車に長時間揺られていれば、そう思うのも無理はない。
この願いを叶える方法は限定的ではあるが存在する。JRやいくつかの大手私鉄では、定期券などに加えて追加料金を支払えば座席が確保できる列車を、通勤通学時間帯にも運転しているのだ。
観光客や日中のビジネス客向けに、運賃の他に特別な料金を徴収し、座席指定、リクライニングシートや高速運転など料金に見合う特別なサービスを提供する列車は、1950年代から一部の大手私鉄で運転されてきた。箱根へ向かう小田急の「ロマンスカー」や、ほぼすべての主要線区にネットワークを広げている近鉄特急などが例である。
■先駆けは小田急ロマンスカー
高度経済成長期の利用客急増によって、新幹線や特急でも全車指定席は守りきれず自由席を設定した国鉄の長距離列車と異なり、これらは一貫して全車指定席を現在に至るまで守ってきた。こうした会社が、着席を望む通勤客という需要があると気づき、日中のみならず朝夕ラッシュ時にも座席指定制の列車を運転すれば、増収につながると考え始めたのは自然であった。
その草分けとなったのが小田急電鉄だ。今から50年近くも前になる1967年に、夕方、車庫まで回送していた列車を営業列車に変更する形で、新宿発・新原町田(現在の町田)行きの特急を設定。定期券利用者でも特急券を購入すれば利用可とした。
帰宅客向けの小田急特急は「ホームウェイ」に愛称を統一
これは退勤客の好評を博し、その後、増発が繰り返されることになる。さらに単なる回送列車の開放から特急型電車の運用の一環に組み込まれるようになり、朝の新宿行きも登場。
運転範囲も大きく広げられて、今やすっかり定着している。18時以降に新宿を出る列車は、行き先を問わず愛称を「ホームウェイ」に統一して、アピールしているほどだ。
小田急の成功は他社も刺激し、同様に座席指定特急を運転していた東武、西武、京成、名鉄、近鉄、南海の各社も、次第にラッシュ時の特急運転に力を入れることとなる。豪華な少数派車両で大きな投資となるにもかかわらず、朝夕は車庫で眠っていることが多かった特急型電車が活用できることも、大きな動機であった。
さらに、財政難にあえいでいた国鉄をも動かし、1984年の「ホームライナー」(上野〜大宮間)登場に至る。これはやはり、回送されていた特急型電車を活用して、営業列車に変更。座席は指定しないものの、簡便な方式として、座席の数だけ乗車整理券を発行し着席を保証(定員制と呼ばれる)した列車である。これも人気を集め、JR各社に引き継がれた
■「コーヒー1杯の値段」にジレンマ
こうした列車は乗車距離が短い客も手軽に利用できるよう、追加料金が300〜500円程度に抑えられており、今日に続いている。「コーヒー1杯の値段で座れる」とPRされることもあった。
安く乗れるのは利用客にとってはありがたい。しかし設定当初、「特急型電車の朝夕のアルバイト」という考えから、「無から有を生めばよい」程度の料金設定にした鉄道会社もあり、安い料金が一般化した。さらにバブル景気に乗って発展し広く支持を得たものの、すぐ不況期に入ってしまい、無闇には値上げできないでいる。
例えば、JR東日本東海道本線の定員制列車「湘南ライナー」は、1986年の運転開始当初、乗車整理券は1回乗車につき300円であったが、1999年に500円にアップ(現在は消費税率改定による510円)しただけ。「湘南ライナー」と同じ185系電車を使っている特急「踊り子」だと、東京〜小田原間の特急料金(座席指定)は1450円。着席の保証がない自由席でも930円。頻発している普通・快速のグリーン車(やはり自由席)だと780円(平日・事前購入料金)で、「湘南ライナー」の割安ぶりが際だつ。
このあたりには、ジレンマもあると見る。需要は大きく、増収にはなっているが、経営を支えたり、新たな大規模設備投資の原資になるほどの、大きな収入源になっているとも思えない。運転本数、イコール乗車できる利用客数自体、一般的な通勤通学列車よりずっと少ないのだ。
さて、2015年の年末繁忙期を迎え、各社のこれらの列車には特徴的な動きがいくつか見られた。 まず、12月5日に実施されたダイヤ改正にて、京浜急行電鉄で「モーニング・ウィング号」の運転が始まった(実際の運転開始日は改正後初の平日である12月7日)。
2015年12月に運転を開始した京急の「モーニング・ウィング号」。記念マークも掲出(写真提供:京浜急行電鉄)
京急は1992年に2人掛けクロスシートを装備した快速特急(現在の快特)用の2000形電車を利用して、平日夜間に下り品川発の「ウィング号」8本を設定。着席整理券を別途、購入することで着席を保証する列車の運行を始めている。
だが、その他の京急の列車は、快特を含め、すべて特別料金不要で利用できる。それゆえ、着席を保証した列車への「新規参入」施策は成否が注目された。結果は良好で、車両も新しい2100形に代わった後、今は品川発18時45分から22時05分発まで20分間隔で11本が運転されるまでに発展している。
「モーニング・ウィング号」は、その名の通り、初めて設定された朝の上り三浦海岸発・品川、泉岳寺行きのウィング号だ。ただ、運転本数は品川7時28分着の1号と泉岳寺9時22分着の2号の2本に留まる。これは他の会社でも同様であるが、朝は利用が夕〜夜間に比べて短い時間帯に集中するため、ピーク時には最大限の輸送力を投入しなければならず、定員が少ない特別な列車のダイヤを入れる訳にはいかないことによる。
運転開始からまだ1ヵ月も経っていないが、京急によると、「12月のウィングパス(前売り1ヵ月分の着席整理券)は、ほとんど完売。実際には、ほぼ満席で動いている列車(1号)もある」とのこと。新しい列車は知れ渡るのに多少の時間がかかるものだが、好調な滑り出しのようだ。
■特急車両がない鉄道には負担?
ただ、新規参入組には課題もある。まず、もともと座席指定特急を運転していた会社とは異なり、座席指定あるいは定員制の特別料金券を発売するノウハウや、設備を持っていないことがある。
小田急新宿駅の特急券券売機。特別料金を徴収するには、設備投資も必要だ
小田急や近鉄などの場合は、特急券の自動券売機や発売窓口は、もちろん日中や休日の列車との共用である。一方、京急の場合は、「ウィング号」の運転開始に当たり、ウィングチケット(着席整理券)専用の自動券売機を停車駅に設置したが、一般的な自動券売機と異なり、発売される列車は限定的だ。
当然、これも設備投資で、回収の見込みを立てなければならない。それゆえ、インターネット予約やチケットレスサービスに力を入れる会社もある。また、乗車の際には着席整理券の確認を係員が行っており、人件費の負担も増えていそうだ。
また、京急は特別料金を徴収するにふさわしい電車をもともと持っていたが、そうではない会社は、車両を用意する必要にも迫られる。その点が、新規参入がそれほど広がらない要因の一つかとも思われる。
東武鉄道は日光・鬼怒川温泉方面などへの特急を多数運転しているが、東上線にはそうした列車はなく、2008年に定員制の「TJライナー」を池袋〜小川町間に設定する際、旧型車両の置き換えを兼ねて50090系電車を60両新製。やはり池袋駅に着席整理券売り場を整えた。
この50090系は夕ラッシュ時の「TJライナー」運用だけだと効率が悪いため、通勤型電車と同じ片側4扉として、座席もクロスシートとロングシートの切り換え可能なものを設置。他の列車にも使えるようにし、初期投資の回収をしやすくしている。
終点の東武アーバンパークライン運河駅に到着した「きりふり267号」
「TJライナー」の利用客数の伸びは堅調で、登場後、下り夜間の池袋発の列車が増発された他、2016年春には朝の上り池袋行きも新設される予定になっている。だが、50090系は日中も急行などに、ロングシートの状態にして使われ続けるのは変わりないだろう。
他方、座席指定特急運転の長い歴史を持つ会社でも、運転区間の拡大が目立った。南海電気鉄道は泉北高速鉄道を傘下に納めたのを機に、同線のサービス改善に取り組んでいる。やはり12月5日からは、難波〜和泉中央間に座席指定特急「泉北ライナー」の運転が始まった。朝夕ラッシュ時とも走り、一気に下り6本、上り7本(平日の場合)も設定されたのが話題で、年末の繁忙期を好機として、利用客の支持を得ようという意図がはっきりと見て取れる。
南海ほど大規模な着席サービス拡大ではないが、野田線に「東武アーバンパークライン」との愛称を付け、沿線開発や路線の改良を進めている東武が、やはりこの12月、浅草〜運河(千葉県流山市)間に22日までの金曜と祝日前日の深夜、東武アーバンパークライン直通の臨時特急を片道1本、初めて運転し注目を集めた。
この「きりふり267号」は浅草を出ると、とうきょうスカイツリー、北千住、春日部と停車。東武アーバンパークライン線内は各駅に停まる。東武が大規模な住宅開発を進めている清水公園や、主要都市である野田市などへの帰宅の便を図ったものだ。
12月11日に試乗してみた時には鉄道ファンの乗車が多く、停車駅では写真撮影の輪ができていたが、野田市方面への帰宅客らしき姿もかなり見られた。乗車率は半分ほど。1本の臨時列車だけだと帰宅のタイミングに合わせるのも難しいものだ。増発、定期列車化はまだ遠いと思われる。
■「座れる通勤」で沿線価値向上狙う
だが、この直通特急を東武アーバンパークラインの魅力の一つとすることで、東武が「沿線価値の向上」に対して意欲的に取り組んでいることは、よくわかった。
「モーニング・ウィング号」や「泉北ライナー」もそうだが、右肩上がりの利用客増加が見込めなくなってきている昨今。増客、増収を図るというより、沿線の主要都市を「座っての通勤ができる、魅力的な町」とし、これをアピールすることが、鉄道会社のより重要な目的であると感じさせる。
定期券代は会社負担だが、特急券は自腹。毎朝毎夕だとさすがに厳しいが、疲れた時などは快適なシートに座り、帰宅時には缶ビールで一献というのもいい。そういうことができる町は限られる。できれば、そこに住みたいなと思うのも、自然なことだ。
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