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東芝「負の遺産」、実は1兆円超え!? 発表された赤字額の他にもまだまだウミは残っている
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47072
2015年12月23日(水) 磯山 友幸「経済ニュースの裏側」 現代ビジネス
■製造業で過去最大規模の赤字
会計ルール上は認められていて「不正」ではないが、経営の判断として処理してこなかった過去の含み損というのは、少なからずどこの会社にでもあるものだ。それは洋の東西を問わない。「レガシーコスト(負の遺産)」と呼ばれ、それが表面化して、しばしば経営を大きく揺さぶることになる。
案の定と言うべきだろう。不正会計に揺れる東芝も、遂にレガシーの一端を明らかにした。12月21日に発表した「『新生東芝アクションプラン』および2015年度業績予想」で、2015年度(2016年3月期)の当期損益予想を5500億円の赤字としたのだ。
大幅な赤字に転落するのは巨額の粉飾決算によって東芝の信頼が揺らぎ、売り上げが落ちていることにも一因があるに違いない。だが、それ以上に過去から背負ってきた「レガシー」の清算を迫られている面が大きいのは明らかだ。
営業損益段階で3400億円という赤字を計上するのも、広い意味では、トップが主導して数字のかさ上げを社内に求めた「チャレンジ」のツケである。
東芝が発表した資料によると、営業損益段階での今年度の業績悪化分は3454億円、これに加えて資産評価減を1100億円、構造改革等の費用として2300億円を見込むという。さらに営業外の費用として、構造改革で300億円、その他で1100億円を見込んでいる。業績悪化分を含まなくても4500億円のレガシーが表面化したのである。
ちなみに営業外で1800億円の有価証券売却益を見込んでおり、これがなければ7300億円という最終赤字になる。あの日産自動車にカルロス・ゴーンが乗り込んできてレガシーを一気に処理した2000年3月期の赤字は、製造業で過去最大の6800億円という巨額だったが、それを上回る規模のレガシーを東芝が抱えていたことをうかがわせる。
だが、東芝のレガシーはこれだけではない。
■「レガシー1兆円」はあながちウソではなかった
繰り返し指摘されているように、2006年に買収して子会社化した米原子力大手ウエスチング・ハウス(WH)の「のれん」を抱えたままになっているのだ。発表資料ではWHの帳簿上の資産価値は7200億円で、3700億円が固定資産など、3500億円が「のれん」となっている。
「のれん」とは買収時の価格と資産価値の差額で、WHの事業に将来性がないとなれば、一気に損失処理を迫られる。
この「のれん」を巡って監査法人と激しく対立していたことが報じられているが、これも「レガシー」として残っているのだ。会見資料には「原子力事業等ののれん及び固定資産の減損判定については、決算確定に向けて減損テストを実施し、その結果について適宜ご報告します」としている。
要は原子力事業でもまだまだ「レガシー」が表面化する可能性が残っている。きれいさっぱり過去と決別したわけではなさそうなのである。
「東芝の含み損は1兆円らしい」「債務超過にはならないが、そのギリギリの線」−−。4月に東芝が「不適切な会計処理」があったとして、不正決算を明らかにした頃、首相官邸の政治家たちの間でそんな会話が交わされていた。
当時公表されていた東芝の決算書では、2014年3月期の連結株主資本は1兆2290億円。その後、東芝が決算を修正し、2014年3月期までで2781億円を減額したこともあり、1兆272億円になっている。東芝が発表した5500億円の赤字を前提にした今後の見通しでは、株主資本は来年3月で4300億円になる。
これにはWHの減損処理は含まれていないので、仮にその処理が求められると、株主資本はほぼ底をつく。つまり、東芝が背負ってきたレガシーは1兆円に達する可能性がありそうなのだ。官邸で語られていた噂は、あながちウソではなかったということになる。
では、東芝はきれいさっぱり過去のレガシーを断ち切ることができるのだろうか。
■有能な社員がクビになる
東芝が今回掲げる「新生東芝アクションプラン」は、かつての日産を彷彿とさせる。ゴーン氏が打ち出した「日産リバイバルプラン」である。
ゴーン氏はレガシーの一掃に全力を挙げた。持ち合い株をすべて売却、ごく一部の基幹子会社を除いて株式を売り払い、系列を壊した。幹部にも退職を迫り一気に若返りを進めた。メーンバンクとの間でも過去のしがらみを一掃。巨額の赤字が溜まっていた子会社も売却した。
ゴーン氏の手法が特段すぐれていたというわけではない。欧米企業の場合、社長が次の社長を指名するようなケースは稀なため、後任の社長は前代の「レガシー」一掃に力を入れる。自分自身の安全を確保するためにも、レガシー処理に力を入れるのは、欧米企業では一般的だ。社長交代1年目に巨額の損失処理などが出て来るのはこのためである。
ところが、日本企業の場合、社長は前任者に選ばれるケースが圧倒的に多いため、レガシーを切ることができないのだ。
東芝はその典型だろう。今回のアクションプランでは、「内部管理体制の強化および企業風土の変革」として「相談役および顧問制度の見直し」という項目が掲げられているが、そこには「廃止を含めた見直しを検討」という、やるのかやらないのか分からない日本語が書かれている。前任者どころか5代前の社長までもが相談役として君臨する会社で、レガシーの処理などできるはずはないのだ。
いくら、室町正志社長がゴーン流のアクションプランを打ち上げても、副社長や会長としてレガシー温存に協力してきた室町氏はゴーン氏にはなれないないのだ。
東芝が本気で再生を目指すならば、しがらみのない外部の経営者を招き、全権をゆだねて過去と決別することだろう。ここで一気にレガシーの処理を行えなければ、東芝の復活は永遠にあり得ない。
人の「レガシー」も同じ。「チャレンジ」を支えてきた幹部がそのまま居座り、中途半端なリストラを繰り返して数字合わせに汲々としているようでは、クビになって会社を去っていく東芝の有能な社員たちが浮かばれない。
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