1. 2015年12月23日 14:07:23
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【寄稿】アベノミクスの効果はどこに表れているか安倍晋三首相(9月、ニューヨーク) PHOTO: CHRIS GOODNEY/BLOOMBERG NEWS By MICHAEL AUSLIN 2015 年 12 月 22 日 18:58 JST 11月半ばに発表された7-9月期実質国内総生産(GDP)速報値は、日本が定義上リセッション(景気後退)に逆戻りしたことを示すものだった。安倍晋三首相に批判的な向きは安倍政権下で2度目のリセッションだと指摘、「アベノミクス」は失敗に終わったと決めつけた。 だが、2週間後に発表されたGDP改定値は、リセッション入りしたどころか、前期比年率換算で1.0%の成長を遂げたことを示すものだった。日本が引き続き安定した経済成長を追求するなかで厳しい逆風に直面していることはほぼ間違いないが、GDPに注目するあまり、改善や明るい兆しがみられる重要な分野が見過ごされていると指摘する声もある。 一例がコーポレートガバナンス(企業統治)だ。ある米系大手投資銀行の日本拠点のトップは「企業経営のあり方をめぐる環境をアベノミクスがいかに変えつつあるかが見過ごされている」と述べた。経済改革が進まない主犯の一人が日本企業だとみられている中では意外なコメントだ。 日本では2010年以来、設備投資は概ね横ばいで推移し、企業は推計2兆ドル(約242兆円)以上に上る大量の現金を抱え込んでいる。さらに、賃上げは小幅にとどまり、個人消費に水を差している。 日本企業が投資を控える理由についてはいくつもの説明がある。最もよく聞かれる言い訳は、安倍首相の経済改革に対する信頼感の欠如だ。具体的には、政府が徹底的な構造改革を遂行する能力を欠いていることだ。アベノミクスの「第3の矢」と呼ばれるこうした改革は、安倍氏が12年暮れに首相に就任して以来進めてきた政策の中で最も進展がみられない。 安倍首相はこの夏、長年にわたり必要性が叫ばれていた農業改革を推進した。それは限定的なものだったが、改革の狙いは、農協の影響力を弱め、農地の集積や売却を容易にすることにある。首相はまた、法人実効税率を引き下げ、エネルギー業界の規制緩和を進める意向をとあらためて表明した。 労働法改定など他の改革の歩みはずっと遅い。その結果、企業が設備投資や賃上げを控える可能性がある。 一部の人々は、責任は安倍首相ではなく企業側にあるとみている。東京に長く住むある外国人ビジネスマンは「大手企業は世界に目を向けることを拒否している」と批判する。日本企業は相変わらず女性幹部の起用や外国人取締役の選任を拒んでおり、生産性低下に甘んじているという。 日本企業はしばしば、行動に移す前に社内でコンセンサスを得ることを重視していると批判される。リスク回避を重視しているのかもしれないが、その結果、ライバルの韓国、台湾、そして中国に比べて市場の変化への対応が遅れがちだ。 だが、先の米投資銀日本拠点トップはそうでもないとして、「日本ではコーポレートガバナンスが急速に変化している」と言う。そうした変化には構造的なものも、文化的なものもある。一つの重要な動きは、この夏の「コーポレートガバナンス・コード」施行だ。これに基づき、企業は一定数の社外取締役を選任し、株式持ち合いを減らすことが義務付けられることになり、それに従えなければその理由を説明しなくてはならない。 コーポレートガバナンス・コードと並んで重要なのが、昨年制定された「スチュワードシップ・コード」だ。株主に議決権行使と積極的な関与を奨励することで、株主利益を重視する姿勢が強まるはずだ。米投資銀日本拠点トップによれば、これまで投資先企業の経営に口を挟むことがなかった年金基金や生保の行動が変わり始めている。 金融庁はスチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの実効性を審査する有識者委員会を招集した。また、利益率や社外取締役の数などの基準で選抜された400銘柄で構成される「JPX日経インデックス400」の算出が昨年始まった。今では東証株価指数(TOPIX)構成企業の87%が、外国人取締役を少なくとも1人置いている。 もう一つ大きな出来事に、小泉純一郎元首相が郵政民営化を掲げてから10年後に実現した日本郵政グループの上場が挙げられる。日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険のグループ3社が11月4日に上場した。資本市場に与える潜在的な影響は巨大だ。政府が日本郵政の持ち株比率を50%未満に引き下げた場合はなおさらである。 日本の企業改革による恩恵はまだ経済に行き渡っていない。企業の利益が増え、投資家の懐が豊かになっている可能性はあるが、労働者には富が回っていない。改革のゴールは雇用機会の増加、賃上げ、起業家精神でなくてはならない。普通の労働者が恩恵にあずかって初めて、アベノミクスは成功だと言える。 日本のコーポレートガバナンス改革はその初期段階にあり、その影響が感じられるまでには時間がかかりそうだ。これは日本企業の一段の国際化に向けた最初の1歩だが、他の改革スキームと同様、それに伴う短期的混乱が大きく取り上げられ、反対の声も強まりそうだ。日本経済が戦後の重化学産業から情報化産業に転換する一環として、今日の変化が大きな影響をもたらすかもしれない。 (筆者のマイケル・オースリン氏はアメリカン・エンタープライズ研究所の日本部長で、ウォール・ストリート・ジャーナルのコラムニストでもある) 関連記事 【寄稿】「新3本の矢」、足りぬ安倍首相の実行力 日本が再びリセッション入りした理由とは 【社説】アベノミクス、今こそ再考の時 アベノミクスの成果、実は思った以上
【社説】日銀「不発」、経済の命運は首相の手に 日銀の黒田総裁 PHOTO: JUNKO KIMURA-MATSUMOTO/BLOOMBERG NEWS 2015 年 12 月 21 日 15:10 JST
日本銀行は18日、量的・質的金融緩和の下での資産買い入れについて、ETF(上場投資信託)の新規枠設定、長期国債買い入れの平均残存期間の長期化、適格担保の拡大といった変更を発表した。 しかし黒田東彦総裁が、こうした新たな措置で日銀にはインフレ目標を達成できるだけの力があると市場を安心させようと考えていたのであれば、それが間違いであることに直ちに気付かされただろう。この発表を受けて、国内株式相場は下落し、為替相場は円高に振れた。 今回の出来事は、日銀の信頼性に関わる問題を浮き彫りにしている。黒田総裁は2013年3月の就任時に、日銀にはデフレを止める力はあるがそれを行使してこなかったのだと主張した。昨年には、自分が生きている間は物価上昇率が再び1%を割ることはないとの見通しを示した。ところが、その数カ月後に物価上昇率は1%を割った。日銀が事実上全ての新発国債を含む年間約80兆円もの資産買い入れを行っているにもかかわらずだ。 これは日銀のバランスシートが、第3弾まで続いた米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和のどれよりも速いペースで拡大していることを意味している。このままでは、日銀が数年以内に2%のインフレ目標を達成できる確率はゼロに近い。12月の日銀全国企業短期経済観測調査(短観)の「企業の物価見通し」は1年後の予想が1%と、前回9月調査の1.2%から低下した。 物価目標を達成できずにいる黒田総裁には、資産買い入れをさらに拡大するよう求める圧力がかかっている。だが、黒田総裁と安倍政権は、資産買い入れを拡大しても効果はなく、それを実施することさえ難しいことに気付いているようだ。円相場をさらに押し下げることができたとしても、米国や中国など貿易相手国との緊張が高まるだろう。 今回の新たな措置により、企業の意思決定に政治が介入することへの懸念も高まっている。日銀は「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる」企業の株式を対象とするETFを買い入れる方針を示した。政府は経済界に対して投資拡大と賃上げを強く迫っている。 日銀は、当初は企業の利益率やガバナンス(統治)の高い企業を対象としたJPX日経インデックス400に連動するETFを買い入れ対象とする方針なので、政策に混乱を来しているように見える。政府の政治目標を後押しするために日銀の力を使うことは、資源の配分を誤るリスクもある。そうなれば成長を損なう。日銀の独立性を脅かし得る先例ともなるだろう。 日本の潜在成長率が低いため、国内企業は借り入れや投資に消極的だ。日銀の推計では、潜在成長率は0.5%にとどまる。安倍晋三首相が競争力強化に向けた規制緩和や税制改革にまたも失敗すれば、金融政策にできることはあまりない。 黒田総裁による今回の微調整に失望感が広がった結果、日本経済の命運は日銀ではなく安倍首相が握っていることに、あらためて気付かされた。 関連記事 【寄稿】「新3本の矢」、足りぬ安倍首相の実行力 クルーグマン氏、日銀のインフレ促進能力に自信失う
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