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米利上げ後の予想で、悲観論が多いのはなぜか - 加谷珪一 経済ニュースの文脈を読む
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151222-00161681-newsweek-nb
ニューズウィーク日本版 2015/12/22 17:28 加谷珪一
〔ここに注目〕専門家と投資家の観点の違い
12月16日、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が政策金利の引き上げを決定した。米国の金融政策は、リーマンショック対策という非常事態モードから、正常化に向けて大きく舵を切ったことになる。
利上げの影響についてマスメディアでは様々な観点から議論が行われているが、こうした議論に耳を傾ける際には少々注意が必要である。学術研究者や市場関係者、エコノミストなど、いわゆる専門家と呼ばれる人たちと、そうではない人とでは、利上げに対するスタンスが少々異なっているからだ。
専門家は、一般的な利上げの背景や意味、それがもたらす影響について既知のものとしており、その上で、より専門的な観点からリスク要因や今後の動向について議論している。つまり、専門家の議論は、ビジネスマンや投資家の議論とは時に乖離する可能性がある。この部分を割り引いて考えないと、正反対の判断をしてしまうことにもなりかねない。
基本的に米国経済は好調である
FRBは16日、FOMC(連邦公開市場委員会)において、短期金利の指標となるフェデラルファンド金利(FF金利)の目標を0.25%引き上げた。FRBのイエレン議長は、年内の利上げについて過去に何度も言及しており、市場は今回の利上げを完全に織り込んでいたので、決定そのものは想定通りということになる。
だが、専門家による利上げ後の予想については、悲観的なものが多い。インフレ率の低さや原油価格の動向などを気にする専門家が多く、イエレン議長もこのあたりを考慮し、利上げは実施するものの、緩和的スタンスの継続を明言している。市場でも、円高への揺り戻しや株価の急落を懸念する声が出ている。
では、本当に米国の利上げはマイナス要素ばかりなのかというと、そういうわけではない。私たちがまず理解しなければならないのは、利上げを実施する基本的な理由である。
利上げは、米国の経済が好調に推移しており、このままでは景気が過熱するリスクがあるという理由で実施される。つまり米国経済のファンダメンタルズは基本的に良好であることが大前提である。利上げに対する専門家の慎重な見解は、これを踏まえた上でのリスク要因である。
米国経済の現状は数字を見れば、はっきりと理解することができる。7〜9月期の実質GDP(国内総生産)成長率は年率換算で2.1%だった。同じ期における欧州(EU 28カ国)の成長率はプラス1.6%、日本の成長率は1.0%なので、米国の成長が突出しているのは明らかである。
経済学の世界では、全世界的に低成長トレンドに入っているのではないかという議論が活発になっており、その観点から、今回の利上げのタイミングは微妙であるとする専門家の見解も見られる。だが、これはイノベーションの効果も含めた経済全体の潜在成長力に関する議論であり、米国経済が相対的に高い成長を実現しているという事実とは切り離して考えた方がよい。
このほか専門家が指摘する懸念材料としては、インフレ率が低いままで推移していることや、原油価格が低迷していること、あるいは中国経済の失速で米国の製造業の景況感が悪化していることなどがある。だがこれらの指摘も、ある程度、割り引いて考えた方が状況を素直に把握することができる。
景気の動向は雇用に反映されている
FRBは2%の物価目標を導入しているが、専門家が指摘するように足元のインフレ率はまったく目標値に達していない。11月の消費者物価指数は前年同月比でプラス0.5%、FRBがインフレ目標の目安として重視しているコアPCE(個人消費支出)価格指数は、プラス1.3%(10月)と低迷が続く。原油安やドル高によってデフレ圧力が高まっていることや、IT化の進展など構造的な要因も大きいと考えられる。
OPECが石油の減産見送りを決定したことで、原油価格は長期的な低迷が予想されている。確かに原油価格の下落は物価の下押し圧力となるほか、米国のシェールガス事業者の経営を圧迫することになるだろう。だが、米国は世界最大の産油国である一方、世界最大の石油消費国でもある。原油価格の下落をマクロ的に見れば、産油国にマイナスで消費国にプラスとなる。米国は両方の影響を受けることになるので、実務的に見れば米国にとって原油安はニュートラルとなる。
実際、シェールガス事業者が社債発行など金融支援を受けて何とか事業を継続しているとの報道がある一方、ガソリン価格の低下で、燃費が悪いにもかかわらず高額な大型車の販売は絶好調となっている。エネルギー価格の下落は、基本的にあらゆる産業にとってコスト競争力の強化につながるので悪い話ではない。
こうした状況は雇用に反映されている。物価の上昇は鈍いものの、イエレン議長がかねてから重視している雇用環境は改善が進んでいる。11月の雇用統計は雇用者数の増加が前月比21万1000人増、失業率は5%と非常に良好な結果だった。失業率については、今後さらに低下する見込みであり、ほぼ完全雇用に近づきつつある状況といってよいだろう。
中国経済失速の影響も軽微といってよい。米供給管理協会(ISM)が発表した11月の製造業景気指数は48.6と、景気判断の境目である50を割った状況にある。中国経済の影響を受けやすい製造業に関しては、リーマンショック以来の厳しい状況だが、中国の景気失速が米国全体に波及する兆候はなく、個人消費に衰えは見られない。堅調な内需は今後も続く可能性が高いだろう。
個別要素において不安材料はあるものの、総合的に見て米国経済は堅調というのが自然な解釈であり、そうであればこそ、今回利上げが決定された。確かに景気に過熱感はなく、引き締めが行き過ぎれば成長の腰を折ってしまう可能性は否定できない。列挙されているリスク要因を軽視すべきではないが、100点満点であることを大前提とした専門家の指摘は、マイナス要素が強調されすぎる傾向が強いことを理解しておくべきである。
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