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ホンダには国内有数の自動車メーカーだけでなく、世界最大の二輪車メーカーという顔もある(撮影:風間 仁一郎)
ホンダの定年延長、「割を食う」のは誰なのか 総人件費抑制や成果主義拡大の意味
http://toyokeizai.net/articles/-/97424
2015年12月20日 榊 裕葵 :社会保険労務士/CFP 東洋経済
ホンダが国内自動車メーカーとしては初めて、65歳まで定年を延長する方針を打ち出した。国内従業員約4万人が対象となる。会社と労働組合の間では大筋で合意しており、労使の協議を経て2016年度の正式導入を目指すという。
2013年に施行した「改正高齢者雇用安定法」により、企業には希望する従業員については65歳までの雇用維持が義務付けられたが、その形態は再雇用でも定年延長でも良いとされている。ホンダも、60歳の定年退職後も希望すれば65歳まで働き続けられる再雇用制度を、2010年度から導入して対応してきた。高齢者雇用には、年金支給開始年齢の引き上げをにらんだ福祉的な側面もあり、これに応じるホンダの定年延長は、世間から好評価を受けているように見える。
ホンダ単独の視点で考えると、これまでの再雇用制度をやめて定年延長に切り替える背景には、古い機械や人海戦術の生産ラインに精通した人材の確保や、技能伝承の効果的な実現などの狙いもありそうだ。
■ベテラン社員の活躍が期待される
これまでのホンダの場合、再雇用契約を結んで働き続ける社員は5〜6割程度。給料は現役時代の約半分まで下がり、負担の重い海外駐在はできないなど、活躍の場が限定されていた。一方、ホンダが新たに65歳まで定年を延長する新制度の場合、給料は現役時代の約8割を保証して、海外駐在の道も開く。
自動車生産はかつて、日本国内でも人海戦術で生産を行っていたが、産業用ロボットの発達や人件費の上昇により、徐々に生産現場の人員がロボットに置き換えられていったという歴史がある。ただ、自動車メーカーがアジアや中国などの新興国に生産拠点を構える場合は、ロボットを入れるよりも人件費のほうが安いので、まずは、かつて日本で行われていた人海戦術で生産ラインを作られることが多い。日本で使われなくなった古い機械を移設して、新興国の生産拠点で再活用する場合も少なくない。
ホンダが定年延長するベテラン社員には、こうした場面での活躍が期待される。新興国で生産現場の技術指導を行うにあたって、自動化された現場しか知らない若手社員よりは、人海戦術で生産されていた時代を知り、古い機械も扱えるベテラン社員のほうが技術指導もスムーズにいくということだ。
自動車の製造ラインは前述したように大幅にロボット化されたとはいえ、まだまだ人の手がかかる工程は存在する。ボディーの溶接のような重量物を扱う工程はロボット化になじむが、配線をつなぐとか、ライトを取り付けるとか、デリケートな作業は現在の技術ではまだまだロボット化できない。
そのため、ホンダを含めた自動車製造会社は「期間従業員」という形でライン作業に従事する人材を大量に募集している。ところが、景気の回復や少子化の影響などを受けて、足元ではさまざまな産業で人材不足が指摘されている。期間従業員を募集しても他社との取り合いになり、求人広告など採用コストの負担も軽くはない。
また、平成24年の労働契約法の改正により、有期雇用契約が通算5年を超えて更新された場合は無期雇用に転換させなければならないというルールが定められたことも、生産台数に合わせて柔軟な人員調整を行いたい自動車メーカーには悩みの種。このような状況を踏まえるならば、社外から期間工を集めるより、仕事にも習熟したベテランを活用したほうが合理的だとホンダが考えるのは自明だ。
■係長級以下の若手社員に大きな影響
しかし、ホンダの定年延長を軸とする人事制度改革は、必ずしも良い側面ばかりではない。
ポイントは定年延長と同時に進められる、給料における成果主義の拡大や時間外手当の割増率の削減、国内出張日当の廃止などの施策だ。結局のところ、総人件費は現行と同水準に抑える方向で、これに労使が合意する見通しになっている。
総人件費を増やさずに定年を延長するということは、1人の社員の視点でみると、それまで60歳までにもらえていた賃金が薄く引き伸ばされ、65歳まで働かなければ同等の生涯賃金を得られないという解釈にもなる。単純に考えれば、若い世代ほどその影響が大きくなるだろう。逆に、会社としてみれば、「同じ人件費で5年長く働いてもらえる」という、単純にして大きなメリットを手にする。
総人件費を抑制するための時間外手当の割増率の削減や国内出張日当の廃止も、若い世代ほど影響を受ける。時間外割増手当についていえば、課長級以上はもともと時間外割増手当のつかない年俸制になっているので、影響を受けるのは係長級以下の若手。また、国内出張日当の廃止も、相対的に基本給の低い若手社員のほうが収入に対するインパクトは大きいであろう。
■成果主義の徹底により懸念されるのは?
成果主義の徹底もホンダらしい企業文化を奪ってしまわないかという懸念がある。
故本田宗一郎氏と二人三脚でホンダを世界的企業に育て上げ、もう一人の創業者ともいえる故藤沢武夫元副社長は、著書「松明は自分の手で」の中で次のように語っている。ホンダが技術研究所を別会社として独立採算制にしたときの場面だ。
「出世は誰だってしたいから、技術のほうへ向けるべき頭の大部分を、不得手なほうに向ける。すると、不得手であるべきことが不得手だと思わなくなるのが人情なんですね」
すなわち、革新的な技術やアイデアを生み出すためには長い時間がかかる場合もあるので、出世や短期的な成果を追い求めすぎず、安心して技術研究に専念できる環境を用意することが、ホンダの社員にとっては必要だと藤沢氏は考えていたのである。
そのような技術開発に集中できる環境こそが、高い環境技術を持ったCVCCエンジンの開発、F1グランプリにおけるアイルトン・セナ選手とともに得た輝かしい勝利、ASIMOやホンダジェットの開発など、数々の偉業につながった面はある。もちろん、成果主義は完全に排除されるべきものではないが、地道な技術開発が必要な製造業においては、その弊害も考慮しておかねばなるまい。
■若手社員が「割を食う」
とどのつまり、定年延長にしても、それを導入するために進める成果主義の拡大や賃金諸制度の見直しにしても、1990年前後のバブル期に大量入社した「バブル世代」をどう処遇していくかに対する答えの一つでもあろうる。バブル世代が60歳前後に差し掛かる2020年過ぎまで再雇用制度を続けていくと、少子化の影響も相まって一時的にでも人材不足や技能伝承の断絶などが深刻化するかもしれず、手を打っておかなければならないのだろう。
ただ、バブル世代よりも若い従業員からすると、目先は上の世代よりも賃金が下がるインパクトが大きい可能性もあり、若く十分な経験や実力も培っていない段階から、厳しい競争にさらされる場面も想像される。
これは象徴的な例でもあり、多かれ少なかれ日本企業の多くはホンダと同じような構図にある。結局のところ、相対的に「割を食う」のは就職氷河期以降の若い世代ということになるのかもしれない。
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