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「上野東京ライン」のE231系(「Wikipedia」より/Toshinori baba)
JR、遅延トラブル多発がヒドすぎる!客離れ加速&京急の攻勢で牙城崩壊の危機
http://biz-journal.jp/2015/12/post_12941.html
2015.12.20 文=小川裕夫/フリーランスライター Business Journal
鉄道業界のガリバー・JR東日本に逆らえる鉄道会社はない――。
長らく、鉄道業界ではそういわれてきた。東日本旅客鉄道(JR東日本)は周知のように、旧国鉄分割民営化によって誕生したJR7社のうちの1社にすぎない。とはいえ、東京圏に路線網を有しているだけに、近年は所有する不動産をフル活用して不動産とそれに付随する小売業で収益を上げている。東京都心部をぐるりと囲う山手線はさながら万里の長城のようで、この内側に私鉄はほとんど入り込めていない。
そんなJR東日本の牙城が、揺らいでいる。その遠因が、このところJR東日本管内で頻発する遅延トラブルだ。今年に入って大規模な遅延トラブルがJR東日本管内、しかも東京圏で目立っている。遅延の件数自体は昨年から大きく増えたわけではないのに遅延トラブルが目立つようになったのは、3月から運行を開始した上野東京ラインによるところが大きい。
上野東京ラインは、これまで上野駅発着だった宇都宮線・高崎線・常磐線を東京駅まで直通させるようにしたもので、東京駅からは東海道本線と相互直通運転を実施している。常磐線は品川駅までしか運転されないが、宇都宮線と高崎線は小田原駅や熱海駅まで走る列車も多い。逆に東海道本線の列車は、高崎駅や宇都宮駅まで走る。
上野東京ラインの開業は、乗り換えの手間がなくなり便利になったとされる。その一方で、たくさんの路線が複雑に絡み合うことになった。結果、ちょっとした遅延があらゆる路線に波及してしまう事態を招いた。乗り入れによって利便性を高めようとしたJR東日本だったが、それが裏目に出た格好だ。
そうしたJR東日本の遅延トラブルを尻目に、京浜急行電鉄(京急)が反転攻勢に出ようとしている。
京急は品川駅を拠点に横浜・横須賀方面に路線を有しているが、そのほとんどはJR東日本の東海道本線・横須賀線と競合関係にある。JR東日本は京急が路線を有していない東京駅や新宿駅といった利用者の多いエリアにも横浜方面から乗り換えなしで行くことができるので、JR東日本がスケールメリットを十分に活かせば京急に勝ち目はない。
■湘南新宿ラインのインパクト
JR東日本がネットワークを最大限に活かした成功例としては、2001年に登場した湘南新宿ラインが挙げられる。それまで池袋・新宿・渋谷方面と横浜方面とを行き来するには、いったん品川駅で乗り換えなければならなかった。湘南新宿ラインが登場したことにより、横浜方面と渋谷・新宿・池袋方面が一本につながった。湘南新宿ラインの開業は、東京−横浜を結ぶ東急電鉄などの競合他社から乗客を奪うには絶大なインパクトがあった。
実際、JR東日本に乗客を奪われるといった危機感から、東急は湘南新宿ラインと渋谷駅−横浜駅間で競合する東横線に01年から特急電車の運行を開始している。東横線に特急を運行することで所要時間を短縮し、少しでも乗客の確保に努めた東急だったが、横浜方面から渋谷・新宿・池袋に一本で行くことができる湘南新宿ラインは好評を博した。湘南新宿ラインの運転本数は開業時より増えていることからも、乗客が東横線よりも湘南新宿ラインを選択していることが窺える。
湘南新宿ラインが登場したことによって、京急にも少なからず影響が及んでいる。渋谷・新宿・池袋方面と横浜方面とが一本でつながったために、JRだと品川駅での乗り換えがなくなった。そのため、JRにおいて品川駅は単なる通過駅になった。品川駅の乗降客が減っても、全体の利用者が増えればJRはさほど痛くない。しかし、品川駅を拠点にしている京急にとって、品川駅の乗降客の減少はついでの買い物や食事といった需要が減ることを意味する。京急にとって品川駅の通過駅化は死活問題だった。
京急の危機的状況に光明が見えたのは、リニア中央新幹線の駅が品川駅付近にできると発表されたことだった。リニア開業を見越して、品川駅周辺は再開発が盛んに行われた。それによって、品川の街全体が活性化している。しかも、その再開発はいまだ続いている。近年は訪日外国人観光客が増加し、羽田空港の需要が高まったことで、羽田にアクセスする京急の存在感が強まっている。
■京急の反転攻勢
追い風に乗った京急は、品川駅の立地を逆手にとって反転攻勢へと打って出ようとしている。京急では品川駅始発の電車が多く、品川駅から乗車すれば高い確率で座ることができる。そのため、「最近はJR線の利用者でも、わざわざ品川駅でいったん下車して品川始発の京急線に乗り換える人が増えている」(京急幹部)という。
JRから京急へ利用客が流れる傾向は、JRの遅延トラブルと無縁ではない。前述したように、遅延が起こると列車の混雑は増すからだ。その混雑を避けようとして、JR利用者が京急に乗り換えることがあっても不思議ではない。
そうした事情から、京急は12月7日から早朝の通勤時間帯にモーニング・ウィング号の運行を開始した。ウィング号は「座れる」ことをウリにした特急電車で、乗車に特急料金は不要だが、通常運賃のほか着席整理券300円が必要になる。
京急は以前より退勤ラッシュ時間帯にウィング号を運行していたが、それを朝ラッシュ時間帯にも拡大させた。それほど、着席サービスの需要は増加しているのだ。
「昨今、人口減少時代に突入するので鉄道会社も利用者が減るのではとの予測がありますが、それは地方の話です。東京圏の鉄道利用者数の推移は、微増もしくは横ばいがつづいています」(国土交通省幹部)
東京圏でも高度経済成長期にニュータウンとして発展した郊外は、団塊の世代が定年退職して通勤需要が減少。利用者は激減している。しかし、東京−横浜間は人口も多く、これからも人口減少に悩まされることはない。そうしたこともあって、東京−横浜間・横須賀を地盤にしている京急はひとまず安泰といえる。
JR東日本にとって悩ましいのは、京急の反転攻勢を皮切りに、ほかの競合路線でも激しい競争に晒されることが予想されることだ。たとえば、上野東京ラインの遅延により常磐線の混雑が常態化すれば、利用客はつくばエクスプレスを利用するようになるだろう。競合他社がJR東日本の乗客を奪いにくるのも時間の問題だ。
JR東日本の金城湯地とされてきた東京圏の鉄道だが、その勢力図は塗り替わりつつある。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)
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