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コラム:日銀は「市場との対話」に失敗したのか=佐々木融氏
http://jp.reuters.com/article/column-torusasaki-idJPKBN0U20CH20151219
2015年 12月 19日 21:19 JST
佐々木融JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長
[東京 19日] - 日銀は18日、予想外の政策微調整を行った。黒田東彦日銀総裁は今回の措置について、「追加緩和ではなく、資産買い入れの円滑化と緩和効果の浸透のための措置」であると説明した。
日銀金融政策決定会合の2日前の16日には、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを決定している。2006年6月に最後の利上げを行って以来、実に約9年半ぶりの利上げだ。そして、その約2週間前の3日には欧州中銀(ECB)が今年1月の量的緩和導入に続く追加緩和策を発表している。つまり、約2週間のうちに、日米欧中銀が金融政策の変更(日銀の場合は微調整)を行ったことになる。
実は、現在の日本、米国、ユーロ圏のインフレ率にはそれほど大きな差はない。米国(11月)の消費者物価指数は前年比プラス0.5%、日本(10月)は同プラス0.3%、ユーロ圏(11月)は同プラス0.2%である。また、日本と米国では、物価連動国債の利回りから算出する予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率、BEI)や企業の物価見通しなどは1%台のものが多く、日米の期待インフレ率の差は思われているほど大きくはないと考えられる。
もちろん、こうしたことだけで金融政策が決まるわけではないが、15年に続き16年も日本、米国、ユーロ圏ともに潜在成長率を上回る経済成長率を実現すると予想されている。米国はすでに金融引き締め方向に舵を切った一方、日本とユーロ圏は緩和方向に動いている。ファンダメンタルズの違い以上に金融政策の違いがあると言えるかもしれない。
<日銀の苦しい事情を印象づけた可能性>
こうした中、各中銀のバランスシート規模を見ると、日銀が対名目国内総生産(GDP)比75%程度と突出している一方、FRBとECBはいずれも対名目GDP比25%程度にとどまっている。つまり、足元のインフレ率、金融政策の方向性、各中銀のバランスシート規模を合わせて考えると、日銀の金融緩和度合いが突出している感がある。
市場とのコミュニケーションについても、日銀は他の2中銀と異なっている。FRBとECBは事前に市場にある程度のシグナルを送り、金融政策の変更を織り込ませようとしていた。一方、日銀は市場にサプライズを与える戦略をとった。
しかし、今回のサプライズ戦略は、今のところ逆効果になってしまっているようだ。日銀が金融政策の微調整を発表した18日金曜日の日本時間午後12時50分からニューヨーク市場が終了するまでの約18時間の動きを見ると、いったん大きく下落した円は結局、ドルに対して1.2%も上昇し、主要通貨の中で最強通貨となっている。また、日経平均株価も、日銀の政策発表後しばらくの間は大きく上昇したが、その後反落し、結局発表直前のレベルから2.1%も下落してしまった。
今回の日銀による政策微調整は、市場参加者に今後の金融政策の限界を感じさせてしまったのかもしれない。長期国債買い入れの平均残存期間の長期化は、それだけ国債買い入れが困難になっているのかとの印象を市場参加者に与えた可能性がある。
すでに分かっていたことではあるが、グロスベースでの国債買い入れ額が15年の約110兆円から、16年は約120兆円に増大することを指摘しつつ、平均残存期間を長期化したのは、日銀の苦しい事情を印象づけてしまったのかもしれない。
また、市場参加者の多くは、日銀が国債買い入れの限界に達した時は、上場投資信託(ETF)の買い入れを増額するのではないかと考えていた。そこに年間3000億円というやや小粒な印象を与える追加購入枠を設け、さらにそれが実は日銀が過去に買い入れた銀行保有株式の売却開始に伴う市場への影響を打ち消す観点から行われる、というのでは、市場参加者のETF買い入れ大幅増額期待を減退させた可能性がある。
いずれにせよ、日銀は今後サプライズ戦略をとらない方が良いかもしれない。これまでと異なり、円相場はファンダメンタルズから見てかなり円安水準にある。目立った賃金上昇が見られない中で、日銀の金融政策が難しい舵取りを迫られていることを、市場参加者は理解している。そうした中、世界の金融資本市場の流動性をめぐる状況は一段と悪化しており、ショックに対して脆弱になっている。今後はFRBやECBのように、徐々に市場に織り込ませながら政策変更を行っていく方が良いのかもしれない。
<ECBとFRBも「市場との対話」で苦闘中>
ECBについては、市場との対話に失敗したとの評価も散見される。実際、ECBの追加緩和発表後24時間の市場の動きを見ると、欧州の長期金利は急上昇し、欧州の株価は下落し、主要通貨の中ではユーロが最も強くなり、ドルに対して3%以上も上昇してしまった。
しかし、これはもう少し時計の針を巻き戻して評価する必要があるだろう。というのも、10月22日の理事会で「次回のスタッフ見通しが得られる12月に金融緩和の度合いについて再検証する必要」(声明)「全ての緩和手段を検討」(ドラギ総裁会見)「預金ファシリティ金利のさらなる引き下げも議論した」(同会見)と事実上の緩和予告ともとれる態度を示したことで、市場は急速に追加緩和を織り込み、今月3日に実際に追加緩和を行うまでの間、ユーロは主要通貨の中で最弱通貨となっていたからだ。
ECBが3日に実行した追加緩和策は、当社の予想と比べてもさほど消極的なものとは言えない。当社はECBが預金ファシリティ金利を10ベーシスポイント(bp)引き下げ、毎月の資産買い入れ額を100億ユーロ増額し、プログラムを3カ月延長すると予想していたが、ECBは資産買い入れ額を増額しなかった代わりに、プログラムを17年3月まで6カ月間延長した。この結果、当社の予想対比では最終的な資産買い入れ額は多くなる。
それでもユーロ上昇、長期金利上昇、株価下落という反応になったということは、ECBが市場に大きな期待を与え過ぎたということなのだろう。そうした意味では、ECBは市場との対話に失敗し、市場に余計な不安定要因を与えてしまったとは言えるかもしれない。しかし、追加緩和後に対ドル、対英ポンドで大きく反発したとはいえ、10月22日の理事会直前のレベルに比べるとまだユーロ安の水準である。長期金利も低いし、独DAX指数は現状レベルの方が高い。今のところ為替、金利、株式は10月22日の理事会前のレベルに比べれば、追加緩和を織り込むような水準で推移していると言える。
一方、FRBの市場との対話はどうだったのだろうか。16日の利上げ後24時間の市場の動きを見ると、ブラジルレアル、トルコリラといった高金利エマージング通貨の強さが目立ち、米2年金利は小幅上昇、株価も堅調に推移した。市場参加者は9年半ぶりのFRBによる利上げで何が起こるのかと不安を感じていたが、あらかじめ十分織り込まれていただけに、むしろ不安感が払しょくされたことを好感するような動きになった。ここまではFRBが市場との対話に最も成功していたと言えるかもれない。
ただ、楽観ムードもあまり続かないのだろうか。米S&P500株価指数は18日も大きく下落し、結局FRBによる利上げ後の下落率は3%以上となり、主要国株価指数の中でアンダーパフォームしている。クリスマス休暇入りで、市場閑散となることが予想されるが、FRBによる利上げの悪影響がこれから出てくるのかどうかが注目される。
*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
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