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品揃え豊富な店ほどモノが売れない? PB増加で品揃えが悪くなっている?
http://biz-journal.jp/2015/12/post_12923.html
2015.12.18 文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授 Business Journal
小売店が消費者に来店と購買を促すためには、魅力的な品揃えが不可欠となります。そのためには、店内の限られたスペースの中で、製品カテゴリーごとに適切な陳列スペースを割り当て、それぞれのカテゴリーにおいて利益の増加につながる最適な品揃えを決定しなければなりません。しかし、品揃えの構成要素は、食品を例にとると、ブランドだけでなく、フレーバー、特性、パッケージの形状、サイズの種類を含むように多元的なため、その決定は容易ではありません。
消費者行動研究ではこれまで、品揃えについてさまざまな研究を行ってきています。ここではそれらの一部を概観しながら、適切な品揃えとはどのようなものなのかについて、消費者の視点から考えてみたいと思います。
なお、品揃えは、小売店が扱う製品カテゴリーの集合(種類)として捉えることもありますが、消費者行動研究では特定の製品カテゴリー内でのバラエティとして捉えることが多いので、ここでも後者を対象としています。
■豊富な品揃えにはデメリットも
品揃えは、以前は「豊富であることはよい」と考えられていました。しかし、近年の消費者研究は、豊富な品揃えのメリットだけでなく、デメリットも報告しています。
よく知られている実証研究は、アーインガーとレッパーが行った実験です【註1】。アメリカの高級食料品店で試食ブースを設け、ウィルキン&サンズのジャムを24種類(フレーバー)、あるいは6種類置き、立ち寄った買い物客に1ドル引きクーポンを渡し、購入する場合には売り場に行って商品を選び、レジで購入してもらうというものです(売り場にあるフレーバーは28種類)。
結果は、ブースに立ち寄った買い物客の比率は24種類のほうが多くなりましたが、その中で実際に購入した客の比率は6種類のほうが多くなりました。試食したフレーバー数に違いはありませんでした。豊富な品揃えは、買い物客を惹きつけることができますが、購買の動機づけを低めてしまうことが示されています。
アーインガーとレッパーは別の実験も行っています。ゴディバのチョコレートを6種類、あるいは30種類提示し、その中から選択した1つを食べてもらうというものです。その結果、30種類は選択プロセスの楽しさと難しさの両方を感じさせ、そして選択後の後悔を高くするのに対し、6種類は選択したチョコレートを食べた後の満足度を高くすることがわかりました。豊富な品揃えは、買い物客に選ぶ楽しさをもたらしますが、選択を難しく感じさせ、消費満足を下げるとともに後悔を残しやすいということになります。
豊富な品揃えと消費量の関係を分析した研究もあります【註2】。カーンとワンシンクは、ジェリービーンズを24色(フレーバー)、あるいは6色置いておき、被験者に別の作業をするための待ち時間に自由に食べてもらうという実験を行いました。結果は、色分けした状態で置いておくと、被験者の消費量は24色のほうが6色よりも多くなったのです。
豊富に感じる品揃えの中から商品を選ぶと、消費への楽しみが増すので、意識していなくてもより多く消費してしまうのです。買い物客は品揃えの多さを認識すると、それを自分の消費量の判断基準にするという説明も別の研究者によってされています【註3】。買い物客に豊富な品揃えをわかりやすく示すことができれば、消費量を増やし、売り上げ増加につながる可能性が示唆されています。
これらの研究から示されている豊富な品揃えのメリットとデメリットは、どれも無視できないものがあり、豊富な品揃えの維持と削減のどちらがいいかは一概にはいえません。少なくとも買い物客に多すぎて選べないと感じられるような品揃えは避けなければならないでしょう。
■品揃えの「質」
それでは、どのようにしたら買い物客が満足するような「豊富な品揃え」を実現できるのでしょうか。それは、買い物客にとって違いがない、あるいはほとんどないと感じられる商品を減らすことです。不要と思われるサイズや売れ行きが芳しくない商品を除き、空いた陳列スペースに売れ筋商品を置くことで品揃えを簡素化した実験からは、ほとんどの買い物客が品揃えの変化に気づかなかったか、逆にバラエティが増えたと感じたことが報告されています。変更前の品揃えを提供している店舗と比較すると、売り上げも上昇したことが報告されています【註4】。
つまり、買い物客に品揃えが豊富であると感じさせながら、実際の品揃えを減らすことは可能ということになります。小売業者は、利益につながる効率的な品揃えを実現するためにも、買い物客の知覚を取り入れた品揃えの「質」について検討してみてはいかがでしょうか。豊富な選択肢を提供しているようで、実は余計な選択肢を増やしているのかもしれません。
■品揃えの悪化
他方で、少なすぎる品揃えにも注意が必要です。日本では、2000年代後半からPB(プライベートブランド)ブームが起き、特に大型スーパーは、PBをさまざまな製品カテゴリーへと広げる一方で、NB(ナショナルブランド)の大幅な絞り込みを行ってきました。その結果、PBしかない、あるいは選択肢がない製品カテゴリーがいくつか見られるようになりました。品揃えの悪化を実感している買い物客も多いのではないでしょうか。
買い物客が選択肢のない状況を嫌う「単一商品の選択回避」という現象がモンチョンによって実証されています【註5】。被験者にとって典型的なチョコ菓子(スニッカーズ)と馴染みのないチョコ菓子(セレナータ・デ・アモール)を対象とし、それぞれを1種類で提示した場合とそれらを合わせて2種類で提示した場合の商品選択率を調べる実験を行っています。
その結果、選択率はどちらの商品も2種類から選択したときのほうが2倍も高くなったことを明らかにしています。また、この現象が単一商品の拒否ではなく、ほかの選択肢を探そうとする欲求から生じていることも明らかにしています。
買い物客は、日々の買い物をできるだけ時間と労力をかけずに終えたいと思うことがあっても、一製品カテゴリー、一商品という「選択肢のない」売り場を望んでいるわけではないのです。そうした売り場は、買い物客に店から選択を強要されているように感じさせる可能性があります。
また、買い物という行為をつまらないものにしてしまう可能性もあります。そのような知覚が何度も生じ、そしてそれが複数の製品カテゴリーにわたって生じるようであれば、その店に対する買い物客の品揃え評価は悪化し、それは店舗ロイヤルティの低下につながっていくかもしれません。もちろん、製品カテゴリーによる違いはあるとは思いますが、選択の余地について検討してみる必要があるかもしれません。特に、大型スーパーは買い物客の品揃えへの期待が高くなるので、注意が必要です。
品揃えは、多すぎても少なすぎても買い物客に好まれないのです。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)
※参考文献
【註1】Iyengar, S. and M.R. Lepper (2000), “When Choice is Demotivating: Can One Desire Too Much of a Good Thing ?”, Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 79, No. 6, pp. 995-1006.
【註2】Kahn, B. E., and B. Wansink (2004), “The Influence of Assortment Structure on Perceived Variety and Consumption Quantities,” Journal of Consumer Research, Vol. 30 (March), pp. 519-533.
【註3】Broniarczyk, S. M. (2008), “Product Assortment” in C.P. Haugtvedt, P. M. Herr, and F. R. Kardes (Eds.), Handbook of Consumer Psychology, (pp. 755-779), Laurence Erlbaum Associates.
【註4】Kahn, B. and L. McAlister (1997), Grocery Revolution: The New Focus on the Consumer, Addison-Wesley.
【註5】Monchon, D. (2013), “Single-Option Aversion,” Journal of Consumer Research, Vol. 40 (October), pp. 555-566.
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