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日産自動車本社(「Wikipedia」より/Wiiii)
日産、巨額の利益が仏ルノーに吸い取られる状態放置…仏政府との熾烈戦争の舞台裏
http://biz-journal.jp/2015/12/post_12924.html
2015.12.18 文=河村靖史/ジャーナリスト Business Journal
「過去数カ月にわたる話題について、独立性とアライアンスの将来に向けて、大変良い合意ができた。非常にいい結果になったと思っている」――
日産自動車ナンバー2の西川廣人CCO(チーフコンペティティブオフィサー)は、12月11日のルノー取締役会終了後、日付が変わった12日に記者会見で述べた。ルノー・日産とフランス政府による数カ月にわたる攻防は、フランス政府が譲歩するかたちであっけなく終息した。フランス政府の経営介入を回避する一定の担保を確保できた両社だが、ルノーを日産が支援するかたちは何も変わらないとの見方も強い。
両社が将来の経営に危機感を抱いたきっかけは、フランスのフロランジュ法だった。同法は、2年以上株を保有する株主の議決権を2倍にするというもの。これを拒否するためには、適用反対の議案に株主総会で3分の2以上の賛成が必要となる。フランス政府はルノーに15%出資する株主だったが、同法による議決権増を確実にするため、今年春に出資比率を19.7%にまで引き上げた。株主総会ではルノー経営陣が提出した適用反対の議案が僅差で否決され、導入が決定、同法が施行される2016年春からフランス政府のルノーへの出資比率は約28%に上がる。
ルノーは日産に43.4%、日産はルノーに15%出資しているが、フランスの会社法で40%以上の出資を受けている企業は、出資元に対して議決権を持てない。日産が経営再建後、ルノーの株式を取得して持ち合いにする際、ルノーは主導権を維持するため日産の株式をあえて40%以上に買い増して議決権を持たせないようにした。仮に日産がルノーへの議決権を保有していた場合、経営陣の議案は可決されていた可能性が高かった。
両社がフランス政府の議決権引き上げに反対するのは、同国内の雇用確保など経営に介入する懸念があるためだ。解雇や工場閉鎖などの経営の自由度を失うことも考えられる。特に、ルノーが43.4%出資する日産の経営介入も重大な懸念を持つ。
■経営の自主性
すでに日産は、稼働率が低迷しているルノーのフランス国内の工場に、小型車の生産を移管することを決定している。フランス政府が、両社のトップであるカルロス・ゴーンCEO(最高経営責任者)に同国内の工場の仕事量を増やすよう要請したのを受けたもの。議決権を引き上げたフランス政府による経営介入によって、両社は経営の自主性を失いかねない危機感を抱く。
フランス政府と両社は、フロランジュ法による議決権引き上げ後の経営のあり方などを協議。フランス政府は、両社に経営統合を要請したが、両社は「現在のアライアンスのバランスを維持する」とこれを拒否するとともに、保有するルノー株式の一部売却を求めて協議は平行線をたどる。
このため、両社はルノーが保有する日産の株式を40%以下に引き下げて、日産が保有するルノー株式に議決権を持たせることを検討。しかし、フランス政府はルノーの重要な資産である日産の株式を手放すことに反対を表明する。そこで、両社は日産がルノーの保有株式を25%以上に買い増すことを検討した。日産が25%以上の株式を保有すると、日本の会社法の規定で、ルノーの保有する日産株式の議決権をなくすことができるためだ。
両社は、フランス政府の経営介入を回避するための方策を相次いで検討するとともに、一部マスコミにリークすることでフランス政府をけん制してきた。
最終的に、両社とフランス政府は今後の経営に関して合意した。その内容は、フランス政府はルノーの同国内での戦略的決定事項など特別な案件にのみ議決権2倍を行使できるが、その他の案件ではフランス政府の議決権は制限される。ルノーは日産の経営に干渉しない方針を正式に認め、保有する日産株式の議決権を保持する。日産は、ルノーによって不当な干渉があったと判断した場合、ルノーへの出資比率を引き上げてルノーの議決権をなくさせる権利を持つというもの。
■不平等条約は変わらず
日産の西川CCOは「5年先、10年先、ゴーンCEOの次の世代でも経営の自立性を維持して安心して仕事ができるベースをつくった。株式の持ち合い状況は変えないがフェアな形で将来を担保できた」と今回の合意内容を評価する。
フランス政府と両社は、今年春から攻防を繰り広げてきたが、結果的に保有する株式に変動はないかたちで幕を閉じることになった。同時に、ルノーが保有する日産株式には議決権があるにもかかわらず、日産が保有するルノー株式には議決権がないという「不平等条約」問題が解決に向かうチャンスでもあったが、問題先送りとなった。
日産は業績悪化による倒産の危機に直面し、ルノーの出資を受けて短期間に経営再建を果たした。しかし、経営再建後は日産が業績を伸ばす一方で、ルノーの業績は低迷。日産は高額な配当でルノーの業績を黒字化するなど、経営を支援してきた。今後も、この関係は継続されることになる。結局、一連の騒動の勝者はルノー、そして両社トップの地位に君臨し続けて巨額な報酬を得るゴーン氏だったのかもしれない。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)
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