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巨大ビルが危ない!賃貸市場活況の「真実」…壮絶なテナント奪い合い、中小ビルのスラム化も
http://biz-journal.jp/2015/12/post_12910.html
2015.12.17 文=牧野知弘/オラガHSC代表取締役 Business Journal
賃貸オフィスマーケットが好調です。三鬼商事の発表によれば、10月の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス空室率は4.46%。前年同月比で1.14%の改善。2年前と比較すると3%程度も改善しています。平均賃料も空室率改善のわりに上昇しないといわれつつも、穏やかに回復。10月時点で月坪あたり1万7,612円と前年同月比で699円の上昇となっています。
需給バランスの改善と、東京のオフィス賃料が国際水準で「割安」という印象を背景にオフィスビルに対する投資意欲も高まり、現在都心の大型オフィスビル売買マーケットにおける投資利回り(Cap Rate)は4%前後まで低下し、オフィスマーケットは総じて活況といわれています。
東京五輪の開催を見据えて現在、都心部では大規模ビルを中心に新規開発案件が目白押しです。特に大手町や日本橋といった古くからのオフィスビル街では老朽化したビルを取り壊し、容積率の割り増し制度を活用して、ワンフロアの貸付面積が1000坪を超える「航空母艦」のようなオフィスビルが続々と建設されています。
森ビルによれば、今年から17年の3年間で東京都内では延床面積1万平方メートル以上の大規模オフィスが約330万平方メートル(約100万坪)も供給されるとのことです。この水準はちょうど平成バブルといわれた1990年代初期の頃の供給水準とほぼ同じになります。
特徴的なのは平成バブル時代の数値は、年平均40棟程度で100万平方メートルの供給だったものが今後は17棟で同じ面積、つまり1棟当たりの規模が超大型化していることです。オフィスビルはますます大型に、そして耐震、省エネ、環境対応、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対応など満艦飾の「安心・安全・快適」性能を具備したものに生まれ変わってくるのです。
こうした大型の再開発は大手町や丸の内では三菱地所、六本木では森ビル、日本橋、日比谷では三井不動産、渋谷は東急電鉄、東急不動産、新宿は住友不動産といった大手デベロッパーを中心に20年の東京五輪開催前後に続々と竣工を迎えることになります。
日本経済はアベノミクス効果を享受しながら順調に回復、オフィスビルマーケットはますますグローバル化し、世界中の企業が日本の首都東京に集まることで当面は安泰という見方が広まっています。
ところが、こうした予測は果たして正しいのでしょうか。
■テナントの退避需要
森ビルによれば、今後3年間に都内で供給される予定の大規模オフィスビルは、そのうちの約7割が都心3区(千代田、中央、港)で供給される、さらにそのうちの約7割相当が既存のオフィスビルの「建替え」によるものだといわれます。
つまり、今後供給が予定されている大規模ビルの多くは既存のオフィスビルの「建替え」に伴うものであることから、都内のオフィスビルの床面積が大幅に増加するわけではなく、これらの新規案件のすべてが立ち上がったとしてもオフィスビルマーケットの需給バランスが大きく崩れる可能性はほとんどないというものです。
一見するとこの説明は「なるほど」と思わせるものがありますが、データをじっくり眺めると、実は違った側面が見えてきます。
今後供給される大規模オフィス(330万平方メートル)の7割が都心3区(231万平方メートル)、さらにそのうちの7割が建替え(162万平方メートル)ということは、これまでマーケットに存在していた「取り壊された」オフィスビルはどの程度存在したのでしょうか。建替えによる新規計画は、容積率の割り増し等が行われることを勘案して仮に300%の割り増しを受けていると仮定すると、その分を割り戻すとその面積は124万平方メートルに相当します。
つまり、現在のオフィスビルマーケットではこの建替え計画に伴って「取り壊された」ビルが124万平方メートル、森ビルが定義する大規模オフィスビル124棟分がマーケットから消えていることになります。取り壊されたビルには当然多くのテナントが存在していたはずです。そのテナントはビルから追い出されて、既存ビルの空室部分に転居したと考えるのが自然でしょう。
■テナントの奪い合い
実は都心5区の空室率が2年間で3%程度も改善したその値は、ほぼこの追い出されたテナントの面積と一致します。空室率の改善の主な原因は、取り壊されるビルから退避してきた「テナントの退避需要」によるものというのが、オフィスマーケット改善の実態なのです。したがって、オフィスビルの建替えが終了する東京五輪前後となると、多くの案件が竣工を迎える。当然、一旦退去したテナントを呼び戻そうとする。容積率を割り増ししている床については新規のテナントを引き入れようとする。壮絶なテナントの「奪い合い」が発生するだろうことは容易に想像がつきます。
現に、オフィスビルマーケットでは、水面下で大手デベロッパーによる新規供給予定ビルへのテナント誘致合戦が過熱しています。たとえば、三井不動産が運営する六本木の東京ミッドタウンのアンカーテナントであるヤフーは、赤坂見附に来年誕生する東京ガーデンテラスに移転することが決まっています。
■日本は「ファーイースト」
20年の東京五輪開催時までに多くのグローバル企業が東京に集まってくることは想定できるのでしょうか。大手町、丸の内、日本橋、品川、渋谷、新宿、多くの再開発事業で、東京の「グローバル化」がテーマとなり、国際金融センターの設立構想がぶち上げられています。
しかし現在、アジアにおける国際金融センターは日本国内には存在しません。アジアエリアの国際金融センターの地位は、最近では完全にシンガポールになっています。アジア発展の中心は日本だと考えるのは、日本人の一部だけです。多くの外資系企業のアジア本部もシンガポールに立地しているのが現状です。アジア経済圏はこれからもシンガポールを軸に中国、台湾、香港からASEAN諸国にまたがるエリアを中心に、大いなる発展が見込まれます。
このなかで日本の地位は経済規模では相変わらず世界第3位としての影響力は変わらぬものの、地政学的には世界の中での「極東」であるのと同じく、日本はアジアにおける「極東=ファーイースト」なのです。なぜならシンガポールから主要なアジア都市には4時間以内でアクセスが可能ですが、シンガポールと東京は飛行機で7時間半という「離れ小島」なのです。仮に国際金融センターの地位が確立できたとしても、各デベロッパーの夢をすべてかなえるために東京に3つも4つも建設することはあまりに現実離れしているといわざるを得ません。
結果として、国内需要が大きく改善しないかぎり、これから大量に完成する「航空母艦」クラスのビルの甲板を埋めるテナントは、既存のオフィスビルから「狩って」こざるを得なくなる可能性が高いのです。
■オフィスビルの羅列
昨年、東京都港区虎ノ門エリアで、環状2号線の新橋―虎ノ門間が開通して話題になりました。東京都はこの新橋と虎ノ門を貫通するこの通りを「シャンゼリゼ通り」として潤いのある街づくりを行っていくことを標榜しています。このエリアの完成イメージについては港区のホームページなどでも垣間見ることができますが、イメージパースを見る限りでは、「シャンゼリゼ」というよりも、都内にもうひとつ「大手町」をつくるかのような大型オフィスビルの「羅列」に終わっています。
大規模なオフィスビルも一定数は必要ですが、現在計画されている日本橋や大手町、渋谷、新宿といったエリアごとの再開発計画は、それぞれのエリアを本拠地とするデベロッパーによる「国盗り物語」にしか見えず、各社が掲げる街並みもコンセプト計画も、まったく同じような文言が並んでしまっているようにも思えます。
相変わらぬ「ハード」優先。ハードをつくればテナントはどこからか湧いてくる、という旧時代の発想で開発を続ける限りにおいては、大規模ビルが大型ビルのテナントを奪い、大型ビルは中小ビルのテナントを襲い、食えなくなった中小ビルがスラム化するという「あたたかみもぬくもりもない」街づくりが繰り返されていくだけです。
多様な人材を集める、外国人にも不便なく働き生活してもらう、多様なベンチャー企業が集う、発展する街を作りたいのであれば、ハードばかりではなく、彼らを呼び込むことができるソフトウェア、コンテンツといった企画立案能力が今後は問われてくるのです。
そろそろ競争のルールが変わろうとしています。20年東京五輪は私たちにいろいろな示唆を与えてくれるイベントになることでしょう。東京が、日本が大きく「変革」するときがもうすぐそこに迫っているのです。
(文=牧野知弘/オラガHSC代表取締役)
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