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「人材派遣業」の闇 〜あまりにブラックすぎる実態を潜入レポート
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46867
2015年12月15日(火) 中沢彰吾 現代ビジネス
日本の労働市場に寄生し、ピンハネで肥え太る悪質な人材派遣業者。彼らの増殖と繁栄は、底辺の労働者のさらなる困窮と表裏一体である。知られざる人材派遣業界の闇と、「一億総活躍社会」を掲げながら平然と労働者をモノ扱いしつづける政府・厚労省の欺瞞を暴く。
文/中沢彰吾(ノンフィクションライター)
■口をつぐんでうつむく500人の中高年
「静かにしろ! 私語厳禁だ」
やせて神経質そうな銀ぶちのメガネをかけた、長身のダークスーツ姿の若い青年の怒声が超高層ビル街の谷間に響いた。彼の前に並んだ普段着姿の中高年の男女はそれまでにこやかに世間話を楽しんでいたが、叱られた子供のように口をつぐんでうつむいた。
相手は自分たちの息子のような年齢だが、青年のご機嫌を損ねてはいけないと誰もがおどおどしていた。
2014年12月1日、西新宿にある住友ビル前の広場には異様な光景が広がっていた。小学校の朝礼よろしく整列させられた500人ほどの中高年たちを数十人の若い男女が監視している。彼らは銃や鞭こそ持たないが時折発する叱責の声は厳しく、北朝鮮の集結所(強制収容所)を彷彿とさせる光景だった。
間もなく中高年の集団は40階にある広大なオフィスに移動させられ、約50人ずつの島に分けられた。およそ100人の監視役の若者たちが島の周囲を囲んで立ち威圧的に見張る。
ものものしい雰囲気の中、業務研修が始まった。マイクを持った説明役の女性が電話のかけ方をレクチャーし、その指示に従って全員で唱和する。ニコニコしているだけで口を開けていなかったりよそ見をしていたりすると監視役に目ざとく見つけられて叱られる。
私の隣に座った62歳の男性は化学メーカーの元エンジニアで、電話でしゃべるのが苦手な人だった。一方、私は放送局でアナウンサーとして勤務したことがあり、しゃべりの専門的な訓練を受けている。彼に発声法や間の取り方、受話器の向こうの相手の気持ちをほぐす言い回しなどをアドバイスしていると、監視役の若者が間に割って入った。
「何をしている」
「いや、この方に教えてあげていたんですよ」
「指導するのは我々だ。勝手なことをするな」
彼らからわたされた薄っぺらな話し方マニュアルは素人が思いつきで書いたとしか思えない稚拙なもので役に立ちそうもない。監視役の「指導」とはそのマニュアルを読んで聞かせるだけだった。
次に隣同士での対面練習を指示された。まず右側の人が左側の人に電話をかけたという態で話しかけ、あとは交互に繰り返す。ところが私の左側の元エンジニア氏は、「あんたは訓練の必要ないじゃないか。私に練習させてくれ」と言うので、私は右側だったが聞き役になった。すると、再び同じ監視役が血相を変えてとんできた。
「指示を聞いてないのか。右側が先だ」
「どっちからでもいいでしょう。交互にやれって言ってたじゃないですか」
「右が先だと言っただろう」
■おどろきの某メディア「世論調査」現場
どうでもいいことに、なぜこれほどこだわるのか。しかもこちらは笑顔で穏やかに接しているのに、監視役の若者たちは目を三角にして常に暴力的な命令口調だ。得体の知れない恐怖を感じ血の気が引いた。
「この方がね、たくさん練習したいとおっしゃるから……」
「文句を言うな。指示された通り右からやるんだ」
「要は全体のレベルが上がればいいんでしょうが」
「うるさい。おまえは命令に従えないのか」
大学出たてのような青二才だが、まるでコミカルな戦争映画に出てくる、ものわかりのよろしくない上官のよう。
「私は君らの奴隷じゃないよ」
その途端、青年は黙って同じ島の若者たちに手をあげて合図した。すると、若い女性がさっと近寄ってきて小さなメモを私の前に置いた。
「お話ししたいことがあります。別室に来てください」
立ち上がると強烈な視線の圧力を感じた。島を囲んでいる若者たちが全員、私を憎々しげに見つめていた。
別室には背広姿の背の高い男たちが何人も待機していた。その中の一人が、あいさつもなく無表情で言った。
「すぐに帰宅するように。もうあなたは必要ありません」
翌日と翌々日も合わせて労働契約の一方的な破棄だった。解雇理由の説明などいっさいなかった。私の他にも呼び出された人が数人いた──。
2014年12月2日公示の衆議院議員選挙に合わせた某メディアによる世論調査会場での一幕である。集められた中高年は人材派遣会社に登録した労働者だ。
■これのどこが「特別なスキルを生かした熟練労働」なのか?
派遣労働者は朝7時集合を命じられマニュアルを読まされたが、時給がカウントされたのは8時から。労働者派遣法と労働基準法では、派遣労働者が派遣先の指揮命令下に置かれる7時から賃金が発生するはずなのに……。
労働者を問答無用でクビにするのも違法ではないか。労基法では解雇事由を就業規則の絶対的必要記載事項と定めている。そして、労働契約法では、使用者が解雇権を行使する場合、就業規則上列挙されている解雇事由に該当する事実をあげ、かつ当該解雇が社会通念上相当であると認められない限り、解雇権濫用法理として、無効とされるのだが……。
近年解禁された派遣労働について、政府・厚生労働省は「特別なスキルを有し」「十分な実務能力を持った」「熟練労働者」を「労働者の希望する時間に」「適材適所で」派遣し、高度なスキルに見合った報酬と待遇が保証される、「労働者にとって有益な雇用形態」としている。
だが、それは詭弁に過ぎない。あとに詳しく記すが、製菓工場の塩素ガスがたちこめる密室で6時間にわたって「イチゴのへた取り」をさせたり、倉庫内でカッターナイフを振るう「ダンボール箱の解体」を1日中させたりする仕事のどこが「特別なスキルを生かした熟練労働」なのか。
今や人材派遣は「使いたい人数を安価に、必要最低限の時間だけ単純労働に従事させ、人事責任を負わない」という派遣先企業にとって、すこぶる好都合な制度になっている。数々の違法待遇に加えて、労働者の経験やスキル、人間性、人権をも無視した奴隷に近い労働形態が横行している。
私は過去1年間、一般人材派遣業許可を有する多くの人材派遣会社に登録して就業した。人材派遣会社や派遣先の違法行為を指摘するたびに「派遣のクズが……」と罵倒され、ほとんどの場合、即時解雇となった。
「蟻の一穴」という言葉がある。巨大な堤防も蟻が開けた微細な穴から崩れていくというたとえだ。人材派遣会社は労働者集団がおとなしければこそ、好き勝手に搾取して利益を上げられる。このため、一人の労働者の反発がまわりに伝染して多くが反抗的になることを彼らは最も恐れる。だから私のような人間は不満分子と見て早めに排除する。そこに遠慮やためらいはない。
人材派遣会社と、それに密接につながる企業相手の人減らしコンサルタント、インターネット職業紹介企業の3社が協力して編み出した違法なシステム「奴隷派遣」が日本社会に広まっている。
労働者を隔離して自由を奪った機械のような単純労働。より困難な業務の場合はマニュアルによる同一行動。緊張感を持たせて能率を上げるために私語を禁じ、手先の業務でも立ちっぱなしで座らせない。さらには監視役を立てての行動規制……。
先の世論調査では労働者を40階の職場集合とせず、いったんビル前の広場に集合させエレベータや通路を移動する間もずっと監視していた。休憩時間になってもほかのフロアや地下の飲食フロアへの立ち入りは厳禁とされた。ほかのフロアへ行けないように、通路や階段には事件現場のような規制線のテープが張られ、常時、監視役の若者が立っていた。
■ターゲットは若者ばかりではない
非正規労働者の処遇改善が叫ばれて久しい。そもそもこの世論調査は3日間だけだから30日以内の「日雇い派遣」にあたる。あまりに短期の派遣労働は人材派遣会社と派遣先企業双方での適正な雇用管理がなされず、労災等の弊害も発生しやすいという理由で、2012年10月1日施行の労働者派遣法改正で原則禁止になった。
だが、人材派遣会社は法律など眼中になく、日雇い派遣を拡大させるとともに賃金や待遇を悪化させている。彼らのターゲットは今や若者ではない、日々増加する働き口に恵まれない中高年が利用されている。
民主国家における健全な労働とは、雇用主と労働者との間に信頼関係があって初めて成立する。人材派遣会社は派遣労働者の雇用主だ。だが、信頼関係を築くどころか、仕事内容や待遇面で嘘をついて、健康に問題がある人でも過酷な労働現場に送り込み、支払うべき賃金を踏み倒す。
極めて違法性が高く、労働者からの救済を求める訴えがあるにもかかわらず、各都道府県の労働局や厚生労働省の労働基準監督署は一向に対処しようとしない。いったいなぜなのか? 悪い冗談に聞こえるかもしれないが、中央官庁や地方自治体の多くが違法な人材派遣会社のお得意さまだからだ。
この問題が根深いのは、経費削減や税金の無駄遣いの防止、法律遵守や公共の福祉への貢献を求められる多くの団体、企業が、事業入札に安値で臨む人材派遣会社を「歓迎」していることである。落札させる際、その人材派遣会社が労働者をどう処遇しているかはまったく考慮されない。
問題のある派遣会社の顧客リストには驚くほかない。最高裁判所、法務省、厚生労働省、国土交通省、財務省、総務省、文部科学省等の中央官庁。全国の地方自治体が運営する美術館や大ホール、運動場などの公共施設。新聞社やテレビ局などの大手マスコミ、大手通信会社、大手金融機関、大手小売、大手製造……世間から真っ当と見られている団体、企業がこぞって人材派遣会社の繁栄を支援している。
歪んだ労働市場に寄生し、中高年を低賃金の奴隷労働で酷使し、ピンはねで肥え太る人材派遣……彼らの増殖と繁栄は底辺の労働者のさらなる困窮と表裏一体であり、彼らの画一的、抑圧的なビジネススタイルは日本社会の創造的な活力を削いでいる。
人材派遣会社の社員は25歳で年収3000万円を豪語する。そんなピンはね手配師たちも含めて誰もが「平等かつ自由に」働ける社会にしなければならない。でなければ日本経済の浮揚などありえないだろう。これはまごうかたなき日本の「今」である。
中沢 彰吾(なかざわ・しょうご) 1956年生まれ。東京大学卒業後、1980年毎日放送(MBS)に入社し、アナウンサー、記者として勤務。2006年、身内の介護のために退社した後は、著述業に転身。単著書に小説『全壊判定』(朝日新聞出版)などのほか、企画構成に携わったものに『35年間に38回のミリオンセラー〈100万個販売〉を達成した男』(講談社)、『ウルトラマンが泣いている』『向き合う力』、共著書に『食をめぐるほんとうの話』(いずれも講談社現代新書)がある。
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