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なぜ大手電機メーカーは「おかしく」なったのか?価格を叩かれる悪循環の脱出策
http://biz-journal.jp/2015/12/post_12876.html
2015.12.15 文=山崎元/楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表 Business Journal
日本のエレクトロニクス・メーカーが冴えない。過去の経験則でいうなら、これだけ円安になれば、大手電機メーカーが揃って高水準の利益を叩き出していておかしくないのだが、海外のインフラ・ビジネスで好調の日立製作所や三菱電機といった好調組を除くと、東芝が「不適切会計」問題に喘ぎ、シャープは崖っぷちに立たされており、ソニーも業績が冴えない。また、かつての大手家電メーカーではすでに三洋電機がパナソニックに吸収されてしまっている。
一方、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーは、それなりに好調だ。少なくとも十数年前まで、株式市場では自動車と電機は並立して「国際優良銘柄」と呼ばれていた。
この差は、どこから生じたのだろうか。
原因は複数あるのだろう。製品として、自動車のほうが模倣しにくい製造上の複雑さを持っている。一方、電機メーカーの製品の多くが白物家電からパソコン、携帯電話に至るまで「コモディティ(誰でも大量生産できる商品)化」した。
加えて、日本のエレクトロニクス・メーカーは、韓国よりは大きいが米国よりは狭い中規模サイズの市場のなかで、多数の会社があまりに似た製品をつくり、似た規模で競争していた。これは、韓国のサムスン、LGが自国の市場では大きなシェアを持って利潤を確保し、国際的な競争に打って出る体力を得ていることとよく対比される。
上記の2点は、一般によく指摘されるところであり、個々には日本のエレクトロニクス・メーカーの経営的無策の結果でもある。
■価格を叩かれる悪循環
そして、無策がもうひとつあった。
自動車も複数のメーカーが似た性能の車をつくっているが、自動車の場合、系列のディーラーを経由して売れることが多いので、個々の販売現場では、トヨタ、日産、ホンダの車が直接較べられて、値下げ競争に引き込まれるような事態になりにくい。
これは、生保レディが顧客と結びついていて、自社の保険のみを売るようなマーケットに近い。生保は1990年代に運用の拙さからいくつかの中小生保が潰れたが、上位では長らく業界順位が逆転しない業界だった。
一方、家電製品では、かつて松下電器(現パナソニック)がナショナル・ショップを通じて自社製品を売っていたような流通チャネルがあったが、徐々に家電量販店の購買交渉力が強まり、各社の製品が競合させられるのとともに、販売量を確保するために卸売り価格を叩かれる悪循環に陥った。
量販店に加えて、最近ではインターネット小売業者による販売が量販店を苦しめる勢いであり、最終的に価格競争となるような製品間の競争がますます激化している。
一方、近年ビジネスの成功例としてたびたび言及され讃えられることが多い米アップルの場合、自社製品用の流通チャネルであるアップルストアに力を入れ、独自の仕様とネットワークに顧客を囲い込む戦略も相俟って、iPhoneをはじめとする自社商品の価格設定により高水準の利益を確保できている。
もちろん、状況は刻々と変化している。
先ほど、流通チャネルが個別化して製品同士が競合しにくいビジネスの例として挙げた生保でも、近年は複数の保険会社の商品を扱う乗り合い代理店の勢力伸張や銀行経由の販売拡大などで、業界構造が変化しつつあり、かつて圧倒的な業界首位だった日本生命が、「離れた2位」だったはずの第一生命に昨秋、保険料収入で逆転されるような「驚愕の首位交替劇」が起こった。生保の首位争いの行方はまだはっきりしたとはいえないが、業界を知る者にとっては、かつてのキリンビールとアサヒビールのシェア逆転くらいの驚きだった。
■価格競争を避ける方法
商品の供給者としては、「購買者が強い交渉力を持ち、複数の他社製品と価格競争をしなければならない状況」を避けなければいけないということだ。
ひとつには、商品やサービスで他社との「差」をつくり、同じ商品で競合しないようにすることだが、例えば清涼飲料製品市場で最大手であるコカ・コーラが、ヒットする可能性のある他社製品と似た製品を出し続けて「差」の発生を未然に防いでいるごとく、家電製品でも相互の模倣が容易で、特定のメーカーが差をつくりにくかった。
かつて、ソニーはデザインや製品イメージで一歩先をいき「同じ価格なら、他社製品よりはソニー製品がいい」として選ばれる地位を持っていた。しかし、今ではこの差はかつての有効性を持っていないように見える。
もうひとつの道は、優秀なカーディーラーや生保レディのように、個々の顧客とのつながりを持ってダイレクトマーケティングのチャネルを確立することだろう。しかし、エレクトロニクス製品のメーカーで、顧客の名前と属性、購買履歴などを大規模に収集しつつ、顧客を囲い込んで直接商品を売ることに成功しつつある企業は見当たらない。あえて名を挙げるとしても、iTunesを持っていてある程度顧客を囲い込んでいるアップルに可能性があるくらいだろうか。
エレクトロニクス製品に限らず、メーカー各社は今後、データを持って顧客を囲い込もうとするのだろうが、現時点ではむしろネットの小売業者のほうが、顧客の個別データを持った囲い込みに成功する見込みが大きいようにみえる。
エレクトロニクス・メーカーだけでなく、それ以外の商品・サービスの供給者も、流通チャネルの変化には、注意を要する。販売が拡大して数量が伸びている時に、急速に「競争の脅威」が迫ってきているのかもしれない。
商品の「差」は確保できているか、個々の顧客とつながっているか、の2点が肝心だ。
(文=山崎元/楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表)
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