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テロより恐い「チャイナリスク」 〜2016年、中国市場「突然死」の兆候は出揃った 日本企業がいま知っておくべき惨状
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46822
2015年12月14日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
習近平国家主席はあの手この手で景気テコ入れに躍起だが、時間稼ぎにしかならない。この巨大な船は沈む。日本を道連れにしてーー。
■コマツを襲う「需要半減」という悪夢
中国関連の代表銘柄とされる世界第2位の建機メーカー・コマツがいま、その中国事業で頭を抱えている。
中国経済が凄まじい勢いで失速する中で、同社の稼ぎ頭だった中国ビジネスが破滅的な打撃を受け、尋常ではない落ち込みから抜け出せなくなっている。
〈2015年第2四半期の中国の需要は、前年同期比▲50%減少しました〉
コマツが10月末に投資家向けに作成した資料には、主力商品である建設機械の需要が「半減」したという衝撃の実情が記されている。
コマツの各種投資家向け資料によれば、実は年初の1-3月期からすでに中国での需要は〈▲58%〉と激減していたという。そのため、コマツは4月時点から2015年度の需要減を見込んで、今年度は〈▲20~25%〉との予測を立てていた。
しかし、そんなコマツの想定を「生ぬるい」とあざ笑うかのように、中国経済は猛烈な勢いで急落下。〈政府による景気刺激策の効果は見えず〉、中国経済がフリーフォール状態で落ちていく中、『需要半減』から逃れられない隘路にはまっている。
コマツ幹部は言う。
「建機部門はほんの4年前には中国で年間3,000億円以上を売り上げていた。それが今年は、半期でわずか約350億円です。市場回復の兆しは見えない。新しい建機を売りまくるビジネスモデルが通用しないので、メンテナンス事業などで稼ぎを取りこぼさないように注力しているのが現状なのです」
コマツの建機は中国ビジネスの成功の代名詞だったが……〔PHOTO〕gettyimages
開発ラッシュに沸き、都市のあちらこちらで建機が砂埃を巻き上げていた光景は、ほんの少し前まで各地で見られた。が、経済が失速を始めると、開発案件は軒並みストップ。中国ビジネスで「わが世の春」を謳歌した大手企業を一転、奈落の底へ突き落としている。
コマツに次ぐ国内2位の建機メーカーの日立建機も惨状は同じ。同社の主力商品である油圧ショベルの中国における需要データを示す資料によれば、直近の10月は前年同月比で▲43%と目も当てられない。さらに見ると、9月は▲49%、8月は▲51%、7月は▲52%、6月は▲54%と、コマツ同様に「需要半減ショック」に襲われていることがわかる。
中国で油圧ショベルの評価が高いコベルコ建機の社員も言う。
「中国ビジネスが難しいのは、上下の反動が大きすぎて、常識では考えられないような動きをすることです。毎年、春節(2月)明けの3~4月が建機の販売ピークで、普段の月の4倍ほど売れます。それが今年は、控えめに見積もった販売目標にも届かなかった」
中国経済は2ケタの驚異的な成長を続ける黄金期こそ終了したが、今後は7%前後の成長率は維持できる「新常態(ニューノーマル)」に入っていくから安心ーー。中国政府はそう喧伝しているが、足元で起きていることは新常態というより異常状態にほかならない。
アクセル全開で走っていたところに急ブレーキをかけたかのような景気の失速に、中国ビジネスを手掛ける企業各社は大パニック。どこまで経済が落ちていくのか、その一歩先も見通せない恐慌状態に脅え出した。
■とうとう「市場縮小」が始まった
自動車メーカー各社はいま、「市場縮小」に慌てふためく。
変調が始まったのは今年4月。景気の先行きを不安がりだした中国市民の消費が一気に冷え込み、右肩上がりだった新車販売が前年同月比でマイナスに転落した。実質的にマイナス転落したのは反日デモが吹き荒れた'12年以来だが、4月以降も5月、6月、7月、8月と前年比マイナスが止まらず、市場が収縮モードに突入したのである。
トヨタ社員が言う。
「独フォルクスワーゲンや米ゼネラルモーターズ、韓国の現代自動車などの外資各社が、中国市場の旺盛な需要を取り込もうと、工場増設などで生産能力を引き上げた矢先のことだった。
そこへきて急激に車が売れなくなったから、在庫が一気に膨れ上がった。外資系メーカーは在庫一掃セールさながらで値引き競争を仕掛け、『100万円値引き』まで出た。利益を削ってでも数を売ろうとする消耗戦になっている」
10月には焦った中国政府が減税措置のテコ入れ策を講じて、販売数は立て直した。が、それは需要を先食いした一時凌ぎにすぎない。追い打ちをかけるように、中国の株式市場で株価が暴落すると、市民の消費意欲はまた減退、株価下落→販売減→在庫増→値下げ・・・という負のスパイラルに陥ろうとしている。
前出のトヨタ社員が言う。
「今年度は、自動車各社の中国工場稼働率が5割まで落ちると言われるほどです。現代自動車はあまりの不振で、販売台数の開示を一時見送っていた。日本勢は過剰な値引き競争には参戦していませんが、利幅は薄くなってきた。
トヨタはこの半期で中国での販売数を伸ばしたのに、中国分の利益は100億円弱の減益。会社全体で慎重な業績見通しを立てているのも、チャイナリスクを意識すれば慎重にならざるを得ないからです」
巨大工場を作った矢先に市場が萎み、格安競争に走る大手企業が軒並み巨額赤字に陥った「デフレ末期の日本」に似た風景になってきた。
■撤退したくてもできない
実際、中国のモノの「売れなさぶり」は尋常ではない。元産経新聞北京特派員でジャーナリストの福島香織氏が言う。
「今秋に北京に行きましたが、2000年代前半には中国最大のショッピングモールとまで言われ、大勢の人でごった返していた『SOHO現代城』に人がいない。高級ブランドコーナーは閑古鳥が鳴き、店員が暇そうに私語をしていた。
人気の複合商業施設だった『銀河SOHO』もガラガラで、テナントは空き店舗ばかり。家電量販店などが集まり、北京のシリコンバレーと言われる『中関村』も元気がない。中国人はネットで安いモノを探して買うばかりです」
こうした事態を受けて、仏高級ブランドのルイ・ヴィトンが一部店舗を閉店するなど、企業の「撤退戦」が加速。日本勢もその波に呑まれ、撤退や合弁解消、事業構造転換などを余儀なくされるところが続出している。
カルビー社員が言う。
「中国では合弁会社を作って『かっぱえびせん』などを製造・販売していましたが、この11月に合弁を解消しました。われわれの商品は7~8元(135~155円)なのですが、現地メーカーの類似品は5~6元で売ってくる。年間500億円の売り上げ目標を立てていたが、実際は5億円。厳しかった」
パナソニックは'80年代から中国でのテレビ生産を手掛けてきたが、今年年初に工場を閉鎖し、中国でのテレビ自社生産から撤退した。パナソニック幹部が理由を語る。
「韓国や台湾企業との激安競争がもう限界を迎えている。かつて『松下』のテレビは中国で一大ブランドでしたが、いまは安いことが重視される。中国では人件費も上がり、一般消費者向けの商売はきつくなるばかり。だから工場も閉鎖し、事業転換して、業務用ビジネスへ路線をシフトする決断をくだした」
日本勢が巨大市場の中国を目がけて、大企業から中小企業まで、我先に新規ビジネスを始めようと進出ラッシュに沸いたのはほんの数年前のことである。それがいまは、乗っていれば沈んでしまう泥船から逃げ出すかのような地獄絵図と化している。
「中国では飲料用缶を製造販売していましたが、価格競争が激化した。これ以上続けても利益が取れないという状況になってきたので、早々に撤退を決意しました」(東洋製罐グループHD社員)
中国事情に詳しいジャーナリストの姫田小夏氏も言う。
「中国でビジネスをする日本企業の集まりが今夏にあったのですが、いかに撤退するかという話題で持ちきりでした。実は、中国事業の撤退というのはそう簡単にはできない。
まず、従業員を解雇するための労使交渉が非常にタフネゴシエーションで、巨額の補償金をふっかけられるリスクがある。また、日本企業が撤退すると地元の雇用が減るので、地方政府の役人が申請書類を受理しないなどの手を使って、抵抗してくる。
外資系企業の中には、こうした事情をわかっていて、夜逃げ同然で逃げ出すところが少なくない。しかし、日本企業は真面目でそこまでできない。事業がうまくいかずに赤字が膨らむのに、撤退できないという二重苦にもがき始めている」
■「マカオの悲劇」が日本を襲う
すべり落ちる中国経済が、日本企業を、日本経済をむしばむ。それはいま始まったばかりで、本格化するのはまさにこれから。2016年はテロよりチャイナリスクの猛威が日本全体を巻き込んでいくことになる。
クレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏が言う。
「中国経済が悪化する流れは当面変わりません。実は中国の不動産バブルはすでに崩壊している。が、それを表面化させないために、不動産投資をしている大企業などに金融機関が追い貸しをしているのが実態です。
これは時間稼ぎをしているだけでいずれ限界を迎える。そのとき、不動産投資をしている大企業が破綻する可能性もあり、そのショックは日本の輸出企業を中心に波及し、日本の株価を引き下げる」
日本総研副理事長の湯元健治氏も言う。
「中国の株式市場はいま落ち着きを見せていますが、安心はできません。中国企業の債務残高は莫大で、GDPに占める割合が約157%。日本企業が'80年代のバブル時にGDP比で約132%の債務を抱えていたことを思えば、これが不良債権化したときのインパクトははかりしれない。
こうした実体経済の問題がクローズアップされれば、再び今夏のような暴落劇が起きても不思議ではない。その時は世界同時株安になる可能性があり、日本株も逃れられない」
中国人観光客による「爆買い消費」もそろそろ終わる。
すでに兆候が出ていて、これまで爆買い消費に支えられて業績絶好調だった大手百貨店の11月の売上高が、前年同月でマイナスに転じた。百貨店業界では、「マカオの悲劇」が日本を襲うとの声も聞こえてきた。
マカオの悲劇とは、中国からのVIP客で沸いていたマカオが、中国経済の失速などで客足が途絶え、収入の激減が止まらないことを指す。その実態は凄まじく、マカオのGDPは7-9月期が前年同期比で約24%減、4-6月期も約26%減と、一経済圏のGDPを大きく揺るがすほどになっている。
いま日本経済は2四半期連続のマイナス成長だが、中国人の爆買いによってなんとか支えられている面が大きい。この支えがなくなれば、景気は足場を失って崩れ、本格的なリセッション(不況)に突入するだろう。
「これまで中国経済に強気の姿勢を見せていた日本銀行も、態度を変えた。12月2日、岩田規久男副総裁が岡山県での懇談会で、『最も重要と考えているのは、中国経済が一段と減速し、わが国経済に悪影響を与えるリスク』との旨を語り出した。日銀が警戒し始めた意味は重い」(全国紙経済部記者)
中国市場の死は、きっとサドンデス(突然死)として訪れる。その日を指をくわえて待つのではなく、もう動き出したほうがいい。
「週刊現代」2015年12月19日より
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