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「長野の小さな食堂」が7000万円脱税 〜真面目と評判の夫婦がなぜ?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46712
2015年12月12日(土) 週刊現代 現代ビジネス
木曽川の源流に位置する村で起きた「巨額脱税」事件。その舞台は寂れた食堂だった。真面目で実直だと評判の夫妻だっただけに、地元住民は「まさか」と口を揃える。だが、国税当局は見逃さない。
■村は噂でもちきりに
江戸と京都を結んだ中山道六十九宿—。その真ん中に位置する「薮原宿」は江戸時代、木曽路を行く旅人が疲れを癒やす宿場町として栄えた。
木曽川沿いにある小さな集落は、現在、長野県木曽郡木祖村薮原と名前を変えた。江戸時代の活気を思い起こさせる風情は、ほとんど残っていない。旧中山道と並行するように走る国道19号線が整備されてからというもの、宿場町を通る人はめっきりと減り、村は廃れていく一方だ。
地方に行けばどこででも目にしそうな、寂れた宿場町。そんな村で起きた巨額脱税事件が、このところ村人たちの格好の話題となっている。
発端は11月16日付の朝刊だった。木祖村で食堂を経営する夫妻が母親から3億3000万円の遺産を相続し、そのうち2億5000万円を隠していたと報じられたのだ。約7000万円を脱税したとして、関東信越国税局から長野地検に告発され、長野地検は翌17日に夫婦を在宅起訴した。
夫妻の名前は仮に、水原邦雄氏(68歳)、高子氏(68歳)とする。彼らは国道19号線沿いで「やぶはら食堂」を親の代から営んでいた。
近隣住民がこう話す。
「静かで小さな宿場町ですけど、いまは水原さんの話題で持ちきりですよ。本当なら(同じ木曽郡出身の力士)御嶽海の新入幕初勝ち越しでもっと盛り上がっているはずなんですけど、やっぱり脱税のほうが気になります。二代にわたって食堂をやってきただけで3億円なんて、どうやったらそんな大金を貯められるんでしょうかね。以前から売り上げを過少申告していたんじゃないか、なんて言う人もいますよ」
実際に食堂を訪れると、営業こそしているものの、外壁はくすみ、屋根のペンキは剥がれ、見るからに寂れた印象だ。
開店休業状態の店内に足を踏み入れると、田舎の小さな食堂というだけでこれといった特徴はない。「忍耐」と大きく書かれた、野口英世の手になる書が額装されて飾られている。無論、複製だろう。今出せるメニューはラーメンだけだという。
住民が言うように、ここで3億円を超える巨額の蓄財が可能だったとは到底思えない。夫妻の弁は後で紹介する。
やぶはら食堂は'60年代後半、国道19号線が新しく整備された頃に高子さんの両親が開業した。
当時を知る同じ地区の飲食店経営者の話。
「目の前の国道を走る長距離トラックの運転手さんや工事の関係者の人が毎日ひっきりなしに『やぶ食さん』(現地の人はこう呼ぶ)を訪れていました。昭和50('75)年頃から(新鳥居)トンネルの工事が始まって3年半後に完成したんだけど、その頃は常にお昼時は満員でした。店の前の大きな駐車場にも車が入りきらないほどでね。昭和の頃が一番儲かっていたはずです。儲けてもこんな田舎町じゃ使うところもないし、貯まる一方だったのかもしれません」
一人娘だった高子氏の元へ邦雄氏が婿入りし、婿養子となる。食堂の跡取りに収まった邦雄氏の評判は、すこぶるいい。
親族の一人は彼をこう評する。
「実直な働き者です。文句ひとつ言わずに、夏の暑いなかも、寒さの厳しい冬も仕事を続けてきました。『やぶ食』は、地元では人情もあって、味もいいと評判ですよ。先代のおじいちゃんが'91年に亡くなってからは彼が食堂の味を守り、おばあちゃんと妻と休みなく店を開けていました」
■「頼れるものはおカネだけ」
時代とともに人の流れは変わっていく。工事が終わり、国道沿いにコンビニエンスストアができたことで、やぶはら食堂はかつての賑わいを失っていった。'10年にはすぐ近くに「道の駅」が新設され、それ以降、開店休業が長く続く。
高度経済成長とともに成長し、その役割を終えた食堂の姿を見届けるように、'12年1月、高子さんの母親が亡くなる。86歳だった。
「亡くなったおばあさんは若いころから気が強くて、商売上手な人でした。おじいさんが亡くなってからは、おばあさんが店を切り盛りしていた。病気になりお店に出られなくなってからもずっと金庫は握っていて、『頼れるものはおカネだけ』とよく言っていましたね」(前出の飲食店経営者)
水原夫妻には子が一人いて、高子さんの母親は、娘夫婦や孫名義での預貯金を積み立てていたという。法定相続人は3名で、死亡時に夫妻が申告した遺産は約8000万円。当時なら相続税がかからない上限の金額だった(今年から相続税法が変わり、法定相続人が3名の場合、4800万円を超える相続から相続税が発生する)。相続に詳しい税理士が解説する。
「子や孫の名義で預金する、いわゆる『名義預金』は古典的な節税方法ですが、今は通用しません。たとえば、子供が生まれたときにその子の名義で銀行口座を作ります。贈与税のかからない範囲で毎年110万円ずつ貯金したとして、成人すると2200万円。このおカネは子供名義だから、親が死んでも遺産として申告する必要がないと考えがちですが、そうではありません。通帳の管理を親がしていて、贈与の実態がなければ、親の財産です。それは相続税の申告対象になるというのが、当局の判断なんです」
水原家の場合、夫妻やその子供の名義で2億5000万円もの預貯金があり、それを申告しなかった容疑で、今回起訴されたわけだ。どうやってそこまでの金額を貯めることができたのか。水原家の知人はこう推測する。
「いくら稼いでも、稼いだおカネを使う暇がありません。飲食店は毎日のように店を開けなければならないから、旅行にも行けない。おばあさんが宝石好きだなんて、聞いたこともないし、株も土地も持っていない。
だから、利率のいい時代に生命保険や定期預金をいくつも持っていたという話に地元ではなっています。おじいさんが亡くなって、しばらく経ってから会ったときに、夫の満期になった保険に手を付けていないと話していましたし、保険料の支払いが大変だとも言っていました。夫の保険金や自分の年金保険などで手にした現金を、子供や孫の口座に移し替えていたのではないでしょうか」
■なぜバレたのか
税務署は資産家たちの資金の流れを絶えず洗っている。今回のケースでは母親が亡くなってから8ヵ月後に夫妻が相続税を申告し、その時から調査が始まった。
「まずは税務署が遺産を調べます。税務署はある程度、土地に根付いて調査をしていますので、亡くなった人が商売をしていた場合、このくらいの資産があるだろうと目星がつきます。それと照らし合わせて、申告された額が少なければ、本腰を入れて調査する。
今回のケースは名義預金ですが、実は税務署はある程度、預金口座を把握しているんです。日常的に金融機関を調査していますが、怪しい口座があれば、その情報をストックしていますからね」(元国税査察官)
たとえば、こんな具合だ。税務署が別の「水原」姓の人物が関係する会社の税務調査を行っていたとする。税務署は金融機関にその人物の口座照会をかけるが、金融機関やマスコミにどこの誰を調べているかバレないよう、同姓で無関係の人の口座なども合わせて問い合わせるという。
その際、多額の現金があり、動きがないような怪しい口座を発見すれば、その情報をストックしていくのだ。元国税査察官が続ける。
「名義預金を発見したとき、すでに贈与の発生から5年以上が経っていたとします。租税の時効は5年ですから(悪質な場合は7年)、通常調査では持ち主に対して何もできません。こういう場合は、親が死ぬのを待って、相続のときにガバッと課税するわけです」
税務署が怪しいと睨めば、管轄の国税局査察部に通報し、査察部が再度精査。彼らが悪質だと判断した場合は検察に告発する。調査を終えるまでに3年程度かかることはザラだ。今回のケースでは妻の母親が健在なうちから、税務署が子や孫の銀行口座をリストアップしていた可能性が高い。
「個人商店や自営業者の場合、日頃から少額の売り上げ隠しをしていたり、あらゆる生活費を経費で落としたりといった『行き過ぎた節税』をしているケースが非常に多い。当然、国税はサラリーマンよりも自営業者に対して厳しく監視の目を向けるんです」(国税OB)
■国税は突然、やって来る
では、水原夫妻には脱税をする意図はあったのだろうか。両人は本誌の取材にこう話した。
「悪意があってしたことではありませんでした。(国税局に)指摘されるまで、自分たち名義の通帳があることも知りませんでした。税金の知識がなかったために世間の皆様をお騒がせして、ご迷惑をおかけしたことを反省しています。いまは税理士さんや弁護士さんから何も語るなと言われていますので、これで失礼いたします」
前出とは別の親族は、水原夫妻を擁護する。
「新聞に出てから、邦雄さんから身内に対して『新聞に出ていることは事実ですので、悪いことを言う人や店に来てくれなくなった人もいますが、僕は頑張って仕事をするだけです。お得意様がいる限り、店は開け続けていきます』と説明がありました。本当に悪知恵なんて働く人間ではないですよ。だったら、専門家に頼んでいますよ。
夫婦はとにかく大変なことをしてしまったと落ち込んでいます。それでも店を開けているんです。そんな苦労しなくても生活していけるのに。でも、遊んでこなかったから、遊び方も知らないんですよ。国は弱い者、知識のない者を虐めて何がうれしいんでしょうか」
たしかに水原夫妻は結果的に相続税を逃れたかもしれない。だが、指摘を受けて修正申告し、納税を済ませたという。税務署長の経験がある税理士は、水原さんはスケープゴートにされたのではないかと指摘する。
「もし本当に自分の名義預金があったことを知らなかったのだとすれば、修正申告に応じて重加算税を含めて納税すればいい事案です。しかし、国税局は悪質性があると判断し、告発に踏み切ったのでしょう。量刑は懲役1年半、執行猶予3年、罰金が4500万円といったところでしょうか。ただ、相続で7000万円の脱税というのは微妙な金額です。東京国税局ならば告発せず、修正申告だけで終わらせた可能性もあります。
今年、相続税の控除額が引き下げられ、多くの中流家庭でも納税義務が生じるようになりました。今回の事案は、当局が社会に対し『ちゃんと見張っているぞ』とシグナルを出すために仕掛けた『一罰百戒』的なものではないかと思います」
今後、マイナンバー制度が整備されていけば、国民の銀行口座の動きは今よりも格段に国税当局に把握されやすくなる。本人が知らない、または忘れていた口座まで当局に察知されるのだ。
親が良かれと思って子供や孫名義で貯金をしてくれていた場合、誰もがある日、徴税権力=国税局から「脱税」で告発される可能性がある。長野の小さな食堂の話は、決して他人事ではない。
「週刊現代」2015年12月12日より
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