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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第153回 御用学者
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週刊実話 2015年12月17日号
去る11月24日、典型的な“財政破綻論者”であり、財務省の代表的な御用学者の一人でもある東京大学大学院の吉川洋教授が会長を務める財政制度等審議会(以下、財政審)が、来年度予算案の編成に向けて、2015年度からの社会保障費の伸びを5000億円弱に抑えることを柱とする意見書を麻生財務大臣に提出した。財政審は財務大臣の諮問機関であり、事実上、財務省の“広報機関”でもある。
各省庁が8月に提出した'16年度予算の概算要求において、社会保障費は対'15年度予算比で6700億円増加となっている。財政審の提言を実現するためには、1700億円超も削減しなければならない。
財政審が提言した社会保障費の削減とは、具体的には医療機関に支払われる診療報酬の引き下げだ。診療報酬は慣例で2年に一度、改訂されている。診療報酬を1%引き下げると、政府の支出は約1100億円減る。診療報酬のみで財政審の提言を満たそうとすると、約1.5%の引き下げが必要になる。
そもそも現在のわが国は、デフレという需要不足に悩んでいる。診療報酬は、政府最終消費支出というGDP(=需要)の一部になる。政府が診療報酬を削ると、当たり前の話としてデフレは悪化する。
しかも、2008年まで続いた診療報酬の削減により、日本は極端な医師不足に陥ってしまっている。OECD諸国の人口1000人当たり医師数の平均は3人だが、日本は2人にすぎない。しかも日本の医師数は、医療機関で働くことができない高齢医師や産休を取っている女医などをすべて含め、水増しした状況でOECD平均の3分の2なのである。実際には、OECD平均の半分強といったところではないだろうか。
今後の日本政府が、財政審の提言通り診療報酬をさらに削減していくと、当然の話として医師不足は深刻化し、わが国の医療サービスは「質の低下」に直面することになる。すなわち、日本国民が良質な医療サービスを受けられなくなる可能性があるのだ。
診療報酬削減には、日本医師会などが反対するだろう。読者には、医師会を「既得権益」とやり玉に挙げ、診療報酬削減を後押ししようとするプロパガンダに乗せられないでほしい。診療報酬が削られ、医療サービスの品質が落ちたとき、悪影響を受けるのはわれわれ日本国民なのだ。
ところで、1999年の時点で、財務省が主導する「削減前提」の社会保障費や財政の在り方について警鐘を鳴らした人物がいる。東京大学のX教授(後述)が'99年に岩波書店から『転換期の日本経済』を刊行し、社会保障と財政について以下の通り主張したのである。
「社会保障制度の基本に立ち返り、どのようなシステムを設計するかではなく、ともかく財政赤字を抑制するためには数字の上でどのようなことがなされなければならないか、という議論が先行してきた。そのために『国民負担率』をめぐる議論と同じように、社会保障を抑制しないと日本経済が『破局』をむかえるというプロパガンダが使われてきた」
財務省が主導する緊縮財政路線を「プロパガンダ」と糾弾し、「財政や社会保障の本質的な意義を思い出すべき」という主張である。
実にまっとうで、納得がいく主張だ。社会保障制度の基本とは、国民の助け合いである。「国民の助け合い」という価値観の定義については、それこそ国民や政治家が議論し、社会保障制度を設計もしくは改修していけばいいのである。現在の財務省による「削減額という数字」のみが先行する議論は、明らかに間違っている。
大変残念なことに、X教授が『転換期の日本経済』を刊行した16年後の今日も、財務省は相変わらず「社会保障を抑制しないと日本経済が破局を迎える」といったプロパガンダを拡散し、吉川洋教授ら御用学者を広告塔として使い、デフレ下の緊縮財政を継続している。
社会保障費という需要を削減した結果、わが国はデフレ脱却を果たせず、GDP成長を取り戻すこともできず、財政悪化も続いている。税収の源たるGDPが拡大しない限り、財政は健全化しない。財政が悪化すると、またもや社会保障費(=需要)を抑制する、という悪循環に突入してしまうわけだ。
まさに『転換期の日本経済』を書いたX教授の懸念通りに、現実が進行したのである。そして、現在の日本で社会保障制度の基本を無視し、日本財政破綻論という嘘のプロパガンダに則り、社会保障の抑制を進めようとしているのが、吉川洋教授率いる財政審の御用学者たちという話なのである。
さて、'99年に『転換期の日本経済』を書いた人物が誰なのか、お分かりだろうか。X教授とは誰なのか…。
もちろん、冒頭の東京大学大学院、吉川洋教授である。すなわち、現在は財政審の会長を務め、社会保障の基本を無視した緊縮路線推進のために全力を尽くしている吉川洋教授、その人なのだ。
これが、日本の現実だ。
学者たちが、財務省の緊縮路線を推進するため、平気で「まっとうな主張」を翻す。理由が権力なのか、名誉なのかは知らないが、学者としての良心のかけらも持たない御用学者たちの存在こそが、わが国の病を象徴しているのだ。
このまま財務省や財政審が提言する診療報酬の削減路線が推進されると、デフレが深刻化すると同時に、わが国の医療サービスの質は下がらざるを得ない。すでにして、現場の医師たちは人手不足の中、過労にあえいでいるのだ。
なぜ、こんなことになってしまったのか−−。まさしく、'99年の吉川教授が懸念していた通り、社会保障制度の基本を無視した緊縮財政路線が推進されてきたためである。
そして、16年後の2015年、その吉川教授が、自らが手厳しく批判していた“社会保障制度の基本”を無視した緊縮財政路線の先頭を走っている。繰り返すが、これが日本の現実なのである。
この手の御用学者が政界を跋扈している限り、わが国が「経世済民」を取り戻す日は訪れないだろう。
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。
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