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新3本の矢(「首相官邸 HP」より)
低所得層に現金を配る政策はそろそろやめるべき…「一億総活躍社会」という妄言
http://biz-journal.jp/2015/12/post_12821.html
2015.12.11 文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授 Business Journal
11月26日に政府が発表した「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策」(以下、一億総活躍社会)は、安倍政権の第2弾の経済政策の中心的なコンセプトといえる。
第1弾のアベノミクスは金融政策を重視しつつデフレ脱却を目指した。今回の対策は、経済の前向きな動きをより強力に推し進め、全国津々浦々、国民一人ひとりに成長の恩恵を届けることを目指している。
ただ、この政策の内容は表現の違いはあれ、歴代の政権が主張してきたことと大差ない。市場に驚きを与え、期待を高めるような内容ではないといえる。また、成長率の引き上げは中長期的な取り組みだ。それを、短期的な経済対策として進めようとしている点にも、やや違和感がある。わが国の生産年齢人口が減少する中、企業はひたむきに技術を磨き、イノベーションを進めるしかない。政府は企業の活動を支えつつ、海外の活力を呼び込むために市場開放、規制緩和などを積極的に進めるべきだ。
■新3本の矢
政策の根幹をなすのが“新3本の矢”だ。具体的には、(1)希望を生み出す強い経済(名目GDP600兆円)、(2)夢をつむぐ子育て支援(出生率1.8)、(3)安心につながる社会保障(介護離職ゼロ)である。
端的にいえば、新3本の矢は国内での消費や家計の行動を重視している。典型的な例として、給付の支給などが記されている。わが国のGDP成長率が2四半期続けてマイナスに陥り、回復の動きには足踏み感が出ている。そのため、政府は金融政策に依存してきた第1弾のアベノミクスに加えて新しい政策を提示することで、先行きへの期待をつなぎたいはずだ。ただ、考えるべきは所得の低い家計に現金を配ることよりも、どのようにして彼らに前向きに行動するインセンティブを付与できるかだろう。
また、600兆円規模の経済を目指すのであれば、首都圏だけでなく地方での暮らし、産業育成、企業誘致など、これまでの政策、地方分権を見直す必要も出てくる。それは長期的な取り組みであるはずだ。にもかかわらず、政府は一億総活躍社会の創出を緊急のテーマとして扱っている。その具体的な内容も、これまでに議論されてきた点が多い。そのため、政策の妥当性、持続力には疑問符が付きまといやすい。
では、市場はこの対策をどう見ているのか。株式市場の動きを見ると、一億総活躍社会への期待が株価を押し上げているとはいいづらい。市場を支えているものは日銀による異次元の金融緩和だ。そして金融政策は実体経済の強化にはつながらない。先行きも、景気が落ち込めば追加緩和への期待は高まりやすい。それは中長期的な成長力の強化にはつながらない可能性がある。追加緩和はやるべきではない。
■最も必要な要素はイノベーション
わが国に必要なことは、国全体でイノベーションを進めていくことだ。創造的破壊ともいわれるイノベーションは、決して難しいことではない。企業であれば技術やサービスの力を高め、グローバル市場での競争力をつけることに力を入れればよい。
すでに、自動車の分野では燃料電池で動くトヨタ自動車の「MIRAI(ミライ)」を筆頭に、世界の技術をリードする製品が実用化されている。政府はこうした取り組みを支えるために、産学連携や知的財産の保護、規制の緩和、そして競争意識を喚起する市場開放を進めればよいだろう。
幸いなことに、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉の大筋合意を受けて、わが国にはアジア太平洋地域へのアクセスチャネルが整備されつつある。新興国を中心にわが国のインフラ技術への需要は堅調だ。TPPの合意はアジア太平洋の市場開放を進め、一大市場での競争が進みやすくなると考えたほうがよい。競争原理が創意工夫を高め、効率性の上昇につながる。競争なくしてさらなる成長は期待しづらい。わが国の技術力を大いに生かすべく、この機を逃してはならない。それが真の意味での成長戦略になるはずだ。
以上、わが国はより長い視点で経済基盤の強化を考えるべきである。政府が景気の低迷に影響されすぎることなく、中長期的な視点での競争力の強化、イノベーションの発揮に注力することを期待したい。
(文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授)
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