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ECBのマリオ・ドラギ総裁 〔PHOTO〕gettyimages
ECB「大規模追加緩和」の可能性を徹底検証!〜ドラギ・バズーカは再び火を吹くのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46799
2015年12月10日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■マーケットは大きく失望
12月3日の欧州中央銀行(ECB)政策理事会の結果はマーケットを大きく失望させた。事前に期待されていた「大規模な追加緩和策」が発表されなかったためだ。
マリオ・ドラギECB総裁は、前回10月22日の政策理事会後の記者会見で、12月に大規模な追加緩和策を実施する用意がある旨の発言を行った。この直後から、ユーロレートは大幅に下落した。例えばドル・ユーロレートは、10月の政策理事会前(10月21日)の水準である1ユーロ=1.1345ドルから、12月2日は同1.0573ドルへと6.8%も減価した。
このユーロ安の流れを受けて、ドル・ユーロレートは「パリティ(すなわち、1ユーロ=1ドル)」まで低下すると予想する金融機関も出てくる状況であった。
だが、12月3日にドラギ総裁が提示した追加緩和のメニューは極めて限定的であった。
具体的な追加緩和措置は、@金融機関がECBへ預け入れる預金金利を-0.2%から-0.3%へ0.1%pt引き下げる(マイナス金利政策の拡充)、A資産買い入れプログラムを6ヵ月延長して2017年3月までとする(毎月の買い入れ額は600億ユーロで変更なし)、B買い入れ対象資産に新たに地方債を追加する、というものであった。
マーケットは、これらの追加緩和措置に失望し、マーケットでは急激な巻き戻しが起こった。例えば、追加緩和策発表後の為替市場では、1ユーロ=1.09ドル近辺までユーロが上昇した(ただし、その後は比較的落ち着いた展開である)。
ECBの金融緩和は「万策尽きた」のだろうか? 今回は、このECBの追加緩和策のメニューをいくつかの観点から評価してみようと思う。
■0.1%の引き下げでは全く効果がない
まずは、「マイナス金利政策の拡充」である。これがどの程度の効果があるかは、ECBの「潜在政策金利」をみればよい。
11月末時点で、ECBの「潜在政策金利」は-5.18%である。この潜在政策金利は、リーマンショック前までのユーロ圏の名目GDPのトレンドと実際の名目GDPの乖離率(ここでは、便宜上、「名目GDPギャップ」と呼ぶことにする)にほぼマッチした動きをしている(図表1)。
金融政策が効果をもたらしているとするならば、この「名目GDPギャップ」と潜在政策金利はともにゼロ%に向かって上昇するはずである。だが、実際には、両者とも下落を続けている。これは、リーマンショック後のユーロ圏経済の停滞がますます強まっており、現行の金融政策スタンスでは、停滞を抜け出すメドが全く立っていないことを示唆している。
このような厳しいマクロ経済環境の中、ECBは資産買い入れプログラムによる量的緩和と同時に「マイナス金利政策」を導入している。この「マイナス金利」と「潜在政策金利」の関係だが、まず、「潜在政策金利」の意味をおさらいしよう。
「ゼロ金利制約(正確にいえば、ECBの場合は、ECB勘定の預金への預け入れ金利が最低金利水準となる)」が存在しないと仮定した場合、現在のマクロ経済環境下ではどの程度の政策金利にならないと経済が刺激されないかを示している指標である。
つまり、ECBがマイナス金利政策によって、金融機関に、ECBの超過準備に資金を「滞留」させるインセンティブを低下させ、なんとか、投資活動を拡大させようとするのであれば、潜在政策金利よりも低い(すなわち、マイナス幅が大きい)状況にしなければ効果が出ない。
わかりやすくいえば、多くの金融機関は、現時点で、資金を融資等に回した場合、年間5%程度の損失を被るリスクがあるが、ECBの預金勘定に預けておけば、その損失は0.3%にとどまるということだ。
この状況を変える(すなわち、金融機関に融資を促す)ためには、預金金利を潜在政策金利より低い水準にする必要がある。現在のECBの場合、それは-5.18%未満の水準(例えば、-5.5%)となる。
よって、今回のようなわずか0.1%の引き下げでは効果は全くないと考えた方がよい。「何かしら追加緩和のメニューを提示しないといけないので、とりあえず出してみた」というアピール以外の何物でもないと考えた方がよいだろう。
■ユーロ圏の国債利回りはかなりの低金利
次に、資産買い入れプログラムの適用期間の延長だが、これは、量的緩和の規模を変えずに適用期間を延長するものである。
一般論でいえば、これは緩和期間の延長を意味するので、長期金利の低下余地が大きければ、国債のイールドカーブをさらにフラットにする(つまり、長期金利全般を低下させる)はずである。
だが、現在のユーロ圏の国債利回りは他の先進国と比較してもかなりの低金利である。例えば、ドイツの10年国債利回りは現在、0.60%程度である。資産買い取りプログラムが半年延長されることで、出口政策が遠のくとの期待が債券市場に発生したとしても、ただでさえ、低水準の長期金利に大きな影響を与えるとは考えにくい。
ただ、この政策が効果を上げる経路として、資産買い入れプログラムの適用期間の延長によって、これまではデフレ解消に懐疑的であったマーケット参加者が、ユーロ圏のデフレが適用期間内に終わると考え直し始める場合があるかもしれない。
つまり、人々は、従来の資産買い取りプログラムの期限である2016年9月までにユーロ圏がデフレを脱却することは無理だと考えていたが、これが延期されて2017年4月までプログラムを続ければ、2016年10月から2017年4月の間にデフレが解消できると考える場合である。
この場合は、2年後から2年半後の予想インフレ率が上昇することが想定され、その結果、ユーロ圏の国債のイールドカーブは長期ゾーンが上昇し、スティープニング化するはずである。
この政策の効果が発現しているか否かは、今後の国債利回りの動きをみて判断するしかないだろう。
■資産買い入れプログラムは限界に来ている?
最後に、新たな買い入れ対象として、地方債を追加する件だが、筆者は、これは、ECBがこれ以上の国債買い入れに限界を感じ始めた結果ではないかと想像している。
従来から、筆者は、ECBの資産買い入れプログラムが順調に実施されるか疑念を感じていた。だが、現時点までの実績は、筆者の疑念が杞憂であったことを示している。
図表2は、今年3月時点(ドラギ総裁が最初に量的緩和を決めた時点)で想定された量的緩和実施後のマネタリーベース残高の予想値と10月末時点までの実際の残高を示したものである。
これをみると、現時点までは、ECBの想定通りのマネタリーベースが供給できていることがわかる。その意味で、ここまではECBの量的緩和は順調に進捗していると考えられる。
ただ、国債買い入れをメインとした資産買い入れプログラムは限界に来ている可能性がある。その一つの理由は、流通している国債の発行残高が足りない可能性である。
現在、ユーロ加盟国で財政リスクが小さい国の国債は中期債あたりまでマイナス金利となっているが、これは、金融機関による国債保有(国債での運用)需要が強いということであろう。
このような状況下でさらにECBが国債を金融機関から買い取るには限界が出つつあるため、買い取り対象を地方債にまで広げた可能性がある。
さらには、ECBが買い取っている財政リスクの小さい国債の利回りはかなり低下しているため、量的緩和の効果として長期の金利の低下による景気刺激を考えると、その効果は低下していると考える。そのため、国債と比較すれば、利回りが高くさらなる金利低下余地のある地方債を新たに買い入れ対象にした可能性もある。
とにかく、地方債を新たな購入対象にすることによって、計画通りにマネタリーベースが供給できれば、今回の緩和措置には意味があったと考えることも可能であろう。
■総裁の追加緩和策は不十分だったのか?
ところで、ECBによって供給されてきたマネタリーベース残高をみると興味深いことがわかる。それは、2002年4-6月期から2008年7-9月期までの期間、マネタリーベースがほぼ一定(年率で6.5%弱)のペースで拡大していたという事実である(図表2を参照)。そして、この期間のユーロ圏の消費者物価指数は平均2.3%程度で極めて安定的に推移していた。
また、マネタリーベースの供給量は、名目5%成長を目標とした場合の最適供給量を多少上回るペースで供給されていた(図表3)。さらに、この最適供給量と実際の供給量との乖離率はユーロ圏のインフレ率とある程度関係がありそうにみえる(図表4)。
特に、2012年から始まるユーロ圏のデフレ圧力の高まりは、同時期の加速度的なマネタリーベースの削減によってもたらされた可能性が高い。
そして、両者の関係が今後も維持されると仮定すれば、2017年の4-6月期頃に、ユーロ圏のインフレ率が2%に到達する可能性もあながち否定できない。
ただし、問題は、「今後も従来のペースでマネタリーベースを供給できれば」という条件が成立するか否かである。そして、ドラギ総裁は、これまでの供給ペースの維持可能性にやや疑問を持ったので、買い入れ対象に地方債を入れたのではないかと想像している。
以上のように考えると、今回のドラギ総裁の追加緩和策が不十分だったかどうかは、まだ判断できない。また、今後のECBによる追加緩和の可能性は、量的緩和によるマネタリーベースの供給ペースを維持できるのかという点と、マネタリーベースの拡大がインフレ率の上昇に波及するか否かに依存している。
よって、今回のドラギ総裁の判断は、マーケットやユーロ圏経済にとっては中立的であると考えられるし、来年も引き続き大規模追加緩和の可能性は残されている。その意味で、ユーロ安のトレンドも変わらないのではないか。
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