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銀座を走る観光バス(「Thinkstock」より)
爆増の中国人観光客、ただ迷惑ばかり!恩恵は一部の店だけ、大半が呼び込み狙い無駄金浪費
http://biz-journal.jp/2015/12/post_12795.html
2015.12.09 文=小川裕夫/フリーランスライター Business Journal
12月1日、「2015年ユーキャン新語・流行語」が発表された。その大賞に「爆買い」が選出されたことからもうかがえるように、今年は東京の街に多くの外国人観光客が闊歩する光景が見られた。訪日外国人観光客が日本国内で消費した金額は買い物だけで年間3兆円と推計されている。その象徴ともいえる中国人観光客の爆買いは、冷え込む国内消費を押し上げると政財界から期待が寄せられている。
日本の輸出産業は円安で好調だと伝えられているが、自動車や化学製品などを除けば多くの輸出品は伸び悩んでいる。観光は輸出産業ではないが、外貨を獲得するという意味では輸出産業と比較されることが多い。
買い物だけで3兆円も消費が生まれるとなれば、宿泊や交通、飲食、アクティビティなどの関連産業はさらに活性化するはず――特に爆買いで金を湯水のごとく使う中国人観光客の懐を狙った誘致キャンペーンが全国で展開されている。
一例を挙げれば、ワタミは基本事業である格安居酒屋「和民」が業績不振に陥ったために、高級志向に業態転換した「銀政」をオープンさせた。その東京・六本木店は客を外国人観光客限定にしている。また、老舗百貨店などでも外国人専用ラウンジを設置して、外国人観光客の囲い込みを始めている。
これらは外国人限定と銘打っているが、実質的には中国人観光客をターゲットに据えていることは明白だ。爆買いを狙った店づくりは多くの店で進められているが、観光業界関係者からは中国人観光客だけに迎合する姿勢に疑問の声が出始めている。
その理由は、中国人観光客の購買行動にある。中国人観光客は、成田国際空港・東京国際空港(羽田空港)に到着した後、旅行代理店の用意したツアーバスに乗って一目散に東京を目指す。来日する中国人観光客の7割以上は旅行代理店が組んだ団体ツアーで日本に来ている。そのため、旅行代理店が組んだコース以外に足を向けることは、まずない。東京であれば銀座の家電量販店・ラオックスやドラッグストア・マツモトキヨシが中国人観光客の買い物をする場で、すこし金銭レベルの高い中国人観光客になると銀座の百貨店が加わる。
■ツアー会社が用意した店だけで爆買いを繰り返す中国人観光客
だが、いくら金を持っていても、中国人観光客がほかの店で買い物をすることはほとんどない。そもそも爆買い中国人は、代理店が決めた特定の店でしか買い物をしない。ある観光関係者はこう話す。
「日本では鉄道やバスなどの公共交通機関がわかりづらく、そのため外国人観光客が使いにくいという批判があります。しかし、インフォメーションセンターに来る外国人は基本的に個人の観光客。中国人観光客は団体ツアーなので、まずインフォメーションセンターに来ることはありません。観光業界では、中国人観光客が増えているので中国語を話せるスタッフを雇ったり、中国語のパンフレットを用意していたりしますが、ほとんど無駄になっています。もちろん個人旅行の中国人観光客もいますが、そういう中国人は英語や日本語がカタコトでも話せますので、特に中国語で対応しなくてもなんとかなります。中国人観光客のために、中国語のインフラ整備をすることは無駄なのではないかと思うことがあります」
中国人観光客が溢れる東京・銀座では、中国人観光客の恩恵にあずかれる店は少数。ところが大挙して押し寄せる中国人観光客は、集団で路上に座り込んで飲み食いしたり、騒いだりする。
「なかには託児所代わりに子供を店に放置して、その間に百貨店などで買い物をしている中国人観光客もいると聞きます。買い物でもしてくれれば、まだ我慢もできるのでしょうが、買い物をしてもらえない店からは不満が目立ちます」(同)
中国人観光客の大半は、東京−大阪間をツアー会社が用意した大型バスで移動する。銀座で買い物をしている間、バスは道路で停車して待つ。買い物に夢中になった中国人観光客は出発時間に遅れることも頻繁にある。そのために観光バスが道路を塞ぎ、渋滞を引き起こす。道路渋滞を緩和させるべく、行政は銀座や丸の内エリアで観光バスの駐車場を整備する必要に迫られている。しかし、前出の観光業界関係者は、それも無駄な費用をかけるだけで終わってしまうと指摘する。
「中国人観光客がここ2〜3年で急増した背景は、ビザ発給の要件が緩和されたことです。中国では都心部の住民から少しずつビザが緩和されていますが、日本へ観光に来るような中流層は一巡してしまった感があります。そのため、今後は中国人観光客の訪日が鈍化するのではないかという予測も出ています」(同)
中国人観光客は東京と大阪を回るだけで、ほかの都市に目もくれない。そのため、中国人観光客の爆買いは、ほかの国で起きている話のように聞こえると話す地方自治体や観光協会の職員も少なくない。
■中国人の爆買い向け施策はすべて無駄?
最新の観光庁の統計によると、通訳案内士の有資格者の31%は東京におり、もっとも多い。次いで神奈川13%、千葉7%、埼玉5%となっており、東京圏だけでも6割近い数に上る。これに、大阪9%と兵庫6%が加わる。つまり、訪日外国人を案内する人材が大都市にしかおらず、地方に誘導できていないのだ。
そのため、近い将来に「日本は飽きた」と中国人観光客から思われてしまい、一気に爆買いブームが終焉する可能性は否定できない。
観光庁や政府観光局は中国人観光客のリピーターを増やすべく、東京−大阪のゴールデンルート以外の観光地のPRに取り組んでいる。政府も2017年1月に沖縄県・東北3県に対して数次ビザが緩和するなど、地方誘客への後押しをしている。だが、目に見える効果は挙げられていない。
一方、中国以外のほかの国、例えばシンガポールやタイなどからの訪日観光客も増えつつある。シンガポールからの観光客は北海道、タイは山梨が人気で、地方経済への貢献も大きい。リピーターも増えているという。
「シンガポールは国土が狭いので、広い大地の北海道をドライブするのがウケています。またタイでは、日本人には無名の場所ですが、山梨県のお寺の境内から見える富士山の姿が大きな話題になっているようです」(観光庁幹部)
そんな中で、中国人観光客だけは相変わらず東京・大阪といった都心部で、しかも決まった店舗で買い物をしている。爆買いが目立つとはいえ、その経済効果に疑問が投げられるのは当然だろう。ある地方自治体関係者は、こう胸の内の不安を明かす。
「中国人観光客の爆買いを狙い、あちこちの市町村で中国語のパンフレットを制作したり、案内表示板を設置したりしています。なかには中国人観光客が押し寄せて嬉しい悲鳴を挙げている自治体もあるようですが、それらは少数でしょう。中国経済の好調がどのぐらい続くのか未知数ですし、日本に飽きてヨーロッパに目を向けてしまうかもしれません。2〜3年もしたら、中国人観光客は途絶えてしまうのではないかと心配しています。そうなると、中国人観光客を誘致するために整備したものがすべて無駄になってしまうわけです」
地方都市はどこも人口減少で税収が先細りしていくばかり。産業も衰退するなかで、中国人の爆買いに一縷の望みを託したい気持ちは理解できなくもない。仮に中国人観光客の誘致に成功して経済的に活況を呈しても、それは一時的なものでしかない。爆買い頼みは、いわば麻薬のようなものだろう。
目先の爆買いに惑わされることなく、国家100年の計ともいえるような、地に足の着いた観光戦略を政府や行政は打ち出すことができるだろうか。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)
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