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補正予算、新たな「バラマキ」懸念も…「一億総活躍社会」のまやかし、効果不透明
http://biz-journal.jp/2015/12/post_12787.html
2015.12.09 文=町田徹/経済ジャーナリスト Business Journal
報道によると、政府は近く歳出規模を3.3兆円程度に抑えた2015年度補正予算案を閣議決定し、来年1月に招集する通常国会に提出する方針だ。安倍政権の財政運営には首を傾げざるをえないことが多いが、今回の補正予算案は、それなりに自制が働いた堅実な編成と評価したい。
日本経済は、参院選が来夏に迫るなかで、四半期ベースの実質GDP成長率はマイナスもしくは低い数字が続き、今秋の関東・東北豪雨の災害対策費や、TPP(環太平洋経済連携協定)の批准に向けた農業対策費といった歳出圧力が高まっている折だ。それにもかかわらず、税収の上振れ分の一部を新規国債の発行減額に充てる決断をしたことは、遅ればせながら財政再建に取り組む姿勢を示したものといえるのではないだろうか。
今回の補正予算案の財源は、当初予算で想定したより1.9兆円程度の上振れとなった税収だ。企業収益の増加に伴って法人や個人の配当税収が膨らみ、15年度の税収が56.4兆円と史上3番目の高水準となる追い風が吹いたのだ。
そこで、政府はまず、新規国債の発行を当初予算比で0.5兆円近く減らすことにした。また、国債の利息収入を引当金に積み立てられるように制度を変更したことに伴い日銀からの納付金の減少が見込まれるため、税外収入の見込みを0.35兆円程度減額するという。残った税収の上振れ分に14年度予算の使い残し分(2.2兆円)を加えたものを、補正予算の歳出に充てる財源とする方針だ。
その歳出面でもっとも緊急性が高いとみられるのは、9月に関東・東北に大きな被害を与えた集中豪雨災害からの復旧対策だ。この集中豪雨では、鬼怒川の堤防が決壊し、常総市を中心に約40平方キロが浸水。事業所や住宅などに甚大な被害が出た。政府は、これらの災害復旧対策や防災対策に約0.5兆円を盛り込むという。
こうした緊急性の高いものとは対照的に、その他の歳出には効果がよくわからないものも含まれている。
その最たるものが、「一億総活躍社会」(新アベノミクス)関連政策に1.2兆円の予算を計上するというものだ。低所得の年金受給者に1人3万円を配り、介護施設の設備基金を積み増すというが、抜本的な成長戦略や人口回復のための移民受け入れなどに蓋をしたまま、一億総活躍社会で掲げるGDP600兆円、人口1億人をどうやって実現するのか、まったく道程が示されていない。今回の施策は、将来につながらず、短期的なバラマキに終わる懸念がある。
■農業対策
また、補正予算案には、TPPの国内対策として0.3兆円程度を計上、畜産や野菜生産の競争力強化を促す基金をつくるという。TPP対策は、まだ入り口に立ったばかりで総合的な評価は下せないが、ウルグアイラウンドの際には、当初8年間で3.5兆円とされた農業対策費が政治判断で6.01兆円に膨らんだ前例もある。
当時、日本は米の生産・消費量(1000万トン)の8%にあたる80万トンを関税ゼロで輸入することを受け入れたが、財政負担で同量を家畜のエサや輸出用として処理することになっており、国内農業への影響はないと目されていたという。それにもかかわらず、政治主導で巨額のバラマキが行われ、温泉ランドの建設などに血税が費やされた例もあった。政府には、1月から始まる通常国会の補正予算案の審議で、こうしたデタラメな農業対策費が再び盛り込まれることがないよう取り組んでもらう必要がある。
■求められる「賢い歳出」
安倍内閣は、政権奪還直後に編成した12年度補正予算で、5.2兆円の新規国債を発行して10.2兆円を歳出した過去がある。わかりやすくいえば、安易に借金を膨らませて大盤振る舞いをやったのだ。それに比べれば、今回はかなり抑制の効いた補正予算案といってよいだろう。
過去2年余り、日銀が異次元緩和で流動性を供給すべく市場から大量に日本国債を買い入れているため、国債のリスクが市場価格に反映されにくくなっている。しかし、海外では、格付け機関による日本国債の格下げが相次いでいる。昨年12月、ムーディーズが従来より1段引き下げて、最上位から数えて5番目にあたる「A1」にしたのに続き、今年9月にはS&P(スタンダード・アンド・プアーズ)が「シングルAプラス」に引き下げた。いずれも、日本の財政再建の遅れを懸念しての措置だった。
これ以上、日本の財政や国債に対する信認が損なわれては大変だ。そうしたなかで、大盤振る舞いの誘惑にとらわれることなく、抑制の効いたものとなった補正予算案は評価に値する。これからも乏しい予算を賢く歳出する財政方針を貫いてもらいたい。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)
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