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病気の母と2人。気の遠くなるような時間を啓太さんはこの部屋でテレビゲームをして過ごした(写真/家老芳美)
母を入院させ一人になった 子どもの貧困の現場を歩く〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151207-00000009-sasahi-soci
AERA 2015年12月14日号
圧倒的な絶望感のなかを生きる子どもたちがいる。就学援助の受給率が東京23区内で最も高い板橋区を取材した。(編集部・竹下郁子)
油のこびりついた台所。擦り切れたカーペット。古いアパートには隙間風も入る。
昨晩は毛布にくるまって眠ったんだ、と笑う啓太さん(仮名・19歳)は、夜間の定時制高校に通う4年生。生活保護を受けて、東京都板橋区のアパートで一人暮らしをしている。もともと母子家庭で2人暮らしだったが、母親が2年前、統合失調症で入院した。
母はパートを掛け持ちしながら啓太さんを育ててきた。忙しくて滅多に家にいなかったため、幼稚園から小学3年生まで、啓太さんに母と過ごした記憶はほとんどない。
●生活保護費をやりくり
そんな母の異変に気づいたのは、小学4年生のときだ。具合が悪いと言って家にひきこもりがちになった。会話もかみ合わないことが増え、精神科への通院が始まった。
同時に啓太さんも学校に行かなくなった。勉強が嫌いなわけでも、いじめられていたわけでもない。初めてできた「母と一緒に過ごす時間」を大切にしたかったのかもしれない、と今になって思う。病院に付き添い、テレビゲームをして過ごす毎日。母は食事をつくることすら難しくなり、母の財布からお金を抜いて、コンビニでパンを買って食べることが多くなった。
不登校の背景に何があるのか。気づいてくれる大人は誰もいなかった。
心のバランスを崩した母と2人きりで過ごす時間は、嬉しいと同時に、どうしようもなく不安で怖かった。九州出身の母には身近に肉親もいない。自分がしっかりしなければと、小学6年のとき勇気を出して登校し、母の病気のことを担任の教師に相談した。返ってきたのは、思いも寄らない言葉だった。
「そんなこと言う暇があったら学校に来い」
大人が嫌いになった。助けを求めることすらできない自分のことは、もっと嫌いになった。その後一度も教室に入ることなく、小、中学校を卒業した。
定時制高校入学後、母は病状が深刻化し、一日に何度も倒れるように。啓太さんが呼んだ救急車がきっかけで入院が決まった。医師の判断とはいえ、嫌がる母を半ば強制的に入院させた罪悪感は今も消えない。
一人になった啓太さんは、生活保護費をやりくりして、家賃、学費、光熱費、食費などすべての家計の管理をこなした。今後の不安で眠れない夜が続く。当時の気持ちを、砂漠の中でお気に入りの砂粒を一つ見つけてこい、と言われるようなものだったと表現する。圧倒的な絶望感。一体これから自分と母はどうやって生きていけばいいのか、自問自答を繰り返した。
●東京“周辺区”に集中
高層マンションやオフィスビルが立ち並ぶ大都市・東京。だが、目を転じれば、足元に貧困は転がる。所得格差が拡大し、裕福なエリアと、貧困のエリアが色濃く分かれつつある。
生活が苦しい小中学生に対し、学校生活に必要な経費を自治体が支給する「就学援助」の受給率が東京23区内で最も高いのは、板橋区だ。公立小中学校の入学説明会会場で、生活保護の申請書類を置くことも多い。
中川修一教育長は、就学援助や福祉施設の充実、都内最多を誇る精神科病床数など、「福祉の板橋」としてのセーフティーネットを求めて移住してくる人が多いのではと推測する。区の教育担当者は、家賃の安い都営住宅や障害者施設などが板橋のような東京の“周辺区”に集中しているため、それらを必要とする人が集まり、税収は減る一方で、福祉予算がかさむ悪循環が生まれているという。板橋区の2015年度予算では、教育費の割合が12.6%なのに対し、福祉費は58.7%にのぼった。
限られた教育費は何に投資されているのか。貧困層への対応よりは、先端教育への取り組みに力が入る。今年4月に新設した教育支援センターでは、英語教育やアントレプレナーシップなど、リーダー層を担う子どもの育成に向け研修を行う。ICT(情報通信技術)教育にも力を入れ、区内の公立小学校52校すべての教室に電子黒板を完備した。1校あたり年間リース代は約130万円。来春には全公立中学校にも入る予定だ。
だが、取材の中で貧困を抱える子どもたちと接するうちに、限られた税金の使い方として有効なのかと疑問が湧いた。
●授業崩壊、勉強は塾で
学校現場では、経済格差が意外な問題を引き起こしている。
板橋区内の公立小学校5年生の亜子さん(仮名・11歳)は、算数の宿題をしながらこう不満を漏らす。
「あ〜まただよ。こんな公式、まだ習ってないもん」
最近、学校の授業が成立していないという。クラスメートが床に寝そべったり、勝手に教室を出ていったり、教師が誰かを注意している隙に別の誰かが何かし始めたり……。その結果授業が遅れ、宿題には習っていない範囲が出されるのだという。そんな振る舞いをするのは決まって、学習塾に通っている子だ。
「塾に行ってるから授業を聞かなくても良い点数が取れるんだよ。金に頼りやがって」
そう文句を言う亜子さんに、中学生の兄が注意する。
「塾に行ってるからっていいわけじゃないよ。大切なのは予習と復習をしっかりすること」
妹を励まし、算数の公式を教える。目下の悩みは、学校の影響なのか、妹の言葉遣いが“ヤンキーっぽく”なってきたことだと苦笑いした。
●モスキート音で排除
亜子さんのクラスでは暴力も日常茶飯事。でも一番嫌なのは、やはり勉強が進まないことだ。塾に行かない亜子さんにとって、学校は唯一の学びの場。悪いことをして教室の外に出されるほうが自習がはかどるのでは、とまで最近は考えるようになった。亜子さんはこう言い切る。
「電子黒板は税金の無駄遣い。先生もほとんど使わないし、そのうち誰かに壊される。もっと根本的なことを見直さないと」
亜子さんは、母親の離婚を機に板橋に引っ越ししてきた。母親は契約社員として働きながら兄妹を育てるシングルマザー。板橋に決めた理由は家賃の安さだ。都営三田線沿線で不動産屋をあたると、板橋に入った途端、家賃が下がった。教育熱心な保護者が多く、有名校も多数ある文京区や千代田区には、とても住めなかったという。
もう一つ大きな決め手になったのは、無料で通える児童館が多数あり、母親が仕事で遅くなっても安心できることだ。だから、「子育て支援」の名のもとに、児童館が乳幼児向けに変わると知ったときは、ショックが大きかった。移行に反対する保護者も多数いたが、区の方針は変わらなかった。
居場所が激減し、子どもたちが漂流している。その多くが、塾や習い事に通えず、放課後の時間を持て余す貧困層だ。貧困家庭の支援を行うNPOの活動拠点となっている、いたばし総合ボランティアセンター所長の篠原恵さんは、集合住宅やマンションの駐車場で夕方、ゲームをしている小中学生を頻繁に見かけるようになった。最近、耳を疑うような話を聞くという。
「たむろする子どもたちを追い払うために駐車場に“モスキート音”を流しているマンションが増えているらしいんです。社会で子育てをするという空気がなくなっていると痛感します」
行政のセーフティーネットからこぼれ、地域からも排除される子どもたち。貧困といっても、背景はさまざまだ。複雑な事情を抱えた子どもたちにこそ、家、学校、そして“第三の居場所”が必要だと言うのは、板橋区で無料塾を展開する「ワンダフルキッズ」代表の六郷伸司さんだ。毎週日曜日、子どもたちが勉強したり遊んだり、ルールをつくらず自由に過ごせる場所を提供している。
冒頭の啓太さんも、高校1年から通う。母親が入院してひとりで暮らす不安な気持ちを唯一、素直に吐き出せたのが六郷さんだった。「僕にできることは何でもするから」そう言って話を聞いてもらうだけで楽になったという。加えて、貧困や不登校など、同じ課題を抱えた子どもたちと触れ合うなかで、初めて前向きな気持ちになれた。
「昔は両親がいてお金の心配もない普通の人生がうらやましかったけど、今はこんな自分もアリかなと思える。いろんな人や価値観に出会えたからかな」
と、啓太さん。今は毎日授業に出席し、就職活動も始めた。クリスマスには母の病室を訪ねる予定だ。母が退院したら一緒に穏やかに暮らしたい、とはにかんだ。
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