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郵政・ゆうちょ株の実態は 「6年限定のおまけつき預金」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151205-00010002-wedge-bus_all
Wedge 12月5日(土)9時1分配信
この上場は、10年後、どのような歴史の審判を受けるのだろうか。
11月4日に上場の鐘を鳴らした日本郵政グループ3社。売り出し総額は約1.4兆円。うち国内分は1兆円を超え、2014年のIPO(新規上場)による調達総額に匹敵し、最近の東京証券取引所1部の1日あたり売買代金の約半分を占める。「小池にクジラが飛び込むようなもの」とも揶揄されたが、初値は3社とも売り出し価格を上回り、上場後1カ月間の株価も順調に推移している。
■配当利回りで庶民を釣る
カラクリはこうだ。日本郵政、ゆうちょ銀行は50%以上、かんぽ生命は30〜50%と配当性向がやたら高い。日本郵政とゆうちょ銀は3%台、かんぽ生命も2%台半ばになるよう、割安感のある売り出し価格が設定されたのだ。この利回りは、メガバンクの定期預金やゆうちょ銀の定額貯金の金利0.025〜0.035%に比べて約100倍である。
ただし、このところの株価上昇で、配当利回りは日本郵政とゆうちょ銀が2%台、かんぽ生命は1%台半ばまで下がっている。東証1部平均の1.5%とそう変わらないが、それでも郵政3社の人気に陰りが見えないのはなぜか。
それは、3年後と6年後に同様の上場が計画されており、6年間は高い配当が維持される可能性が高いからだ。その上、全3回の売り出しを経ても過半の政府出資が残る。
「暗黙の政府保証と、約100倍の金利がつく6年物定期預金」これが郵政3社株の本質だ。
株式の割当先は、国内のほとんどが個人投資家向けである。ゆうちょ銀に金を預けているような地方の高齢者層に「政府保証がついた金利3%の6年物定期預金」という謳い文句は響く。売り出し総額1.4兆円はたしかに巨大だが、ゆうちょ銀の貯金残高178兆円に比べればごくわずか。「クジラはクジラだが、ゆうちょの残高の1%が郵政3社の株に変わるようなもの」(銀行関係者)だから安定消化ができている。
しかし割り当ての個人重視は「機関投資家が保有したがらない」(証券関係者)ことの裏返しでもある。成長シナリオがないのだ。郵政グループといっても本丸は純資産の8割を占めるゆうちょ銀。毎年6000億円を超す手数料を支払って郵便事業を支えるゆうちょ銀は運用資産の半分以上が国債。金利が上昇すればひとたまりもない。
■忘れ去られた郵政改革
融資ができないゆうちょは、そもそも銀行とは呼べない金融機関だ。中期経営計画では資産運用能力の向上を掲げるが、それは“Japan’s hedge fund ”と呼ばれてリーマンショックで深い傷を負った農林中金の道。残るは民間金融機関と連携して、投資信託や住宅ローンを売ることくらいだが、HCアセットマネジメントの森本紀行社長はこう喝破する。
「民間から金融商品を仕入れて郵便局に売るならゆうちょは単なるパススルー。それなら郵便局が直接仕入れればいい。事業の源泉は現場、つまり全国2万超の郵便局ネットワークにある。決裁業務や金融代理店業務はむしろ郵便局に吸収して、物流事業とともに伸ばしていけば成長戦略を描ける」
郵政民営化は、本来、財政投融資制度改革の一部であり、明治以来の大きすぎる官製金融をどう縮小させていくかという議論だった。三井住友銀行出身で、日本郵政やゆうちょ銀の役員を務め、郵政改革の内実をよく知る宇野輝・京都大学特任教授は、「上場が先延ばしされている商工中金と日本政策投資銀行(DBJ)の民営化と郵政民営化は本来セットだ。融資機能のないゆうちょ銀と、預金機能のないDBJ・商工中金を合併し、地域分割。地方向けの金融機関として民間金融機関とイコールフッティングで競争させていくのが、あるべき“完全”民営化だ」。
しかし、こういう血の出そうな改革など誰も望んではいない。
■復興財源4兆円ありき
今回の上場の発端は、13年初めに安倍晋三政権が復興財源として郵政上場益4兆円を充てこんだこと。そのために1回1.4兆円の売り出しを3回行う、安定消化が必須だから個人向けで高い配当性向と、全て逆の順序で決まっていった。
「金融リテラシーの低そうな国民に対する体のよい復興増税」と言えば口が悪すぎるだろうか。かくして、郵政民営化の大義は忘れ去られ、郵政グループの企業価値をどう向上させるのかという検討は後回しとなった。
上場から1カ月経った12月3日、日本郵政は最高値の1946円を付けた。この日はちょうど、上場翌日の11月5日から日本郵政が実施してきた自社株買いが、今回計画の上限の7000億円超に達し、買い付けを終了した日。財務省は3日朝、東証、東証立会外取引でほぼ同額の日本郵政株を売却している。
財務省が保有しているのは日本郵政の株であり、ゆうちょ銀とかんぽ生命の株は日本郵政が持っている。3社上場で財務省に直接入るのは日本郵政株の売却益約7000億円だけ。ゆうちょ銀とかんぽ生命の株式売却益7000億円はいったん日本郵政に入ってしまうため、自社株買いのスキームを用いて財務省に資金を移動させていることになる。
日本郵政は今年2月、郵便事業会社の日本郵便が豪物流大手トール社を約6200億円で買収することを発表したが、郵便会社にそんな資金はない。ゆうちょ銀に自社株買いをさせて日本郵政に資金を移し、さらに日本郵便の増資を通じて日本郵便に資金を移動させている。このスキームを応用したわけだ。
2回目、3回目の売り出しでも同じ自社株買いスキームを用いて国は日本郵政グループから4兆円を吸い上げるわけだが、大株主の政府と今回日本郵政の株を買った少数株主の間に対立は起きないのだろうか。
■国主導の「上場ゴール」
株価の今後を確定的に占うことはできないが、配当利回りが選択の鍵になっているということは、郵政3社の株価には重しがあるとみたほうがよく、現在の株価の上値をさらに追う展開にはなりづらいだろう。とすれば、上場時点がもっとも株価が高い「上場ゴール」を国が主導したことになるから笑えない。
あちこちにこれらの歪みを発生させてでも形式的な民営化は進んでいく。国は復興財源を得たいだけだが、郵政幹部の真意はどこにあるのか。民営化とセットで、ゆうちょ銀の預入限度額の引き上げや、手をつけやすい新規事業の認可は進めてもらう。一方で完全民営化は阻止して、郵便と金融事業の一体性を維持し、ユニバーサルサービスを盾に雇用を維持するというあたりが狙いだろう。
郵政がゾンビのように生き残ることは、特定郵便局長の票を当て込む政治家にとって都合がよく、国債を消化してくれる存在が残るという意味では霞が関にとってもウェルカム。結果、抜本的な根治改革はなかなか着手されない。
小泉純一郎氏の郵政解散は、ちょうど10年前の夏。あの熱狂を思い出せない国民は多いだろう。上場の真実が何であろうが、10年後も大して問題になっていないのかもしれない。
WEDGE編集部 大江紀洋
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