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コラム:名目GDP目標600兆円の賞味期限=熊野英生氏
http://jp.reuters.com/article/2015/12/02/column-hideokumano-idJPKBN0TL0UJ20151202
2015年 12月 2日 20:09 JST 熊野英生第一生命経済研究所 首席エコノミスト
[東京 2日] - 残念なことに、政府が名目国内総生産(GDP)600兆円を目指すという目標を掲げたことに、金融市場は反応薄である。民間エコノミストの間でも、600兆円をめぐって活発な議論は起こっていない。筆者はこの数字に批判的であるが、それを積極的に擁護する専門家がほとんどいない事態は異様にも感じられる。
600兆円の発端は、安倍首相が9月24日に記者会見を開いて、新・3本の矢を打ち出したことに始まる。旧・3本の矢は、毛利元就がそうしたように、1本にまとめられて「強い経済」となった。目標の達成時期こそ明記されていないが、2020年ごろに名目GDPが600兆円に到達する見通しだという。直近の名目GDPが500.6兆円(15年7―9月1次速報)であるから、ちょうど100兆円の上積みになる。
ところで、安倍政権はなぜ目標を「名目GDP600兆円」という金額で表示しているのだろうか。成長目標は通常、経済成長率で示すことが多い。絶対値の名目GDPを用いずに、名目成長率3%を目指すと言えばよいのではないかと感じる。もしも研究開発費を新たに名目GDPにカウントすると、15―30兆円のかさ上げになるという批判も、「20年度に3%の名目成長率」を目指すと当初から言っていれば、うまくかわせるはずだ。
あえて合理的な根拠を探すと、「名目GDP水準ターゲット」という目標は、インフレ目標政策を拡張させた水準ターゲットを念頭に置いているのだろう。そうした知識のある識者が知恵をつけた可能性はある。
一般的に言われる名目GDP水準ターゲットは、たとえ今年の名目成長率が3%成長を実現できなくても、未達成部分は翌年の目標に上積みされる。今年の未達成分が来年に上積みされて、来年の政策運営がより積極的になるのがメリットだとされる。達成ペース3%成長のとき、今年の成長率が1%の実績(2%未達)だったとすれば、来年は5%成長を目指して、20年に600兆円の水準に近づけるという理屈になる。
言い換えると、「毎年、売上5000万円を目標にする」というよりも、「3年間で売上1億5000万円を目標にする」と設定した方が、2年目以降に未消化部分(例えば2年目は1年目未達分を5000万円にする)が後年度に繰り越されるので、事実上、厳しいノルマになるのと同じだ。
<名目GDP目標の弱点、期待形成に逆効果>
もっとも、名目GDP水準ターゲットは「より金融・財政政策の刺激を強める効果がある」という理屈に筆者は納得できない。
例えば、15年度の名目GDPが505兆円、16年度が510兆円の実績で着地したとしよう。17―20年度の残された4年間で510兆円から一気に600兆円を達成できると、多くの国民が予想するようになるだろうか。単純計算で、残された4年間では平均4.2%を目標にしなくては20年度の名目GDP600兆円はクリアーできない。
通説では、政府・日銀は景気刺激を積極化して、17―20年度は4.2%成長に猛進すると理解される。しかし、常識的には、多くの国民は17年以降、名目GDP水準ターゲットは絵に描いた餅と考えるようになるだろう。つまり、当初数年間が未達になると、期待形成は弱まる。目標が非現実的になると、神通力が失われるということだ。期待に働きかける効果は、最初だけに限られ、かい離するほど効果を失うというのが名目GDP水準ターゲットの弱点だ。
筆者がこうした理屈から推測するのは、600兆円の名目GDP水準ターゲットが信ぴょう性を持つ(効果を持ち得る)のはごく短期間だという結論である。
安倍政権の任期は18年9月までであり、黒田総裁も18年3月に退任する可能性が高い。この間、17年4月に消費税10%への引き上げが予定されている。こうした日程から考えて、名目3%を継続できるとは思えない。
17年秋に消費税の反動減が出尽くしたタイミング辺りで、その後の経済状況をみながら、名目600兆円の実現が事実上不可能かどうか定まってくるだろう。裏返しに言えば、名目GDP600兆円ダーゲットの賞味期限は17年秋くらいまでと先読みすることができる。
そこを過ぎると、18年度と19年度は名目GDP600兆円の目標設定は、有名無実になって、影響力を失うだろう。深読みすれば、アベノミクスの第3弾として、17年中盤以降に新たな政策パッケージとなる新「新・3本の矢」が打ち出されて、仕切り直しになる可能性がある。名目GDPの目標設定が、政策目標として信じられるのは、目先1年から2年程度に限られるだろう。
<日銀ならば名目GDPを押し上げられるのか>
では、日銀は名目GDP600兆円の達成にどのくらい協力できるのだろうか。物価上昇率が上がれば、名目GDPも増えるわけだが、問題はコストプッシュインフレか、ディマンドプルインフレかによって貢献度が変わってくる。
13年と14年の物価上昇は、円安に伴う輸入インフレだった。輸入インフレは、コストプッシュ作用を持ち、内需デフレーターには理屈上はマイナスの寄与になる。15年にGDPデフレーターが上昇したのは、原油下落によって内需デフレーターが押し上げられたことが大きい。
今後、原油下落の効果が一巡すると、16年のGDPデフレーターは上昇率を縮める可能性がある。日銀が名目GDPの押し上げに対して、円安による物価上昇というツールを使っては、なかなか成果をあげにくいという難点がある。
名目GDPの構成を分解すると、実質GDPの押し上げ分と、GDPデフレーターの押し上げ分に分かれる。潜在成長率が低いと、実質GDPの上昇余地が乏しいわけであるから、どうしてもGDPデフレーターをかさ上げせざるを得ない。しかし、輸入インフレでは、内需デフレーターを押し上げにくい。ここにジレンマがある。
もう1つ言えば、本来は潜在成長率を上げていくのが本筋だが、名目600兆円の賞味期限が短いとなると、時間をかけて潜在成長率を上げる取り組みは進めにくくなる。日銀の力で潜在成長率をかさ上げすることはできない。
*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。
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