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パナソニック本社(「Wikipedia」より)
パナソニックは日本電産のM&A戦略を真似たか
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151202-00010003-bjournal-bus_all
Business Journal 12月2日(水)22時31分配信
「日本電産を真似ましたか」
11月27日、パナソニックから「役員陣等について」という件名のメールが届いたとき、筆者はこう返信した。さぞかし、受信した広報担当者は「皮肉」と思ったかもしれないが、実はそのメッセージのなかには賞賛と提言が含まれている。同メールには「2016年1月1日付役員人事」というニュースリリースが添付されていた。内容は次の2点である。
・18年度販売10兆円に向けた非連続な成長を実現すべく、グループ&グローバル視点からのM&A戦略構築・実行を加速させるとともに、カンパニーにおけるM&A戦略構築・実行の支援等を目的として、コーポレート戦略本部傘下に「事業開発部」を新設する。
・役員の新任 片山栄一(新職=事業開発担当、コーポレート戦略本部 事業開発部長/片山氏は、10年にメリルリンチ日本証券に入社し、電機業界を担当してきた有名なアナリスト)
津賀一宏社長は、かねてから「18年度販売10兆円に向けた非連続な成長を実現したい」と公言している。そして、15年4月には売上高を16年度に8.4兆円、17年度には9.1兆円にする目標を明らかにした。そのため、3月に4000億円に上る社債を発行し、18年度までに設備投資以外で約1兆円を投資する。
リストラのフェーズが一段落し、攻めの姿勢に転じたものの、10兆円が保証されたわけではない。今回、M&A(買収・合併)を積極的に推進するため新組織を設け、外部から登用したアナリストを役員に据えたのは、達成不可能という声も聞かれた10兆円という目標を2018年度までに達成するために時間を買おうとしていると考えられる。
その基本は、プラズマパネル工場(兵庫県・尼崎市)や三洋電機買収のような大規模ではなく、重点分野と据えている住宅事業や車載事業、さらにはBtoB(法人向け)ソリューションを中心に数百億円規模の投資を積み重ねようとしている。このような投資戦略により2008年度以降、のれん代や固定資産の減損により大赤字の元凶となった大規模投資のリスクを軽減することができる。
●「知的ハードワーカー」集団
電機業界だけでなく、日本の経済界全体を見渡しても、M&Aといえばすぐに頭に浮かぶのが京都に本社を置く日本電産である。同社は創業から現在に至るまで50件近くのM&Aを実現した。これが、永守重信会長兼社長が一代で売上高を1兆円まで引き上げたドライビングフォースとなったのは明らかだ。他社を買うだけでなく、M&Aに関する情報収集と交渉能力を強化するため、優秀な人材を外から集めるのも永守流である。
日本電産は2006年6月に、証券会社や銀行など金融機関の出身者を集めた専任部署「企業戦略室」をM&Aに関する情報が集まる東京に新設。室長に迎えた金融機関の元副社長をはじめ、国内外で企業買収の実務や仲介業務に携わった経験者を集めた。永守氏の言葉を借りれば、「知的ハードワーカー」集団を戦略的に形成した。近年、M&Aをめぐっては投資ファンドが台頭してきているため、この対策でもあると考えられる。
日本電産だけでなく、京セラ、オムロン、ローム、堀場製作所、日本写真印刷、ニチコンなどの京都企業が、日本電産ほど目立たないものの、100億円前後の買収を実現している。派手な買収劇で話題を呼んだ日本電産も、このところ100億円前後のM&Aを注視するようになってきた。この点でも、津賀社長の発言とオーバーラップする。
日本電産のホームページには、次のような「中途採用情報」が記されている。
<「21世紀の世界企業を創造する!」という壮大な目標のもとに、積極的なM&Aを展開し、いまや32カ国に230社を超える企業グループを形成。互いの技術の融合により、積極果敢に新分野への参入を図っております。成長企業の日本電産では、様々な職種から転職し、グローバルに活躍している中途採用社員が多数在籍しています。世界を舞台にあなたのご経験を活かしてみませんか>
「日本電産を真似ましたか」と直感した所以である。かつて、先発企業の真似をするだけでなく、改良した商品を発売し、強力な販売力に物をいわせて一挙にシェアを拡大してきた松下電器産業(現パナソニック)は「真似した電器」と揶揄された。しかし、経営戦略論の観点から見ても、決した劣った手段ではない。実は、リスクを軽減できる巧妙な戦略である。商品だけでなく、M&Aにおいても真似する戦略が功を奏するかもしれない。
●「真似した電器」の本領発揮なるか
ただし、M&Aに焦点を当てた専門部署を置き、優秀なサラリーマンが集まるとどうなるか。
何がなんでもM&Aをしなくてはならないと考えるようになる。なぜなら、質はもちろんのこと数も「成果」として評価されるからだ。「がんばりましたが、いいM&A先が見つかりませんでした」では許されない。「大型M&Aでなくてもいい。100億円前後の案件を見つけてこい」と命じられると、「長い目で見ている」のではなく、「すぐに案件を見つけてこい」「100億円前後のM&Aならすぐに実現できるだろう」と期待されていると思い込んでしまう可能性がある。
特に、厚遇でスカウトされたエリートは、その期待に応えなくてはならないというプレッシャーを感じる。その結果、相手企業の実力、中身を精査しないうちに手を出してしまう恐れがある。いわゆる、高値つかみにつながる。最悪の場合、M&A後に減損損失を強いられるようになる。
この点、日本電産では永守氏という創業者がお目付け役になっている。もし、パナソニックがM&A戦略において日本電産を真似ているとしたら、エリートである津賀社長が、エリートの新役員をどう操るかが重要なポイントとなる。
「真似した電器」の本領を発揮するとすれば、どのような改善した戦略を打ち出し、企業価値を上げていくかが見ものである。
文=長田貴仁/岡山商科大学教授<経営学部長>、神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー
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