6. 2015年12月03日 07:01:31
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原油安は人類を危うい道へ導く 米国の石油輸入が減るにつれ、中東安定への関心が薄れていく 2015.12.3(木) Financial Times (2015年12月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)原油安が構造的な変化を反映しているのだとすれば、世界経済や地政学、気候政策に多大な影響を及ぼす可能性がある (c) Can Stock Photo 石油価格はなぜ安くなったのか。これは一時的な現象なのか、それとも国際石油市場の構造的変化の反映なのだろうか。もし後者だとしたら、世界経済や地政学、さらには人類が気候変動を制御する能力にまで大きな影響が及ぶことになるだろう。 米国の消費者物価指数をデフレーターとして使用する場合、石油の実質価格は2014年6月から2015年10月にかけて半値以下に下落した計算になる。 また、2015年10月の実質価格は1970年以降の平均価格を17%も下回ったことになる。 ただし、1970年代の初めや、1986年〜2000年代初めに見られた水準に対しては大幅に上回っている。 かつてイングランド銀行のチーフエコノミストを務め、現在は石油大手BPのチーフエコノミストの職にあるスペンサー・デール氏が先日行った講演は、石油価格の変動要因に光を当てる内容だった。 デール氏によれば、世間では(1)石油は限りある資源であり、その価格は時が経つにつれて上昇する公算が大きい、(2)石油の需要曲線と供給曲線の傾きは急である(専門的に言うなら「非弾力的」である)、(3)石油の大部分は西側諸国に流れていく、(4)石油輸出国機構(OPEC)は市場を安定させる気がある、という4点を信じている人が多い。ところが、石油を巡るこれらの一般的な見方は、その大半が間違っていると同氏は主張する。 決定的要因となった米国のシェール革命 これらの想定を揺さぶっている事象の1つが、米国のシェール革命だ。米国のシェールオイルの生産量は2010年にはほぼゼロだったが、現在では日量450万バレルに達している。デール氏によれば、そのほとんどは1バレル50〜60ドルの価格水準で黒字になるという。しかも、シェールオイル生産の生産性(リグと呼ばれる掘削装置1機当たりの当初生産量で計測する)は2007年から2014年にかけて年率換算で30%を超える伸びを見せた。 つまり、昨年の原油急落を招いた決定的な要因はこのシェールオイル生産量の急増だったわけだ。何と言っても、米国の石油生産量だけを取ってみても需要増加分の2倍近く増加した。重要なのは供給なのだ、愚か者め。 さて、ここからどんなことが考えられるだろうか。 第1に考えられるのは、石油供給の短期の弾力性は以前よりも大きくなっているということだ。シェールオイルの生産コストでは、変動費の占める割合が比較的大きい。投資が迅速に行われ、そのリターンも迅速に得られるからだ。 これに対し、従来型の石油生産では変動費の割合が比較的小さく、固定費の割合が大きい。 その結果、シェールオイルの供給は、従来型の方法で生産される石油のそれよりも価格に反応しやすくなっている。 供給の弾力性が比較的大きいとなれば、市場は価格を以前よりも効果的に安定させているはずだ。しかし、シェールオイルの生産は従来型の石油生産に比べると、必要な資金を借りられるか否かに左右される面が大きい。シェールオイルでは、金融と原油供給が直結されるのだ。 貿易の方向に大きな変化 第2に考えられるのは、貿易の方向が大きく変わったということである。特に、米国による原油の純輸入が縮小する一方で、中国とインドは今よりもはるかに重要な石油の純輸入国になる公算が大きい。向こう20年間における世界の石油需要の増加分のうち、60%はこのアジアの2大大国で生まれる可能性がある。2035年までには、中国が消費する石油の4分の3を輸入し、インドもほぼ90%を輸入していることだろう。 もちろん、これは輸送システムがこの長期間にわたって石油に依存し続けると想定したうえでの値だ。そう想定するのであれば、中東を安定させることに対する米国の関心が弱まる一方、中国とインドのそれが逆に高まると無理なく考えることができよう。この地政学的な影響は非常に大きいかもしれない。 第3に考えられるのは、OPECによる価格の安定が難しくなることだ。国際エネルギー機関(IEA)は2015年の「世界エネルギー見通し」で、2020年の石油価格を1バレル80ドルと予想している。石油は供給過剰になっているがこれは一時的なもので、需要の増加で吸収されるとの見立てだ。 この「見通し」では、石油価格が2010年代を通じて1バレル50ドル前後にとどまるという予測も検討されている。こちらでは、(1)米国の供給は底堅く、(2)OPEC加盟国、特にサウジアラビアは生産シェア(そして石油市場それ自体)を守り抜く決意でいるという2つの想定が下敷きになっている。しかし、そのような低価格戦略は生産国に痛みをもたらすだろう。政府の歳出が石油による歳入を長期にわたって上回り続けるからだ。そんな行き詰まった状況が果たして続くものだろうか。 最後に考えられることは、気候政策に対する影響だ。シェールオイルの登場はすでにかなりはっきりしていたことを改めて浮き彫りにしている。つまり、世界の供給能力は巨大であるばかりでなく、拡大しているということだ。 ピークオイルなど忘れていい。デール氏は次のように指摘している。 「非常に大雑把に言えば、過去35年間で世界はおよそ1兆バレルの石油を消費した。同じ期間に石油の確認埋蔵量は1兆バレル以上増加している」 問題は世界の石油が尽きようとしていることではない。問題は、燃やせる量をはるかに上回る石油が存在する一方で、世界の平均気温の上昇幅を工業化以前の2度のレベルに抑える期待が一切持てないことだ。既存の埋蔵石油・ガスを燃焼すると、世界の炭素予算を3倍も超えてしまう。化石燃料の経済性と気候変動管理のそれは正反対に働いているわけだ。 どちらかが変わらなければならない。著しい技術的変化が化石燃料の経済性を損ねる可能性はある。そうでなければ、政治家がそれをやらなければならない。 パリの国連会議に期待できるか? これはパリの気候変動会議で指導者たちが直面する課題の大きさを浮き彫りにする。だが、石油価格の下落に対する反応は、政策立案者がどれほどダメだったかを物語っている。IEAによると、化石燃料の供給と利用に対する補助金は2014年にまだ4930億ドルに上っていた。確かに、2009年以降に実行された改革がなかったとすれば、その数字は6100億ドルになっていた。だから、進展はあった。 しかし、安い石油価格は今、補助金の廃止を正当化している。豊かな国では、安い価格がもたらすチャンスは、消費に相殺課税を設けるために生かすことができたし、生かすべきだった。そうすれば、化石燃料の利用を節減するインセンティブを維持し、財政収入を増やし、特に雇用などに対する他の税金を引き下げることができたろう。 だが、この重要な機会はほぼ全面的に見逃されてしまった。パリの会議で、見せかけの対策ではなく有効な行動が出てくる可能性がわずかでもあるかどうか問わねばならない。筆者は自分が間違っていたらいいと思っているが、悲しいかな、懐疑的だ。 By Martin Wolf http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45436 |