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※日経新聞連載
[時事解析]揺れるアジア金融
(1)企業財務に懸念 債務依存が重荷に
アジア地域の金融を取り巻く環境に懸念が強まっている。中国経済減速や米金融引き締め観測で、成長を支えた債務依存構造が揺れている。
1997年の通貨危機が終わるとアジアは高成長を続けた。タイなどが工業化に成功し、国際サプライチェーン(供給網)の一角を占め、世界の成長センターになった。
企業が積極的に資金を借り入れ、設備投資を増やした。香港、シンガポール、韓国、マレーシアで民間債務(融資と社債の合計)が国内総生産(GDP)の100%を超えるなど、日本より債務依存が高い。中国を除くアジア新興国の銀行借り入れはGDPの110%と、アジア危機時(100%)を上回っている。
ところが2010年以降、競争激化と人件費上昇が響き、自己資本利益率(ROE)が低下。ここにきて原油安・商品安の影響を受ける1次産品関連企業や対中輸出企業も苦しくなりつつある。米ゴールドマン・サックスのティモシー・モー氏は「アジア市場の成長期待は弱まっている」と指摘する。
金融面では米引き締め観測を背景に、負債が膨らんだ企業はドル資金の流出に伴う金利上昇圧力にさらされている。最近では、市場調達が増えていた信用力の低い企業の社債価格も大幅低下している。
通貨危機の教訓から政府は借り入れを抑制しており、政府債務比率はシンガポールを除くとGDPのほぼ6割以内と国の財政は健全だ。しかし、経常黒字を支えてきた企業セクターの変調が経済全体に暗い影を落としている。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞11月23日朝刊P.19]
(2)膨らむ家計債務 不良債権予備軍に
家計の所得はアジアの成長とともに増えたが、より豊かな生活の追求で債務も膨らんでいる。
家計債務の国内総生産(GDP)比率はシンガポール、香港、韓国、台湾、マレーシア、タイで日本よりも高い。特に、韓国は同比率が84%と主要新興国で最も高い。
家計債務増加の一因となっているのが住宅ローンだ。個人所得の増加とともに住宅支出も増え、マレーシアでは住宅ローンは2008年の金融危機前の約2倍になった。
シンガポールや香港では債務の多くが不動産担保を設定しているが、シンガポールでは不動産価格が下がり始めている。韓国やマレーシアでは無担保融資も多い。
家計債務に関連して注目されているのが国内銀行の不良債権の動向だ。タイ、インド、インドネシアなどで銀行の不良債権比率が上昇傾向にある。とりわけ消費者金融関連と中小企業向けで上昇が著しい。
またインドやタイでは不良債権に分類されない要注意先債権が少なくない。景気が悪化すれば回収に問題が出かねない不良債権予備軍だ。タイの大手銀では不良債権比率は約3%だが、要注意先を加えた比率は約6%になる。
通貨危機で金融不安が起きたこともあり、多くの国は銀行に自己資本を厚めに積ませている。すぐに銀行破綻が相次ぐ状況にはないが、銀行の融資余力が低下する公算が大きい。
米JPモルガンのジョシュ・クラクセック氏は「債務環境は1997年の通貨危機前と似た不安定な状況にある」と警鐘を鳴らしている。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞11月24日朝刊P.11]
(3)通貨切り下げ競争の懸念 迫られる構造改革
アジアで通貨切り下げ競争が懸念されている。
きっかけは、日銀の量的・質的金融緩和とそれに伴う円安だ。中国は8月、人民元の変動幅を拡大し、事実上、元を切り下げた。インドは9月末に、政策金利を市場予想を上回る0.5%も引き下げた。
各国とも金融緩和は国内景気刺激が目的としている。ただ利下げは結果的に通貨安に作用しやすく、それによって輸出ドライブをかけたい思惑も透けてみえる。
1997年の危機後各国が通貨安政策をとるなか、中国が元切り下げを回避し、危機は終息した。しかし今回は中国がアンカーになるか不透明だ。
スイス金融大手UBSのダーク・エッフェンベルガー氏は「アジアが通貨切り下げ競争に入るリスクが強まった。今後元がさらに下がり、ほかのアジア通貨は平均6%程度下がる」と予測する。
副作用は小さくない。通貨安を狙った金融緩和は国内バブルを生んだり、借金依存を強めたりする恐れがある。各国が通貨安に走れば、国際金融が混乱しかねない。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は19日、「通貨の競争的切り下げを回避し、あらゆる形の保護主義に対抗する」ことを確認。米財務省は10月の為替報告書で韓国に「ウォン高防止のための為替介入を続けるべきではない」と警告した。
アジアは多くの国が輸出依存で成長を図っているが、パイの争奪戦に限界があるのは明らかだ。持続的な成長を続けるには、各国が内需中心の経済構造への転換に真剣に取り組む必要がある。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞11月25日朝刊P.32]
(4) デフレリスク台頭 高齢化も不安材料
2015年はシンガポール、台湾、タイで消費者物価上昇率がマイナスとなる公算が大きい。日本以外のアジアで物価下落が起きるのは珍しい。
中国経済減速の影響で輸出需要が低迷し、対中依存度が高い韓国、台湾などでデフレ圧力が強まっている。また原油・商品価格の下落は1次産品輸出が多いインドネシア、マレーシア、タイなどの経済を直撃した。
すでに卸売物価は台湾、シンガポール、フィリピンなどで前年比5%以上下がっている。それを反映した製品輸出でデフレ圧力がアジア全体に広がりつつある。
高成長期に顕著だった賃金上昇圧力も、成長減速とともに鈍ってきた。「弱い雇用・賃金の伸びが消費を抑えている」(英HSBCのジョセフ・インカルカテッラ氏)ため、需要は高まりにくい。
構造的な問題も影を落とす。アジアではインドなど一部を除き急速に高齢化が進む。現在、シンガポール、マカオ、台湾、香港、韓国の出生率が日本より低く、50年の65歳以上人口の比率は台湾、香港、韓国が日本とほぼ同じ約35%、タイでも30%に達する見通しだ。
しかもアジアでは年金など社会保障制度の整備が必ずしも十分でない。社会保障制度の改善と高齢化対応が同時に到来するため、財政負担が急激に増す。
英調査会社オックスフォード・エコノミクスのアダム・スレーター氏は「さらなる外的ショックが加わればデフレリスクは飛躍的に高まる」と警告している。債務が膨張したアジアにとって、債務負担が増えるデフレは危機に直結しかねない。
(経済解説部 太田康夫)
[日経新聞11月26日朝刊P.29]
(5)邦銀の存在感増す 欧米勢とは対照的
2008年の金融危機以降、アジアの時代といわれたが、欧米銀行は関与に比較的慎重だった。
15年6月末までの5年間の中国を除くアジア新興国向け融資をみると、英国、ドイツの銀行は残高を減らした。フランスは2%増、米国は12%増にとどまっている。
一方、邦銀は融資残高を2倍以上に伸ばした。新規融資は対象の工場などを視察、審査するのに手間暇がかかる。にもかかわらず、邦銀はアジア拠点で2ケタ増を続けた。金融庁がメガバンクの海外での地位向上を働きかけたことも大きい。
だがアジアの成長減速で、信用コストの増加は避けられない見通しだ。原油安の影響でアジアで手掛けたエネルギー関連のプロジェクトファイナンス(事業融資)の不良化も懸念されている。
アジア向けリスク管理債権の動向をみると額は比較的小さいが、9月までの半年で三菱UFJフィナンシャル・グループで23%、みずほフィナンシャルグループで67%増えた。三井住友フィナンシャルグループは出資するインドネシア銀行株で550億円の減損処理を実施。同社の宮田孝一社長はアジア向け融資について「案件ごとに取捨選択する。大幅増のイメージは全く持っていない」という。
邦銀は1995年以降アジア向け融資で貸しはがしをして97年のアジア危機の一因をつくった。欧州銀がアジア向け融資を見直す中で、存在感の高まった邦銀が再び融資回収姿勢を強めれば、危機が再燃するリスクが強まる。邦銀のアジアとの向き合い方が問われる。
(経済解説部 太田康夫)
=この項おわり
[日経新聞11月27日朝刊P.27]
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