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馴染みのパブで、訪英中の習近平主席をもてなしたキャメロン首相 (画像:GETTYIMAGES)
中国マネー取り込みに躍起になる 「金融立国」英国の算段
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151130-00010003-wedge-bus_all
Wedge 11月30日(月)12時11分配信
つい数年前まで英国のキャメロン首相は、中国に厳しい態度を取っていた。
2012年には、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世と面会し、英中の関係はこじれた。今の英国の態度は、そのときのマイナスを取り戻そうと他国以上に必死になっているように見える。
その結果が、今回の習近平国家主席訪英時の王室まで巻き込んだ一連の歓待であり、先進国でもっとも早かった中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加表明であり、人民元建ての英国債発行である。加えて今回の訪英時に、英国内で人民元建ての中国国債を発行することまで決まった。こちらも先進国で初めての取り組みである。
また、英国は人民元のSDR(IMFが創設した国際準備資産)構成通貨入りも支持、金融面以外においても中国製原子炉の導入を決定するなど、何から何まで支持・歓迎といった状況で、彼らが言うところの「英中黄金時代の幕開け」を感じさせる。
■譲れない「世界ナンバーワン」の座
英国にとってロンドンの金融市場、いわゆる「シティ」は世界ナンバーワンの金融センターだという自負があり、事実その通りである。だからこそ、市場を支える投資家、アナリスト、弁護士といった人材やインフラがロンドンに集積している。シティがナンバーワン金融センターの座を保ち続けるには、何としても人民元関連のビジネスを取り込む必要があった。
また、英国の足元の経済状況は悪くないが、政権を握る保守党は緊縮財政を強引なまでに進めており、中国マネーは「喉から手が出るほど欲しい」状況にある。
今や世界中が中国マネーを欲している。アジアやアフリカでは既に多くの国が中国マネー取り込みに躍起になっているが、英国の一連の中国に対する対応は、その流れがいよいよ先進国にまで本格的に押し寄せた、ということを感じさせる。やや乱暴な言い方をすれば、中国マネーに本格的になびいていないのは、日米だけともいえる。
10月末には、訪中したドイツのメルケル首相が李克強首相との間で、ドイツに人民元建て金融商品を扱う国際取引所を開設することで正式合意したが、英国のみならず、ドイツもフランスもルクセンブルクも、中国マネー取り込みに躍起になっている。
中国経済の減速は、日本でも報道されている通りだが、それでもなお、世界経済において中国の存在感は圧倒的である。IMF(国際通貨基金)が10月に発表したレポートによると、中国の15年の経済成長率は6.8%、16年は6.3%と一時期よりは落ち込んでいるものの、7%台のインドと並び突出した成長率を誇る。
14年の1人当たりGDPはインドの1608ドルに比べ、中国は7572ドルあることから、やはり中国の存在感は抜きん出ていることがわかる。鉄道輸送量や電力消費量などの投資関係の数値は弱まっているが、個人消費関連の数値は底堅く、不動産関連の数値も底打ちの兆しがみえる。
なお、15年の日本の成長率は0.6%で、円安ということもあるが、GDPの規模では既に中国と倍以上の開きがある。マラソンでいえば、抜かれただけでなく、その後も圧倒的な差をつけられている状況にある。
人民元の国際化を進めたい中国にとってみても英国の「利用価値」は大きい。本稿執筆時点ではまだ確定していないが、秒読み段階であり、英国が支持しているSDR構成通貨入りが決定すると、人民元を外貨準備資産として保有する国が増える。すると、人民元のオフショア取引が盛んになり、人民元建ての債券も増える。
いわゆる「基軸通貨」ドルの地位を脅かす存在になることは容易ではないが、国際化に伴う人民元の重要性は高まっていくだろう。
ただし、人民元が国際通貨となるには制約がありすぎる。金利は完全には自由化されていない、為替ヘッジにも制約が課されている、資金の海外移転には種々の制約があるなど「使い勝手の悪さ」は多岐にわたる。中国国内の改革派はSDR入りをきっかけに、自由化を進めたい考えなので、今後こうした「制約」が徐々に取り払われ、使いやすい国際通貨になっていくことは間違いないだろう。
■英国が背負う金融立国の宿命
英国の中国に対する「ご執心」ぶりに世間は驚いているが、歴史を紐解くと、実は英国は似たようなことばかりしていることがわかる。かつてはオイルマネーを取り込むために産油国をもてなし、ソ連崩壊後は旧ソ連圏の国のマネー取り込みを図り、我が日本もバブルのときには大層な歓待を受けた。そうした関心が今は中国に向かっているだけともいえる。
もっとも、こうした活動あってこその現在のシティのポジションであり、世界屈指の金融センターに成長したシンガポールも同様の戦略をとっている。「金融立国になる」というのは、資金力のある国になびくということと同義である。かつて円も国際化を目指していたが、日本にはこうした観点・活動が欠けていた。
外交面・安全保障面よりも、経済面での実利を優先し、中国の人権問題について言及しない英国の姿勢をみると、「もはや大国ではない」という意見にも納得がいく。
(構成・Wedge編集部)
加藤隆俊 (国際金融情報センター理事長、元IMF副専務理事)
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