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「創」(創出版)2015年12月号
AV出演を拒否したら所属事務所から2400万円の違約金請求が! 人身売買契約横行の裏にAV業界の芸能界化
http://lite-ra.com/2015/11/post-1734.html
2015.11.30 リテラ
先日、アダルトビデオへの出演を拒否した女性が、所属プロダクションから2400万円もの違約金を請求された裁判が話題となった。
この騒動は、2011年、当時高校生だった彼女がタレントとして芸能プロダクションにスカウトされ「営業委託契約」を締結。そして、過激なイメージDVDへの出演を強要されたことに端を発している。この時、撮影内容を知った彼女は「仕事を辞めさせてほしい」と相談。しかし、出演を取りやめると違約金が発生すると脅され、しぶしぶ出演することになったという。
そして、20歳になった時、今度はAVへの出演を強要される。その申し出を断ると、事務所サイドが出してきたのはまたもや違約金の話であった。女性は泣く泣く1本のみ出演。その後、契約解除を申し立てたところ、事務所は「残り9本の出演契約がある」と主張した。そこで、本稿冒頭にあげた違約金2400万円の裁判へと発展していったという。結果としてその請求は東京地裁によって棄却されたわけだが、なんとも酷い話である。
2010年代となった今でもなお、こんな人身売買のようなやり取りが行われているのかと驚くばかりの本事例であるが、女性の支援団体「PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)」の調査によると、なんと、このような被害が現在増えているらしい。13年は1件だった相談件数も、14年は32件、15年には59件にもおよんだ。このうち半数がAV出演をめぐるトラブルの相談なのだという。
なぜこのようなケースが激増しているのか? 『封印されたアダルトビデオ』(彩図社)などの著書をもつ、ライターの井川楊枝氏は「創」(創出版)15年12月号で、その原因について〈AVの地位の向上こそが、トラブルの源となっていた〉と綴っている。
近年、AV女優たちのタレント化が著しい。中国版ツイッターとも呼ばれる「微博」でフォロワーが1600万人以上もいる蒼井そらを始め、その蒼井も所属していたAV女優やグラビアアイドルをミックスさせたアイドルグループ「恵比寿マスカッツ」(最近、メンバーを刷新した第二世代「恵比寿★マスカッツ」が結成されたばかり)の活躍など、昨今はAV女優が表舞台に立つことが多い。「AV女優」には新たに「セクシーアイドル」「セクシー女優」という呼び名がつき、地上派のバラエティ番組に出演するのも珍しいことではなくなった。
そのこと自体は別に悪いことではないが、一方、かつてアンダーグラウンドな世界であったAV業界がどんどん普通の芸能の世界に近づいていくことで、以上述べてきたようなトラブルを生む構造が出来上がっていった。井川氏は前掲の「創」でこう語る。
〈これまでは芸能事務所とAV事務所は明確な棲み分けがあった。しかし、近年は双方の境い目が曖昧になり、芸能事務所なのかAV事務所なのか分からないような事務所が増えている。女の子たちからしてみれば、アイドル事務所だと思って所属したのに、活動していくうちにAV事務所だと判明する事例が多発しているのだ〉
このように、芸能事務所とAV事務所が境い目をなくしていったのには、もう一つ事情がある。迷惑防止条例によるスカウトの禁止だ。「創」では、AV事務所マネージャー氏の証言としてこんな言葉が語られている。
〈まずアイドルとしてスカウトしておいてグラビアアイドルとして活動させる。そのうち人気が出てきたら、系列のAV事務所に紹介してAV女優に口説き落とすというのは一般的な流れになっていますね。それは都道府県の迷惑防止条例でAVや風俗のスカウトが禁止されたから、AV女優として誘うのが難しくなってきたことも関係しています〉
本稿冒頭の裁判もまさにこの事例だ。タレントとして事務所にスカウトされたと思ったら、その内実はAV関係の事務所であった。
もちろん、AV関係の事務所であればみなこのような会社だと言うつもりはない。AV業界がアンダーグラウンドな世界から抜け出るにつれ、健全化を目指した会社も多く存在するだろう。しかし、残念ながらすべての会社がそうではなかった。それは、前述した「PAPS」の相談件数の数字が物語っている。
ここまでAV業界に横行するあこぎなやり方について紹介してきたが、よく考えてみれば、このように人権を蹂躙するようなかたちで仕事を迫る構造はAV業界のみならず「芸能界」全体にも同じことが言える。
例えば、2400万円違約金裁判と同じ時期に話題となった裁判に、「恋愛禁止」の規約を守らずファンと交際した元アイドルグループの女性が、自身の恋愛発覚がグループ解散につながったとして、所属事務所から500万円の損害賠償を求められたというものがある。しかも、これに関しては東京地裁が賠償責任を負うと判断し、女性に対して65万円の支払い命令が出ている。「恋愛禁止」という「人権侵害」行為が司法の場で認められてしまった恐ろしい判例だ。
ここまで特異な例でなくとも、CM契約条項のためCM継続中に結婚・離婚・妊娠ができないなど、日常生活が制限されたりする例は芸能界において普通にある。もちろん、契約条項を破れば違約金が発生することになる。
この2400万円違約金裁判を受け、法的知識に乏しいことをいいことに違約金などで脅しをかけてAV出演を強要するやり方に批判が集まっているが、それと同時に、アダルトビデオ業界のみならず、芸能界全体で人権蹂躙的な仕事の進め方がなされていることにも目を向けられるべきなのではないだろうか。
(田中 教)
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