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黒田バズーカで株も不動産も上がってきたが、「マンション問題」が冷や水を浴びせかける〔PHOTO〕gettyimages
世界一の投資家も警告! 波乱の2016年、日本経済はこう激変する 米中独はリスクだらけ!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46534
2015年11月30日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
きっと「それ」は年始早々から起こり始める。日本全体を巻き込んで、株も為替も不動産も会社も生活もすべてを飲み込んでいく。1年後に見る風景に、いまある景色は何も残っていないというほどに。
■驚くべき中身の日銀レポート
「2015年10-12月期以降にリーマン・ショック級のイベントが発生したら、日本の株価は2016年9月末までに55%下落し、為替は2016年度にかけて1ドル=93円の円高となる」
そんな身の毛もよだつような恐怖のシナリオを、日本銀行がひっそりと公表していたことをご存じだろうか。
日銀が10月23日に発表した『金融システムレポート』なるものがそれ。気付いた市場関係者の間で、「これは洒落にならない」と話題騒然となっている代物である。
『金融システムレポート』とは、日銀が年に2回公表しているもの。毎回そこでは様々な金融イベントを想定した上、その際に銀行などがどのような影響を受けるかを試算する「ストレス・テスト」を実施している。今回はその設定が「リーマン・ショック時並み」とされ、その分析結果が詳細にレポートされた形である。
その中身は衝撃的だ。
まず、リーマン並みのショックが発生すると、「海外経済の成長率が大幅に低下。企業業績の悪化から海外株価が下落するほか、為替市場では相対的に安全通貨とみなされている円が大幅に上昇する(註・円高になる)」と、レポートは書く。
さらに、「こうした大幅な海外経済の落ち込みや円高はわが国の輸出を減少させる。これは企業の生産を低下させ、企業収益や雇用者所得の減少を招く。設備投資や個人消費などの国内需要が減少し、国内経済の成長率は大幅に低下する」と、レポートは続ける。
ショックの余波はそれではおさまらず、「国内企業の収益悪化を背景に株価が下落するほか、国内景気の悪化から不動産価格(地価)も下落する。こうした株価や不動産価格の下落は、資産効果による個人消費などの減少や担保価値低下による貸出の減少を通じて、国内経済をさらに下押しする」。レポートは、そんな目も当てられない惨状まで描くのである。
このレポートには、「リーマン級のショック」が発生した場合、主だった経済指標がどういう推移を辿っていくのか。その具体的なシナリオまで示されている。
たとえばGDP成長率は、2015年度にマイナス0・5%に転落。2016年度はさらに、マイナス3・2%へ大失速するという凄まじい不況の風景が描かれる。
株価は、直近で1500台のTOPIX(東証株価指数)が、2016年には745と半分以下まで落ちる。日経平均株価に置き換えてみれば、1万円割れして9000円台まで急落下するほど、というわけだ。
為替にしても、2016年度にかけて円高進行が止まらず、1ドル=100円はおろか、1ドル=93円の超円高になる……。
■火種は世界中に存在する
レポートではこのシナリオについて、あくまでストレス・テストのための想定ケースに過ぎないと断りを入れているが、それは市場へのショックを少しでも和らげるための言い訳に過ぎない。
実際、いま地球儀を回してみれば、日銀の言うところの「リーマン級のショック」の火種は世界各国から浮かび上がる。中には爆発寸前の火種もあり、いますぐこの恐怖のシナリオが幕を開けてもおかしくはない。
世界的な著名投資家のジム・ロジャーズ氏も、本誌の取材に次のように語った。
「米国、欧州、英国、そして日本。いま世界を見渡せば、どこから危機が始まってもおかしくありません。一旦危機が起きたら、それは各地に燃え広がり、世界同時不況をもたらすでしょう。その世界同時不況は、過去のどんな不況よりも最悪のものとなるはずです。
私は数ヵ月前に日本株をすべて売り払いました。米国株も所有していません。2016年にも恐ろしい世界同時不況が始まる可能性はある。だから、すべて手放したのです」
2016年、日本経済はいったいどんな激動に見舞われるのか。そのときわれわれの生活はどう変わってしまうのか。
以下、その詳細を、順を追って見ていこう。
まず言えるのは、2016年、真っ先に日本に飛び火するのは「米国発のショック」だということである。
というのも、来年は米国民が長く享受してきた好景気が一転、悲鳴が鳴り響く「悪夢のアニバーサリー(記念年)」となる可能性が高いからだ。
「米国ではいま自動車の売れ行きが好調とされていますが、これは『利上げ』を目前にして駆け込み需要が出てきているから。さらに、金融政策で金利が異常に低く抑えられているため、低所得者向けに大量のサブプライムローンが組まれているという背景もあります。しかし、米国が早ければ今年12月にも実施するとされる『利上げ』に動けば、このバブルは一挙に崩壊する。おまけに、2016年の大統領選で共和党が勝てば、低所得者への支援増強策は講じられる可能性が低くなり、事態をより悪化させてしまう」(在米投資銀行家の神谷秀樹氏)
要は、「利上げ&大統領選ショック」が巻き起こる。上のグラフが、そんな「没落の未来」をまざまざと予兆している。
このグラフは、全米経済研究所(NBER)のデータを基に作成した米国の景気サイクル表。NBERはノーベル経済学賞受賞者も所属する米最大級のシンクタンクで、過去100年以上にわたる米国の景気サイクルを正確に判定してきた。
その分析データによれば、米国で好景気が持続するのは平均約60ヵ月。現在の好景気はすでに80ヵ月近く経過しており、いつ「谷」に落ちてもおかしくない綱渡り状態といえるのだ。
もちろん「その時」には、日本経済も道連れだ。
「米景気が急激に悪化すれば、まずブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカなどの新興国経済を直撃します。新興国の一部では、通貨危機のような事態も発生する可能性がある。すると、マーケットには世界同時不況への不安心理が蔓延し出し、世界中で株価が暴落。日経平均株価は1万5000円を割るまで落ちるでしょう。急激な円高も進み、1ドル=100円に近付く。日本企業では、業績の下方修正ラッシュとなりかねない」(日本総研副理事長の湯元健治氏)
■ドイツと中国の往復ビンタ
続けて欧州に目を転じれば、「ドイツリスク」が浮上してくる。
言うまでもなくその元凶は、排ガス不正問題に揺れるフォルクスワーゲン(VW)。マーケットで「倒産危険度指数」と呼ばれるCDS値を見ると、VWのそれは騒動発覚後に急上昇。その後も、次々に新事実が発覚する中、「倒産危険度」は高止まりしたままだ(前ページグラフ)。
就労人口の7人に1人が自動車産業に従事するドイツでは、「VWがくしゃみをすれば国全体が風邪をひく」と言われるほど。風邪が長引くにつれ、ショックの震度が巨大に広がってきた。
「ドイツ経済の変調は明らかで、体力が奪われ始めているのは間違いない。さらに悪いことに、VWを支援してきたメルケル首相への批判の声がここへきて高まってきています。これまでのドイツ経済はメルケル首相の毅然とした経済政策で保たれてきた面がある。が、世論の反発を受けてメルケル首相がポピュリズム的な政策に走れば、ドイツ経済が根幹から揺らぎかねない」(BNPパリバ証券投資調査本部長の中空麻奈氏)
そうした中、ドイツでは国内最大手のドイツ銀行が経営危機に直面。グループ全体で3万人規模の人員削減に取りかかるほか、子会社の売却にも着手するなど、追い詰められてきた。日本に置き換えれば、トヨタと三菱東京UFJ銀行が同時に危機に瀕しているようなもの。これが「ドイツリスク」の実態だ。
「仮にドイツ発で欧州経済が失速すれば、多くの日本企業が打撃を受けます。自動車業界では欧州に強いマツダ、富士重工業や、電機業界ではダイキン工業。ブラザー工業、DMG森精機といった工作機械メーカーも影響を受けるでしょうから、幅広い業種業界が直撃を受けてしまう」(マーケットバンク代表の岡山憲史氏)
2016年は、中国の失速からも目が離せない。特に、最近の日本経済を大きく支えているインバウンド消費が一気に冷え込みそうだから、恐ろしい。
「来年は中国の人民元が、IMF(国際通貨基金)に認められて国際通貨に仲間入りしそうですが、これで人民元の暴落リスクが高まる。現在の人民元はすでに高すぎる水準だが、これが国際通貨入りで取引の自由度が高まることが確実になると、一気に暴落しかねない。
その時、『爆買い』は終わる。中国人は元高=円安で割安になっていた日本製品を買うために爆買いにきていたのだから、元安になれば誰も日本に来なくなる。三越伊勢丹HDなどの百貨店、ビックカメラ、ラオックスなどの量販店は苦戦するでしょう」(中国経済に詳しい評論家の宮崎正弘氏)
郵政株はいまが絶頂期か〔PHOTO〕gettyimages
■郵政株にも気をつけろ
見てきたように米欧中すべての経済が壊れていくのだから、輸出大国の日本はその影響から逃れることはできない。2016年の日本は、本誌11月14日号で指摘したように、株価1万5000円割れと1ドル=100円台がほぼ確実。さらに、冒頭の「日銀レポート」に従えば、株価9000円台、1ドル=90円台すらあり得るのだ。
これまで円安効果で好業績を謳歌してきた日本企業からすれば、急激な円高が百億円、千億円規模の「減益要因」になるから、日本経済は大きく足を引っ張られる(前ページ表参照)。追い打ちをかけるように、来年には巷を騒がせ続けている「マンション問題」が景気の足かせとなる。
「すでに首都圏ではマンション販売戸数が減少傾向ですが、マンション問題でこの流れが加速するのは間違いない。不動産業はGDPに占める割合が大きいので、景気への打撃は必至。さらに、家の購入には家電、家具など大きな派生消費があるので、これらが同時に冷え込みかねず、景気には思わぬ痛手となるでしょう」(エコノミストの田代秀敏氏)
悪材料はそれだけではない。
「私が心配しているのは、郵政株の問題です。現在は華々しく株価が上昇していますが、リスクオフの気配が高まる来年のマーケット環境では、こうした大型上場株ほど売り浴びせられやすい。私は来年の4月以降に株価は下降局面に入ると見ていますが、そうなれば大勢の個人投資家が損を抱え込みかねない」(元スイス銀行トレーダーの豊島逸夫氏)
約170万人と言われる郵政株保有の個人投資家が損を抱えれば、おのずと消費も減退、それがさらに景気の足を引っ張って……という負のスパイラルが巻き起こるわけだ。
国内も、世界も、どこを見渡してもリスクだらけ。ロジャーズ氏のように「暴落」を見据えて、ひとまずは身軽になって備えるのが賢い選択かもしれない。
「週刊現代」2015年11月28日・12月5日号より
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