16. 2015年12月01日 13:18:35
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上位400人の富が1億5000万人分を超える米国 新作映画で考える資本主義世界の経済成長と格差 2015.12.1(火) 竹野 敏貴 世界の富裕層と貧困層の格差、過去最大レベルに OECD報告 メキシコ・メキシコ市の貧困層の居住エリアとそのすぐそばで建設が進められている高級住宅マンション〔AFPBB News〕 ?寒さも増し、年も押し迫ると、街はショッピングバッグを抱えた人であふれかえる。ボーナスセール、クリスマスバーゲン、歳末大売出し、福袋・・・。?日本では商戦は12月半ば頃から本格化するが、米国では11月第4木曜日の感謝祭の翌日に一年で最も売れる日「ブラックフライデー」(今年は11月27日)が訪れ、ホリデーシーズン商戦が始まる。 ?そんなブラックフライデーのショッピングモールの狂騒を「Mallmania」「Shopping Frenzy」などと評し伝えるテレビ映像を映し出しているのが、現在劇場公開中の『ザ・トゥルー・コスト?ファストファッション?真の代償』(2015)。 ?「早くて安い」ファストファッションのサプライチェーンを検証することで、衣服というものについてあらためて考えさせるドキュメンタリーだ。 リサイクルで売れるのは10% ?それまでの季節モデルから、一年中コンスタントに新商品を投入するファストファッションは、価格が抑えられていることもあって、「ゆっくり考えてから」という意識が働きにくく、ファッションにあまり興味がなくても、いつの間にか量がかさんでいる。 ?そして、クローゼットで眠りにつき、やがて、安価だからと、抵抗少なく捨てられる。 ?心ある者は、寄付やリサイクルに回すだろう。しかし、そうしても、そのまま配られることは少なく、売却利益を取るのが主流。売れるのは10%ほどで、残りは再生処理される。 ?さらに使い切れないものは埋立地行き。ポリエステルを多く含む廃棄物は200年以上埋立地に残り、有害物質も放出する。 ?映画は、多くが米国発の衣服の山、通称「ペペ」の存在が、自国の服飾市場を侵食しているハイチの現状をリポートする。結果、安いTシャツを作り、米国に輸出することになっていることも。 ?米国で購入される衣服の国内生産はいまや2〜3%たらず。もちろん生産国となる発展途上国はコストの安さで選ばれる。服飾工場労働者300万人というバングラデシュは、そんな国の1つである。 ?2013年4月、首都ダッカの8階建てビル、ラナプラザが倒壊、1000人以上が死亡した事故は、この国の服飾産業の労働環境の過酷さとサプライチェーンを世界に知らしめた。ビルには多くの欧米ブランド向け商品が作られる縫製工場が入っていたのである。 ?1951年製作の英国コメディ『白衣の男』(日本劇場未公開)の主人公は、「永遠に汚れず、擦り切れない繊維」開発に成功する。 ?しかし、「汗と泥にまみれる工場労働者を苦役から解放できる」と意義を見出す者がいる一方で、繊維業界の重鎮は製品化による市場崩壊を危惧、工場労働者も仕事を失うことを恐れ・・・。 ?ドタバタ劇は、人類全体の大局的未来よりも、大抵、既得権の方が大事、という「機械による仕事の喪失」にも似た皮肉の物語である。 修理より新品の方が安い ?「不滅の繊維」のようなものが現実に作り得るかには疑問符がつくが、逆に、商品のライフサイクルが「意図的な老朽化」により短縮されている、と指摘する向きは少なくない。 ?実際、使えるはずの商品が部品調達不可で修理不能、「進化した」新製品の方が安い、といったケースには度々遭遇する。 ?基本ソフト(OS)の「アップグレード」で使えなくなるものもある。「ニーズに応じた経済成長」ではなく「成長のための成長」なのでは、と言いたくもなる。 ?現在劇場公開中のドキュメンタリー映画『シャーリー&ヒンダ?ウォール街を出禁になった2人』(2013)の主人公、92歳のシャーリーと86歳のヒンダは、「経済成長のためのショッピング」について疑問を「今さらながら」感じ、理解のため行動に出る。 ?大学で講座を聴講し質問を煙たがられ追い出されもした。ユーチューブでロバート・ケネディの国内総生産(GDP)に関する演説も聞いた。「人間が実感しにくい」指数関数については名誉教授に教えてもらった。 ?そして、経済の指数関数的膨張がもたらす結果、毎年5%という米国の成長レートでは、支えるために地球が4〜5個は必要ということも。こんな例えは分かりやすかった。 ?「1分で2倍になるバクテリアが11時に容器に入れられ、12時にいっぱいになった。半分満たされるのは12時1分前、5分前にはたった3%しか満たされていないことになる。自分がバクテリアだとして、スペースが少ないと感じるのはいつだろうか?」 ?将来を案じた2人はニューヨークへと向かった。 ?そこで話を聞いたエコロジー経済学者は「経済は自転車のようにデザインされていて、進まなければ転倒する。しかし進めば崖があって落ちそう・・・」と語った。続く資源の持続可能な利用の原則についての話は、2人にも常識に思えた。 ?2人はヒルトンホテルで行われる「Wall Street Dinner」に出た。そして財界人のスピーチのさなか「どうして成長を続けなければならないの? 永遠に経済は成長し続けられるの?」と質問。 格差の不都合な真実 ?つまみ出されたシャーリーは、フロアにいた男に暴言を吐かれた。この映画は、「アラ9」で経済に目覚めた2人なりの「Occupy Wall Street=ウォール街を占拠せよ」運動物語である。 ?「ウォール街を占拠せよ」運動の君たちへ?そして経済と民主主義を私たちの手に取り戻そうとするすべてのひとに捧ぐ」 ?こう書かれているのは、米国内の格差についてイラストなどを使い分かりやすく論じたロバート・ライシュの著書「格差と民主主義」(雨宮寛、今井章子訳・東洋経済新報社)。 ?そしてライシュ自身が出演、「ウォール街を占拠せよ」運動の実映像もあるのが、現在劇場公開中の映画『みんなのための資本論』(2013)。 ?ビル・クリントン政権の労働長官でもあったカリフォルニア大学バークレー校教授ライシュを追った映画は、同じクリントン政権で副大統領だったアル・ゴアが地球温暖化を論じた『不都合な真実』の米国経済格差版とでも言えるもの。 ?ユーモアたっぷりに、リズミカルな語り口で、先進国最悪の収入格差国家米国の「崩れゆく中間層」の現実を解説する。 ?1947年から77年まで、米国は「Great Prosperity(大繁栄時代)」にあった。格差も今よりずっと小さく、上位1%の所得総額はGDPの1割程度。GDPも順調に増え、時給も上がっていった。 ?この時代の米国の物質文化には、映画、テレビなどを通じ、多くの日本人が憧れた。その象徴とも言えるのが大型ショッピングモール。 ?1978年製作のホラー映画『ゾンビ』でも、ゾンビうごめくモールのだだっ広さ、迎え撃つ主人公たちが調達するモノの豊富さ、車まで売っていて、モール内を爆走する姿など、別次元のスケールに驚嘆したものである。 ?しかし、その映画製作の頃から、中間層の収入は停滞。生活維持のため、女性が仕事に出るようになった。 格差が引き起こす経済破綻 ?『みんなのための資本論』にも映像や主題歌が挿入されている『9時から5時まで』(1980)は、そんな時代を映し出す作品。男性優位社会にあぐらをかく嫌な上司と3人の女性部下たちが繰り広げるドタバタコメディである。 ?1990年代になると、それだけでは生活レベルを維持できなくなった。長時間労働。複数の仕事。仕事は「9時から5時」ではなくなった。それでも支えきれなくなると、第3のメカニズム、借金へと走った。主に住宅ブームによる価格上昇を利用したものだった。 ?借金バブルは、2008年、はじけた。そして、突如、「格差」はメディアのトップを飾る言葉となった。 ?しかし、その実、この30年間、不平等は続いていた。経済成長による利益のほとんどがトップ層に渡っていたというのである。中間層没落の原因は、IT革命やグローバリゼーションより、米国経済の中で手にする割合が小さくなったことだ、とライシュは語る。 ?この映画はライシュの2011年の著作「余震」にインスパイアされたとクレジットされているが、そこでも引用されていた2003年のトマ・ピケティ(言うまでもなくあの「21世紀の資本」の著者)とエマニュエル・サエズのデータがここにも登場する。 ?米国の税務記録を1913年までさかのぼり、上位1%が全体に占める所得割合を示すそのデータは、1928年と2007年にピークを迎え、23%を超えている。そして、その翌年、ともに「Crash」が起きているのである。 ?さらに、いまや、最上位400人の超富裕層の富が、下位1億5000万人、つまり人口の半分の総計を超えるというとてつもなくいびつな富の分布も提示する。 ?超富裕層の収入の大半はキャピタルゲインに分類されるから課税率も15%程度と「超富裕でない人」より低い。企業や超富裕層は税金をより少なく払い、最高経営責任者(CEO)報酬は失敗しても減らない。 ?米国富裕層は文字通り桁外れの収入を得ている。しかし、桁外れに使うことはない。 ?「1%」の側の1人は語る。「自分はたくさん枕を売るが、金持ちでも枕は2個で十分だ」と。1000万ドル稼いでも1000万ドルは使わない。そして貯める。その金はグローバルマーケット、金や不動産、ファンドなどに投資される。 富裕層への減税効果の嘘 ?こうした話には、富裕層は「職の創出」主だから、減税すれば皆に良い効果を波及させる、という「トリクルダウン(Trickle-down)」理論の反論がある。 ?ライシュはそれも否定、「格差と民主主義」でも「経済をめぐる10の嘘」の1つに挙げ詳解している。 ?『ザ・トゥルー・コスト』ラスト近くには、クリスマスプレゼントについて、「持ってもないカネを、いりもしないものに使い、好きでもない人に贈る」と皮肉るテレビMCの姿がある。 ?そして、米国の買い物客の熱狂と発展途上国の製造の現場が交互に映し出される。 ?そんな映像を見ていると、どうしても考えてしまうのが、欧州などへ流れ込んだ難民たちがこれから迎える寒い冬のこと。先日のパリ同時テロの反応も心配だ。 ?今や日本も大型ショッピングモールだらけ。出かける前に、今回紹介した映画などを見て、サプライチェーンを思い浮かべつつ、経済についてちょっと考えながら、ウィンドウショッピングすれば、モノの見方も少しは変わるかもしれない。 ?くれぐれも、かつての習慣だけで頭も使わず行動に出る存在であるゾンビのように振舞わぬよう気をつけよう。そして、家に帰ったら、(多分)本棚で熟睡中の「21世紀の資本」を開けるのもいいのではないだろうか・・・。 (本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号) (1108) ザ・トゥルー・コスト (1109) 白衣の男 (1110) シャーリー&ヒンダ (1111) みんなのための資本論 (1112) ゾンビ (1113) 9時から5時まで ザ・トゥルー・コスト 1108. ザ・トゥルー・コスト?ファストファッション?真の代償?The true cost?2015年米国映画 (監督)アンドリュー・モーガン ?年間を通じコンスタントに新商品が並ぶファストファッションのサプライチェーンをたどり、「早く安い」商品展開を仕かけるアパレルメーカーとそれに乗る消費者の圧力が、遠くバングラデシュの工場経営者、労働者の苦難につながる現実を映し出す。 ?そこには、安く買って、気安く捨てることによる環境問題も提示される。 ?耐久財から消費財と化した衣服の現実を追いながら、消費資本主義のシステムの中の不平等を検証するドキュメンタリーである。 白衣の男 1109.白衣の男?The man in the white suit?1951年英国映画(日本劇場未公開) (監督)アレクサンダー・マッケンドリック (出演)アレック・ギネス、ジョーン・グリーンウッド、セシル・パーカー ?特異な研究に没頭し、これまで7回も研究職を解雇されたシドニーは、職安で工員としての職を得た。 ?どさくさに紛れ研究を続けるチャンスを得たシドニーは、ついに永遠に汚れず擦り切れない繊維の開発に成功する。 ?しかし、製品化を進めるなか、市場崩壊を危惧する繊維業界の重鎮からも、解雇を恐れる工場労働者からも、強烈な反対に遭い・・・。 ?のちに傑作『マダムと泥棒』(1955)を生むアレクサンダー・マッケンドリック監督、アレック・ギネス主演による日本劇場未公開の風刺コメディの佳作。 ?邦題はDVD題を記載したが、原題の意味するものは、「永遠に擦り切れない繊維」で作られたスーツを身に着けたシドニーを示したもの。一般に「白衣」から連想されるものとは異なる。 シャーリー&ヒンダ 1110.シャーリー&ヒンダ?ウォール街を出禁になった2人?Two Raging Grannies?2013年ノルウェー・デンマーク・イタリア映画 (監督)ホバルト・ブストネス (出演)シャーリー・モリソン、ヒンダ・キプニス ?シアトル。92歳のシャーリーと86歳のヒンダが、ホームレスの人々の間を、電動車いすで移動している。 ?シャーリーは、孫との会話の中で「経済成長とは何?」という疑問にとりつかれ、ヒンダとも議論。結局、分からないのなら聞いてみようと、専門とおぼしき相手に電話をかけてはみるものの軽くあしらわれる。 ?大学で講座を聴講してみれば質問を煙たがられ追い出されてしまう。 ?しかし、このままの経済成長を続けるには地球が4〜5個いるという学者の解説を聞くことができた。孫の世代に世界はどうなるかを考え、ニューヨークに行き、ついにはWall street dinnerにも出席するが・・・。 ?平和的に抗議運動を続けるおばあちゃんだけで構成される団体「Raging Grannies」の2人が、「経済成長とは何か」を理解しようと、行動を重ねていく姿を描くドキュメンタリー。 みんなのための資本論 1111.みんなのための資本論?Inequality for all?2013年米国映画 (監督)ジェイコブ・コーンブルース (出演)ロバート・ライシュ ?冒頭、ミニクーパーに乗り込むロバート・ライシュの姿、カリフォルニア大学バークレー校の「Wealth and Poverty class」で講義する様子が映し出される。 ?そして、米国の収入格差についての考察が始まる。 ?米国は先進国最悪の収入格差があり、なお広がっている。1913年以来のデータを見ると、1928年と2007年に、トップ1%が全体の23%以上という収入の集中がピークとなっている。その翌年、ともに「Crash」が起きた。 ?戦後、1970年代終わりまで、格差はずっと小さなものだった。しかし、そこから変わった。いったい何が起きたのだろうか・・・。 ?ビル・クリントン政権で労働長官を務めたライシュ自身の生い立ちも交え、資料をふんだんに使いながら示す米国の超格差社会と中間層の崩壊。 ?そして、「われわれが経済のルールをつくったのだから、ルールを変えるパワーをもっている」と語りかける。 ゾンビ 1112.ゾンビ?Dawn of the living dead?1978年イタリア・米国映画 (監督)ジョージ・A・ロメロ (出演)ケン・フォリー、デヴィッド・エンゲ、ゲイラン・ロス (音楽)ゴブリン ?全米中で死体が蘇り、人間を襲い始めた。その「ゾンビ」に噛まれ死んだ者の死体はゾンビ化していく。 ?テレビ局に勤めるフランと恋人スティーブン、その友人のSWAT隊員ロジャーとピーターは、ヘリコプターで、フィラデルフィアを去り、ある巨大ショッピングモールに着いた。 ?そこにもゾンビは多数いたが、武器にも食料にも不自由しないモールで、しばらく過ごすことにした。 ?しかし、ゾンビたちは、戦っても戦っても、新たにやって来る。そこでモールの入り口をトラックで塞ごうとしたものの、ロジャーがゾンビに噛みつかれ・・・。 ?当初日本で公開されたバージョンは、冒頭に惑星爆発場面があるなど、手が加えられた編集版。ほかに、米国公開版、ダリオ・アルジェント監修版、ディレクターズカットなどのバージョンが存在する。 ?『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968/日本劇場未公開)では興行的に成功しなかったジョージ・A・ロメロの名と「ゾンビ」というものを世界中に知らしめた大ヒット作。 9時から5時まで 1113.9時から5時まで?9 to 5?1980年米国映画 (監督)コリン・ヒギンズ (出演)ジェーン・フォンダ、リリー・トムリン、ドリー・パートン ?専業主婦だったジュディは離婚を機に大会社に就職することになった。 職場はハート副社長のオフィス。 ?バイオレットはハートを育て上げたベテランだが、なかなか昇進できない。ハートの秘書ドラリーはセクハラを受けているが、仕事のため、と、受け流している。 ?意気投合した3人はドラリーの家でハートを殺す妄想で盛り上がった。翌日、ハートが転倒し病院に担ぎ込まれた。 ?バイオレットは自分がハートに出したコーヒーに、間違って猫いらずを入れてしまったことを知り・・・。 ?ドラリー役のカントリーの大スター、ドリー・パートンの歌う主題歌が、ポップチャートでもナンバーワンを記録した『ファール・プレイ』(1979)のコリン・ヒギンズ監督によるヒットコメディである。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45394 |