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企業への賃上げ要求と内部留保課税は的外れだ! 安倍政権の「反資本主義」的政策がはらむ問題 日本企業は本当に「臆病者の罠」にハマっている?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46555
2015年11月26日(木) 安達 誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 現代ビジネス
■資本主義の精神に反する直接介入
安倍晋三首相は、11月24日の経済財政諮問会議で、現在、全国平均で798円の最低賃金を引き上げ、最終的には1000円を目指すことを明らかにした。来年以降、約3%の賃上げを企業に要求することになる。
これは、「名目GDP600兆円」という目標に向け、家計所得を押し上げ、消費を促す政策であると位置づけられている。
また、政府与党内では、設備投資を促すために、企業の内部留保に課税する案が浮上している。麻生太郎財務相や菅義偉官房長官は、現時点では内部留保課税には慎重な姿勢だが、全面否定している訳ではない。
菅官房長官は、11月20日の閣議終了後の記者会見で、「そこまでしなければ経済界のマインドが変わらないのか、政策的な議論を深めることが先決だ」と言及した。
このような政府による経済界への賃上げ要求や内部留保課税の動きに対しては、批判的な意見が大勢である。
企業は自由な競争条件の下、自らの経営戦略に基づいた最適な企業行動の結果として、雇用条件や投資計画を決めている。その結果として、現在の賃金や設備投資、及び内部留保が決まっているとすれば、今回の政府の要請は、企業行動を歪め、経済の「死荷重(デッド・ウェイトロス)」を増大させることになりかねない。
また、場合によっては、海外企業を含めた他企業との競争上、不利になるかもしれない。つまり、政府が企業行動に直接介入するのは、資本主義の精神に反しており、このような政策を推進するアベノミクスは「ファシズム経済学」だという批判が多数出ているのが現実である。
■日本全体に蔓延するデフレマインド
安倍政権側の立場に立てば、このような、いわば「反資本主義」的な要請をするのは、企業が、クルーグマンの言う「臆病(者)の罠(Timidity Trap)」に嵌り、逆に、経済原則からかけ離れた過度に慎重な行動を採っていることが背景にあり、現在の企業行動自体が最適行動とはほど遠い、という話になる。
安倍政権にとっては、金融財政政策を中心とした「オーソドックス」な政策だけで日本経済の将来に展望が開ければベストであるのは自明だが、実際には日本経済は「臆病(者)の罠」に陥っている。このことが、自己実現的に「オーソドックス」な経済政策の効果を阻害しているのであれば、半ば強権発動的にこの罠から抜け出さねば、いつまでたっても日本経済は「失われた時代」を脱却できない、という見方になる。
リーマンショック後には、ほとんどすべての先進国が、深刻な経済危機に見舞われたが、その中でも日本が置かれた環境は特殊である。ほとんどの先進国で金融政策が「ゼロ金利制約」に当たり、量的緩和政策を採らざるを得なくなったが、実際に「デフレ(インフレ率がマイナスの状況が一定期間続く)」に陥ったのは日本のみである。
しかも、長期間のデフレ、そして、その間の(特に)金融政策の失敗で、デフレマインドが社会全体に蔓延しているのは日本だけである、という点もこの問題を考える際には重要なファクターであろう。
このような現在の日本とほぼ同様の経済環境に置かれた事例は、戦前の世界大恐慌期の米国以外に存在しない(同時期の日本は「昭和恐慌」に見舞われたが、金融政策は「ゼロ金利制約」下にはなく、政策のフレキシビリティを確保していたと考えられる)。
そして、当時の米国では、今回の安倍政権同様の「反資本主義」的政策が採られ、一定の効果を上げた可能性がある。今回はこの米国の事例を紹介したいと思う。
■NIRA(全国産業復興法)のデフレ脱却効果
当時の米国で大恐慌からの脱出に成功したのは、ルーズベルト大統領(当時)の採用した、大胆な金融緩和を中心とした拡張政策であった。また、その前提として、ルーズベルト大統領が、「物価水準目標(1927-1929年の平均的な物価水準への回帰を明言)」にコミットしたことが大きかったという点は、半ば「常識」となっている。
だが、今回注目したいのは、ルーズベルト大統領が、同時に「NIRA(National Industrial Recovery Act、全国産業復興法)」を制定した点である。
NIRAでは、企業に対して、生産調整による価格調整(最低価格の設定)を許容すると同時に、労働組合の組織化と団体交渉権の強化、及び労働時間の短縮等の労働者保護規定を承認させた。そして、それとともに、いま日本で話題になっている賃金の引き上げも企業に認めさせた。
これは、企業がデフレ下での価格引き下げ競争から脱し、利益の上がる価格設定(販売価格の引き上げ)を可能にし、同時に賃上げによって、家計の購買力を増強することで、デフレを脱しようとする政策であった。
ここで、もし、賃金上昇率よりも販売価格の上昇率の方が高ければ、家計の購買力は逆に低下し、消費押し上げ効果は期待できない。当時もそのような批判はあったようだ。
だが、実際には、労働者の実質賃金は上昇し、消費拡大にある程度は貢献した。例えば、1937年時点の製造業労働者の時間当たり賃金は、デフレのピークである1933年から+41.2%上昇した。この間の消費者物価の上昇率は+11.1%だったので、時間当たり実質賃金は+30.1%上昇したことになる(年率換算で+6.8%の上昇)。
ただし、この実質賃金上昇には、金融政策等のオーソドックスなマクロ経済政策の効果が含まれているので、経済指標をただ眺めていただけでは、NIRAのデフレ脱却に対する効果は全くわからない。
■ニューディール政策は経済を縮小させる政策だったのか?
だが、このNIRAの政策効果に関する唯一の定量的な先行研究が存在する。それは、ブラウン大学のガウチ・エガートソン准教授によるものである。
エガートソン氏は、「Was the New Deal Contractionary?(ニューディール政策は経済を縮小させる政策だったのか?)」において、NIRAは、大恐慌によってもたらされた過度なデフレ懸念の蔓延という「緊急事態(特に、金融政策で金利引き下げが不可能な局面という意味)」のもとで、半ば「強制的な」価格引き上げを通じて、予想インフレ率を押し上げることが、デフレ懸念を払拭させる有効な経済政策であったということを、ニューケインジアン型のDSGEモデルによって定量的に明らかにした。
このエガートソン論文によれば、1933年の底から1937年にかけての鉱工業生産の回復のうち約55%、そして、インフレ率上昇分の約70%が、NIRAの効果であったと推定している。
このエガートソン論文の結果が正しければ、デフレ解消におけるNIRAの効果は「オーソドックス」なマクロ経済政策の効果よりも大きかったということになる。
一方、内部留保課税に似たような法人課税が戦前期の日米で実施された点も興味深い。
日本では、1934年に「臨時利得税」が、米国では、1936年に「留保利潤税」が新設された。日本の臨時利得税は、企業の営業利益に関して1929年から1931年までの平均利益を上回る分に対して10%の率で課税するものであった。米国の超過利潤税は、純利益に対する内部留保の割合に応じて累進的に法人税率が高まる仕組みであった(どちらかといえば、米国の超過利潤税が内部留保課税に近い)。
この法人増税は、いずれも人々から「リフレ政策の停止」とみなされ、結果的に経済に悪影響を与えた。日本では、リフレ政策を推進した高橋是清が、「帝人事件」による内閣総辞職で退任し、代わって就任した藤井真信が財政再建の一環として臨時利得税を推進した。
藤井は病気により1934年11月に退任し、高橋是清が蔵相に返り咲いたが、臨時利得税は既に決定されており、そのまま実施された。大蔵省はかねて財政再建のための増税を検討したこともあり、臨時利得税の導入が本格的に検討され始めた1934年の株式市場の話題は、もっぱら財政政策の転換であった。株式市場は、財政政策の転換を懸念し、1934年4月にピークをつけた株式指数(東株指数)は、1935年7月までで約16%下落した。
また、米国の超過利潤税は、1937年の大不況を経て、1938年に廃案となった。
■内部留保課税は「筋の悪い」政策である
以上、戦前の大恐慌期の経験を考え合わせると、あくまでも「緊急事態」の政策として、企業に対する賃上げ要請は、デフレ克服に対して有効な政策となる可能性がある。
ただし、あくまでも「デフレ克服」にフォーカスした政策であり、デフレ克服後に政府が企業行動に干渉することは、逆に経済にとってマイナス(特に潜在成長率を押し下げる可能性が高い)となる点は否定できない。
この点は、前述のエガートソン氏も論文で言及しており、NIRAによる一連の政策パッケージは、「最適な経済政策」ではなく、「次善の経済政策」であると結論づけている。
一方、内部留保課税は、それを実施したところで、企業が内部留保を設備投資に回すわけではないと思われる。設備投資は、あくまでも将来の収益環境の好転を見据えて実施するものであり、課税されるからといって、収益環境を無視して実施したところで、投資のリターンが得られなければ、節税分をはるかに上回る損失を被ることにもなりかねない。
企業は当然、そんなことは十分理解していると思われるので、内部留保課税は事実上の企業増税に他ならないだろう。内部留保課税が実現すれば、現在、検討されている法人税減税を相殺してしまうことにもなりかねない。
内部留保課税は、「筋の悪い」政策であると筆者は考える。
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