3. 2015年11月24日 04:26:40
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男のワーキングプアが増殖する理由「格差はでっちあげ?」捨てられた食えない若者「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」 2015年11月24日(火)河合 薫 先日、ちょっとばかりショッキングなことがあった。
出演させていただいている朝の情報番組で、20代が注目したニュースのトップが、「7-9月期のGDP、2四半期連続のマイナス」だったのである(全体では7位、矢野経済研究所調べ)。 年代別の割合は、20歳未満25%、20代31%、30代19%、40代14%、50代以上11%。若い人たちほど“GDP”に高い関心を示すだなんて、それだけでビッグニュースだ。自分が20代のときにGDPなんて気にしたことなかったし、40代以上の関心事だと今の今まで考えていたので、ホント、驚いてしまったのである。 また、番組ではリアルタイムで、「昨年に比べて、今年は経済的に豊かになった?」という意識調査をやっているのだが、回答は以下のようになった。 「豊かになった 135票」「苦しくなった 744票」「変わらない 450票」「その他 9票」。 「本当の意味での国民経済とは、日本列島で生活している1億2000万人が、どうやって食べ、どうやって生きて行くかという問題である。その1億2000万人が、どうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するか、これが国民経済である」 これは池田勇人元首相の参謀として所得倍増計画と高度成長の政策的基礎のプランナーとして辣腕を振るった経済学者の下村治さんの言葉だが、「食えていない」人たちが増えている。うん、そういうことなんだと思う。特に若い世代では、「食えない」ことに将来への不安も重なり、件のニュースに敏感に反応したのだろう。 ワーキングプア――。働いても、働いても、食べていけない人たち。 数年前までよく耳にしたり目にしたりしたこの言葉も、今ではすっかり鳴りを潜めるようになった。だからといって、ワーキングプアがいなくなったわけじゃない。事態はむしろ深刻で、明日は我が身、かもしれないのだ。 そう考えて間違いない。若い人たちの肌は実に感度がよく、オジさんやオバさんが気付く前に未来を感じとる。「自分たちの問題」に彼らは本能的にビビッと反応するのだ。 そこで今回は、「若者のワーキングプア」について、あれこれ考えてみようと思う。 「うちの家庭内にも、格差があってね。弟の方がワーキングプアで。可哀想でね。親はこういうとき情けないですよね。何て言ってあげたらいいのか分からないんですから……」 2年ほど前、一緒にお仕事をさせていただいた方が、あるときボソッとこう話し始めたことがある。 男性によると、息子さんは、大学を出た後、広告代理店に就職。残業、残業の毎日で身体を壊し退社。その後、再就職したものの賃金が低く、「部屋代が払えない」といって自宅に戻ってきたそうだ。 「私が会社でイヤなことがあって、逃げ出したくなるくらい落ち込んで家に帰るでしょ。するとさ、息子が家で泣いてるわけ。皮膚がかゆくてかゆくてたまらないって。ストレスなんですかね。かゆくてかゆくてどうしようもなくて、血だらけになっているんですよ。『病院に行け』と言うと、『そんなカネない』って。『一緒に住んでるんだから、生活費はかからないだろ』って言うと、黙り込んで自分の殻に閉じこもってしまうんです。 母親には、パラサイトしてるのが恥ずかしいって、言ってるみたいで。どうやら家から出るために貯金してるようなんです。そんなことして、また身体を壊したら、元も子もない思うんですけど。なんとなく息子の気持ちも分かるような気がして。強く言えないんです」 「姉の方は稼ぎもいいのに、自宅が楽だとかなんとか言って家から出ようともしない。もう30過ぎてますから、ストレートに独立しろとは言わなくても、それらしきことはこっちも言う訳です。息子にしてみたら、自分が言われてるような気になっているのかもしれません。 ええ、非正規ですよ、息子は。正社員で最初の会社を辞めた理由をどこでも聞かれるみたいで。『体調を崩した』っていうと、まず採用されない。うちの会社でも同じです。会社も恐いんですよ。また、身体壊されたりしたらたまらないですから。でもね、まさか自分の息子がワーキングプアになるなんて…。考えたこともありませんでした」 「家庭内格差」は魔物 ワーキングプアが他人事ではないこと、家庭内に格差が生じたこと、同じ男性として“息子”の気持ちが分かるだけに、うまく接することができない自分……。そのことに彼は歯がゆさを感じているようだった。誰かに話すことで少しだけ楽になりたい、恐らくそんな気分だったんだと思う。 家庭内格差――。 正規と非正規、高収入と低収入。その“格差”が、同じ屋根の下で暮らす姉弟という間に生じてしまうだなんて。しんどい、実にしんどい。ご両親の100倍くらい、息子さんはしんどいと思う。 私にも兄がいるので、なんとなく息子さんのしんどさが分かる。うまく表現できないのだけど、姉との格差に、“男”のプライドが傷ついてしまうのだ。 身近な存在との格差は疎外感をもたらし、将来への不安を過剰なまでに煽る。格差というのは、私たちが想像する以上に、心にダメージを与える魔物なのだ。 「これから日本は物凄い格差社会になりますよ。今の格差は既得権益者がでっちあげた格差論で深刻な格差社会ではないんですよ。私たちの世代は物凄い介護難民が出てきて貧しい若者が増える。いよいよ本格的な格差社会になります」 竹中平蔵氏は、昨年ラジオ番組に出演したときこう話していたけど、ワーキングプアの存在を、彼はどう思っているのだろうか。 25〜34歳の男性就業者に占めるワーキングプア(年収200万円未満)の割合は、1992年から2002年までの10年で6.3%から14.3%と急増した。特に、沖縄では深刻で、41.7%がワーキングプアとされ、全国的にみても、26の県で15%、13の県で20%を超えているのだ(総務省『就業構造基本調査』をベースに武蔵野大学講師の舞田敏彦氏が集計)。 これらの数字も、「でっちあげ」と氏は、切り捨てるのだろうか? それともマクロに見れば、14.3%のワーキグプアなど、なぁ〜んってことないね、ってことなのか? 若者の無業者は200万人を超えている。その200万人の人たちは、カウントされない“存在しない人”なのだろうか? 若者の貧困化が顕在化したのは、2004年に小泉純一郎内閣が製造業への派遣を解禁したのがきっかけであることは明らかで、そのことは国だって認めているのだ。 厚生労働省が発行した2010年版「労働経済の分析」(労働経済白書)には、以下のように記載されている。 「不安定な働き方が増え、労働者の収入格差が広がったのは、労働者派遣事業の規制緩和が後押しした」と。 また、同年の労働経済白書では、10年間で年収が100万〜200万円台半ばの低所得者の割合が高まっていることに懸念を示した。 その上で「従来の日本型の長期安定雇用システムは、知識や技能の継承などで利点があるとして、旧システムへの回帰」を訴えている。 当時の分析や指針は、一体どうなってしまったのだろう。申し訳ないけど、私にはとうてい理解できない。 まさか自分の息子がワーキングプアになるなんて――。そう件の男性は言っていたけど、「まさか」が、「まさか」ではない時代になった。 日本の人口は1億2000万人超いるのに、なんで「一億総活躍」なんだろう?って気になっていたけど、ま、まさか漏れた2000万人は、ワーキングプアや無業者では? なんて皮肉の1つや2つ言いたくなる。 最近、やっと女性の貧困、とりわけシングルマザーにスポットが当てられるようになったが、その陰で若年男性のワーキングプアが置き去りにされている。「貧困=女性」という方程式が、男性たちを孤立させるのだ。 国や政府にだけ、責任を押し付けているわけでもないし、環境の問題だけではないかもしれない。 でも、それでもやはり、やったことの検証をせず、「なぜ、問題になっているのか?」という疑問にも、「問題の根本的な原因」にも向き合おうとしないこの国のあり方に、少々うんざりしてしまうのである。 若年層の死因トップは自殺 世界と比べるのが大好きな日本が、世界でダントツに高い“モノ”。 それは若年者の自殺率だ。 15歳から34歳の若年層の死因のトップは「自殺」で、フランス、ドイツ、カナダ、米国、英国、イタリアを含む先進7カ国の中で、若年層の死因で自殺が第1位なのは日本だけだ。 なぜ、日本の若者たちは、命を絶つという悲しい選択をするのか。世界3位の経済大国でありながら、なぜ、豊かさを感じることができないのか。 その理由の1つに、「働き方」がある。「仕事」のあり方、とでも言うのだろうか。仕事が、仕事の意味をなさない、働き方になってしまっているのだ。 そもそも「仕事=労働」とは、お金を得るためだけの手段ではない。 仕事には、「潜在的影響(latent consequences)」と呼ばれる、個人にとって数多くの経済的利点以外のものが存在する。 1日の時間配分、自尊心、他人を敬う気持ち、身体および精神的活動、技術の使用、自由裁量、他人との接触、社会的地位、などが潜在的影響で、これらは「人が前向きに生きる力」の土台だ。 つまり、本来、「働く」ということは、人間の精神的健康度を高める元気になる力をもたらす、大切な行為なのだ。 でも、今は、潜在的影響はおろか、賃金さえまともに得られないご時世になった。働けど働けど、生活は苦しいばかりでちっとも楽にならない。非正規社員には、貧困の足音が近づき、正社員には、長時間労働の足音が聞こえてくる。 うまく働けない若者がうまく生きられないミドルを生む 特に、最初に就く仕事は、のちのキャリア形成にも大きな影響を及ぼす、とても大切な仕事だ。 親の援助を受けず、自分で稼ぐ 新しい友情を築き、異性と親密な関係を築く 社会のしきたりを学ぶ 助言者や支援者を見つけ、学ぶべき事柄を吸収する 職務の限界内で、効果的に職務を遂行し、物事がどのように行われるかを学ぶ 初めての仕事での成功や失敗に対処する 20〜30代の「初期キャリア」では、こういったいくつもの課題と向き合い、乗り越えることが求められる。 初期キャリアの課題をひとつひとつ達成することで、若者は1人の成人として独り立ちし、「子供」「学生」という役割から、「大人」「労働者」としての役割へ移行する。 この経験が、「社会での自分」を客観視するまなざしを鍛え、30代前後から始まるキャリア中期で遭遇する、さまざまな困難を乗り越える大切な資源となるのだ。 つまり、若者がうまく働けないという事実は、うまく生きて行けないミドルを量産するといっても過言ではないのである。 ただでさえ、今の若者たちは最初の自立の時期である10代の青年期に、自立できていない。私たち親世代が、あれよこれよとモノを与え、子どもが自立しなくても生きて行ける世の中にした。豊かな社会になると幼稚化が進むものだが、幼稚化したオトナたちが、子どもたちの自立するチャンスを奪ってしまったのだ。 その子どもたちが、親から切り離される最後のチャンスである“仕事”で、ワーキングプアに陥ってしまったら……。日本社会そのものが、蝕まれる。もっともっと若者たちがちゃんと働ける世の中にしないと、取り返しがつかなくなる。そう思えてならないのである。 ヒントはノースカロライナとリバプールにあり ワーキングプアの先進国、アメリカには参考になる取り組みがある。 ノースカロライナ州。アメリカ南部の人種差別による格差や、地域の衰退がワーキングプアを量産させた州だ。 ノースカロライナでは、州政府がイニシアチブを取りバイオテクノロジー関連の企業誘致を進めた。新たな格差が生まれないようにと、グローバル化の影響を受けにくいバイオテクノロジー産業を、あえて選んだそうだ。 企業は、長年地元で暮らし、地元から離れたくない人を優先的に採用する。希望する住民には、遺伝子組み換えなどの教育を積極的に実施。地元で「暮らす人たち=長く勤めてくれる人」に投資をし、住民と地域と企業が一体化して、ワーキングプア撲滅に取り組むことで、地域に高い経済効果をもたらしているのだ。 もちろん政府も、指をくわえて見ているわけじゃない。州政府が130億円の初期投資をし、コストのかかる一連のプログラムを支えているのである。 また、イギリスで貧困率ワースト1のリバプールには、「コネクションズ」と呼ばれる温かい取り組みがある。 ここでは“貧困の連鎖”の最大の要因は、孤立、との考えから、「相談員」の肩書きをもつ大人たちが町を歩き回り、若者たちに声をかけ、仕事や住まいの相談にのり、職業訓練の機会を提供する制度を導入した。 職業訓練に協力する企業は「社会的企業」と呼ばれ、ブレア政権時に補助金の交付や税制面の優遇措置がなされた。職業訓練生には最低賃金に見合う給与を払い、安心して訓練に専念できる仕組みも徹底されている。 若者たちと社会を、顔が見えるカタチでつなげることで、孤立を防ぎ、ワーキングプアや無業にならないように努めているのである。 ノースカロライナとリバプールの2つの取り組みに共通しているのは、自立と依存と汗。支える側が汗をかき、真っ正面からサポートすることで、若者が自立する。 若者の問題は、若者だけの問題でもなければ、「今」だけの問題でもない。国にとって、国の未来を決める大切な宝物――。そういった考えが、国とオトナたちを動かしているのだ。 「僕の傘を使ってね。でも、一歩踏み出すのは『キミ』だよ」――。 そういうやさしさと厳しさのある成熟した社会が、未来を作る。そこにはでっちあげも、へったくれも、ない、と思いますよ。 このコラムについて 河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学 上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。 2015年11月24日(火)河合 薫 先日、ちょっとばかりショッキングなことがあった。
出演させていただいている朝の情報番組で、20代が注目したニュースのトップが、「7-9月期のGDP、2四半期連続のマイナス」だったのである(全体では7位、矢野経済研究所調べ)。 年代別の割合は、20歳未満25%、20代31%、30代19%、40代14%、50代以上11%。若い人たちほど“GDP”に高い関心を示すだなんて、それだけでビッグニュースだ。自分が20代のときにGDPなんて気にしたことなかったし、40代以上の関心事だと今の今まで考えていたので、ホント、驚いてしまったのである。 また、番組ではリアルタイムで、「昨年に比べて、今年は経済的に豊かになった?」という意識調査をやっているのだが、回答は以下のようになった。 「豊かになった 135票」「苦しくなった 744票」「変わらない 450票」「その他 9票」。 「本当の意味での国民経済とは、日本列島で生活している1億2000万人が、どうやって食べ、どうやって生きて行くかという問題である。その1億2000万人が、どうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するか、これが国民経済である」 これは池田勇人元首相の参謀として所得倍増計画と高度成長の政策的基礎のプランナーとして辣腕を振るった経済学者の下村治さんの言葉だが、「食えていない」人たちが増えている。うん、そういうことなんだと思う。特に若い世代では、「食えない」ことに将来への不安も重なり、件のニュースに敏感に反応したのだろう。 ワーキングプア――。働いても、働いても、食べていけない人たち。 数年前までよく耳にしたり目にしたりしたこの言葉も、今ではすっかり鳴りを潜めるようになった。だからといって、ワーキングプアがいなくなったわけじゃない。事態はむしろ深刻で、明日は我が身、かもしれないのだ。 そう考えて間違いない。若い人たちの肌は実に感度がよく、オジさんやオバさんが気付く前に未来を感じとる。「自分たちの問題」に彼らは本能的にビビッと反応するのだ。 そこで今回は、「若者のワーキングプア」について、あれこれ考えてみようと思う。 「うちの家庭内にも、格差があってね。弟の方がワーキングプアで。可哀想でね。親はこういうとき情けないですよね。何て言ってあげたらいいのか分からないんですから……」 2年ほど前、一緒にお仕事をさせていただいた方が、あるときボソッとこう話し始めたことがある。 男性によると、息子さんは、大学を出た後、広告代理店に就職。残業、残業の毎日で身体を壊し退社。その後、再就職したものの賃金が低く、「部屋代が払えない」といって自宅に戻ってきたそうだ。 「私が会社でイヤなことがあって、逃げ出したくなるくらい落ち込んで家に帰るでしょ。するとさ、息子が家で泣いてるわけ。皮膚がかゆくてかゆくてたまらないって。ストレスなんですかね。かゆくてかゆくてどうしようもなくて、血だらけになっているんですよ。『病院に行け』と言うと、『そんなカネない』って。『一緒に住んでるんだから、生活費はかからないだろ』って言うと、黙り込んで自分の殻に閉じこもってしまうんです。 母親には、パラサイトしてるのが恥ずかしいって、言ってるみたいで。どうやら家から出るために貯金してるようなんです。そんなことして、また身体を壊したら、元も子もない思うんですけど。なんとなく息子の気持ちも分かるような気がして。強く言えないんです」 「姉の方は稼ぎもいいのに、自宅が楽だとかなんとか言って家から出ようともしない。もう30過ぎてますから、ストレートに独立しろとは言わなくても、それらしきことはこっちも言う訳です。息子にしてみたら、自分が言われてるような気になっているのかもしれません。 ええ、非正規ですよ、息子は。正社員で最初の会社を辞めた理由をどこでも聞かれるみたいで。『体調を崩した』っていうと、まず採用されない。うちの会社でも同じです。会社も恐いんですよ。また、身体壊されたりしたらたまらないですから。でもね、まさか自分の息子がワーキングプアになるなんて…。考えたこともありませんでした」 「家庭内格差」は魔物 ワーキングプアが他人事ではないこと、家庭内に格差が生じたこと、同じ男性として“息子”の気持ちが分かるだけに、うまく接することができない自分……。そのことに彼は歯がゆさを感じているようだった。誰かに話すことで少しだけ楽になりたい、恐らくそんな気分だったんだと思う。 家庭内格差――。 正規と非正規、高収入と低収入。その“格差”が、同じ屋根の下で暮らす姉弟という間に生じてしまうだなんて。しんどい、実にしんどい。ご両親の100倍くらい、息子さんはしんどいと思う。 私にも兄がいるので、なんとなく息子さんのしんどさが分かる。うまく表現できないのだけど、姉との格差に、“男”のプライドが傷ついてしまうのだ。 身近な存在との格差は疎外感をもたらし、将来への不安を過剰なまでに煽る。格差というのは、私たちが想像する以上に、心にダメージを与える魔物なのだ。 「これから日本は物凄い格差社会になりますよ。今の格差は既得権益者がでっちあげた格差論で深刻な格差社会ではないんですよ。私たちの世代は物凄い介護難民が出てきて貧しい若者が増える。いよいよ本格的な格差社会になります」 竹中平蔵氏は、昨年ラジオ番組に出演したときこう話していたけど、ワーキングプアの存在を、彼はどう思っているのだろうか。 25〜34歳の男性就業者に占めるワーキングプア(年収200万円未満)の割合は、1992年から2002年までの10年で6.3%から14.3%と急増した。特に、沖縄では深刻で、41.7%がワーキングプアとされ、全国的にみても、26の県で15%、13の県で20%を超えているのだ(総務省『就業構造基本調査』をベースに武蔵野大学講師の舞田敏彦氏が集計)。 これらの数字も、「でっちあげ」と氏は、切り捨てるのだろうか? それともマクロに見れば、14.3%のワーキグプアなど、なぁ〜んってことないね、ってことなのか? 若者の無業者は200万人を超えている。その200万人の人たちは、カウントされない“存在しない人”なのだろうか? 若者の貧困化が顕在化したのは、2004年に小泉純一郎内閣が製造業への派遣を解禁したのがきっかけであることは明らかで、そのことは国だって認めているのだ。 厚生労働省が発行した2010年版「労働経済の分析」(労働経済白書)には、以下のように記載されている。 「不安定な働き方が増え、労働者の収入格差が広がったのは、労働者派遣事業の規制緩和が後押しした」と。 また、同年の労働経済白書では、10年間で年収が100万〜200万円台半ばの低所得者の割合が高まっていることに懸念を示した。 その上で「従来の日本型の長期安定雇用システムは、知識や技能の継承などで利点があるとして、旧システムへの回帰」を訴えている。 当時の分析や指針は、一体どうなってしまったのだろう。申し訳ないけど、私にはとうてい理解できない。 まさか自分の息子がワーキングプアになるなんて――。そう件の男性は言っていたけど、「まさか」が、「まさか」ではない時代になった。 日本の人口は1億2000万人超いるのに、なんで「一億総活躍」なんだろう?って気になっていたけど、ま、まさか漏れた2000万人は、ワーキングプアや無業者では? なんて皮肉の1つや2つ言いたくなる。 最近、やっと女性の貧困、とりわけシングルマザーにスポットが当てられるようになったが、その陰で若年男性のワーキングプアが置き去りにされている。「貧困=女性」という方程式が、男性たちを孤立させるのだ。 国や政府にだけ、責任を押し付けているわけでもないし、環境の問題だけではないかもしれない。 でも、それでもやはり、やったことの検証をせず、「なぜ、問題になっているのか?」という疑問にも、「問題の根本的な原因」にも向き合おうとしないこの国のあり方に、少々うんざりしてしまうのである。 若年層の死因トップは自殺 世界と比べるのが大好きな日本が、世界でダントツに高い“モノ”。 それは若年者の自殺率だ。 15歳から34歳の若年層の死因のトップは「自殺」で、フランス、ドイツ、カナダ、米国、英国、イタリアを含む先進7カ国の中で、若年層の死因で自殺が第1位なのは日本だけだ。 なぜ、日本の若者たちは、命を絶つという悲しい選択をするのか。世界3位の経済大国でありながら、なぜ、豊かさを感じることができないのか。 その理由の1つに、「働き方」がある。「仕事」のあり方、とでも言うのだろうか。仕事が、仕事の意味をなさない、働き方になってしまっているのだ。 そもそも「仕事=労働」とは、お金を得るためだけの手段ではない。 仕事には、「潜在的影響(latent consequences)」と呼ばれる、個人にとって数多くの経済的利点以外のものが存在する。 1日の時間配分、自尊心、他人を敬う気持ち、身体および精神的活動、技術の使用、自由裁量、他人との接触、社会的地位、などが潜在的影響で、これらは「人が前向きに生きる力」の土台だ。 つまり、本来、「働く」ということは、人間の精神的健康度を高める元気になる力をもたらす、大切な行為なのだ。 でも、今は、潜在的影響はおろか、賃金さえまともに得られないご時世になった。働けど働けど、生活は苦しいばかりでちっとも楽にならない。非正規社員には、貧困の足音が近づき、正社員には、長時間労働の足音が聞こえてくる。 うまく働けない若者がうまく生きられないミドルを生む 特に、最初に就く仕事は、のちのキャリア形成にも大きな影響を及ぼす、とても大切な仕事だ。 親の援助を受けず、自分で稼ぐ 新しい友情を築き、異性と親密な関係を築く 社会のしきたりを学ぶ 助言者や支援者を見つけ、学ぶべき事柄を吸収する 職務の限界内で、効果的に職務を遂行し、物事がどのように行われるかを学ぶ 初めての仕事での成功や失敗に対処する 20〜30代の「初期キャリア」では、こういったいくつもの課題と向き合い、乗り越えることが求められる。 初期キャリアの課題をひとつひとつ達成することで、若者は1人の成人として独り立ちし、「子供」「学生」という役割から、「大人」「労働者」としての役割へ移行する。 この経験が、「社会での自分」を客観視するまなざしを鍛え、30代前後から始まるキャリア中期で遭遇する、さまざまな困難を乗り越える大切な資源となるのだ。 つまり、若者がうまく働けないという事実は、うまく生きて行けないミドルを量産するといっても過言ではないのである。 ただでさえ、今の若者たちは最初の自立の時期である10代の青年期に、自立できていない。私たち親世代が、あれよこれよとモノを与え、子どもが自立しなくても生きて行ける世の中にした。豊かな社会になると幼稚化が進むものだが、幼稚化したオトナたちが、子どもたちの自立するチャンスを奪ってしまったのだ。 その子どもたちが、親から切り離される最後のチャンスである“仕事”で、ワーキングプアに陥ってしまったら……。日本社会そのものが、蝕まれる。もっともっと若者たちがちゃんと働ける世の中にしないと、取り返しがつかなくなる。そう思えてならないのである。 ヒントはノースカロライナとリバプールにあり ワーキングプアの先進国、アメリカには参考になる取り組みがある。 ノースカロライナ州。アメリカ南部の人種差別による格差や、地域の衰退がワーキングプアを量産させた州だ。 ノースカロライナでは、州政府がイニシアチブを取りバイオテクノロジー関連の企業誘致を進めた。新たな格差が生まれないようにと、グローバル化の影響を受けにくいバイオテクノロジー産業を、あえて選んだそうだ。 企業は、長年地元で暮らし、地元から離れたくない人を優先的に採用する。希望する住民には、遺伝子組み換えなどの教育を積極的に実施。地元で「暮らす人たち=長く勤めてくれる人」に投資をし、住民と地域と企業が一体化して、ワーキングプア撲滅に取り組むことで、地域に高い経済効果をもたらしているのだ。 もちろん政府も、指をくわえて見ているわけじゃない。州政府が130億円の初期投資をし、コストのかかる一連のプログラムを支えているのである。 また、イギリスで貧困率ワースト1のリバプールには、「コネクションズ」と呼ばれる温かい取り組みがある。 ここでは“貧困の連鎖”の最大の要因は、孤立、との考えから、「相談員」の肩書きをもつ大人たちが町を歩き回り、若者たちに声をかけ、仕事や住まいの相談にのり、職業訓練の機会を提供する制度を導入した。 職業訓練に協力する企業は「社会的企業」と呼ばれ、ブレア政権時に補助金の交付や税制面の優遇措置がなされた。職業訓練生には最低賃金に見合う給与を払い、安心して訓練に専念できる仕組みも徹底されている。 若者たちと社会を、顔が見えるカタチでつなげることで、孤立を防ぎ、ワーキングプアや無業にならないように努めているのである。 ノースカロライナとリバプールの2つの取り組みに共通しているのは、自立と依存と汗。支える側が汗をかき、真っ正面からサポートすることで、若者が自立する。 若者の問題は、若者だけの問題でもなければ、「今」だけの問題でもない。国にとって、国の未来を決める大切な宝物――。そういった考えが、国とオトナたちを動かしているのだ。 「僕の傘を使ってね。でも、一歩踏み出すのは『キミ』だよ」――。 そういうやさしさと厳しさのある成熟した社会が、未来を作る。そこにはでっちあげも、へったくれも、ない、と思いますよ。 このコラムについて 河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学 上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/112000022/?ST=print |