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岩田一政氏は、金融機関が保有する国債のうち日銀の買い入れに応じる金額を170兆円と推定。ここから、日銀が金融緩和を継続するとしても、17年半ばには現実として不可能になると判断。
そこで、岩田氏は、国家機関が個人を含む経済主体が保有する“お金”を全面的に管理するという恐い話だが、現金での退蔵を不能にする「現金通貨の預金通貨化」アイデアをちらつかせている。
それにより、「金融機関のみならず個人や企業も中央銀行に預金勘定を設置することを認めれば、あらゆる資金決済がこの預金勘定を通じてなされる。現金通貨は消失し、中央銀行は銀行準備と同様に預金勘定にマイナス金利を付すことも可能になる」と説明。
しかし、経済のGDP的低迷は、カネ不足に起因しているワケではなく、国際関係を含め、カネの遍在と生産設備の飽和に起因している。
そういう意味で、量的緩和やマイナス金利さらには「現金通貨の預金通貨化」といった政策を採ったところで、経済の低迷から抜け出すことはできない。
(マイナス金利にしたところで、債券への逃避衝動が高まり、国債を過剰に発行しなければ売却される債券がないという状況になり債券市場が機能しなくなる。日本で日銀当座預金にマイナス金利を適用すれば、預金の運用利ざやを日銀当座預金と国債ディーリングに依存している銀行は瞬く間に経営危機を迎えることになる)
低迷から抜け出すためには、カネの遍在を所得再分配政策で是正しながら、国外需要の増加をはかり増加した需要に国内供給力をリンクしていくというところから始めなければならない。
中央銀行当座預金への適用はともかく(日本でこの政策を行えば銀行は経営危機を迎える)、マイナス金利の全面適用は、現金・預金を持つことをリスクとすることで経済活動を歪めてしまう愚かな政策である。
そのような政策を考えるくらいなら、現金・預金を持ち続けるより、供給活動に投じるほうが将来の現金・預金が増加すると判断される財政・経済政策を考えるべきである。
金融政策は経済活動の縁の下の支えでしかなく、先進国が抱える共通の問題である国内経済の低迷が金融政策で打破できるなら、安上がりな方法で不況知らずの世界を手に入れられることを意味する。
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日銀の量的・質的金融緩和 継続可能はあと2年
マイナス金利採用を
岩田一政 日本経済研究センター理事長
日銀は10月末の金融政策決定会合で追加緩和の見送りを決めた。私見によれば、追加緩和を実施するかどうかは、市場参加者のインフレ期待が急落するかにかかっている。
ここで重要なのが自然利子率だ。景気刺激でも引き締めでもない(景気中立的な)均衡実質利子率を自然利子率と呼ぶ。日本経済研究センター金融研究班の分析では、日本の自然利子率は1990年代半ば以降ゼロからマイナスに転じており、足元では0.5%程度のマイナスだ(図1参照)。
名目の金利から人々が予想するインフレ率を引いた実質市場利子率は、短期の名目市場利子率がゼロ近傍である現在、インフレ期待の大きさで決定される。物価連動債から得られる予想インフレ率が現在の0.8%から0.5%以下に低下すると、実質市場利子率は自然利子率を上回り、デフレリスクを高める。
90年代半ばは、日本経済がデフレと長期停滞に陥った時期だ。1人あたり名目消費は大きく屈折し、横ばい状態に入った(図2参照)。物価下落分を除けば、1人あたり実質消費も横ばい状態に入ったことを意味する。名目金利をマイナスにはできない「ゼロ金利制約」の下で自然利子率がマイナスになり、それが20年間も続いたことになる。
バブル崩壊後の急速な円高持続と人口構造の変化が、自然利子率の恒常的なマイナスという「異常な変化」をもたらしたようにみえる。日銀が量的・質的金融緩和(QQE)を脱するのは容易ではない。
ウィリアムズ米サンフランシスコ連銀総裁らの推定によれば、米国も自然利子率が2012年以降マイナスになった。昨年、バーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長に、マイナスの自然利子率についてどう考えるか尋ねたところ、「景気循環的な現象である」という答えだった。
市場参加者はマイナスの自然利子率の出現を「ニューノーマル」と理解し、そこから計算される名目利子率の予測値も2%近傍にとどまるとみている。これに対し、FRBはニューノーマルはやがて解消されると暗黙に仮定しているようにみえる。こうしたFRBと市場参加者の解釈のズレが、出口戦略における不確実性を増大させている。
では、日銀のQQEはどれぐらい継続可能なのか。日銀は現在、マネタリーベース(資金供給量)を年間80兆円増加させるため、長期国債を年110兆円程度購入している。政府の国債発行と償還の差額は、短期国債や個人向け国債などを除いて40兆円程度だから、日銀は新規発行分の国債に加え、民間金融機関が保有する国債も購入している。
国際通貨基金(IMF)は8月公表のワーキングペーパーで、民間金融機関が18年末までに売却可能な国債保有額は220兆円程度と推計し、QQEは17年ないし18年に量的な限界に達すると論じた。この分析は、ゆうちょ銀行を含め民間銀行が担保として必要な国債を総資産の5%分保有するとの前提に立っている。
だが、民間銀行の担保繰りと公的年金の運用資産見直しによる国債売却などを考慮すると、日銀が銀行、生損保、公的年金などから購入可能な国債はIMF推計の7割弱程度(150兆円程度)という結果になる。従ってQQEは、IMFが想定するより早く、17年半ばにも量的限界に達する可能性が高い。日銀が国債の買い入れを増やせば、継続可能期間はさらに短くなる。
もちろん、この国債購入に関する量的限界は、日銀が購入する国債価格の水準にも依存する。国債の流通利回りがマイナスとなる高い価格を提示すれば、日銀はさらに買い進めることが可能だからだ。2年物の国債利回りは14年末から15年初めにかけてマイナスになった。この時、日銀は損失覚悟で国債を購入した。
株価指数連動型上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)にも同様の限界がある。そもそも民間資産の購入については、緊急事態の場合を除くと、資産価格が正常化した後も政府・日銀の下支えが長期化することは決して望ましいとはいえない。
こうした状況下、日銀は今後、選択肢としてマイナス金利政策を検討すべきだろう。
先進国の中央銀行は、08年のリーマン・ショック以降、ゼロ金利制約に直面し、バランスシートを拡大させる量的緩和政策を実施してきた。他方で、欧州中央銀行(ECB)およびスイス、スウェーデン、デンマークの中央銀行は、預金勘定へのマイナス金利を実施している。デンマークでは民間の住宅ローンにもマイナス金利が発生した。
銀行準備にマイナス金利が付され、それが現金通貨のキャリーコスト(保有コスト)を下回ると現金通貨への逃避が発生すると予想される。スウェーデンでは中央銀行の預金勘定に11月時点で1.1%のマイナス金利が付されているが、現金通貨への逃避は生じていないようだ。これは、現金通貨のキャリーコストは1〜2%程度であることを意味していよう。ECBはマイナス金利で国債を購入し損失を被っても、他方でマイナスの預金金利賦課により収入増が期待できるため損失を相殺することが可能だ。
もちろん、このマイナス金利にも限界がある。無利子の現金通貨が存在するからだ。量的緩和政策の枠組みからマイナス金利を含む金利政策の枠組みに復帰するのであれば、ゼロ金利制約そのものを打破し、名目金利をマイナスにすることが求められる。
経済学の世界ではより踏み込んだ議論がなされている。ゼロ金利制約を打破する方法には、(1)現金通貨に税を課す(2)現金通貨を電子通貨に置き換える(3)銀行準備を計算単位として残し、現金通貨との交換比率を変動可能なものにする――がある。(3)では、現金通貨は銀行準備に対して一定の率で減価することになる。
筆者には、85年に米経済学者のジェームズ・トービンが提唱した「現金通貨の預金通貨化」提案が魅力的だ。金融機関のみならず個人や企業も中央銀行に預金勘定を設置することを認めれば、あらゆる資金決済がこの預金勘定を通じてなされる。現金通貨は消失し、中央銀行は銀行準備と同様に預金勘定にマイナス金利を付すことも可能になる。
ニューヨーク連銀は最近、このトービン構想を再評価した。中央銀行にとって、膨大な超過準備を抱えたまま、市場金利をコントロールすることは決して容易でない。ニューヨーク連銀の提案は、民間銀行を通じて中央銀行に預金勘定を置くのを投資家らにも広く認めることで、短期金融市場(フェデラルファンド市場)への事実上の参加を可能にするというものである。
参加者が増えることで市場は競争的になり、金融政策の波及経路がより有効なものになると期待される。主要先進国は、ニューノーマルの下での有効な金融政策について、検討を深めるべきである。
ポイント
○日本ではデフレと長期停滞が20年続いた
○QQEは17年半ばにも量的限界に達する
○マイナス金利で現金逃避招かぬ仕組みを
いわた・かずまさ 46年生まれ。東大教養卒、旧経済企画庁へ。元日銀副総裁、元内閣府経済社会総合研究所長
[日経新聞11月18日朝刊P.34]
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