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[核心]日本経済は白雪姫か
「2%」の道は険しけれど 編集委員 滝田洋一
時の流れは速い。党首討論で当時の野田佳彦首相が宣言した衆院解散から3年。政権交代を経て始まったアベノミクスも成果を問われる場面を迎えている。
デフレのリンゴを食べて長いこと眠り込んでいた日本経済という白雪姫。日銀総裁の王子が現れて異次元緩和というドラをたたくと、ようやくまばたきを始めた。そこに中東の王様が思わぬ贈り物を持ってきた。贈り物の原油安は喜ばしいが、おやおや姫は再びまどろみだしたようだ。
安倍晋三首相自ら監督を務めるアベノミクスの劇。最大の見せ場は白雪姫にリンゴの味を忘れさせ、元気に舞台で踊り回らせることにある。それまでは政権が一歩距離を置いていた日銀との間で、政策合意(アコード)を結び、金融政策を前面に押し出した。
2%の物価目標を掲げた合意が締結されたのは、白川方明総裁時代の2013年1月。それまで日銀は1%をメドとして物価安定を目指してきたが、デフレから脱却できずにいた。
1%と2%。ちょっとした違いのように見えて、そこには大きな飛躍がある。黒田東彦総裁は2年という期限を切って2%の目標を達成するために、政策手段を総動員したからだ。
デフレを前提にした経済の均衡を、緩やかなインフレを前提にしたものにジャンプさせる。黒田総裁の言葉を借りれば、経済をデフレの重力から解き放ち、2%インフレの安定軌道に乗せるための、ロケットが異次元緩和なのだ。
14年の春ごろには、この目標は順調に達成できるかにみえた。が、番狂わせが起きた。
ひとつは14年4月の消費税増税が、日本経済にとって予想外の重圧になったことだ。政府は14年度の実質成長率を当初、1.4%と見込んでいた。ところが実際には0.9%のマイナス成長。2.3ポイントも成長率が下振れしたことで、物価の頭も抑えられてしまった。
もうひとつは14年夏からの原油急落である。15年度上期だけでも鉱物性燃料の輸入額は前年同期比で4兆円も減り、日本にとってボーナスとなった。半面、物価は抑えられた。
そして今年夏ごろから、原油安の背景となっている新興国経済の減速が、日本経済のリスクとして強く意識されるようになった。端的にいえば中国リスクである。ある日銀幹部は「中国とサプライチェーンで結ばれたアジア諸国の下振れが想定以上だった」という。
かくて輸出という役者が舞台の袖にとどまっていることで、デフレ脱却劇の進行は中だるみしてきた。
さらに気になるのは、賃上げの機運が盛り上がりを欠くようにみえることだ。労働組合の16年度の賃上げ要求は2%程度。2%以上を目指した15年度の要求を下回る。これでは経済がデフレの引力圏に引き戻されかねない。「もっと組合に頑張ってもらわないと」と別の日銀幹部はつぶやく。
なかなかデフレ脱却とは言い切れず、2%インフレの目標が逃げ水のように後ずさりする。胸突き八丁を象徴するのは企業だろう。
過去最高の利益を上げているのに、そのお金が賃上げや国内設備投資に回っていない。政府・日銀はそんな現状に、いら立ちを募らせる。麻生太郎財務相は、12年度と14年度の企業財務の比較をことあるごとに示す。
経常利益=16.1兆円、設備投資=5.1兆円、従業員給与・賞与=0.3兆円、内部留保=49.9兆円、現預金など=20.2兆円。各項目の2年間の増加額はそんなあんばいである。
足元の企業業績は好調だが、円安の追い風による一過性のものかもしれない。少子高齢化と人口減少を考えれば、国内需要には拡大の余地は乏しい。長引いたデフレ不況で、企業経営者にはそんな思考がこびりついてしまっている。
いきおい、企業はお金を借りて使うのではなく、稼いだお金をためる経済主体になってしまっている。「企業貯蓄率は恒常的なプラスで、内需低迷やデフレの長期化の原因になっている」と、ソシエテジェネラル証券の会田卓司チーフエコノミストはいう。
国内総生産(GDP)比でみた企業貯蓄率は、1〜3月期には1.1%、4〜6月期は2.7%となっている。実質金利を押し下げる異次元緩和などのおかげで、水準はだいぶ下がってきたものの、足元では景気が足踏みしているために、心持ち上昇している。
米国でもリーマン・ショックを機に、この企業貯蓄率がはね上がった。09年10〜12月期にはGDP比で7.7%まで上昇したが、米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和などのおかげで12年以降はマイナスにもどった。つまり、企業の貯蓄超過は解消した。
日本の場合はデフレの局面があまりに長く、企業も貯蓄主体であることに慣れてしまっている。その根雪を溶かすのは容易ではない。白雪姫はちょっと油断するとまどろみ始める。パリ同時多発テロなどが誘発する地政学的な不透明感も気がかりだ。
2%の物価目標の後ズレを批判するのはたやすい。でも、目標を引っ込めた途端に、デフレという重力の精が力を増すだろう。
法人減税や成長戦略などで、企業にお金を使わせる環境を整えるとともに、物価目標を崩さない。企業と市場の期待を上向かせるには、軸足の堅持が大切だ。
[日経新聞11月16日朝刊P.4]
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