2. 2015年11月25日 10:44:05
: OO6Zlan35k
自分よりデキる部下はクビ!権謀術数を駆使する専務の黒い欲望ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹 【第38回】 2015年11月25日 渡部 幹 [モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授] 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。 「俺よりデキる人間は許さない」――。そんな歪んだ欲望を持つ人物が会社で人事権を握っていたら… 管理職についているものならば、誰しも一度はリーダーシップについて勉強したことがあるだろう。研修やビジネス書、こういったwebコラムなど、リーダーシップについて勉強する機会は多くある。リーダーシップ論については、実にさまざまな人がさまざまなことを言っているので、網羅的に勉強するのは至難の業だ。
しかし、リーダーシップが重要な理由はシンプルだ。それは組織を発展させて、維持するためである。その単純な目的を果たすのが、いかに難しいかは、読者の方々はすでにご存じだろう。組織が大きく複雑になればなるほど、求められるリーダー像も多様になる。一方で、小さな組織では、求められるリーダー像は比較的わかりやすい。社員を鼓舞し、手本となり、役割だけでなく人間性においても尊敬を集められる人だ。だが、それさえも簡単ではない。例を紹介したい。 ある中小企業での話だ。そこでは、社長と役員たちとの上下関係をあまり明確にせず、トロイカ体制で組織運営をしていた。小さな会社ながら、国内数ヵ所に支部があるため、本社からの出向者が支部に何人か行っていた。専務の1人も役員でありながら、地方に出向しているような状況だ。 ところがその出向している専務が採用に関する人事権を握っている。それは業務内容が特殊なため、エキスパートであるその専務でなければ、人材の能力の把握が難しいからというのが理由だ。したがって、人事のみならず、日常業務についても、専務が遠くからメールや電話で指示するという形で、仕事が行われていた。 小さな会社なので、1人でも欠員が出るとつらい。そのくせ特殊業務で経験者が必要なため、人材の補充もなかなか難しかった。 あるとき、その会社の本社で欠員がでた。フルタイムで働いていた女性が、夫の転勤に伴って辞めてしまったのだ。夫の転勤がかなり突然決まったため、彼女がその会社を辞めるのも、突然だった。 焦ったのは上層部だ。詳しい内容は省くが、この会社は本社部長の指示で、一般社員3人それぞれが特殊技能を使って仕事をこなし、それをすべてまとめ上げて期日までに納入する、という流れになっている。したがって、1人欠けるだけでも納入には差し障りが出る。 できるだけ早く人員補充が必要なため、新聞などに広告を打った。特殊技能が必要なため、そう簡単に人材が見つかるとは思えなかったが、そこにAさんという主婦が応募してきた。Aさんはまだ子どもが小さいため、時間の自由がきかない。だが、採用担当の専務が見た限り、仕事上のスキルについては申し分ない。 ネックはフルタイムで働けないことだったが、自宅でもやれる仕事はするということで、非正規の嘱託職員として、採用することになった。 抜群に仕事のできるAさんに 突然噛み付きだした専務 実際、Aさんは仕事ができた。女性の副社長は非正規のAさんが、フルタイムだった前任者とほぼ変わらない仕事をこなしていることに驚いた。唯一問題だったのは、ミーティングや外回りの時間をAさんに合わせて調整しなくてはいけないことだったが、そのコストを補って余りある働きぶりだった。 Aさんは、独身時代には一流企業の総務や人事を担当してきた経験があった。それを活かしてうまく人脈を作り、皆が働きやすいように動くので、社内の評判はうなぎのぼりだった。 ところが、Aさんが働き始めてから数ヵ月たったころから、彼女の仕事ぶりに専務が苦言を呈するようになった。仕事のやり方について、細かく口出しするようになり、彼女自身が考えた案よりも自分の案を採用するようにと、いちいち言うようになったのだ。先に述べた通り、専務は出向先にいることが多いため、指示はすべてメール、それも1、2行の短いものだったので、なぜ専務がそんなにもいちいち彼女の言うことに反対するのか、Aさんにはわからなかった。 Aさんは一見、人あたりがよく、優しそうで、なんでも言うことを聞いてくれそうな柔らかさを持った人だったが、仕事では筋を通す人物だった。たとえ専務の言うことでも、納得のいかない、筋の通らない話には、首を縦に振らなかった。彼女の言動には、本社の周りの人物たちも味方した。それは彼女が職場で人気者だったというだけでなく、皆その仕事ぶりに敬意を払っていたからだった。 あるとき、あまりに専務がAさんの仕事ぶりに直接口出しをしてくるので、彼女は部長に相談にいった。部長は間近で彼女を見ており、彼女の仕事ぶりを高く評価していたため、彼女の味方になって、専務とメールで議論をした。結局、現場の最高責任者である部長の権限で、彼女のやり方を通すことになった。実は、それまでも細かいことでは、専務と彼女がぶつかることもあったが、基本的に彼女の案が通っていた。要するに、特殊技能の能力に関しては、専務は彼女より下だったのだ。 専務からAさんに「辞めてもらいますから」というメールが来たのは、その2週間後だった。何が何やらわからずにAさんが戸惑っていると、さらにその2日後に出向先から専務が本社に来た。そしてAさんにこう言ったという。 「もともとフルタイムで働ける人を探してたんだけど、やっぱりAさんは時間が限られているから難しいってね、みんな言っているんだよ。フルタイムで来てもらえる人の目星ついたから、Aさんには悪いけど辞めてもらうね。だが、その人が来る前に辞めてもらったら困るから、目途がついてからね」 理不尽な突然の退職勧告 ウソツキ専務の巧妙な裏工作 Aさんは混乱していた。 「お前は要らないが、代わりが来るまでは辞めるな」とは、常識外れも甚だしい言い分だが、それよりも、彼女は「フルタイムで働けないために、皆に迷惑をかけた」と言われたことがショックだった。 自分なりに、できるだけ頑張ってきたつもりだったが、やはり皆に迷惑をかけていたのか…。そう思ったAさんは専務に、「わかりました。せめてご迷惑をかけた方に謝りたいので、どなたがおっしゃっていたか、教えていただけませんか?部長でしょうか?」と尋ねた。 専務は「いやね、部長は優しいから面と向かっては言わないよ。副社長?副社長は言ってないけどね。営業のOさん?Oさんは、うーん、言ってたかなあ…。みんなにちゃんと面と向かって言ってもらいたくてわざわざ来たのに、みんないないんだよねえ…」と、まともな返事が返ってこない。 それに専務が来たのは金曜の夕方だ。営業は直帰しているし、幹部らは週末の出張会議のため、もう飛行機の上だ。彼らがいるわけがない。 「まあ、そういうことだから、今までの働きには感謝しているよ。Aさんだったらすぐ次の働き先が見つかると思うから大丈夫」とだけ言って、専務は帰ってしまった。 いくら採用人事権があるからといって、専務の彼女への物言いはビジネスの常識を大きく外れている。それに迷惑をかけたなら謝りたい。そう思った彼女は翌週、専務に言われたことを部長に報告した。Aさんの話を聞いた部長は、ものすごい勢いで立ち上がると、副社長室にダッシュしていった。 しばらくして、副社長がAさんのところに来て、「お昼ごはん、一緒に食べましょう」と言った。部長と副社長とAさんの3人がレストランの席につくと、副社長は開口一番にこう言った。 「本当にごめんなさい。専務の言ったことは嘘。あなたの仕事時間が限られているのは、最初から分かっていたこと。契約時から、その条件で仕事を依頼したのだから、あなたが文句を言われる筋合いはないわ。確かに人事評価の際、私が専務に『Aさんがフルタイムで働いてくれたらよかったのに』と言ったことはあったの。でも、それは嘱託でもそれだけパフォーマンスが高いのだから、フルタイムだったらどんなにすごいだろう、という意味でいったの。専務はそれを悪用したのね」 過去にもトラブルメーカーだった専務は 「ボスになりたい無能者」 部長も平謝りだった。実は専務がトラブルを起こしたのはこれが最初ではないのだという。前任者の女性とも同じトラブルを起こしていたらしい。だが、会社の出資者の1人である専務は株主でもあるので、そう簡単には辞めさせられないという。 結局、この話は社長にまで行き、社長がこっぴどく専務を叱りつけたらしい。すると突然、専務から別の社員のところに、「Aさんがもっとやりたいようにやれるように、サポートしなさい!」という、半ばキレたようなメールが来たという。とにかく、これでAさんは辞めずに済んだ。 筆者がAさんおよび他の人から、詳しく専務が起こしたトラブルを聞くと、要するに「アルファになりたい無能者」であることが分かった。 サルやチンパンジーの群れでは、アルファと呼ばれるオスが、ボスとして群れを統率する。アルファはボスだが、ただ力の強いオスであればいいわけではない。メスやその他のオス(ベータ)からの支持がなければいけない。そして常にアルファの座を狙っている強いオスたちに対しては、威嚇、懐柔など、さまざまな手段を使って自分の地位を守り、群れの中のナンバー1の座に留まろうとする。 霊長類研究者たちは、その様子が人間社会での権力闘争に酷似してることに驚いた。エモリー大学のフランス・ドゥ・ヴァールの著書『政治をするサル―チンパンジーの権力と性』(自然誌選書、1984年)には、その様子が詳しく描かれている。 一般にチンパンジーのアルファは、年老いてくると若いオスが「クーデター」を起こすことで入れ替わる。入れ替わった後に、やはり不満を持った元アルファが逆クーデターを起こしたり、別のオスが新たにクーデターを起こしたりすることもある。つまり、いつでも政権交代が起こりうる「実力主義」だ。 しかし、人間社会ではボスが常にボスにふさわしいアルファとは限らないし、簡単にクーデターも起こせない。だが、チンパンジーの遺伝子を受け継いだ人間は、アルファにふさわしくないオスでも、アルファになりたくて仕方がないのである。 先の専務の行動の動機は、「他の社員を自分の言うことに従わせる」ことで、「自分がアルファだと思いたい」からだ。最初、見た感じがソフトなAさんを「思い通りに動かせる」と考えて採用したものの、彼女が自分よりも実力があると知り、かつ思い通りには動かないことが分かったため、「自分がアルファだ」ということを思い知らせるために、「お前はクビ」宣告をしたと考えられる。 猿から受け継いだ「ボスになりたい」欲求を 歪んだかたちで表出する人間 チンパンジーと同じく、霊長類の一種である人間のオスは、多かれ少なかれ誰でも「アルファになる」ことへの憧れとモチベーションがある。健全なオスは、アルファにふさわしくなるべく、自分を磨く。だが、他人を貶めることで、心理的に「自分がアルファなのだ」と確認をしたがる、歪んだ性癖を持つ者も少なからずいる。 そういった者は、理不尽に相手を振り回したり、罵倒したりする。「自分が上だ」というパフォーマンスをしてみせるのだ。当然ながら、ただの威嚇なので、本人の実力は低いままだ。だが、それで本人は自分を納得させてしまう。そのため、その人物の下では実力のあるものが去っていき、実力のないもの、無気力なものだけが残る。当然組織はガタガタになる。 先の専務のように、簡単には追い出せない、そんな「似非アルファ」には、クレージーキャッツの往年のヒット曲「ゴマスリ行進曲」のように「おだてろ、ゴマすってノセろい!」とばかりに、持ちあげていい気分にさせておいて、部下たちは好き勝手にやらせてもらうのが一番いい。だが、それは付け焼き刃の解決でしかなく、長い目で見れば組織にとっては害悪となる。そういう「似非アルファ」には速やかに去ってもらうか、ベータに降格してもらうべきだ。 そういう意味では、実力主義でアルファが入れ替わるチンパンジー社会のほうが、まだフェアで健全なのかもしれない。 http://diamond.jp/articles/-/82155
[32初期非表示理由]:担当:関連が薄い長文 |