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Siri「アップル HP」より
AI=人工知能が人間の仕事を奪う、という議論の浅はかさ
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151119-00010007-bjournal-sci
Business Journal 11月19日(木)22時32分配信
映画の中のコンピュータやロボットは、人のように考え、感情を持ち、自律した行動を取る。このような、SFの世界の常連たちは、人工知能(AI)を科学的な拠り所として描かれている。近年、このAI技術が急速に進化している。しかし、残念ながら、SFの世界のようにわかりやすいかたちではなく、さまざまなサービスの裏方として、成果を上げ始めているのだ。
身近な例でいえば、iPhoneに搭載されている音声認識秘書機能「Siri」の進化だ。マイク越しに話しかけると、インターネット検索をしてくれたり、該当エリアの天気予報を教えてくれたりする。
「曲名を教えて」と言って音楽を聴かせると、曲名だけでなく、アーティスト名、アルバム名まで教えてくれる。クラシック音楽の場合、同じモーツァルトの交響曲でも、指揮者やオーケストラ、録音時期によって、それぞれに特徴がある。Siriは、そういった特徴を瞬時に見抜き、膨大な選択肢(データベース)の中から見事に選び出すのだ。
こうした技術の背景には、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる、AIのブレイクスルー(躍進的)技術が貢献している。ディープラーニングとは、人間の脳の仕組みから学習する構造を模した基礎的な数学モデルのニューラルネットワークを発展させたものだ。AIでは、人間が学習するプロセスを模することで、さまざまな事柄を識別、判断できるようにすることが技術的な目標のひとつとなっている。
この目標が達成されると、コンピュータが人の顔を見分けたり、話し言葉(自然言語)を理解できたりするようになる。フェイスブックでは、集合写真などを投稿した際に自動顔認識による自動タグ付け機能があるが、そういった技術や前述のSiri が、その一例だ。
●東京モーターショーに自動運転車のコンセプトカーが登場
筆者も大学時代、AIのプログラムを組んだ経験があるが、当時は学習が収束するまでに膨大な時間を要し、よく徹夜したものだ。AIの急速な発展の背景には、コンピュータの処理能力の飛躍的な向上がある。これによって、アイデアの段階でとどまっていたさまざまな成果が実用化され、私たちの身近なサービスにも反映されるようになってきた。
今後、AIは、さまざまな産業やサービス分野に活用の場を広げ、私たちの生活に深くかかわってくるだろう。例えば、グーグルは自社のAI技術を活用した自動運転で自動車業界に参入の意欲を示している。
こうした流れを受けて、10月29日(一般公開は10月30日から)から開催された「第44回東京モーターショー2015」では、日産自動車が自動運転をイメージしたコンセプトカー「ニッサンIDSコンセプト」を発表した。
今、自動車業界は若者のクルマ離れや高齢者の運転による事故多発など、多くの市場課題がある。それらに対する答えのひとつとして、運転はAIが人間に取って代わるということがある。それにより、自動車は移動中の楽しさや快適さを共有する空間として、また、運転者の技術に左右されない安全な移動手段として、価値を変えていくことになるだろう。走りの楽しさや燃費、ハイブリッドカーや電気自動車、燃料電池自動車といった動力性能に代わる、新たな競争軸の台頭が見込まれる。
●AIは人間の仕事を奪うのか?
さて、「AIが人間に取って代わる」という言葉には、2つの意味が含まれる。
ひとつは、人間の負担や判断を肩代わりして「人間に自由を与える」という意味だ。もうひとつは、「人間の仕事を奪う」という意味である。
例えば、自動運転が一般化すれば、家族のドライブで運転に専念していたお父さんが、会話に加わることができるようになる一方、タクシードライバーは職を追われることになるかもしれない。AIが話題になる時、しばしば「AIによって消える仕事」といった刺激的な論調を目にすることも多い。しかし、本質は「いかに、人間にしかできないことをやるか」である。その点において、私は職業は関係ないと考えている。
AIは今後、世界の競争戦略の要の技術として、各企業、各国、各経済圏で技術競争が激化していく見込みだ。人間の脳をシミュレートすることで再構築を目指す、EUの「ヒューマン・ブレイン・プロジェクト」には、10年間で総額12億ユーロ(約1600億円)もの予算が投じられる。
アメリカの科学プロジェクト「ブレイン・イニシアティブ」も、連邦政府機関の予算だけで、10年間で10億ドル(約1200億円)だ。日本でも、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」において、2015年度予算で約64億円が使われる。
こうしたプロジェクトの多くは、人間の脳や認知、感情の解明といった学術的探究の色合いが濃い。一方で、AIの研究成果が、ロボット、IT、金融、医療といった産業分野に応用されることで、強い競争力と莫大な利益の源泉になることは想像に難くない。
チェスやクイズ、顔認識機能など、一部ではすでにAIは人間超えを果たしている。確かに、ミスを犯さないAIは、最強のチェスプレイヤーだろう。しかし、予定調和のような淡々とした試合運びに誰が感動するだろうか。
おそらく、AIは「人間の仕事を奪う」のではなく「人間の仕事の質を変えていくもの」になるだろう。「人間にしかできないこと」は、今後あらゆる事業分野において、重要な競争軸になるに違いない。
文=三村昌裕/三村戦略パートナーズ代表取締役、戦略コンサルタント
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